第一章 中学一年

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(2)遠足 

 ゴールデンウィーク直前の良く晴れた日。笹川中学の遠足の日。今回、一年生の行き先は崎浜市からバスで一時間ちょっとの所にある高原。その一角に在る美術館を見学して綺麗な芝生の広場にて昼食と自由行動。その後ふもとまでのハイキングコースを歩いて下り、待機していたバスに乗って帰路につくという、至極ノーマルで無難なスケジュールとなっていた。

 当の生徒たちにとっては美術作品に興味のある一部の者以外、退屈な見学タイムさえ我慢すればあとは好きに遊べるということで、あちこち歩き回されて疲れ果てるよりも、何も無くてもノンビリ出来る場所のほうがかえって好評の様子であった。

 美術館見学を終え、歩いて10分程度の広場に移動。そこで解散となった生徒たちは適当に散らばり、シートを地面に敷き詰めて弁当を広げ始めた。明美たちもその中にあって、自分たちの座る場所を捜し歩いていた。

「このあたりでいいかな? どう、明美?」

「うん、美智代。ここでいいと思うよ。」

「じゃあ、敷物を出して、っと。ねえ、あたしのシートってちょっと小さいんだけど、真紀って確か大きいの持って来てくれたんだよねぇ?」

「うん、結構大きいよ。たぶん、五人くらいならじゅうぶん一枚で座ること出来るんじゃあないかな?」

 そう言うと、真紀はデイパックから青いレジャーシートを取り出し、芝生の上に広げた。

「あぁ。これなら十分だよ。もうあと2〜3人くらい増えても大丈夫だね。」

 美智代はそう言って、一度出しかけた自分の敷物を再びカバンの中に仕舞い込んだ。

「じゃあ、真紀のシート、お邪魔するね。」

「どうぞどうぞ。皆さん、お上がりになって下さいな。」

 明美が真紀に一言言ってから靴を脱いでシートの上に上がると、続いて美智代も靴を脱ぎ、シートの上に座り込んだ。

 

「ねえ、あとの二人は? どうしたの?」

「ホント、遅いなぁ。もう全クラス解散しているはずなんだけど、どこに行って……。あっ、いたいたっ! 留美子ぉー! こっちこっちぃーっ!」

 明美は留美子の姿を遠くに発見すると手を振って大きな声で呼び寄せた。

 あとの二人というのは留美子と、留美子と同じく2組の女子で西塚綾子。美智代たちと同じ小学校出身で友達同士だった綾子は、その美智代と新たに友達になった明美のそのまた友達である留美子と仲良くなり、クラス単位の活動など以外では、この5人で一緒に時間を過ごすことが多くなっていた。この日も昼食は一緒に取ろうと約束していたのである。

「もう、明美ったら。自分ところのクラスが先に解散したからって、あたしたち放っておいて先に来ちゃうことないのにぃ。」

「ほんとだよぉ。ここってけっこう広い広場だから、さっきからかなり探したんだよぉ。」

 留美子と綾子は異口同音にそう不平を述べた。

 ちなみに明美も留美子も、美智代たちとの呼び名の影響もあってか、互いを呼び合う際に「〜ちゃん」付けで呼んでいたのを改め、最近では普通に名前だけで呼び合うようになっていた。

「あっ、そうなんだぁ。ごめんごめん。そんなに判りにくい場所じゃあないだろうと思って先に来ちゃったから。」

「わたしも場所取りのことしか頭になかったから。ごめんね。でもさ、そのおかげでほら。かなり良い場所確保できたでしょ?」

 明美と美智代が二人に詫びながら言い訳していた。

「うん。まあ先に場所取りしておいてくれたってことで許すことにしますか。で、この広いシートの中にあたしたちも入っちゃっていいのかな?」

「うん、いいよ。入って入って。お父さんがいつもキャンプとか何かで使っているデッカイのを借りてきたから。ちょうど良かったね。」

「あっ、これって真紀のなんだぁ。真紀は体が大きいだけじゃあなくって、用意するものまでおっきいんだね。」

 綾子が靴を脱いで座りながらそう言った。

「体大きい、ってのは余計だよ。まあ、当たっているけどね。でも、大は小を兼ねるって諺にもあるし、いいでしょ?」

「うん。いいよいいよ。おかげでゆったり座れるから。さっ、お腹空いたし。みんな弁当タイムにしよ。」

 明美の一言で皆それぞれ弁当をバッグから取り出し、暖かい春の日差しの下でのランチタイムが優雅に始まった。

 

 女の子らしいかわいくレイアウトされた弁当を広げてのランチタイム。時折、おかずの交換をしたりして、楽しげに時が過ぎていった。

「ねえ。留美子から聞いたんだけどさあ。明美のお父さんって、開英学園高校の先生なんだって?」

 ソーセージをパクつきながら綾子が明美に向かって問い掛けた。

「うん、そうだよ。社会科の先生やってる。」

「えぇーっ!? 明美のお父さんって学校の先生だったの? 知らなかったぁ。」

 真紀が少し驚いた様子で反応した。美智代も言葉にはしなかったが同じく驚いた様子である。

「あっ、そうか。真紀たちにはまだ言ってなかったもんね。そうなんだ。うちって先生家庭でね。パパだけじゃあなくってママも先生やってるんだ。」

「うそぉーっ! マジでぇーっ!? それって、どう言うんだろ。結構大変なんじゃあないの?」

 真紀が続けて驚きの表情で反応した。

「何? 大変って?」

「だってさあ。学校だけじゃなくって家に帰っても先生と一緒にいるなんて。なんか想像つかないなあ。」

「確かに想像つかないだろうねえ。でも別に大変でもなんでもないよ。あたしが学校で教わっているわけじゃあないし。家に帰れば普通のパパとママだし。他と変わらないと思うけど。」

「いや、パパとママって呼ぶあたり。うちとは違う気がするなぁ。」

「ええ? 変かなあ。美智代はなんて呼んでいるの?」

「父上、母上、だよね?」

「何言うのよ、時代劇じゃあないんだから。普通にお父さんとお母さんだよ。」

 真紀が冗談を言って美智代をからかい、美智代は慌てて反論する。他のメンバーは声をあげて笑っていた。

「でもさあ。やっぱりあれかなぁ。親が先生やっていたりするんだったら、勉強で分からない所があると、家で教えてくれたりとかするんじゃあないの?」

 美智代がさらに明美に問い尋ねる。

「ううん。それがね、全然そういうことないの。うちのパパ、その点は結構厳しいって言うか、きっちり線引きをするっていうか。自分で出来る範囲でやりなさいっていつも言ってるの。だから塾とか家庭教師なんていうのも絶対行かせないし、寄越さないって。」

「お母さんは? どこの学校なの? 何教えているの?」

 この話題の言いだしっぺである綾子も興味津々といったふうで、質問を続ける。

「ママは中学の先生。今、西崎中に行っている。科目は家庭科だからお昼ご飯の作り方を何種類か教わったくらいで、学校の授業については特に教わることなんていうのは今までなかったかな? もしかしたらこれからいろいろ出てくるかも。あっ。ママはね。実は去年まではうちの中学に来ていたんだよ。」

「へぇーっ、ほんとに?」

「うん。本当ならもう少しここに居る予定だったらしいんだけれど、あたしが今年から生徒になるっていうんで、ママのほうから転勤願いを出して学校を変えてもらったんだって。」

「そうなんだぁ。じゃあ、もしかしたらあたしたちは、ていうか、明美はお母さんがそのまま笹川に居れば、親子で授業があったかもしれないんだね。」

「あれっ? でも、それって確か駄目なことだったと思うよ。同じ学校に親子で居るのって禁止されているとかって、誰かが言ってたような気がする。」

 真紀の言葉に留美子が反論した。その言葉に美智代が言葉を繋げる。

「同じ学校で居るのは別に構わないんじゃあないのかなぁ。ただ、授業は一緒にはならないと思うけど。」

「うん。確かママはそんなこと言っていた。授業は受け持ちにならないように配慮するけれども、親子が一緒の学校に居るのは別に法律で禁止されているわけでもないし、そういう人って結構多いんだって。でも、家庭科でしょ。一応うちの学校って家庭科の先生は二人だけだから、カリキュラムの組み方が大変になって面倒なんだって。そういう面倒なのが嫌だから転勤させてもらったって、そう言ってた。」

 と、明美が話の内容をとりあえずまとめて整理した。

「そうかぁ。先生って言うのも、いろいろ大変なんだねぇ。」

 

「なあに? 先生が大変って。」

 真紀が明美の話を聞いて感想を口にすると、どこかで聞き耳を立てていたのだろうか。担任の佐和子が突然背後に現れて、明美たちのグループに話し掛けてきた。

「あっ、先生!」

 全員振り向いて佐和子の方に視線を投げかける。

「教師が大変って、もしかして私のことを気遣ってくれているのかなあ? だとしたら先生、もう涙が出るくらい感激しちゃう!」

「アハハッ。残念でしたぁ。山本先生の話ではありまっせーん。」

「えーっ! 私の話じゃあないのぉ? うーん、残念。じゃあ何の話していたの? 先生の話なんて、ちょっと気になるなあ。」

 佐和子は興味津々といったふうで、笑顔を作って5人の傍に膝をたたんでしゃがみ込み、生徒たちの顔をうかがった。

「先生ね。日裏さんのお父さんとお母さんが学校の先生しているっていうの、知ってました?」

 真紀が佐和子にそう尋ねた。

「もちろんよ。だって、生徒たちの家族構成とかいろいろな話は担任としてきちんと把握するようになっているから。それに、お母さんのほうは去年までうちに居たんだし。私の同僚だったんだから。」

「あっ、そうか。そうですよね。だったら先生は明美のお母さんのことよく知っているんだあ。」

 美智代が、そういえば、といったふうで佐和子の言葉に相槌を打った。

「うん。知っているもなにも。私なんかお世話になりっぱなしだったなあ。去年の私は新任でこの学校に初めて来て。緊張の連続でドジばっかりしていたのね。で、そんな私を日裏先生がいろいろと相談に乗ってくれたりして、励ましてくれて。すごく嬉しかったもんなあ。」

 みな黙って佐和子の話に聞き入っている。明美は自分の母親の話が担任の口から飛び出してくるのを受けて、照れくささを感じていた。

「三月になって転勤するって聞いたときはちょっとショックだった。なにせ一番この学校で頼りにしていた先生だったし。他の若い先生たちからもすごく尊敬されている人だったから、みんな名残惜しそうでね。で、4月からは自分の力でもっと頑張らなくっちゃって思っていたら、運命の巡り合わせというかなんというか、その日裏先生の娘をこの私が受け持つことになっちゃって。人生って不思議な縁があるもんなんだなあって思ったわ。」

 佐和子はそう言うと、明美のほうを向いてニコッと微笑み、明美もまたそれに笑顔で応えた。

「日裏さん、お母さんは元気にしている?」

「はい。おかげさまで、元気です。っていうか、先生。それ、ついこの間もあたしに聞いてきたじゃないですかぁ。」

「あぁ、そうだった。ごめんごめん。日裏さんの顔を見ているとついお母さんのこと思い出しちゃって。入学式の次の日にそんな話して以来、何度おんなじこと尋ねたかしらね。」

「ほんとですよぉ。あっ、でも、それって山本先生だけじゃあないですよ。ほかの先生たちも一緒。あたしがマ……母の子供だって分かった途端、『お母さんは元気か?』って、みんな聞いてくるんですよ。初めはなんとも思わなかったけど、最近はちょっとウンザリ気味かも。」

「まあまあ。そう言わないで。それだけお母さんがこの学校の先生たちにとっては人気者だったってことよ。自慢していいお母さんだと思うわ。」

「そうですかぁ? あっ、でもいつか母が言ってましたよ。担任が山本先生だって言ったら、『家庭訪問でお喋りするのが楽しみだ』って。ゴールデンウィークが明けたらすぐ家庭訪問ですよね?」

「それは私も楽しみだなあ。でも、ある意味ちょっと緊張しちゃうかも。……いづれにしても、お母さんにはよろしく言っておいてね。頑張ってやってます、って。」

「はい、わかりましたぁ。」

 笑顔でそう答える明美。友達には普段の呼び方通り『ママ』と言って話が出来る明美だったが、さすがに教師相手になるときちんと『母』と言い直すあたりは、家庭での躾の良さが表れているようである。

「じゃあみんな、お邪魔さまでした。ゆっくりお弁当タイムを楽しんで頂戴。まだ時間あるからのんびりしていてね。」

「はぁーい。」

 佐和子は最後にそう言うとスッと立ち上がり、広場の隅のほうにある小屋のほうに歩いて行った。

 

 佐和子が去って十数分が過ぎると、5人はすでに食事を終え、今度はお茶とお菓子を口にしながらのお喋りタイムとなっていた。終始にこやかな表情で普段の学校での出来事などについて語りあう5人。ときおり真剣な表情になったかと思うと次の瞬間には大きな声を上げて笑い転げたり。屈託のない中学一年生の少女たちの風景である。

 そんな中、綾子が自分の体の背後に置いていたカバンから何かを取り出そうとして上半身を後ろに向けたのだが、その際隣に座っていた明美の背中のあたりが目に付き、ややトーンを落とした声で明美に話し掛けた。

「ねえ、明美。……明美。」

「なあに?」

「そのぉ……、後ろ、見えちゃってるよ。」

「えっ? うしろ?」

 明美は食事が終わって以降はずっと体育座りの格好で居たのだが、綾子の言葉を受けて、その態勢を崩すことなく首だけを後ろに向けた。

「何? 後ろって。」

「それじゃあ、見えないでしょ? ほら、ここ。」

 綾子は明美のほうに向きやりながらそう言うと、背中の腰のあたりに手を伸ばし、上着とズボンの間から覗いた明美の背中の肌を指先でツンツンと突ついてみせた。

「きゃっ!」

 綾子に不意を突かれ、思わず小さく悲鳴のような声を上げる明美。

「後ろ、背中が見えちゃってるよ。それに……、パンツもちょっと。」

 慌てて背中に両手を回した明美は確かにズボンのウエスト部分からパンティーの一部が露出してしまっていることを認識した。体育座りの姿勢を崩して慌てて膝立ちになり、体操服の下に着ていた夏用の体操服の裾をズボンの中に押し込み、そのズボンをウエストの辺りまで思いっきり引き上げる明美。そして再び腰を下ろしたが、今度は体育座りではなく足を横に投げ出してお尻を下に付ける、いわゆる女座りの姿勢をとった。

「あっ、綾子、ありがとう。」

「なに? 明美、パンツ見えてたの?」

「……うん。そうみたい。」

 美智代が明美に問い掛けると、明美は恥ずかしそうに少し頬を赤くしながら短い言葉で答えた。

「明美の後ろを通って行った男の子達。もしかしたら明美の白いパンツ、気付いたかもね。」

「えっ!? ほんとにぃ? もう、やだぁ。」

 綾子が少しからかい口調で言うと、明美はいっそう恥ずかしさを増していった。

「明美さあ。ブルマー履いてきていないの?」

 留美子が尋ねる。

「うん、今日は履いてこなかった。みんなは履いているの?」

 明美は逆に、全員に質問を投げかけた。5人のうち、この日ブルマーを履いてきたのは美智代と綾子と留美子の3人。真紀は明美同様に着用していなかった。もちろん、それでも上着の下には夏用の白い体操服は全員着用している。

「明美も普段の体育のときなんか下に履いているんでしょ?」

「うん。でも、毎回って訳でもないかなあ。あんまり窮屈なのって好きじゃあないから。お腹のところがゴムで縛られている感じがするし。」

「真紀はどうなの?」

 留美子が、今度は真紀に尋ねた。

「あたしは普段の体育でも履かないなあ。あっ、もちろんこれから夏になれば履かなくっちゃいけないからそうするけど。あたしも明美と一緒で、腰のあたりが窮屈なのって好きじゃあないし。」

「でもさあ。水着なんてもっと窮屈なもんじゃあないの?」

 美智代が横から割って入った。

「水着ってペラペラな布だし、腰だけが窮屈ってものでもないでしょ。それにほとんど毎日着ているから慣れちゃっているし。」

「明美もさあ。少し窮屈で嫌かもしれないけど、出来ればブルマー履いておいたほうがいいと思うよ。普通にしていれば大丈夫だけど、さっきみたいに何かの拍子にパンツが見えちゃうことだってあるし。あたしなんて体操服じゃなくってもいつも履いているもん。」

 美智代のその言葉に反応する明美。

「えっ? 美智代、ってことはセーラー服のときなんかも下に履いているの?」

「うん、そうだよ。だって、ズボンのときよりもスカートのほうが見えちゃう確率が高いでしょ。」

「そりゃ、そうだけど。でも普段からずっと履いているのって、それこそ窮屈なんじゃあ……。」

「それに、ブルマーの中ってけっこう蒸れちゃったりするしね。」

 明美に続けて留美子が笑いながらそう言った。

「うん、確かにそれはあるけどね。でも小学校のときからずっとそうしてきたから、今はもう何とも思わなくなったかな。」

「まあ、あたしも小学校でスカートのときなんかは下にブルマー履いていたこともあったし、気持ちは分かるけどね。」

「そう言えばさあ。あたしたちの小学校ってスカートめくりが一時期流行ったことがあって男の子にしょっちゅう捲られたりしたんだけど。大迫小はどうだった?」

 綾子が明美と留美子に尋ねた。

「あっ、あったあった。5年生のときが一番ひどかったかな。あんまりしょっちゅうするから女の子が一人泣いちゃってね。それで先生が男子生徒全員集めてすごく叱っていた。それっきりなくなったよね。」

 綾子はそう説明して明美に同意を求めると、明美は黙ったままコクリと頷いた。

「中学校では、どうなんだろうね。」

「最近、あんまりスカート捲りって流行らないみたいだけど。」

「でも、気を付けるに越したことはないし、あたしはしばらくブルマー履くのは続けるつもり。」

 美智代はそう言って少し笑顔になった。ほかの4人もニコリとして笑顔を返した。

 

「それはそうとさあ。じつはあたし、男子の前でブルマーになるのって、ものすごく恥ずかしいんだぁ。みんなはどう?」

 先ほどの会話から一瞬間をあけたのち、明美が4人に対して新たな質問を投げかけてきた。

「なんかね。ブルマーで居ると男の子がチラチラってこっちを見るの。何だかよく分からないんだけど、すごく嫌な感じがして恥ずかしくって。」

「ああっ。それ、あたしもそう思った。あれでしょ、身体検査のとき。あれって体重測る時は冬服を脱がなくっちゃいけなくって、半袖とブルマーになって測ったもんね。」

「そうそう。隣で男子が列作って待っているところで上着脱ぐのって結構恥ずかしかったよね。」

「さすがに『パンツ一枚になれ』なんて言われなかったから良かったけど。それでもあれは恥ずかしいよね。」

「でもさあ。半袖服とブルマー履いたままなのにきちんと計測できたのかなあって、後になって思ったんだけど。」

「服の重量を差し引いた数字がちゃんと出るように合わせ直しているみたいだよ。」

「ふぅーん、そうなんだぁ。でもそんな修整が出来るくらいなら、べつに夏服にならなくって冬服のままで測っても一緒なんじゃあないの?」

 明美が漠然とした疑問を感じてそんなことを言った。

「うーん。………確かに、そう言われてみれば。……なんか、詳しいことはよく分からないや。」

「あたしも。とにかく、ブルマーは恥ずかしいから履きたくないよね。夏になれば体育は全部夏服だから、そういう訳にもいかないけど。」

 最後の美智代の言葉に一様に黙って頷く4人。

 

「恥ずかしいといえば、真紀なんかは平気なの?」

「えっ? 何が?」

 留美子が真紀に尋ねた。

「真紀なんてさ。ブルマーどころかスイミングに行って毎日水着着ているでしょ。スイミングとかって男子も一緒だし、恥ずかしくなったりしないの?」

「うーん、どうかなあ。今は別になんとも……。ほんの少し前はね、結構恥ずかしい時期があったんだけどね。」

「へぇーっ。どんな時期?」

「えっとね。そのぉ……。あたしさ、体がおっきいでしょ。だから胸が大きくなるのも早くってね。で、水着だと普段の服と違って胸とかって大きさがすぐに分かっちゃうから。そうすると他の同い年の女の子なんてまだ胸なんて全然ないのにさ。あたしだけが目立って男子の注目を集めちゃって。それが嫌だったかな。今はもう、すっかり慣れちゃったけど。」

 そう言って、少し照れ笑いする真紀。そんな話を聞きながら明美はさりげなく真紀の体を眺め、これまで体育の授業時などの着替え風景で見てきた真紀の肢体を思い起こしていた。

真紀ってホント、すごくいい体しているもんなあ。ただおっきいって言うだけじゃあないし。筋肉だって凄いし。

 明美が心の中でそう呟く通り、真紀の肉体はまさにスポーツ選手と呼ぶに相応しい体つきであった。真紀自身が言う通り胸の発育も良いようで、スポーツブラで覆われた乳房は一組と二組の女子40名をあわせた中では一番の大きさだった。もちろん中学一年の4月レベルでは多くの女子生徒がブラジャーではなくハーフトップ型の肌着を着用している位だから、比べるのにもいささか無理があるわけで、また実際にはトップクラスの選手に比べればまだまだ発展途上の肉体なのであろう。が、普通の女子中学生である明美の目に、真紀の体がオリンピックの競泳選手のような肉体に見えても何ら不思議ではなかったのだった。

 

「そういう留美子はどうだったの?」

 今度は逆に真紀が留美子に尋ね返した。

「留美子だって同じスイミングに通っていたわけだし。やっぱり男子と一緒って恥ずかしかったりした?」

 一同の視線が今度は真紀から留美子へと移動した。

「あっ、あたし? うん、まあ……ね。まあ、あたしは真紀みたいに胸がおっきい訳じゃあないし、他のことで恥ずかしかったんだけど。」

「他のことって?」

 美智代も先が聞きたそうな表情で留美子に尋ねた。

「やぁーん。なんかみんなの前で言うの、恥ずかしいよぉ。内緒内緒。」

 照れ笑いしながらどうにかしてその告白をしないで済まそうとする留美子。

「だめだよぉ。あたしもちゃんと言ったんだから。留美子も正直に言ってよ。」

 真紀がいたずらっぽい目つきで留美子に告白するよう再度促した。

「えぇーっ。うーん。……どうしても言うの?」

「言っちゃいなって。ここだけの内緒話だから。」

「うーん。……じゃあ、……言うね。恥ずかしいから絶対内緒にしてね。」

 留美子が決心を決めてそう言うと、ほかの4人はグッと身を留美子のほうに近づけ、その言葉に注目した。

「あの、ね。あたしが恥ずかしかったのは、そのぉ………。胸のほうじゃなくって、そのぉ……股のほう。」

 恥ずかしそうに頬を少し赤らめながら話し始める留美子。

「うん、それで?」

「なんかね。プールサイドとかで水着で立っているとね。男の子とかがみんな股のほうばっかり見るの。なんでそんなふうに見るのかなんて、あたしも一応理由は分かっていたからすごく恥ずかしいと思ったの。男の子ってさ、女の子のあの辺りって興味持って見ているじゃない。」

「そうだよねぇ。男の子ってさあ。なんかエッチな話ばっかりしているし、女の子見る目がイヤラシイ子って大勢いるよね。」

「大勢っていうよりも、全員って言ったほうがいいくらいなんじゃあない?」

 明美と美智代が留美子の話に相槌を打つかのように、それぞれそのようなことを口にした。

「でね。そんなふうに見られて恥ずかしかったのもそのうち慣れてきて、小学校卒業しても中学クラスで続けようかどうしようか迷っていた頃にね。決定的なことがあったんだ。」

「なに? 決定的なことって?」

 いっそう留美子の言葉に注目が集まる。

「2月終わり頃のスクールの日に、横に並んでいた男の子があたしの股のほうをじっと見ていたの。普通の子ってあたしがそれに気づくとすぐに視線を逸らしたりするのにその子はそれでもずっと見続けていて。さすがに見られるのには慣れていたあたしもまた恥ずかしくなって。思い切って『ちょっとぉ、どこ見ているのよぉ。スケベ。』って言ったの。」

「うんうん。……そしたら?」

「そしたら、ね。その子………『毛がはみ出ているぞ。』って、……ひとこと。」

 そう言うと、いっそう顔を赤らめた留美子。ほかの4人も話の内容をすぐに理解し、少し頬を赤くした。

「留美子。もしかして、それって……。」

「うん、そう。あそこの、毛がね……。あたしね、その頃にはもう在ったから。そのぉ…水着の際からはみ出していたの。あっ、はみ出していたのは一本だけだったんだけど。」

「うわぁ、それは………。確かに、相当恥ずかしいよねぇ。」

 綾子がそう呟いた。

「でしょ? あたし、めちゃくちゃ恥ずかしくって。すぐにトイレに駆け込んで直したもん。」

「それで……、それがきっかけで。」

「うん。きっかけっていうか。それがあって小学校まででスイミングは止めようって決心がついた、かな? 水泳は大好きだけど、男の子にあんなふうに見られたりするのってやっぱりすごく恥ずかしいし。」

「なるほどねえ。でもさ、夏になったら体育で水泳の授業があるよ。その時はどうするの?」

「まあ、授業だったら恥ずかしいのも我慢して水着になるけど。でも視線は感じちゃうんだろうなあ。」

「それにしてもさ。どうして男の子って、イヤラシイ目で女の子を見たりするんだろうね。嫌になっちゃう。」

「ホントだよねえ。……そう言えばさあ。他のみんなはどうなの?」

「どうって?」

 留美子が逆に何かを尋ねたそうにしており、明美が言葉を返した。

「あたしはさあ。そのぉ……小学6年の夏頃から生えてきたんだけどさあ。他のみんなはどうなの?」

 一瞬で留美子の言わんとすることを理解した4人。お互い顔を見合わせて少し困惑気味。

「なんか、あたしだけ恥ずかしいこと打ち明けたのに、他の子は黙って聞いているだけでズルーイ! ねえ、みんなはどうなの?」

どうって、言われても。あたしだって……今は少し生えているけど。

 留美子の言葉に顔を赤らめながらそんなことを心の中で考える明美。

「ねえ、明美はどうなの? たしか修学旅行のときって、まだ生えていなかったよね?」

「ちょっ、ちょっと留美子。やめてよぉ。こんなとこでそんな話。」

「だーめっ! ちゃんと言わなくっちゃ。みんな平等に告白タイムってことで、ね。」

「ねっ、って言われても、あたし……。」

 留美子にだけ言わせておいて自分は黙っているのは申し訳ないと思いつつも、やはり恥ずかしさが先に立ってしまう明美は、さて弱ったと、頭を悩ませていた。

正直に言ってしまおうか……。

 そう思った瞬間。バレーボール用のボールが明美たちの座り込んでいる場所にポーンと飛び込んできた。

「キャッ!」

 5人ほぼ全員同時に小さく悲鳴を上げると、少し離れたところから一人の男子生徒が駆け寄ってきた。聡である。

「あっ、ごめんごめん。誰もぶつからなかった?」

「柏木君! ビックリしたじゃないのぉ。気をつけてよねえ。いちおう誰にも当たらなかったけど。」

 美智代が聡にそう話し掛けながら捕まえたボールを放り返してやった。

「ワリィワリィ。……なあ、お前らは何してるの?」

「見ての通り。ただのお喋りタイム。柏木君は?」

「俺たちも見ての通り。バレーボールだよ。暇なんだったら一緒に遊ばないか?」

「暇って訳じゃあないけど。……行く?」

 真紀が他の4人に促した。

「うん、そうだね。せっかくいい天気なんだし。思いっきり遊ぼうよ。」

「オッケー! じゃあ、あっちでやっているから。すぐに来いよ。」

「わかった。すぐ行くから。」

 そう言って聡は先に男子の集まりに戻って行き、明美たち5人は荷物をそのままに靴だけ履いて、聡たちの元へ走って行った。

「もう。結局うまくはぐらかされちゃったって感じだなあ。」

 留美子が誰に話し掛けるでもなしに、そう独り言のように呟いた。

「まあまあ。また機会があれば、ってことでね。」

 真紀がなだめるような言い方でそれに答えると、その話はそれまでとなった。

助かったぁ。でも……留美子の様子だとそのうち告白タイムみたいなこと、やろうって言い出すだろうなあ。

 笑顔を作りながら聡たちの集まる場所に走り寄って行く明美だったが、恥ずかしい話の告白を友人たちの前でいつかしなければならないのかと、内心少し困惑したような気持ちが残り続けるのだった。


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