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野ネズミの科学 第1話

ハムスターの前歯は死ぬまで伸びます。より正確に言うなら、心臓が完全に停止して腐りはじめない限り、たとえ冬眠(仮死)中でも際限なく伸び続けます…

故でしょう? 一番手っ取り早い解説は、前歯に見えるアレは歯ではなく『牙(きば)』だから、というコトです。人間を含め、草食動物の歯は新陳代謝で中味は成長し続けるものの、伸び続けたりはしません。しかし、われわれの祖先である爬虫類はもともと昆虫やミミズの類を食らう肉食動物として生まれ、口の先端に鋭い『牙』を持っていました。
とは、例えて言うなら、上あごの骨(頭蓋の土台)の先に付いた『爪(つめ)』です。四肢の先端部=指骨の先に伸びる爪は、引っかくことを止めれば人間ですら伸び続けます。同じ理屈で牙も伸び続けるのです。
かりやすく、頭蓋骨そのものを見てみましょう。恐竜の時代、徐々に数を増やしていった非肉食恐竜は、枝を食いちぎったり樹皮を剥いだりという“力仕事”のために、顎の前にある牙を発達させ、残った後方の牙を退化させていきました。退化した牙は食物を細かく砕くため板状にカタチを変え、さらには擦りつぶすための臼歯(きゅうし)へと変化してゆきます。この役割分化の極端なのがご存知ナウマンゾウで、彼らに到っては切歯(せっし)であったはずの牙が反り繰り返り、戦うための角(つの)に転用されてしまっています。この“角”も死ぬまで伸び続けたそうです。
いうワケで、一見愛くるしいハタネズミくんやハムスターちゃまの前歯は、実は「歯」なんてナマ優しいモノじゃありません。ラブリーな顔の裏に隠された頭蓋の形状を見てお分かりの通り、顎の突端にニョキリと生えた巨大な鉤爪、まさに毒蛇の牙! 永い永い氷河期の間も岩肌の苔をむしり、干からびた根を食いちぎって生き存(ながら)えた生物ゆえの勲章が、あの“伸び続ける前歯”の正体なのでした。

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