
第8 本件における原告による手話通訳者を介した説明義務違反
本件においては,原告に,本件契約内容について被告に対し手話通訳者を介した説明義務がある。
1.そもそも,銀行である原告と一個人との間の連帯保証契約や物上保証契約の締結にあたっては,銀行側に連帯保証契約や物上保証契約の内容を保証人に十分説明し,保証意思の確認をする義務があることは確立された判例である(札幌高判平9.4.24金融商事判例1029号.23頁,東京地裁平8.8.30判タ982号48頁)。
連帯保証契約や物上保証契約の場合,主たる債務者が保証人に保証を依頼する場合,金銭消費貸借契約の内容を保証人に十分説明しておらず,保証人が必ずしも保証契約の内容を承知していなかったり,誤解していることもままあるし,時には,主たる債務者が保証人を欺罔していることも世上希なことではないからである。
2.既に述べたとおり,被告の主たるコミュニケーション手段は手話であり,被告は文章の理解力や抽象的な漢字文字の理解力は非常に低かったのであって,「保証」,「担保」,「抵当」等の法律用語の理解はできなかったのであるから,本件契約締結にあたっては,手話通訳者を付すべきであったことは明らかである。
3.この手話通訳者の手配は,契約締結の信義則上,原告側がすべきものである。
なぜなら,連帯保証契約や物上保証契約の内容を保証人に十分説明し,保証意思の確認をする義務は銀行である原告側にあるのであって,その説明・確認義務を尽くすために,手話通訳者を介する必要がある以上,銀行である原告が手話通訳者を手配すべきであることはあまりにも当然のことである。
4.この点は原告の行員も認めている(平成11年3月8日証言調書の59頁〜60頁)。
5.第4項で述べたように,国際人権規約及び差別禁止法制定の国際的流れも,銀行側に合理的配慮義務ないし合理的調整義務として,障害のある人に対してではなく,障害のある人との取引関係に入る企業側に手話通訳者の配慮義務を認めている。このことに照らしても,本件契約締結にあたって,信義則上,原告が手話通訳者を手配し,手話通訳者を介して原告の説明義務を尽くすべきであったことは明らかである。
6.しかるに,原告は,被告が聴覚言語に障害を有することは知りながら,手話通訳者を手配することなく,従って,手話通訳者を介した説明義務を怠り,その結果,被告が本件契約の意味内容について理解できないまま,本件契約書等に署名・押印したものである。原告の責任は極めて重いといわざるをえず,原告が本件各契約の不成立ないし無効という結果から何らかの損害を蒙ることがあっても,それはやむを得ないものである。