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鯖・肴噺・魚編7

鯖 肴噺・魚偏7

肴噺魚編プロローグ
さかなの語源
鰤・知ったかブリッ子1
出世魚について
ヒラメとカレイ魚偏2
鮃と鰈の噺あれこれ
鮪(マグロ)噺・魚偏3
マグロの噺あれこれ
寿司屋の元祖・魚偏4
寿司屋の由来は然々
鰯三昧・魚編5
鰯の蘊蓄噺、ぞろぞろ
鰊(ニシン)魚偏6
ニシンの卵は数の子
鰺・鯵(アジ)魚偏8
アジ今昔/沼津の干物
鯛 魚偏9
エビで鯛を釣る

肴噺・魚偏・鯖7

 サバは、本鯖と胡麻鯖に大別される。腹が銀白で秋に脂がのり「秋鯖は嫁に食わ
すな」というほど美味になるのは本鯖である。「鯖の生き腐れ」といわれる理由は、
鯖の肉にはグリコーゲンが多量に含まれているため新鮮に見えても腐敗するのが早
いからである。しかし、水揚直後に冷蔵すれば意外に長く貯蔵できるという。とは
いえ、「盆過ぎての鯖商内」といって時期はずれの鯖は買うものでないとされる。
また、「秋鯖の刺身に当たると薬がない」の俗諺もあるから、新鮮な鯖(鰓(エラ)
に滲む血の色はあくまで赤く腹の肉が引締った鯖)でない限り、生食は避けた方が
よいという。


 今昔物語には、聖武天皇が東大寺の大仏を建立して開眼供養を行なう当日になっ
たが、天皇は夢に見た翁が東大寺に現われたと聞かれ、使者を差し遣わし翁の持っ
ていた籠を開かせたところ、入っているはずの鯖がなく、八十巻の華厳経が出てき
たという話が載っている。これは当時、鯖がどんなに貴重な魚であったかを仏説と
して伝えた話である。


 阿波国鯖大師由来図によると、阿波海部郡八坂八浜の鯖施に福良坂なる難所があ
るが、ある魚屋が馬の背に鯖を積んで通りかかると族僧(実は行基上人であった)
が呼びとめて「鯖を譲ってほしい」と所望したが、魚屋がことわると、旅僧が「大
坂や八奴さか中、鯖ひとつ大師にくれで馬の腹病む」と口吟み、そのとたんに魚屋
の馬が苦しみ始めたので、魚屋は驚いて、旅僧に「鯖を進呈するから馬を助けてく
れ」と哀願した。
 それで鯖を受取った旅僧が「大坂や八坂さか中、鯖ひとつ大師にくれて馬の腹止
む」と口吟みながら持参の水を馬に飲ませると、馬が再び元気になったばりIか、旅
僧が“海中に投げ入れた鯖も蘇生して沖に泳いで行った。これを見た魚屋は只事で
ないと知って、仏門に入る決心をして鯖施に堂を建てた。これが大師堂の縁起であ
ると伝えている。鯖施はJRの牟岐線にあり、この付近は蟹の爪のように湾曲した海
岸線で、景観もよいが、海亀の産卵地として有名である。


  刺鯖は竜宮の心中かとたわけ
  心中は刺鯖からの思ひつき
    刺鯖は差して恋路の名も立たず
    刺鯖は抹香までの粉がこぼれ

 開秘録に「刺鯖の事。俗記にいざなぎ・いざなみ二神、七月望日、海浜を過給ふ
とき、鯖二蒼交合せしをみたまひて、子孫繁昌のため、今日刺鯖を食ふと云う」と
いう珍説が載っているが、刺鯖は鬼子母神の伝説から生まれたものだと思ぅ。
 鬼子母神とは、王舎城(インド・マカダ王国の首府)にいた鬼神の娘で訶梨帝母
といわれるが、一万人の実子がありながら、他人の子供を奪って食べていたので釈
迦は彼女が最も愛していた末子の愛奴(ビャンカラ)を托鉢の鉢の中に隠して母性
愛を説教して改心させ、それ以後は安産・育児などの守護神となり、天竺で最初の
食物生産者ともなった。
 そこで釈迦は彼女の可憐な心情を認めて、人肉に似て、魔除けになるインドの吉
祥果にも似ている柘椙(ザクロ)を与えたので、彼女は「恐れ入谷の鬼子母神」と
恐縮し、人命尊重と敬老の手本を示した。それで大衆も親孝行するようになったか
ら、仏教では鬼子母神を愛子母・歓喜母・功徳天などとよび、食事に先立ち飯の一
部を丸めたもの(梵語で婆準または生飯という)を仏前に供えるようになり、この
教えから裟婆を鯖と訓み変えて生まれたのが刺鯖の行事であるという。


 この行事は、盂蘭盆経(ウラボンキョウ)に「父母の寿命は百年に及んでも、な
お無病で苦悩の患いもないことを祈願する」という意味の教えが説かれているから、
陰暦の七月十五目に、生存している長命の人を刺鯖と蓮飯で饗応して、その長寿を
祝福し、この行事を生御霊祭(イキミタママツリ)とよんでいたが、この行事は文
化・文政の時代(一八〇四〜三〇)から衰微して現在では故人の霊魂を供養する行
事だけとなり、これを精霊祭または盂蘭盆(おぼん)とよんでいる。


 刺鯖とは、背開きにした塩鯖を二枚重ねて刺したものであるから、心中の始まり
と想像した者もいたが、鯖が恋愛したという噂話は些して(刺して)聞いたことは
なく、むしろ精霊祭の刺鯖は抹香の粉を浴びているのが気にかかる、と川柳はいっ
ている。


  竹売をよけよけ鯖の御使者行き
  七月六日黄自の鯖が出る

 京都では、若狭国で漁れた鯖を塩鯖にして祀園会(八坂神社の祭礼)に供えたり、
官人の給料として、高官の公卿たちには乾鮭を、それ以下の者には塩鯖を現物給与
していた。
 江戸では七夕の祝儀として前日の七月六日に、御三家を始め諸大名は将軍家に鯖
の生魚を献上する嘉例があったが、生魚では始末に困るので、室町幕府が行なった
という前例にならい、鯖の代わりに黄金一枚を献上するように改めたという。川柳
の竹売とは七夕の竹を売りに来た者をいう。


 飲む亭主月給のさばをよんでおき 昌坊

サバをよむ

 ところで、数を誤魔化すことをサバをよむというが、この語源には三つの説があ
る。
 魚屋が小魚などを数えるのに早口で数えて途中で数を飛ばして呼ぶからだという
説と、寿司屋が、客が食べた数を誤魔化すのを防ぐため鮓を握るたびに生飯(飯粒)
を置いて数えたという説はいずれも俗説で、これは生霊祭(精霊祭)の仏説を守っ
て、中元にサバの開き、または刺鯖を贈る時に、二尾を一枚または一刺と数えたか
らだとする説明がある。
 幕末から明治初期に北海道に進出した商人の中には、鯖や鰊などを数える時に、
最初の一尾を「始まり」といい、二尾めから数えて最後に「終り」とよんで、十二
尾を十尾に数えた不埒な者もいたと伝えられている。


   
「秋サバは嫁に食わすな」

 サバは春から夏にかけての産卵を終えた秋が旬。美味しいものは嫁に食べさせ
るのはもったいない、といった意味。同様の諺で嫁に食わせてはならぬと言われ
たものは「秋カマス」「秋タナゴ」「ハゼの洗」「秋ナス」など。もっとも「秋ナ
ス」は食べすぎると体が冷えて子供を産めなくなるから、という意味もあるから、
一概に差別的な言とも言えない。
 また、嫁に食わせるかどうかは別にして、旬を表わす諺は他にもある。

「麦わらダコに祭リハモ」
「菜種フグは食うな」
「夏の蛤は犬も食わない」
「夏のヒラメは猫も食わない」
「三月ヒラメは犬も食わない」
「花見過ぎのカキは食うな」


「Rのつかない月のカキは食べるな」

 健康管理もふくめた格言で、知っておくと便利。

 もっとも、近ごろでは養殖、冷凍、流通のシステム化で、さかなの旬もわからな
くなりつつあるが、一年中食べられる便利さと、旬の味覚と、どちらに価値を置くか、
これが課題である。


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