
第11 結論
1 以上述べてきたことから明らかなように,被告は,手話通訳者による手話通訳なくして本件契約書の内容について理解できなかったところ,被告は原告行員から本件契約内容について,手話通訳者を介した十分な説明を受けなかったため,被告が本件契約書の「保証」,「根抵当権」,「担保」等の法律用語の意味内容について,全く理解しないまま,原告行員に指示されるままに本件契約書に署名・押印してしまったことについて,もはや疑問を挟む余地はない。
したがって,本件契約書作成にあたって,被告には「連帯保証」の意思も自己所有の不動産について「根抵当権」設定の意思も全くなかったものであり,原告と被告間の本件契約は不成立であるといわざるをえない。
2 仮に,百歩譲って,被告による本件契約の表示上の効果意思があったものと認められるとしても,被告には,表示上の効果意思に対応した内心的効果意思を欠いていたものであるから,本件契約は錯誤により無効であり,これが,原告行員が手話通訳者を付して契約内容を十分に被告に説明する義務を怠ったことに起因する以上,被告に重過失があったとは言えないことは明白である。
3 司法の使命は,社会的正義と公平の実現にある。
器質的障害のあるゆえに,「学習及び情報障害」が生じ,その結果,防衛能力が十分でない人達に対し,司法が適切な救済をしなければ,現代社会において障害のある人達はたえず社会的弱者として多大な不利益を課され,不正義が社会に蔓延することになり,司法に対する国民の信頼も地に墜ちてしまうであろう。
裁判所が,本件事案の全体像を正確に把握し,障害のある人の人権に関する国際人権規約の世界的潮流をも十分理解し,歴史の評価に耐えうる判決を下されることを求めるものである。
以 上