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返報性
他人から何か恩恵を施されたら、何かお返しをしなければならない気持ちになることです。実験で
は、「自分が望まない、相手が勝手に押しつけた贈り物(親切)」であっても、この気持ちが発生す
ることがわかっています。
社会心理学の実験として有名なものに次のようなものがあります。心理学実験のボランティアとし
て二人の学生が応募してきました。うち一人はいわゆるサクラで、もう一人が本当の被験者です。
アンケートに答える実験をした後、休憩時間に入ります。すると、あらかじめランダムに決められた
ケースでサクラの被験者がコーラを2本買ってきて、真の被験者に渡します。残りのケースではサク
ラは自分の分だけのコーラを買います。もちろん、真の被験者はサクラの被験者にコーラを買ってき
て欲しいと頼んだわけではありません。さて、後半の実験(?)が終わった後、サクラの被験者は真
の被験者に対して「パーティのチケットが余って困っている。買ってくれないか」と申し出ます。す
ると、コーラを押しつけられなかった真の被験者のほとんどが申し出を断ったのに対して、コーラを
受け取った真の被験者は高い確率でコーラの代金の何倍もするパーティのチケットを買ってしまった
のです。望まない「プレゼント」であっても、返報性の強力な圧力がかかることは、このような実験
で確かめられているのです。
また、贈り物をもらった(親切にしてもらった)結果、相手に対して好意を抱くようになったから、
この気持ちが発生するのではないこともこの実験中に行われたダミー(?)のアンケートの結果から
分かっています。たとえ、相手を嫌悪していても、相手に対して何かのお返しをしないとバランスが
とれないような気がしてしまうのです。
このように、相手を操作しようと考えている側は、相手がどう思おうといったん恩恵を施してしま
えば、何らかの譲歩や承諾を、かなり確実に引き出すことが出来ると言えるでしょう。
アメリカの空港ではある有名な宗教カルトが、この方法を用いて効率的に寄付を集めることに成功
しました。最初は募金箱を持って立っているだけだったので、ほとんどの人がこの怪しげな集団に寄
付をすることはありませんでした。しかし、ある時から、彼らは空港に降り立つ人に片っ端から花束
を押しつけ、「これは、○○においでになった方への、私たちからの愛の贈り物です。募金とは関係
ありません」と言って回るようになりました。すると、多くの人が「押しつけられた花束の返報」
として募金に応じるようになったのです。押しつけられた人のほとんどは、花束を必要としませんで
した。なぜなら、ほとんど全員が廊下のすぐ先に置かれたそのカルトが用意したゴミかごに花束を捨
てていたからです。カルトのメンバーは、その花束を回収し、ほとんど元手をかけずに次の旅行客の
一団から、また募金をせしめることが出来たのです。
今回のようなケースに当てはめると、無料相談に応じた後、無料相談というものは専門家の本来は
有料の時間を分け与える「一種の贈り物」であることを匂わせれば、「返報性」のため、その後の有
料治療に応じる確率は高くなるでしょう。たとえ、無料相談が効果がなかったように感じられても、
あるいはたとえ不快に感じられても、「返報性」の圧力がかかってきます。ましてや、その専門家の
時間あたりのコンサルト料が高ければ、「返報」しなければならないものが大きいのですから、やり
方によってはさらに効率的に高額の治療費の支払いに同意してもらえます。
このような心理状態に置かれると、「そんなに、お金がかかるんだったらイヤです」とは、なかな
か言い出せなくなりますが、その気持ちがどこから来るのか、本人からはわかりにくいことでしょう。
空港でカルトに寄付をした人たちのように。