仮トップページ


「確信犯」の誤用


 「確信犯」という言葉の誤用について少し書いてみたい。ここであつかうのは、次の二点である。
 2003年6月に、文化庁は、「平成14年度「国語に関する世論調査」の結果について」を公表した。その中に、「確信犯」という言葉に関する部分があるのだが、その内容は、どうも変である。

 まず、文化庁の調査結果を紹介しておこう。「「役不足」「確信犯」「流れに棹さす」は約6割が意味を誤って理解」とあり、「確信犯」については、次のようになっている。
B 確信犯  例文:そんなことをするなんて確信犯だ。
    〔全体〕
   (ア) 政治的・宗教的等の信念に基づいて
       正しいと信じてなされる行為・犯罪
       又はその行為を行う人    ・・・・・・ 16.4%
   (イ) 悪いことであると分かっていながら
       なされる行為・犯罪又はその行為を
       行う人     ・・・・・・ 57.6%
   (ウ) (ア)(イ)両方 ・・・・・・  3.9%
   (エ) (イ)とは全く別の意味 ・・・・・・  3.3%
       分からない ・・・・・・ 18.8%
 すでに複数の人が問題点を指摘しているので(下記リンク先参照)、結論だけ簡単に述べておきたい。
 文化庁の意図としては、(ア)が正解で(イ)は間違いということになっているのだが、この二つは相容れない定義ではない。「信念に基づいて正しいと信じ」るとともに、法律・道徳などの点で世間的には「悪いことであると分かって」行うのが「確信犯」だからである。
 また、『ゴシップ的日本語論』(丸谷才一 文藝春秋 2004年)で指摘されているように、例文が答えを誘導している点も問題である。「そんなことをするなんて確信犯だ。」という例文は、丸谷氏が指摘するように、(イ)の「意味にぴつたり」なのである。

 以上の理由により、文化庁の発表よりは誤用は少ないと考えられる。しかし、多くの誤用が存在することも確かである。
 ここでは、「「確信犯」に関する若干の考察」にならって、「確信犯」の本来の意味を「確信犯(原義)」、一般的な誤用を「確信犯(誤用)」と呼ぶことにする。しかし、後者の定義は難しい。
 あちこちで議論されているが、はっきりした結論はでていないようなので、自分なりに「確信犯(誤用)」の定義を考えてみたい。

 さまざまな用例を見てみると、「確信犯(誤用)」は、 などといった意味で使われているように思われる。前置きがあり、それに反して「実は」という点がポイントである。世間の見方と本人の意思が違うという点で、「確信犯(誤用)」は「確信犯(原義)」に意外と近い。
  「確信犯(原義)」を成り立たせる条件には、次のものがあると考えられる。1は、法律だけに限れば狭い意味(法律用語の「故意犯」)となり、道徳なども含めれば広い意味となる。なお、2が「確信犯(原義)」の条件に含まれるかは微妙である。この点についてはいずれ書き足したい。
  1. 法律・道徳などにより世間的には悪いことであるということを知った上での行為
  2. 本人と世間の意識のずれ(「実は」という概念)
  3. 世のため人のためという信念
 これに対し、1を満たすものが「故意犯」で、「確信犯(誤用)」は、1・2を満たすが3を満たさないものだといえる。
 さらに短く表現すると、「確信犯(誤用)」は、大義名分のない「確信犯(原義)」である。まったく違った意味の誤用というよりも、本来の意味の意味を広げた使い方といえるかもしれない。

 「確信犯(誤用)」は、本人は隠そうとしていてもバレバレのときや、悪意がないのかと思っていたら、実は悪意を隠そうともしていなかったときにも使われる。このような場合は、2の「ずれ」は少なくなる。
 また、1の「悪いこと」も意味が広がって、「普通はそのようにはしないこと」になる場合がある。たとえば、ある人が変な服を着ているのを、面白がってわざとやっているのだと判断して、「あの格好は確信犯だ」というような場合である。このようにさまざまな条件が重なることによって、「確信犯(誤用)」は、「確信犯(原義)」から離れていく。



リンク

平成14年度「国語に関する世論調査」の結果について」(『文化庁』)

コラム: 「確信犯」という言葉」(『iwatamの個人サーバ』)
 「iwatam's serverのゲストブック」のNo.476とそのレス
国語に関する世論調査」(『ことばについて』)の道浦俊彦氏のコメント

「確信犯」に関する若干の考察」(『はてなダイアリー - 雑記』)

「確信犯」の誤用・・じゃ、なんて言えばいいの?
OKWeb 確信犯
はてな 「確信犯」という言葉が誤用であるという指摘を最近よく見かけますが、では本来ならなんと言えばよいのでしょうか。「わかっていてあえてやる」という意味でです。「故意犯」という言葉では本当に「犯罪」のことらしいので違うような気もしますが。教えてください。正しいとわかるURLがあると助かります。



2004年12月22日
2005年 3月20日