
第9 第一勧銀事件等との関係
1.ところで,本件不動産登記簿謄本の乙区欄には,平成元年から同4年にかけて合計4件の根抵当権の設定がなされていることから,原告は,被告が「担保」抵当」「保証」の意味を知らないことはあり得ないと考えていたとか,あるいは又,意味が分からなければその内容を尋ねたり,署名押印を拒否する機会は何度も存在したとして,これを被告の重過失の根拠に主張している。
2.しかしながら,既に詳論しているように,被告は,生まれつき聴覚に障害のある人であって,原告の主張するような一般論は全くあてはまらない。原告の議論は,先天的に聴覚に障害のある人の「聞こえない」という器質的障害が深刻な「学習及び情報障害」をもたらしているという極めて重要なことについて,全く無理解であると言わざるをえない。「担保」「抵当」「保証」の意味が全く意味が分からず,契約書の署名・押印という自らの行為の法的重要性について全く理解できていないのであるから,同じようなことが何度も繰り返されることがあっても全く不思議ではない。
3.本件に先行する第一勧銀事件(本件と併合審理され,和解成立済み)において,連帯保証あるいは物上保証の契約書に被告が署名・押印する際,手話通訳者が付いていたならば,原告が主張するように,被告には意味が分からなければその内容を尋ねたり,署名押印を拒否する機会があったと言えるであろう。
しかしながら,第一勧業事件においても,連帯保証あるいは物上保証の契約書作成にあたり,被告には手話通訳者を介した説明は何らなされておらず,被告が契約内容について十分な理解をしないまま,契約書等に署名・押印したことは,鑑定結果並びに被告本人尋問の結果から明らかである。
また,富士銀行に対し,被告所有不動産について根抵当権が設定されたのも,第一勧業事件と全く同様に,被告には手話通訳者を介した説明は何らなされておらず,被告が契約内容について十分な理解をしないまま,契約書等に署名・押印したことは,鑑定結果並びに被告本人尋問の結果から明らかである。
4.本件被告本人尋問における裁判官の質問とそれに対する被告の供述は,本件に先行する根抵当権設定登記があるからといって,それが,被告にとって,原告の主張するように「意味が分からなければその内容を尋ねたり,署名押印を拒否する機会」とは全くなっていなかったことを何よりも雄弁に物語っている。
(平成11年11月15日被告本人尋問調書33ページ)
裁判官
契約書という言葉を知っていましたか。
知りません。分かりません。
人と約束をする時に契約書を作るということは知っていましたか。
知りません。
今回銀行の書類にあなたが判を押したのは,Y・Tさんに押してと言われたからですね。
あります。……銀行の人がY・Tさんに言って,そしてY・Tさんから言われたということです。
その時にY・Tさんに,どうして判を押すのかということを尋ねましたか。
いいえ,全くそういうことは考えていませんでした。……ただ押したっていうことだけなんです。ほかには何も考えていませんでした。
判を押したのは一度ではないと思うんですが,毎回そのような状態だったんですか。
ほかにですね,小包が来たときに,押して品物をもらうという経 験はあります。ほかのものは経験はほとんどありません。
銀行の人が来て,判を押したことは一回ではないですね。
あります。
その度毎にY・Tさんに押してと頼まれたんですか。
はい。
その時は毎回ただ押しただけなんですか。
はい,そうです。同じ事の繰り返しですね。