第10 聴覚に障害のある人の法律行為の効力に関する判例

 第2の「聴覚に障害のある人の一般的特性」及び第3の「聴覚に障害のある人のコミュニケーション方法」で論じたように,聴覚に障害のある人々の少なくない人たちに「学習及び情報障害」が生じ,その結果,防衛能力が十分でない場合が多い。
 近時の判例は,そのような聴覚に障害のある人の実状に即して,専ら手話をコミュニケーションの手段としている聴覚に障害のある人の連帯保証契約について,「連帯保証契約を締結するだけの意思能力は無かったものとせざるを得ない」として,連帯保証契約を無効としたり(広島簡易裁判所 乙第12号証),「身振り手振りを交えながら耳元で大声で説明を受けない限り,他人の話すことを理解できない」高度の難聴で漢字の識字力も殆どない聴覚に障害のある人の根保証契約について,「署名押印が自署押捺に係ることから,直ちに被告の意思内容がその本文の記載に沿うものであった認めることはできない」として,根保証契約の成立を否定している(神戸地方裁判所・乙第13号証,大阪高等裁判所・乙第15号証)。
 また,聴覚に障害のある人が署名押印した遺産分割協議書について,「本件遺産分割協議書に原告が署名押印したことをもって,直ちに,それが原告の真意に基づいてなされたものと推認するのは相当でなく,したがって,本件遺産分割協議書をもって本件遺産分割協議が有効に成立したものと認めることはできず,その他の被告の主張事実をもってしても,原告が本件遺産分割協議書の意味内容を十分理解した上で,これに署名押印したものと認めるにはなお十分とは言い難い」として遺産分割協議の成立を認めなかった判例もある(東京地方裁判所・乙第14号証)。


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