
この裁判は、第一勧業銀行と三和銀行が、Kさんという高齢の聾唖者(生まれつき耳の聞こえない人)に連帯保証(れんたいほしょう)契約を結ばせた後、借主が借りたお金を支払わなくなったので、借主に代わってKさんに支払え(2つの銀行で併せて2,000万円超)、それと同時に、Kさんの家と土地に設定した根抵当権をが有効であることを確認してほしい(つまり、将来的にはKさんの家と土地を売って、借主が返済していない借金の返済に充てたい)と請求しているものです。実質的には、借主Yの銀行に対する借金は8,000万円超残っているので、根抵当権が設定されている分を含めると8,000万円超の支払いをKさんは求められていることになります。
Kさんの主なコミュニケーション手段は手話です。
口だけで話しかけられた場合には、「こんにちは」「ありがとう」「名前、書いて」ぐらいの、ごく簡単なことしかわかりません。
文章による筆談では、「○月○日○時に○○に来てください」程度の単純な文章は理解できますが、複雑な込み入った内容の文章だと理解することができません。
だから大事な話や複雑な話をするときには、手話通訳を介して行うことが必要なのです。契約をした時に、銀行員は、Kさんの耳が聞こえないということを知っていながら、手話通訳を付けませんでした。
そして、契約書を示して、連帯保証契約書と自分の家や土地に抵当権(ていとうけん)を設定する書類に署名押印を求めました。
文章の読み書きが十分でないKさんは、「保証」や「抵当権」の意味を全く理解しないまま、銀行員の言うままにこれらの契約書に自分の名前を書いて、実印を押してしまいました。裁判において、Kさんの弁護団は、銀行員からは手話通訳を介しての十分な説明がなかったし、「保証」や「抵当権」の意味については何も分からないまま、名前を書いてはんこを押した。だから、保証する意思も自分の家や土地に抵当権を設定する意思もなかったと主張し争っています。
何が問題か
銀行が聴覚障害者と連帯保証契約のような重要な契約を結ぶ場合には、当然、その契約内容を聴覚障害者に十分説明し、理解してもらった上で、契約を結ぶべきであることは当然のことです。→全国銀行協会連合会の「消費者との契約のあり方に関する留意事項」を参照してください。文章の読み書きが十分にできる聴覚障害者に対しては、書面を読んでもらって内容を理解してもらうことも可能です(それでも手話を用いる聴覚障害者の場合には手話通訳を併用することが望ましいでしょう)。
文章の読み書きが十分ではない聴覚障害者に対しては、手話通訳によって、契約内容を丁寧に説明しない限り、契約内容を理解することは困難です。銀行には契約者の理解の程度を考慮して説明する義務があるのですから、Kさんと契約をする場合には、手話通訳を付けることが必要でした。この事件では、銀行は手話通訳を付けて十分な説明をしていないにもかかわらず、契約書の保証人欄にKさんが名前を書いてハンコを押していることをたてにとって、Kさんに「保証人としての責任をとれ」と言っています。
具体的に言うと、「借主がお金を返せなくなったのだから(借主はKさんの親戚の人です。夜逃げをしてしまい、現在、行方知らず)、保証人であるKさんの家と土地を売ってお金に換えて返してもらいたい」と銀行は言ってきているのです。つまり、Kさんに「今住んでいる家を出て行け」ということです。銀行はお金を貸すことによって利益を得ています。お金を確実に返してもらうために担保をとることはやむをえません。しかし、他人の借金のために連帯保証人になったり、他人の借金のために自分の家や土地を担保に出す人に対しては、銀行はとりわけ十分にその契約内容を説明する義務があります。
説明義務を怠った銀行
もし、その人が、聴覚障害者であった場合、銀行はどのようにして、契約の内容を説明すべきなのでしょうか。
今回、銀行は、手話通訳をつけませんでした。契約書を示して、大きな声でゆっくりと話したそうです。
大きな声で話されても、Kさんはまったく耳が聞こえません。ゆっくり話されても、Kさんは簡単な言葉しか読みとれません。「なまえ」「書いて」とか「じゅうしょ」「おねがいします」ぐらいです。
繰り返しますが、Kさんは文章の読み書きが十分ではありません。銀行の契約書を見ても、残念ながら意味はまったくわかりません。
ですから、銀行が、もし、Kさんに保証人になってもらいたい場合には、手話通訳をつけて、きちんと「連帯保証人」になることの意味や「抵当権」の意味、そして「もし、借主がお金を返せなくなったら、家と土地をもらう約束をするのだ」ということをはっきり説明すべきだったのです。そのような説明義務を怠った銀行が、Kさんに家から出て行けと言うようなことを私たちは許すわけにはいきません。
なぜなら、聴覚障害者の中には、文章の理解が十分でない人がたくさんいるからです。手話でもってコミュニケーションはできても、契約書を自分一人で読んで理解し、契約を結ぶことは困難な人が数多くいるという現実があります。
だから、私たちはこの裁判に勝たねばなりません。
裁判に勝つことによって、銀行は、今後、聴覚障害者と契約をするときには、ちゃんと手話通訳を付けて、十分に説明しなければならないのだと思い知るべきです。そして、銀行全体に、社会全体に、このことを知らしめたいと思います。K裁判の詳細
◆Kさんのプロフィール大正14年生まれ(75歳)。生まれつきの聾唖者
聾学校卒業後、同校にて9年間洋裁助手を務める。
その後、妻(聾唖者)と共に洋服の直しの下請けをしてきた。
現在、三鷹市在住、妻と二人暮らし。子供はいない。◆事件の発端
Kさん夫婦は、洋服の直しで収入を得ながら細々とながら平穏に暮らしていた。
ところが、平成8年2月、突然、第一勧業銀行と三和銀行からKさんの家へ内容証明郵便が送られてきた。その内容は、KさんがT工機株式会社の連帯保証人になっているとして、債務の履行を請求するものだった。T工機株式会社とは、Kさんの義弟であるY・T氏が経営していた会社である。そのころはすでにT工機株式会社は倒産状態にあり、Y氏は所在不明であった。Kさんは保証した覚えがなかったので大変おどろいて弁護士に相談した。弁護士が銀行に対して、「連帯保証契約は無効である。根抵当権も無効である。」と通知した。
1年後、第一勧業銀行と三和銀行が裁判を起こしてきた。
K裁判はこうして始まったのである。
なお、第一勧業銀行とは平成13年9月18日に裁判所において和解が成立しました。
三和銀行は不当にもKさんとの和解を拒否し、あくまでも自らの非を認めません。
平成14年3月4日午前10時に口頭弁論期日が東京地方裁判所705号法廷にて開かれます。是非傍聴をお願いします。◆三和銀行の事件
1.当事者
原告 株式会社三和銀行(平成9年4月24日訴訟提起)
被告 Kさん2.裁判所
東京地方裁判所民事第33部(最初は東京地方裁判所八王子支部に訴訟提起されたが、
その後、第一勧銀の事件と併合され東京地方裁判所(本庁)で裁判を行っている。)*裁判所に市民の声を届けよう! 聾唖者のおかれている状況を訴えよう!
手紙の宛先: 東京都千代田区霞が関1-1-4
東京地方裁判所民事第33部
この事件の番号: 平成9年(ワ)5085号、11614号3.三和銀行はどういう訴えをおこしているのか
1)Kさんは東京工機株式会社の連帯保証人だから
363万4789円を支払え。
2)Kさんが持っている土地と家を売ってお金に換えたいので、
Kさんの土地と家に設定した根抵当権設定登記が有効である
ことを認めて欲しい。4.三和銀行の言い分
第一勧銀と同様の主張
◆Kさんの弁護団の反論
銀行は、契約を結ぶことについて不慣れな一般人と契約をする場合には、丁寧にその内容を説明しなければならない。まして、他人の借金のために連帯保証人となって自分の家や土地に根抵当権を設定させる契約を結ぶような場合には、銀行は十分にその契約内容を説明して、保証意思の確認をより慎重に行う義務がある。
Kさんは、生まれつきの聴覚障害者であり、十分な教育を受けてこなかったので、文章の読み書きは不十分である。Kさんは、「保証」、「担保」、「抵当」等の言葉も知らなかった。
銀行が手話通訳を連れてきてKさんに説明をすれば、Kさんはその内容を理解できたはずである。しかし、銀行側は手話通訳を連れてこなかった。また、YがKさんに対してどういう説明をしたか、その内容を確認しなかった。
それなのに、銀行は契約書を示すだけで済ませ、署名させてしまった。Kさんはその書面の意味も分からないまま自分の名前を書いたのであり、連帯保証の意思はなく、自分の家や土地に根抵当権を設定してもよいという意思も全くなかった。よって、これらの契約は無効である。
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Kさん弁護団の主張