
第2 聴覚に障害のある人の一般的特性
1 聴覚に障害のある人には,大きく分けて,言語を習得した後に聴覚に障害を生じた者と生まれつき又は極めて幼少時に聴覚に障害を生じた者とがある。
聴覚に障害のある人に共通した特徴は,「聞こえないこと,また聞こえにくいこと」(器質障害)とそれに起因した「話せないこと,話しにくいこと」(機能障害)とされている(乙第3号証・217頁)。
2 聴覚に障害のある人は,後記第3のとおり,読話・発語,筆談によるコミュニケーションが困難であるために,相手方が手話を使用したり,手話通訳者に通訳を依頼したりするなど聴覚に障害のある人のコミュニケーション方法に合わせないと精神的に孤立してしまいがちである(乙第4号証・18頁)。また,情報がすぐに入らず,様々な不利益を蒙ることが多い(乙第4号証・18頁)。これが,聴覚に障害がある人々の「学習及び情報障害」につながるのである。
3 また,この結果,聴覚に障害のある人において,自主性が持てず,周囲の人の意見に左右されやすいという面が生ずることがある(乙第2号証・108頁)。これは,解決すべき事項があるときに,情報が少ないために自力では解決できない状況が生ずることによる。この結果,聴覚に障害のある人には,防衛能力が十分ではない人が多いのである。
この点は,本件被告にもよく当てはまるのである。すなわち,原告の銀行員O・T(以下「O」という。)の第12回口頭弁論期日における証人尋問調書によれば,同人は,被告は本件契約書にすらすらと署名・押印し(29頁,33頁),契約書の内容については,被告は何も質問せず(54〜55頁),何の反応もなかった(51頁)と証言している。仮にこれが正しいとすると,被告の上記行為は,被告に何ら防衛能力がなかったことをはしなくも示すものである。
件のように自分の全財産が奪われる結果となるかもしれない契約を締結するときは,通常人ならば,必ず,何らかの反応を示すものである。たとえば,主債務者や銀行に対して,これはどういうことなのか,と問い合わせる等をするはずである。それにもかかわらず,本件は被告の全く反応がなかったのである。この一点からも,被告において防衛能力が全くないことは明らかなのである。