控訴審にてまたも不当判決
最高裁に上告を検討しています
ろうあ者Kさんは、前日の夜、どのような判決が出るのか不安で眠れないまま朝を迎えました。
そして、2003年5月14日(水)午後1時30分、東京高等裁判所812号法廷には35人の支援者が詰めかけました。
これに対して裁判長の判決言い渡しは「主文 本件控訴をいずれも棄却する。控訴費用は、控訴人の負担とする。」というわずかこれだけの言葉で終わりました。時間にすれば10数秒程度という短いものでした。
民事事件の判決言い渡し期日は、双方当事者が誰も出頭していない法廷において、裁判官が主文を朗読するだけで終わるのが通常ですが、本件のように当事者本人をはじめ、たくさんの傍聴者が詰めかけ、傍聴席には手話通訳者を2名配置している「重大な事件」なのですから、このような結論に至った理由をきちんと説明してしかるべきではないでしょうか。これでは「裁判公開の原則」も絵に描いた餅でしかありません。
判決主文言い渡し後、弁護士会館に場所を移して、控訴審判決について弁護団から解説がありました。
控訴審判決文(全文)
判決が言っていることは要するに「ろうあ者Kさんは連帯保証契約書の内容について、ある程度理解した上で署名・押印をしたのだ」と認定し、その認定の根拠としては、Kさん自筆の署名と自ら押した実印にあるということだけです。Kさんの文章理解力に関する鑑定書や生まれつき耳の聞こえないKさんの実状を真剣に検討したような痕跡は、判決文からはまったくうかがえません。あらためて裁判所の聴覚障害者のおかれている実態への無理解のほどを突きつけられた形です。
集会に参加したあるろう女性からは「上告して頑張って欲しい。同じように契約書のような文章を読めないろうあ者は他にもたくさんいる。このままでは銀行がまた同じことを繰り返すと思う。最高裁でしっかり訴えて欲しい。私たちも引き続き支援する」と力強いエールがあり、集会参加者は引き続きろうあ者Kさんを支援していくことを確認しました。ろうあ者Kさんもこのような支援者の声に「弁護士とよく相談して上告を考えたい」と発言しました。
(1)
4月14日(月)午後2時より、東京高等裁判所において、ろうあ者Kさん本人に対する尋問がありました。当日、法廷には65人の傍聴者が詰めかけ、法廷に全員が入ることができなかったため、途中、休憩の時に一部傍聴者の入れ替えを行いました。
今回の尋問では、銀行から直接お金を借りた親戚のY(聴者)とKさんの日常のコミュニケーションのとり方について質問があり、YとKさんは挨拶程度(おはようございます。どこへ行くのですか?程度)のコミュニケーションしか持っておらず、YがKさんに銀行からの借入について手話で説明をすることはできなかったし、説明したこともなかったということが示されました。
また、Kさんは銀行の役割についてよく知らないということ、「連帯保証」や「根抵当」という言葉も理解していないということが再度示されました。
Yは、Kさんが銀行の役割や、担保、保証の意味を理解していないことを奇貨として、Yの会社の経営が苦しく借金を返済できる見通しがないであろうことや、Yが借金を返済しなかったら、担保として提供されるろうあ者Kさんの自宅は銀行の手によって競売になることなどを敢えて説明しないことによって騙して、Kさんに署名・押印をさせたものです。
Yは融資を受けたい立場であり、ろうあ者のKさんはそのYの利益のために自分が住んでいる自宅を手放さなければならないという不利益を被る立場になる。両者は利益が相反します。そのような利益の相反する立場のYの言うことを鵜呑みにしただけで、手話通訳者を介してろうあ者Kさんの意思確認をしなかった銀行には重大な過失があります。 |
(2)
先の2月10日(月)高等裁判所では、控訴人ろうあ者Kさん、被控訴人UFJ銀行との口頭弁論期日でした。高等裁判所の傍聴席は全部埋まり、7人ほど傍聴ができず法廷の外で待機しました。
Kさん側弁護団は新たな主張を提出しました。その概略は次のものです。
Kさんの義弟Y(UFJ借入の主債務者)がKさんを欺すことによって、Kさんは保証契約を結ばされました。そのことについて旧・三和銀行は重過失があるので、この保証契約は取り消すことができるというものです。
旧・三和銀行の重過失は、Kさんと保証契約を締結する際に、手話通訳を付けて説明をしなかったことです。もし、手話通訳をつけて説明をする等をしていれば、Kさんが保証や担保の意味が分かっていないということが明らかになったはずだということです。この他にKさん側弁護団は、義弟Yが経営していた株式会社T工機のYさんが保証契約を結んだ当時の決算書を証拠として提出し、裁判所に採用されました。
また、Kさんの日本語読解力について鑑定した鑑定人とKさん本人を調べてほしいと申し出ました。
これに対して裁判所は、鑑定人については鑑定書を読めばわかるから採用しない。
しかし、Kさん本人については、地方裁判所で尋問してはいない事項について、Kさんを尋問すると決定しました。
本人尋問が採用されたことについて、弁護団は、「裁判所は、当初、本人尋問は不要ではないかとのニュアンスの電話をしてきていたが、今日、詰めかけた傍聴者を見て、たくさんの聴覚障害者が関心を持っている事件だから慎重に審理をしなければならないと判断したのだろう」とコメントしました。 |
(3)
さて、第1審の東京地方裁判所では、保証契約締結時点で、Kさんへの説明はなされていなかったとしても、それ以前に、義弟YやYの妻(Kさんの実妹、既に死亡)が、「保証」や「担保」の意味をKさんに対して説明していたのではないかと、推定に基づいて判決を下しています。
Kさんと妹はごく簡単な身振り手振りで日常生活に必要な範囲での意思疎通を図っていたようですが、「保証」や「担保」といった法律上の複雑な内容を話したりしたことはありませんでした。
Kさんは大正生まれの方です。当時、手話が言語であるという認識は世間には広がっていませんでした。Kさんの通っていた日本ろう話学校は、一貫して口話主義教育の学校です。ろう学校は、ろう児童の家族に対しても、手話を使うことを厳しく戒めていました。ですから、Kさんの家族が手話を流暢に使うことはほとんどあり得ないことは、私たち、ろう者のおかれてきた生活環境を知っている者にとって「常識」です。 |
(4)
「手話で話をする」と言っても、簡単な「食べる」「お風呂」「書いて」「だめ」などほとんど身振りに近いものから、法律上の複雑な概念や抽象的な事柄について話ができるというレベルまで、非常に幅が広いわけです。
Kさんの妹が使っていた「手話」というのは、兄妹同士で意思疎通をするために自然発生した「身振り」に近いもので、可能な意思疎通の範囲は具体的な事柄に限られていたというのが、私たちの「常識」からの判断でしょう。そのような「身振り」によっては、「保証」や「担保」などの概念を説明することはできないはずです。
裁判所には、今回の事件を判断するにあたって、Kさんの生活史、当時のろう者のおかれてきた生活環境を理解してもらうことが不可欠ではないでしょうか。
UFJ銀行の「勧誘方針」の理念に反するKさんの保証契約を弾劾しよう!
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第1審東京地方裁判所民事33部判決 主文
当事者の主張
原告(UFJ銀行)の主張:
被告(Kさん側)の主張: 下に掲載している「最終準備書面」を参照してください。
当裁判所(東京地裁民事33部)の判断
なお、2001年9月18日(火)東京地方裁判所民事33部にて
Kさんと第一勧業銀行との間では和解が成立しています。
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