薹と鰈

肴噺・魚編2 ヒラメとカレイ

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ヒラメとカレイ

 岡持の庭から鰈ひっぺがし
 すでに述べたようにサカナは種類が多い上に、その呼び名の中には多数の方言があるので、呼び名を聞いただけ
ではサカナの種類を識別できない場合があることも理解されたと思う。だから、専門家から「実物を見ないと生物
学上の分類は解答できない」といわれることがあるそうだ。
 魚類分類学の権威者によると、エビやカニの中にはいずれに属する生物か、判定に困難なものもあるという。
ところで、ヒラメは物類称呼には「ヒラメは畿内、西国ともにカレイという。江戸では大なるをヒラメ、小なるを
カレイとよぶが同じ魚である。」と書かれている。しかしヒラメを食べると精気がつくと賞美し、縁側(上下の鰭
のつけ根にある肉)は美味であり、とくに寒ヒラメの名があるように寒中が旬であるから、「三月ヒラメは犬も食
わない」といい、カレイより高く評価してきたが、カレイの仲間にも大分県日出(江戸時代には木下藩の城下であ
った)近海で漁れる「城下カレイ」とよぶマガレイなどは美味で名産にな
っている。ところが、ヒラメといえば理屈抜きで買って行く人が多いと苦笑する魚屋がいた。こうした魚の知識に
乏しい人もいるので、昭和四十二年二月に、婦人団体が「メルルーサをスズキ、オヒョウをヒラメと称して売る魚
屋がいる」と摘発したから、魚の呼び名が社会問題に発展した。
 世間では、カレイとヒラメを「ヒラメ左、カレイ右」といい、魚の眼の位置で識別している人が多いが、カワガ
レイの眼は左にあるし、呼び名はセガレイリであっても生物学ではヒラメ科の魚であるという。大鮃は右側に両眼
があるカレイ科の魚であるが、漁師の中には「大鮃はカレイとヒラメの混血魚である」と信じて大ヒラメとよぶ漁
師もいるという。また水産業者は「ヒラメは冷凍すると肉が崩れるので《冷凍ヒラメ》という魚はあり得ない」と
いっているそうだ。
 とは言え、大鮃問題は新開も書きたてたので、大日本水産会は同年八月に、魚名統一協議会を開催して、公正取
弓委員会事務局や、水産関係者および主婦連などが協議して、まぎらわしい呼び名で取引されている遠洋魚類のう
ち、北海産のアカウオ、オヒョウ、銀ダラ、メヌケ、アフリカ
近海産のメルルーサの五種は本名(学名ではない)で表示し、味噌漬、粕漬などに加工した場合の銘柄は、水産庁
が呼び名を統一するよう行政指導することでけりがついた。
 このことがあってから魚の呼び名について問題が発生した話は開かなくなったのに、昭和五十三年の秋から宮城
県の草の根グループむぎの会が、魚名の販売表示、鮮度、量目、価格などを調査しているうちに、南方産の魚であ
るキングクリップがアマダイの名で販売されていることが発見されたのが端緒で、オキスズキがスズキ、キンヒラ
スがブリ、ホキがサワラの名で売られていたこともわかった。
 これについて大手水産業者九社で結成している国際漁業対策協議会は「最近十年間に市場に出回った新種だけで
も30種以上ある」といい、水産庁も「年間総漁獲量千百万トンのうち五%ぐらいは新種の魚である」と証言してる。
これでは魚屋でさえ知らない名前の魚が大量に出回っているのも不思議でない。
 そこで、国際漁業対策協議会は、昭和54年5月25日の会議で水産会社が統一している魚名を、加工業者や
小売業者に徹底させるよう呼びかけることを決議した。これに対応し日本チェーンストア協会(加盟百社)や、全
国水産物小売商業協同組合連合会も、それぞれ本名(学名ではない)で販売する方針を申合せたと読売新聞は報道
している。
 しかし、消費者は、それが本名であっても産地の外国名でいわれたのでは、どう料理してよいのかわからない。

この実情にこたえて、阿部宗明博士は新顛の魚という本を出版して用途の知識普及に努めておられると開くが、長
野県水産試験場佐久支場では、ヨーロッパ中部・ソ連・北米などで質実しているペリヤジというサケやマスに似て
いる淡水魚を1975五年から飼育していたが、世界で初めて採卵と孵化に成功し、1981年に八千尾の稚魚を佐久市の
湖に放流したという。このように新顔のサカナが続々と登場してくるだろうが、二百海里問題などの将来を考える
と、タイなど高級魚の呼び名に執着しているのは時代錯誤で、日本人はイワシなどの大衆魚の調理法を工夫すると
ともに、毒魚でないかぎり養殖魚や輸入魚も積極的に食べ
るべきであると思っている。最近のニュースで日本海のミズクラゲを地元名産にしようとの声で調理して販売した
ら好評であったと聞く。

(歴史読本参照:by髭G)

 ヒラメとカレイは説明したので、ここでは
 主に川柳に詠まれたヒラメについて述べるこ
 とにする。


  知恵のなさ四月ひらめの刺身なり
  ひらめなめさせて肴屋よりつかず
  唐櫛にひらめの残る煮売見世

 ヒラメは童謡に「鯛や平目の舞踊り」とあるように、鯛と並べると紅白になって縁起がよいとしているが、秋か
ら翌年二月頃までは美味でも、三月は産卵期になるので「三月ひらめは貰っても食えない」といわれるのに、四月
に平目魚の刺身を食わせるとは非常識である。平目魚を舐めさせて大鮃を売りつけた魚屋は悪事露見を恐れて来な
くなったが、煮売見世(煮た惣菜を売り簡単な食事もできる店)では「偽物は売っていない」といって、平目魚の
肉がついている唐櫛(魚の骨を櫛に見立てて)をぶらさげていた。


 カレイとヒラメは混称されて区別できないので片目と総称していたともいうが、奇人の宮武外骨は、大正13年
(1924)四月に発行した変態知識第四号に、「平目(公娼の異名)」と題して次のような記事を掲載している。
眼科医の泰斗(権威者)小川剣三郎先生談に、「会津、東山温泉の町に居る公娼を土地の者は平目と称して居る
が、その由来について面白い話がある。徳川時代の昔、片目の女に限って娼妓に成ることを許され、各地から片目
の女が多く集まったので、魚のヒラメに因んだ異名を付けられたのであるという。その後、片目でない普通の女が
鶏卵の中の薄皮で限球を蔽い真の片目らしく見せ掛けて娼妓稼ぎの免許を得たそうである云々。」
 この話は、会津地方に伝わる話である
 ヒラメを王餘魚と書くのは、越王(勾跋)が料理した魚の半辺を海に棄てたら片目の魚となり、雌と雄が一体と
なって泳いだという伝説によるといい、仲のよい夫婦を此日の魚とよぶが、目が横に奉って流目に見えることか
ら、目上の人に追従する物をヒラメと蔑称して、親を睨むと「ヒラメになる」と訓戒した。しかし、オヤニラミと
よぶ魚はハタ科の魚である。


  親ににらまれて比呂魚の浜へ行き
  勘当は銚子比目魚に茶々をつけ
  ざいご下女てうしひらめの味がする

 江戸時代は道楽息子は親に勘当されるとイワシやヒラメが大量に漁れる比目魚の浜(銚子市の異名)の知人の
家に流罪されるのが民習であった。ところが、銚子で漁れる比日魚は臭くて不味いといわれていたにせよ、勘当さ
れた身であるのに、「銚子の比目魚は食えない」とか、在郷(田舎)の下女の酌で遊べるか」などと茶々をつけ
(文句をつけ)ていた。


  岡持ちの底から鰈ひっぺがし
   棒鼻に仮に居にけりむし鰈
  足袋の底はど掛けて干すむし鰈

 岡持(提げるための手と蓋があり、食料品を運ぶのに用いた平たい桶)の底にある鰈はひっぺがす(剥ぎとる)
ょうに取出す。これを蒸媒(乾媒)にするには塩水に投し、蔦を被せて湿気で蒸して陰乾しにするが、若狭(福井
県)産が最上品といわれていた食品である。日本魚名集覧によると、乾媒に加工するムシガレイはミズガレイとも
よばれ、この魚はオヒョウ科であるという。川柳は足袋の底を乾すように気長に陰乾しにする秘訣を詠んだ句であ
る。

     さかなづくし


 「夏座敷とカレイは縁側がよい」

  カレイの”縁側〃とは上下のヒレのつけ根の肉。この部分は泳ぐときよく動かすので肉が締まっており、刺身
よし、灸ってよしと美味であるが、気がきかないのか悪意か、このヒレを取って料理されることもあるとか。夏、
日本家屋の座敷では、どこよりも縁側が一番涼しい。カレイも同じく縁側がょい、と双方をひっかけている。カレ
イとヒラメは身体のつくりが似ており、区別するのはむずかしい。尾を手前に、背ビレを上にして、右に目がある
方がヒラメ、反対に左に目がある方がカレイ、一般に右ヒラメ、左カレイと言う見分け方があるが、左に目があり
ながらカレイと名がついたものもあるから絶対というわけにはいかない。口が大きい方がヒラメ、小さい方がカレ
イという見方もあるが、比べようがないのでこの方法もよいとはいえない。正式にはカレイ目ヒラメ科であるから
とどのつまり、同じであるようだ。



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