Chapter58 Forever my memories of.../ギリシアとの別離


 
最後の朝。早めに朝食を済ませると、買い残したお土産と、町の風景を写真に収めるためにホテルを出る。
昨日リディアたちに会いに行った連中は帰ってきたのが朝4時頃。なんとエレンとカテリーナまで来ていたらしい!
しまった、のんきにビートルズなんか聞いている場合じゃなかった!
まだアテネにいると知っていれば、疲れてても会いに行ったのに…後悔しても後の祭。
日本に帰ってから手紙でやり取りすることにしよう(結局一回も出さなかったけど)。
でも本当はあって話をしたかったな。


 空港での手続きは無事に終わり、午後2時半、予定より30分ほど遅れて飛行機はアテネ空港を飛び立った。
雲一つない澄んだ青空の中を颯爽と駆けて行く飛行機の中で、
ジオラマのように小さくなったアテネの街を眺めながら思った。


 この2ヶ月。本当に数多くのことを、私はここで、この国で経験した。
私がここに来て、実際に見て聞いて、触って、考え、悩んだことのせめて10分の1でも、
この日記に書き記すことはできただろうか。果たしてそうではないだろう。
それよりも、本当に大切なものというものは、概して言葉として残せないものなのかもしれない。

 言葉はある物事を大きくしたり小さくしたり、あるいはまったく違うものにゆがめてしまうこともある。
本当に大切なものは、私の心の奥深くにしまっておくのが一番だ。
そうだ、私の心の中にはいつだってここでの想い出がつまっている。
この日記は、私が心の中にしまった大切な記憶の数々を呼び起こすための
カギなのだ。
人は、何かを後世に伝えるために記録を残すことがすべてではない。
決して忘れたくない大切な思い出に自分自身が浸るために、自分の事を記録として残すのだと。
ここに記されたすべての文章が、他の人にとっては非常につまらない文章でしかなかったとしても、
私にとってはかけがえのない体験の一部なのだ。
「言葉」で物事を残す、という作業がその力を示すことができる実践の場。
言葉だけではそれ以上でも、それ以下でもないのだ。


 とはいえ、私は確かにここで何かを学んだ。言葉にできない、そして数多くの『何か』を。
それが何であるかは、今の私には知るすべはない。誰に聞かれようと、私は自信を持って答えたい。
わからない、と。


 もしかすると、はっきり「これだ」と口に出して言えることは表面的なものであり、
本当のものではないのかもしれないと気づいたのだ。
そんなものよりも、自分の心の奥深くにくい込み、自分では気づかないうちに内部から自分に対して影響を与えつづけているもの、それこそが一番大切なものなのだと。


 飛行機がトルコの山々を遥か下に通り過ぎようとする頃、日もとうとう暮れ始めた。
飛行機から見る最後の夕陽は、島で見た夕陽と同じようにオレンジ色に輝いて美しかった…


©Mega Production, 2000


[PR]衝撃!あなたの本当の裏の顔!:実は貴方はΟΔ県出身?ここで分かる真実