Mad Angel 2
−国民浄化− 『ナショナルクレンジング』
クーデター騒動が仙台基地の壊滅をもって終結し、新たな政府が機能し始めて半年。しかし旧JPは東北地方でいまだにゲリラ的な抵抗を続けている。そんな中で横浜基地は半ば放置される形で、今だ黒崎特佐に対してのお咎めはなかった。形式上は首相直属の実働部隊となり人員、施設などはほぼそのままで機能している。
來夢「世も末ね」
榊「全くだ。立法府と司法局はほとんど変化はないが、行政府は旧派閥と革命派で闘争状態にある。軍事省を革命派が抑えている以上、こちらからすぐにどうこうすることはできん」
榊学(さかきまなぶ)首相。クーデター以前からその座に着いてはいたが、保守的な老人達に祭り上げられる形であり本来の仕事は全くといっていいほどできてはいなかった。昔から居るまともな政治家の筆頭である。今年45歳と、首相としては過去の例にないほどの若年。
剣「考え方はわかります。やり方はともかく」
鳴海「実行部隊はどうも血塗れの女神(ブラッティヴィーナス)の連中が中心になりそうですよ」
瑠璃「うちにもオファーありましたよね?非公式に」
來夢「ええ。速攻で蹴ったけど」
石崎「過去に民俗浄化(エスニッククレンジング)なら何度かありましたけど」
來夢「言うなら国民浄化ってとこね」
剣「表だってできないのはわかりますが。上手くいきますかね」
來夢「誰も止める人間がいないのが問題よ。本気なら、それなりの成果は上がるんじゃない?」
新政府。そこで秘密裏に決定された事項。戸籍を持たない国民が半数近くにも及び、さらにそんな連中の大半がこの国の治安を著しく悪い物にしている。そんな現状を打破すべく取られる方法、それは悪の芽を断つ。そんな連中の蔓延る地域の掃討作戦。
鳴海「うちらで止めます?」
榊「正規陸軍の精鋭相手にか?」
來夢「個人的には賛成。ただ部下の命を私の考えだけで危険にさらすことはできないわ」
瑠璃「任意の人間だけでいいでしょう」
剣「裏浜は。少なくとも地下都市はおそらく連中じゃどうにもならないでしょうし」
來夢「多分ね。もう正規の軍人じゃないから言えるけど、おそらく今地球上に連中に対抗しうる戦力はないわ」
鳴海「ミサイルでも打ち込みますか?」
瑠璃「核でも使わないと無理でしょうね」
來夢「忙しくなるわね。ここ半年すっかり実践から離れてるから、気合い入れていこう。石崎はここでお留守番しとく?」
石崎「ホーリーゴーストとストーンヘッドはいつでも特佐のために動きますよ」
來夢「“元”特佐ね」
剣「でも多分、うちらが暗黒街・無法地帯に行けば後ろから撃たれるか刺されるですよ?」
來夢「それになにがなんでも摩天楼の連中に鉢合わせるわけにはいかないし」
榊「例の少年達か」
鳴海「それより学さん、こんな基地なんかに堂々と出入りしてていいんですか?」
榊「ここは私直属の機関だよ?なにか問題があるかね?」
剣「改革派と軍の連中はいい顔はしないでしょう」
榊「承知の上さ。どちらにしろここの人員が表立ってJPと対立するのはまずいし出ていくのも歓迎できないな」
來夢「今のところJPは何もしてきてないですが、邪魔でもすればすぐさま対立する図式でしょうし」
鳴海「後ろからジャンクキッズに刺されるのも勘弁です」
瑠璃「四面楚歌。切ないですねぇ」
來夢「1人。ラインを繋げるかもしれない奴が裏浜にいる」
榊「覚醒者か?」
來夢「ええ」
剣「接触するなら私も・・・」
來夢「ダメ。あんたは面識があるから」
鳴海「例の子達ですか?」
來夢「まさか。あの子達はどっちかって言えば革新派・JPよりよ。入間基地の件を見てもね」
瑠璃「どっちにしろ危険じゃないですか?」
來夢「結構ね」
剣「でも例え情報を流したとして、対抗策になりますか?」
來夢「それは期待しないよ。ジャンクキッズってまとめて呼ぶだけで連中に互いの協力関係なんてないし。ヤクザやマフィア、キッズグループならまだしもだけど」
鳴海「もし本格的な攻撃が始まったら。地方都市の奴等はほど消えるでしょうね」
石崎「生き残るのは渋谷と裏新宿。それに裏浜くらいなもんですか?」
榊「そこまでできれば、連中の進めたい地上再開発計画も順調にいくだろう。私としてもその手段以外は手放して賛成したいんだがな」
瑠璃「国民の虐殺を止める人間が居ないのが問題なんでしょう。とりあえず、私が行きますか?」
剣「ああ。さすがに特佐自ら行くのは危険極まりないしな」
石崎「後ろ詰めでホーリーゴーストを動かしましょう」
榊「遅くても半年もすれば本格的に発動する。下手をすれば2ヶ月」
來夢「最短2ヶ月に合わせて動きますよ。これ、基本」
渋谷での騒動から完全に姿を消したcat’sと子豚。ギャラクシィは半数がパクられ、さらに幹部連が消えたことによって崩壊。街は驚くほど静かになった。
響「国外か?」
悠木「だろうな。入国はかなり厳しいが、出国はそうでもない。裏浜の例の場所も空になってるわけだし」
千尋「でもどこに?アジアのどこかだとは思うけど」
悠木「もう子豚は朝鮮には帰れないだろうから。普通に考えれば東アジア自治区(旧中国地域に密集する各民族などによる自治区の総称)のどっかだろうな。中にはどんなこと企んでる場所がないとも限らない」
千尋「子豚がそのための活動を日本(こっち)でやってたってこと?」
悠木「あくまで推測だけどな」
響「クーデターで予想に反して世界政府が全く介入してこなかったからな。そういうのも関係してるかも」
悠木「介入を推したロシアとイギリスにドイツとフランスが真っ向から対立したからなぁ。政府としては動けない、ロシア単独では日本を相手にできないしイギリスが軍を回すには時間がかかる。そうこうしてる間にクーデター終了」
響「バタフライも完全に排斥したし、これで世界政府は日本に手を出すことができなくなった」
千尋「しばらくは悠木達も安全かな?」
悠木「だが何人かは潜り込んでるだろうし。安心はまだでいきないさ」
響「眞司達との連絡も全然取れないし。八方塞がりだな」
千尋「でも大地も無事退院したし、平和でいいじゃん」
悠木「今は・・・な」
響「嵐の前の・・・ってやつか?」
悠木「かもな」
と、悠木の携帯に着信。表示は大地からだった。
悠木「あっ?」
大地「電話に出た第一声がそれか」
悠木「最初に言っておくけど、重要なことなら電話じゃだめだぞ。待ち合わすかメモとかにしてくれ、盗聴される」
大地「お尋ね者は大変だな。危険かどうかはお前が判断してくれ。悠木に会いたいって人間がいる、俺回しで連絡させるな」
悠木「了解。いつものあそこな」
大地「いつもの、って一年くらい行ってなくなくないか?」
悠木「場所はわかんべ?」
大地「あたり前」
悠木「んじゃいつもの時間な」
大地「あいよ」
電話を切る。現在の時刻はまだ午後1時。
響「知り合い?」
悠木「ああ。平和も長くは続きそうにねぇわ」
千尋「面倒事?」
悠木「多分。大地回しで俺にコンタクト取ろうとしてる奴がいる」
千尋「大地と京子は逸脱島でのこともあるし入院してた時のこともあるから方面に繋がりは隠せないよね」
響「問題にならないように手を打っておいた方がよくないか?今後なんかで人質とか面倒なことになるかもしれないぞ?」
悠木「そうだな。ま、とりあえずは目の前のことだよ。身動きがとれなくなる前にできることはやっておく」
出ていく悠木と入れ違いになって、加奈と渉が連れだって入ってきた。
加奈「どこいったんです?」
千尋「デートじゃない?」
渉「またまた」
加奈「・・・そうそう、聞きました?イギリス・ロシアが世界政府脱退したみたいですよ?」
響「はぁ?なんで」
渉「すでに艦隊がこっちに向かってるそうです」
千尋「介入ってよりは戦争じゃん」
加奈「さながら日中戦争ってとこですかね」
渉「日本海でロシアに勝ったやつだっけ?」
加奈「・・・。日本が当時の国際組織を脱退して旧中国にしかけた戦争」
渉「それって第2次アジア大戦じゃないん?」
加奈「それは世界政府が樹立してからでしょ。日中戦争はまだ国際連合のころだよ」
響「お前らの歴史知識って・・・。日中戦争のころは国際連盟だ」
千尋「小学校だよ?これ」
加奈「・・・」
渉「・・・」
響「加えるなら世界政府になってからなのは第3次からだ。第2次のころは国際機関はない」
千尋「・・・ともかく、英露が牙剥いてるってことよね」
加奈「・・・そう、ようはそういうことです」
渉「海上国境にすでにJPは部隊を配備してるみたいですよ。結構緊迫してますね」
響「でも宣戦布告はないんだろ?事件続きだな」
渉「だりぃ。政府は大変だ」
千尋「吉とでるか凶と出るか。賽は投げられたってね」
と、4人全員同時に目を合わせた。いつもとは違う、自らの気配を隠してビルの周りに取り憑いてる奴等の感じ。
千尋「あん時のやつらかな?」
加奈「さぁ。結局魁のことがあったから悠木さんも掴めてなさげでしたから」
千尋「ほぼ半年か。空きすぎっちゃ空きすぎだわね」
響「なんだよ、それ」
ベットの下に眠るグロックを起こして安全装置を解除する。ここの連中はみな古銃好きである。
千尋「女の子同士の内緒話ってやつかな」
渉「拳銃(これ)だけで足りますか?」
響「お前がこの状況で下まで取りに行ってくれるなら止めないぞ」
千尋「それにこんな狭い場所じゃ拳銃の方が逆にいいわよ」
一年ほど前まで女子高生やってたとは思えない言葉だ。だが実際、彼女の射撃のセンスには正直周りの誰もが驚かされることがあったのも事実。
響「んじゃ、いくか!!」
一斉に部屋から飛び出した。
悠木の通っていた学校からさほど遠くない場所にある神社。といってもすでに神主らも居らず、無人のまま放置されていて半分以上は林に飲み込まれている廃屋である。胸ポケットに隠し持っている拳銃の安全装置を解除してから、ゆっくりとその敷地内へと進んでいく悠木。懐かしい。反面、切なくもある。見知った所をどんどんと進み、本堂の中へと入っていく。薄暗がりの中、1人の少女。とはいっても同年代くらいの子が1人座っていた。
悠木「・・・あの女じゃないのか」
瑠璃「さすがにそれは難しくありませんか?」
向き直る。薄暗がりでも十二分に認識できる美少女。話だけは聞いたことがある、電子の妖精と呼ばれた最年少で少佐になった少女。
悠木「くだらない話に付き合わされたくはないからな。用件だけ手短に言ってもらえるか?」
すくっと立ち上がった少女。そのまま本堂を出て境内を歩く。その後ろに黙って悠木はついていった。
瑠璃「くだらないお話をしに来ました。お時間はいただけますか?」
境内を抜け林を抜けて。目の前には一台の車が止まっていた。ごく普通の一般車だ。
悠木「・・・ああ」
大地回しで連絡をしてきた。つまりは無言の脅迫、そんことをする連中だとは思えない、が。もしここで突っぱねたら大地に危害が及ぶ可能性を否定できない以上、なるべくは穏和に行きたい。それが悠木の本音、そうでなければこんな連中と話すことはない。
促されるがままに車の後部座席へと乗り込む。全面スモークで気づかなかったが、運転席にはあの女。黒崎來夢が、助手席には見覚えのある男が。そして隣にはさっきの女が座り込み、車は静かに動き出した。
悠木「予想外だな、あんたみたいな大物が出てくるとは。榊首相?」
榊「初めまして。だな。君たちの話は色々なところから聞くよ」
來夢「こんな形になったことをまず詫びるわ」
悠木「ああ。だが次こんな手を使いやがったらあんたらの人生終わらせてやるよ。さっきからついてきてる後ろの車の連中含め、横浜基地の奴ら全員な」
戦慄。そう、それが一番近いのか。まだ20にもならない少年の持つ雰囲気、言動。そしてなによりそこに込められた冷たさを垣間見て、榊は震え上がるような悪寒を感じずにはいられなかった。背中は一瞬にして汗で濡れているのだろう、すこし不快な感じだ。
來夢「肝に銘じておくわ。でも私達にあなた達を敵視してるわけじゃないのよ?」
悠木「俺達は全員犯罪者だしあんた達の敵だよ。そういう構図になってる。あんたらに俺達もずいぶん邪魔されたし、俺達もあんたらの邪魔をずいぶんしたはずだ」
來夢「それは否定しないけどね。確かに剣とかはあんたらのことを恨んでるし。でも今はそんなことに言ってる場合じゃないの。覚醒者という存在について知りたいこともあるし調べたいこともあるけど、それも今は二の次なのよ」
後ろの車といい、この今乗ってる車といい。こいつらもかなりの危険を犯して自分と接触している。つまりそれだけなりふりかまっていられないということだ。悠木はしばらく黙って、交互に口を開く榊と來夢の言葉に耳を傾けた。
悠木「つまり、クーデターが成功したはいいが結局JPは1枚岩にはなれずに、対立が生まれた。そして今権力を握ってるのは改革推進派で、政府にまでも食い込んで国を良くしようとしてる。そんなやつらがついに暴挙に出るんだが、もはやそれは首相個人やその直属であるあんたら程度じゃ止めることはできない、と?」
來夢「まとめてくれてありがとう」
さっきから車はどこを目指すでもなく、首都圏の地下高速を適当に進んでいた。
悠木「・・・裏都市が粛清される情報は貰えて嬉しいが、だからって俺には何もできない」
來夢「それは私達も同じよ。でも知ってしまった以上、そんな暴挙見て見ぬふりできる人間じゃなくてね、私達」
悠木「何が言いたい」
榊「確かに国を立て直す以上、君たちのような犯罪者の巣くう地帯を掃除するのは必要なことだし、彼らのやり方も方法としては一番手っ取り早くかつ一番可能性のある手段だ。だが、そんなこと1人の人間として、別に私には被害ないから勝手にどうぞ、ってわけにはいかんのだよ」
悠木「否定はしないが、ずいぶんとストレートに言うな。好意を持てそうにないよ、あんたに」
瑠璃「クーデター軍出身のJP軍人達も、この方向に異を唱えた人達は窓際へと追いやられている現状です。現にあのシュナイダー艦隊は幽閉されてる同然の待遇だし、最高参謀だった推古という血塗れの女神の指令官も軟禁されてるに等しい状況です」
悠木「結局理想を掲げて世直ししたところで、どんな組織が上に立っても悪癖は出る。これじゃまたクーデターが起きるのも時間の問題だな」
榊「つい先日、正式にイギリス・ロシアから通達があった。これ以上世界の秩序を乱しかねないことを続ければ、我々も黙ってはいられない、とな」
悠木「それはそれは。他人の庭荒らすのが好きな人達で」
瑠璃「英国はともかく。ロシアはゴタゴタ続きを干渉のチャンスだと思ったんでしょうね」
悠木「結局どこも自分の都合さ。俺も、もちろんあんたらも。状況はわかった。俺に何を望む?」
來夢「改革派に手を貸してる裏稼業の連中。用は軍人以外の、覚醒者を含めて。できれば懐柔、無理なら止めて」
悠木「暗殺。ってことか?」
榊「いや、殺してくれとは言わぬ。止めて欲しい。正規軍は我々が根性でなんとかする」
悠木「熱いね、あんた」
榊「でなければ直属でこんなじゃじゃ馬共を手なずけんよ」
瑠璃「馬鹿共ですか」
來夢「馬鹿でしょ。思いっきり」
榊「気持ちいいくらいの馬鹿だよ。だからこそ、素晴らしい」
悠木「・・・ま、やれるだけはやってみるさ」
と、となりの瑠璃から一枚のディスクが手渡された。
瑠璃「私達が手に入れられただけの情報です、が。すべてが正確とは言い難いです」
悠木「わかった。これからもし何かあれば、裏浜ネットのマランビジーに伝言を入れて貰えればこっちから連絡する」
來夢「裏浜ネットね。わかったわ」
悠木「わかってるとは思うが、間違っても基地からネットに入ったりすんなよ。一発で潰される」
來夢「了解」
地下高速から地上へ。車は最寄りの駅で止まった。無言で降りた悠木。音を立てて去っていく車。しばらく立ちつくして考えた後、ゆっくりと駅の中へと消えていった。
來夢の運転する車の後ろ。2台がついてきていることを確認して車は一路横浜へ。
瑠璃「マランビジー。どこの国でどこの民族の言葉かは覚えてないですけど、確か『絶えない水道』てな感じの意味でしたよね」
來夢「裏浜ネット。完全に地下(アンダー)ネットです」
榊「違法ってことな。私とてそのくらいは知っている」
來夢「違法の中でも最上級ですよ。あそこで手に入らない物、わからないことはない、ってくらいの」
瑠璃「それこそ首相の年収から、來夢さんの元彼。国の国家予算に世界政府高官の隠し子の数までなんでもですよ」
來夢「真贋はともかく、ですけど」
榊「そんなものだろう。情報量が多いということはそれだけガセも多いということだからな」
クーデター成立後、手を貸すという形ではあったにしろ軍と関与のあったGSにはかなり厳しい当局からの監視と行動制限が加えられた。もちろん何度かは突破を試みた彼女達だが、その全てが失敗に終わっている。加えて彼女達に協力を持ちかけた血塗れの女神達の旧隊員は新しくできたJPの体勢の元、左遷・幽閉・軟禁という形でその全員が自由には動けぬ形に張り付けられている。これは偏に改革派がNC(ナショナルクレンジング)を遂行するために邪魔になる。つまりは新しい体勢に対して反抗的である者達を封じ込めるために行われた再編成とも言える。そのせいで現在彼女達の周りにいる軍人。いやもうすでにJPは敵となっている状態だ。
仮宿としてる雑居ビルの周りにはつねに監視が付き、さらには衛星でリアルタイムに見はられている。とりあえず現状はこんな感じで住んではいるが、今後どういう形に変化するかはわからないしこの感じなら命すら狙われかねない。
葵「衛星使われてちゃね。探知機付けられてるのと同じだわ」
唯笑「なんでここまでするかは謎だけど」
留奈「気づかない内に見ちゃいけないものでも見たかな?」
唯笑「それか覚醒者(わたし)に興味があるのかな?」
由紀子「それは自意識過剰でしょ?」
靖代「なんとか天野さん達と連絡取れればね」
葵「推古さんはどっかの基地に幽閉されてるらしいし。他の隊員もバラバラになっちゃったみたいだしねぇ」
唯笑「大人しく繋がれてるような人達だとは思わないけど・・・。それは私達も一緒でしょ?」
靖代が目に留まらぬほどの猛スピードで電子モバイルのキーボードをさっきからうるさい程に叩いている。そして、5人同時に頷いた。
唯笑「悠木達は賢いね。こうなるのがわかっているからこそ、裏浜の闇の中に居る」
靖代「・・・朝霞、流山、野田、推古さんは別口で座間」
葵「さすがに一カ所に堅めはしないか」
靖代「ただし100%確かって言える情報じゃないし」
留奈「戦力的にもね」
由紀子「この人数、奇襲しかないでしょ」
靖代「諜報活動とか他の援護があれば問題ないけど。救出作戦だよ?」
唯笑「さらに監視されてる状態だし」
葵「・・・撒いてから考えよっか」
各々、走り回ることを想定して邪魔にならない程度の荷物を持ってゆっくりと外に出た。
唯笑「さすがに尻尾を見せはしないか」
大通りに面した雑居ビル。仮宿から飛び出した5人。どこへ行くにもまとわりついてきていた視線、今回も感じる。
由紀子「完全にストーカーってやつ?キモイ、キモイ」
留奈と靖代はギターケースのような物の中にライフルと自動小銃を隠し持っている。総重量は一番軽量モデルであるが10sを超え、お年頃の少女達には少々苦になる荷物だ。
葵「んじゃ、目指せ江戸川ってことで!!」
車には知らないうちにどんな細工をされてるかわからない。近くの地下鉄の駅へと一斉に潜り込んだ。そのまま来た電車に乗り込み、いくつか電車を乗り継いで、ついたのは目的地。道中できるだけ監視カメラには映らないようにしたが、どうしても映り込んでいる箇所はある。それを逐一JPが掴んでいるかは微妙だが、警戒はするに越したことはない。
唯笑「ここまで来たってことでもううちらの目的は割れてると思っておいた方がいいね」
地下から地上へ。そのまま急ぎ足で江戸川を南下する。
月臣「河口より湾内へと退避?」
江戸川河口の海軍基地に着岸していたシュナイダー旗艦艦隊。そこに届いたJPからの命令は、ただそれだけだった。人員を大幅に削減された艦隊は、艦隊行動をとれるギリギリの人数しか配備されていない。艦載機もファントムの1個小隊だけとなっている。いわばファントムを閉じこめるためだけの牢獄。
龍聖「川上でなにかあった・・・かな?」
ファントム小隊長、御崎龍聖。JPきってのエースパイロットである。
月臣「田淵!!」
無線で艦隊の一角、情報収集艦のリーダーを呼び出す。
田淵「聞いてますって。どうも川沿いの道で軽いドンパチみたいですね。陸軍の部隊が動いてるみたいですよ。多分、そっちからも双眼鏡程度の肉眼で見える距離です。こっちに向かってるって感じですね」
月臣「本間!!」
さらに通信に小空母リッチカイルズの艦長を割り込ませる。
本間「海猫はいつでもいけますよ」
その言葉を聞きながら、月臣は望遠で映し出される川沿いの戦闘に目を凝らす。陸軍も数は展開させてはいないが、それなりの部隊を投入している。それに対しているのは本当に少人数。確認することはできないがおそらく。
月臣「田淵、確認取れしだい連絡しろよ」
田淵「もちろん。クルー達もいい加減海を見てるばかりの毎日には飽き飽きしてるとこですよ。ソナー、耳こらせよ。若い姉ちゃん達の声だったら久しく聞いてないから一発でわかるな!!」
ソナークルー「銃声の中声なんて聞き分けられるはずないでしょう!」
月臣「本間海猫飛ばせ!!」
本間「了解です」
海猫。シュナイダー艦隊の抱えるヘリコプター部隊である。
月臣「龍聖」
龍聖「わかってます」
そう言い残してブリッジを後にした。と同時に艦隊全体を警戒サイレンが包み込む。艦内アナウンスがスクランブル、ファントム隊は全機緊急発進を告げている。と同時に艦が動きだ始めた。それと時を同じくして、ブリッジに割り込んでくる通信。
基地指令「月臣指令!!どういったつもりだ!!」
ディスプレイにその姿が現れた、がすぐに切れる。強制的に通信を打ちきったのだ。心配そうな目でブリッジクルーがこちらを見ている。
月臣「安心しろ、少なくとも雛菊がある以上、奴等がこっちに攻撃してくることはない」
雛菊。この国に唯一存在する弾道ミサイルを発射可能な艦。まだ兵器としては未熟な点も多くあるが、回避不能なピンポイント攻撃という特性は、所持しているだけで大きな価値がある。
本間「艦隊司令!確認しました。回収させますよ?」
月臣「おう!」
マイクに向かって怒鳴るように言い放つ。それが月臣独特の激励の仕方だった。
包囲線で完全に南下は不可能。陸軍の1個中隊クラスが完全にGSの面々を包囲している。さすがに道路を通るわけにはいかず、致し方なく市街地へと逃れる。とは言っても、遮蔽物は銃弾を避けられても空中からの監視の目までは欺けない。
唯笑「甘かったかぁ」
葵「なんとか突破できないかな?」
弾を撃ち尽くした拳銃のマガジンを交換しながら葵が言った。2人は一般住宅のガレージの中にひとまず逃れている。他の3人とはバラけた、というかバラケさせられてしまい、どこにいるかわからない。家の持ち主には申し訳ないと思いつつ、鍵のかかったドアを打ち破って家屋の内部へと侵入。
子供「お姉ちゃんたち・・・誰?」
まだ歩き始めたかどうか。注意しないと聞き取れないような言葉の赤ん坊がこちらをじっと見ている。すぐさま母親らしき人物がその子を守るようにして抱き上げた。
唯笑「あ、お邪魔します。勝手に入ってすみませんね」
葵「壊しちゃったドアとかは多分JPから補償下りると思うんで・・・。通らせてもらいまーす」
銃を持ち家の中に突如現れた少女達。不思議そうな眼差しを向けながら、母親は何も言わなかった。2人はそのまま階段を2階へと上がり窓を少し開く。やはり完全に退路も進路もふさがれている。
唯笑「突入されたら終わりだね」
葵「でもさすがに一般住宅に爆発物だの銃弾だのは飛んでこない・・・か」
だからと言ってもいつまでもここに閉じこもっているわけにもいかない。本当にごく普通の住宅地、綺麗な碁盤状に整備され、ここいら一帯の出入り口の部分はJPに抑えられている状況。さらにその包囲網の中に自分達を捜している、しっかりと武装した兵隊さん達。
唯笑「まだここに入ったことは気づかれていないか。留奈達の方も上手く隠れてるみたいだし」
その証拠にさっき自分達がドンパチやって以来、銃声というものが全く聞こえてこない。
葵「でも時間の問題でしょ?」
唯笑「南側はやっぱり厚いし。強行突破は難しいかなぁ」
葵「でも他の地点を突破して南に行くって方が現実的じゃないよ」
唯笑「やれやれ。こんな細い糸渡りきれるかな?」
葵「今に始まったことじゃないって」
そう言うと、窓から屋根伝いに外へと飛び出す。すぐさま上を飛んでいたヘリに見つかる、が向けられた機関砲もミサイルも音を立てない。やはり市街地じゃ撃ってこないか。次々と住宅の屋根を伝い、道へと下りる。そのまま一直線に南えと走り出す、が1分もしない内に正面、左右の3方向から銃弾が飛来してきた。それを避けるようにしてまたしても他人の庭に上がり込む。
唯笑「左右5づつの前10人ってとこだったね」
走りながらしゃべった。そのまま住居を突っ切って、不意に右から来た部隊の背後へと飛び出す。2人の両手の拳銃が火を吹く。反撃する間もなく3人が即倒。が、仕留め損なった残り2人の持つ小銃が唯笑と葵の体をかすめる。2つの異なった銃声。飛来する弾を避けるように地面を転がった唯笑達の耳の、それが届くよりも先に、こちらに銃口を向けていた2人が倒れた。頭蓋骨が砕け脳漿が路上に飛び散っている。狙撃?靖代と留奈だろうか?確かめている暇はない。すぐさま起きあがると、そのまま5つの死体を飛び越えて走り出した。
人様の住居の壁を乗り越えて、またしても家屋内へ。速攻で方向転換。正面から来た連中の真ん前へと突如飛び出し、2人同時に手榴弾をばらまく。けたたましい爆発音と爆風、そして大量の白煙が辺りを包み込んだ。そこに迷わず突っ込んだ2人。すれ違い様に手榴弾で仕留め損ねた奴等へ拳銃が火を吹く。これだけ一斉に爆発させれば、来た連中はもちろん上からも一時的に姿を隠すことができる。煙から抜けて走り出した2人の後ろから、それでも仕留め損ねた数名と右から来た部隊が合流し一斉に射撃。しかしその勢いは次第に弱まる、遠距離からの射撃が確実に銃を握っている男達の数を減らしていった。
唯笑は左肩に1発、葵は脇腹をかすめた2発。ともに出血しているが、命に関わるほどの傷ではない。速度を落とすことなくそのまま走る。やがてJPによる検問、臨時詰め所が遠くに見えてきた。と同時に2人別々の方向へと散る。もう何回目になるか、不法侵入。残弾の少ないマガジンを捨てて新しいやつをぶち込みトリガーを引いた。車両の音がする。ヘリの音も。ここに入り込んだことは流石にばれているか・・・。
この地区一帯を包囲するにあたり、JPから住民へ厳戒令が敷かれた。が、退避命令はでない。住民を退避させれば、それに紛れ込まれると考えたのだろう。だからは大半の住民は家の中でただただ戦闘の音が通り過ぎるのを待っていた。
唯笑「手榴弾2に予備マガジンが5。苦しいなぁ」
と、一発の爆音が響き渡った。葵?いや手榴弾の類にしてはあまりにもでかすぎる。ミサイル?確認せずには居られずに、ブロック塀の隙間から道の方をのぞき見る。と、さっきまでそこに有ったJPの検問がミサイルの一撃で吹き飛んでいた。やったのは・・・。おそらくあの戦闘ヘリ。いつのまにかヘリコプターの部隊が空中を飛び回っている。
唯笑「海猫!?」
驚いて道の方へと戻った唯笑の上に、ヘリから降ろされた鋼鉄ワイヤーの梯子が垂れて来た。一瞬躊躇してから、その梯子を急いで昇っていく。同じ様な光景が4つ、葵の行った方とさほど遠くない住宅から見える。
海猫隊員「うぁお、どんな豪傑女かと思えば華奢で可愛い女の子じゃない」
唯笑「・・・どうも」
海猫隊員「艦隊司令が。月臣さんがお待ちですよ。ぐずぐずしてると下の連中から何されるかわかったもんじゃないんで、ちゃきちゃき行きましょ」
目的を果たしたヘリコプター部隊が、すでに東京湾の中程まで進んでいるシュナイダー艦隊の方へと帰投していく。
無機質な地下倉庫。九段下の地下都市、その中でもスラム街と化している地区の一角。そこにあるのは、水鳥沢銀河の姿。凛と別れた後、あてもなく色々な場所を放浪した。しかし得られたものはなく、そのまま流れるようにしてたどり着いたここで束の間の休息をとっていた。と、遠くの方から凄まじい量の銃声が聞こえてくる。日常的に起きる小競り合いや捕り物なんて感じではない。まるで戦争でもまた始まったかのような。気が付いた時には外へと飛び出していた。人工的な光が降り注ぐまた昼間。何人かの集団が我先にと地上への出入り口である方向へと走っていく。まるで何かから逃げるように。と、数カ所ある地上との接点の方角からも同時に銃声。もう四方八方からの銃声で、にわか最前線へとテレポートしたかのような錯覚に陥る。
銀河「なんだってんだ」
まだ体の傷は癒えきっていない。今面倒に巻き込まれるのは御免、しかし地上への脱出は難しそうな現状。とにかく情報が少ない。と、大通りの方で大きな爆発があった。原則的にJPだろうが警邏だろうが地下での爆薬の使用は全面的に禁止されている。どこの馬鹿だ?と思った瞬間。視界に飛び込んできたのは、JPの大部隊。輸送車と装甲車を中心として、続々と兵隊が車から下りてくる。それに向かって発砲する住民達。街のいたるところで市民とJPの戦闘が繰り広げられていたのだ。ついに始まった国民浄化。九段下のスラムとて例外ではない。
しかしその実状を知らぬスラムや暗黒街の住人達はたまったものではない。突然軍隊がやって来て攻撃してくるのだ。銀河もその中の1人。
銀河「驚いてる場合じゃねぇな。目的がなんだか知らないが、巻き添えは御免だ」
国が国民を無差別で殺すなんてことにまで考えは及ばない。が、理由はともあれ目の前に危機が迫っている以上それに対処するのが人間。多くのスラム街の住民は逃げるなり戦うなりの選択をした。しかしスラム街をぐるーっとJPが包囲し、その中にある地上との出入り口を封鎖され地下鉄を押さえられている以上、彼らに逃げ道はない。JPの兵隊に見つからないよう慎重に移動する中で、銀河はようやく自分が今非常にまずい状態であることを知った。
銀河「逃げ道なし、敵はJPの1個陸軍大隊。隠れるにも逃げるにも土地勘がないし。・・・まずいな」
東京の中でのスラム街としてはかなり大きな部類に入る九段下の地下。それだけ投入された兵の数も半端ではない。その証拠にJPに向かっていった住民やジャンクキッズ達はほぼ100%返り討ち状態。常識的に考えれば、軍隊相手に銃やなんかでちょろっと武装した人間が叶うはずもないのだが。
銀河「正面から行ったらこっちの射程外で撃ち殺されるな。かと行ってバラバラと個別に動いている部隊を1つずつ潰すような能力(スキル)もねぇし。包囲か出入り口を突破するしかないか」
これ一丁で。握りしめた拳銃。今まで色んなことを経験したつもりでいたが、ここ最近のできごとは半端ない。これが闇に足を踏み入れる、って奴なのかもしれない。
銀河「どっちにしろ考えてたって始まらない。俺は、まだ死ぬわけにはいかないんだから」
そう自分に言い聞かせるようにして、走り出した。見つけた人間を容赦なく撃ち殺しているJP。銃声が鳴りやむことはない。気でも狂った兵隊達なのだろうか?情報が無さ過ぎる。見つからぬよう慎重に少しづつ。徐々に出入り口から響いてくる銃声が近づいてきた。
大勢の人間が押し寄せた地上との接点。まさか地下都市がこんな密室になるとは。完全に固められたゲートをなんとか突破しようと突っ込んで行く人間が次々と死体へと変わっていく。すでにゲートの前は死体が山の様に折り重なっていた。それを僅かに離れたビルの影から見据える。自動小銃とサブマシンガンで武装している兵隊が20人ほど。ゲートの前方で向かってくる人達を撃ち続けているのが10名、後はゲートを守るようにして目を光らせている。銀河の拳銃には残弾が14発。20発入りのサブマガジンが3個。腰にサバイバルナイフが1つ、バタフライナイフが1本。この武器でプロ20人相手にちょっと銃火器かじったガキが挑むか。勝てたら漫画だな、こりゃ。
振り返り銃口を光らせる。背後には2人の男が立っていた、両手を上げている。とりあえずJPではないことに安心するも、緊張は解かない。
銀河「・・・何者だ?」
男「俺は島原和輝。こっちは連れの新橋良平。あそこの素人達見たく無策に突っ込んでも無駄死にするとは思わないか?」
良平「お互い、こんなんで死にたくないだろ?逃げ回りながら様子を見ている連中も沢山いるが、そのうち封殺される。生き残るにはなるべく早いタイミングで突破するしかないんだ」
銀河「手を組む、ってことか?」
2人同時に頷いた。確かにこんな状況、悪い話ではない。
銀河「俺は水鳥沢銀河。3人で行くのか?」
もう少し仲間を増やさないのか?という意味だ。
和輝「無駄に増やしてもああなるだけだ」
と、ゲートの方に目線を向けた。付け焼き刃の連携で突破できる程甘くはない。
良平「5人程度欲しいとこだが。しばらく観察してけど、この辺りで使えそうな人間を見つけたのはあんたが初めて。足を引っ張る奴入れて4人よりは3人の方がマシ」
銀河「あんたらの装備は?」
これだけ、と言うように和輝は背中に装着していた大口径マシンガンとポケットの中に入っていた手榴弾4つを掲げた。良平は背中に担いでいたリュックサックの中から拳銃1丁、投げナイフ6本、そして相当量の爆薬と工作アイテムを見せてくれた。
銀河「知識と技術は?」
和輝「2人とも、理由は言えないがまぁ素人よりは使える自身はある」
銀河「これも?」
爆薬の方を指さす。
良平「まぁ持ってる分は扱えると思ってくれ」
銀河「ならなんとか策も立ちそうだ」
たとえ当て馬にされようとも、1人で突破を図るよりは2人の盾としてでも3人でいった方がマシってもんだ。銀河は2人と一端別れると、ゲートから50m程離れた場所にある雑貨店の影に身を潜めた。それを確認してから、和輝がJPへの攻撃を開始。と同時に良平が爆薬をセットに走る。目標は3カ所、移動時間を計算すれば最低5分はかかる肯定。それを和輝1人で稼げるか、良平が上手いこと見つからずに設置を完了できるか。すでにゲートにある住民達はほとんど亡き者になっていたので和輝が盾にできるものも囮に使えるものもない。
前方より飛来する弾雨をビルの影や死体の山に隠れながら避けながら、必死に拳銃を発砲。相手に徐々に間合いを詰めてきているのが解る。それに狙いをつけ、銀河が引き金を引いた。一発目が敵兵のヘルメットをかすめた次の瞬間、首を貫いた鉛弾。そのまま倒れる敵兵、その瞬間銀河と和輝が同時に跳びだした。ナイフと拳銃を手に突っ込んでいく。弾丸が数発銀河の腕、足、腰、肩、体を貫く。飛び散る鮮血、大丈夫まだ動く。思いっきり振り抜いた左手のナイフが正面の軍人の喉仏を切り裂く。返り血で一瞬消える視界。その瞬間重い衝撃が頭を走り抜けた。倒れる体、銃で殴られた?咄嗟に右手の銃が音を立てる。殴った奴が崩れ落ちるのと同時に立ち上がり、視界を晴らす。若干周りが赤黒く見える、動いている敵はいない。そう感じた時、和輝が突っ込んで来て強引に体を屈めされられた。思い切り尻餅をつき恨めしそうな目を和輝に向けるが、彼はそれどころではなさそうだ。
和輝「なに安心してんだ、敵はまだ半分いんだぞ」
そう、まだゲートの前方を守っていた敵を排除したに過ぎない。そしてあと数分もすれば、途切れの無い増援が送り込まれてくるだろう。ほとんどの敵を1人でやった和輝の体は自分以上に返り血で真っ黒だった。マガジンを交換しながら、辺りを注意深く、用心して見回す。JPの死体、忙しなく動いているだろう軍人達の足音、しかしその姿は見えない。ゲートの方から向かっているのか?と、大きな爆発音。その直後に爆風と熱風、そしてはじき飛ばされた瓦礫が一斉に飛んできた。
和輝「避けてる場合じゃねぇ、いくぞ」
立ち上った砂埃の中、2人は走っていく。数発の銃声が聞こえてきた、良平か?
和輝「この視界じゃ撃つだけ無駄、逆に良平に当たっちまう方がやばい。視界晴れるまで走ることだけ考えろ!!」
地下都市からゲートを抜け、何周かするゆるい螺旋状の上り坂。本来は車が地下都市に入るために使われる道路、だが人間用のエレベーターは恐らく封鎖されているはず。こっちしかないか?
良平「こっちだ、ロックは解除してある」
道路の途中。関係者以外立入禁止のドアが開いていた。良平が手招きしている、後ろからの追っ手はまだ来ない。2人はその中に滑り込むとドアを閉めて鍵をかけた。
銀河「はぁ・・・はぁ・・・。・・・ここは?」
良平「ゲートとか、空調・人口太陽の調整機械のあるとこ。ここのエレベーターはさすがに生きてる、JPとは言えここには手を出せないみたいだな」
和輝「・・・地下都市の生命線だからな」
銀河「その分ロックも硬いんじゃないのか?」
良平「・・・まぁね」
なぜ良平がこんな極限られた人間しか入れないような重要地区に入るドアを開けられたのだろうか。爆破して開けた形跡はなかったから、おそらくパスコードを打ち込んで開けたはず。何者?こいつら。
ゆっくりと上へと上がっていくエレベーター。3人ドアの両脇に構える。さすがにエレベーターに乗ってる間に何かしてくることはなくとも、出た時外がどういう状況かはわからない。もしかしたらJPが居るかもしれない。
しかしそれは杞憂に終わった。エレベーターのドアが開き太陽の光が3人を包んだ時目の前に広がった光景は、下での出来事など嘘だったかと思うようなごく普通な日常の街の風景。それだけだった。
銀河「さて・・・。とりあえず着替えないとな」
和輝「ああ、世話んなったな」
銀河「そりゃこっちのセリフ」
良平「まぁまた会うことでもあれば、な」
軽く手を叩いて、2人と別れた。結局なんだったんだろうな?あの2人。とりあえず血塗れのTシャツはその辺りに脱ぎ捨てて置いた。着替えを買いに街へと足を向けた時、地下都市の方から数台の軍用車が飛び出してくるのが確認できた。
銀河「こりゃちゃっちゃと着替えてバックれた方がよさそうだな」
念のため少し離れた場所にある駅まで、銀河は走り出した。