message 「庭のイメージ」編  … 雑木の庭


 本を出すとうれしいことが続きます。購読者の方からご招待を受けて行ってまいりました。ご主人や庭の作家、ご友人、建築家の皆さんが集まっていただいていました。

 そのときの様子をエッセー風にまとめてみました。


                 * *




■白ハトさんのお庭 訪問記

 夜である。道が暗いせいか、林の向こうに見える木造の住まいは、昼間に見るより存在感がある。暖かい色の明かりが木々の間に漏れていることで、住まいの周りの空気までもが、目に見えるように浮き上がっているからだ。

 その光の中に、四人の男が座っているのが見える。縁側に座っている。ドロアシは、やあ、みなさん始めまして、と言いながら木々のトンネルをくぐり抜けた。


「いいよね。僅か五メートルほどの奥行きの庭なのに、前の道や川の存在が消えて、向こうの山の雑木林と連続しているようだ。道路や川が暗いからだね」
 庭として作られた雑木林の木々の葉は、手前の景として、明かりを受けてほのかに緑色の光を発している。その背景として自然の山の木々が黒い大きな面を作っている。藍色の夜空に見える梢の形がシルエットとなって、林の存在を認識させている。

「いいよね。静かだし、なんとも居心地がいいね」

「最近、奥に住宅地が増えてきてね。少し人通りが増えてきたんだよ」

 家の主人は少し不満そうだ。

「でも、さっきから誰も通らないよ。もしかして、僕が気がついてないだけかもしれないけどね。あっ、そうか。少し植栽の密度が高いかなと思ったけど、道路からの視線を気にしてのことだね。それにしても、この縁側で過ごすために、回りの環境をこうして取り込んだのが、この庭のうまさだよ」



 近くに住む友人が、指摘する。

「ここの下草はツユクサだな」

「ああ。自然に生えてきたんだ」

 庭の設計者が陽に焼けた顔をほころばせる。

「甘南備山なら、こんな感じのところではさしずめ冬イチゴだな」

 庭は、ツユクサの群生といった風情だ。降り積もった落ち葉の上を、細いみずみずしい茎がまばらな網目模様を作り、ふわっと覆っている。甘南備山と聞いて、発想が広がっていく。ドロアシも好きでよく行く裏山。単に目の前の景を眺めるだけでなく、いろいろな思いをさまよわせて遊ぶことのできる庭がいい庭なんじゃないかな。



 細い小道がついている。

「この、わかるかわからないかの小道も、風情があるよね。実際に通ることがあるのかどうかは別にして、庭の空間にメリハリを効かせている。方向性が出るというのかな。奥行きが出るというのかな。庭に動きが出ている。もしこの小道が無いと、ただの小さな植栽帯だけど、道があるから、俄然、庭の景になるんだね」


 風が通っていく。このあたりは年間通して北西の風向きの多い地域だ。この家の敷地は奥に深い。裏にある緑の庭から、今眺めている表の雑木の庭に向かって、建物の中を一直線に突き抜けている廊下を通って、うまく風が通り抜ける。先ほどまで過ごしていた居間の中で最もいい位置は、この風の通り道であり、正面に雑木林の庭を眺め、左手に敷地の隣にある畑をも眺めることのできる位置だ。住んでいる人はもちろん設計に携わった人も、そのことをよく知っている。庭の設計者が先ほどまで座っていた位置だ。


「甘南備山の風情だな」

 友人がまた言う。

「そうそう、こんなところがあるよね。この庭も、上手に小さな起伏が作ってある。庭なんだから人の手で作ったものだし、木も植えたものなんだけど、造った感じが全くしない。実は、これが難しいんだろうな。樹種として雑木を植えたからといって、それだけで自然の雑木林のようになるわけじゃない。植栽帯を作るわけじゃなく、環境を作っているんだ。誰もが一度はやってみたい庭なんだけど、一発でピタリと決めるは難しいんだろうね。それができるのがプロなんだってことだね」

「実はさ、もうすこし地盤をあげようと考えたんだけど、施主が、できるだけ盛土はしたくないと言うんだよ。元の地形は変えたくないということなんだ」

 家の設計者が言う。家の主人の住まいに対するこだわりをうれしそうに披露する。心の通い合うやり取りが設計者の喜びでもあるようだ。暖炉のある木の家。



(遊庵さん提供、現状はもっとワイルドです)

「柿渋を塗るんだけど、すぐに褪せてくるんだ」

 主人が、いとおしそうに縁を撫でながら言う。ドロアシも撫でてみる。やたらツルリとしている既製品のウッドデッキでは味わいにくい本物の木の感触だ。

「この縁が低いのもいいよね。既製品のウッドデッキは住宅の床に合わせて作る。それはそれでいいんだけど、結果としてデッキの床が高くなりすぎる。庭の地面の感触が伝わってきにくいんだよね。上から見る感じ。広い庭ならいいんだろうけど、小さな庭ではどうしても上から見る感じになってしまう。ウッドデッキが取って付けた感じになるのはそのせいだろうね」

 友人はツユクサの花に手を触れている。

「ここは、林の中に板を敷いて座っているようだよ。庭を見るというより、眺めるというより、庭に座っているという感じ。庭に居るということ。庭との距離感がないんだよ。月並みな言い方で言えば一体感だな」



 酒がまわって朦朧とするまで、夜の庭を楽しみ、語りつづける男たち。ドロアシは、目の前をタヌキが知らん顔して通り過ぎるのを見たような気がした。




                 * *

≪登場人物≫
家の主人     白ハトさん(以前、掲示板に庭の写真を載せていただきました)
造園設計者    遊庵さん (以前、石の話をマガジンに寄稿していただきました)
家の設計者    久永さん
友人        白ハトさんの友人、木津川さん(メールマガジンを皆さんに紹介していただきました)
ドロアシ      言わずと知れたこのメルマガの執筆者





注))) 甘南備山(かんなびやま)は京都山城の秀峰、つまり近所の山です。
    興味のわいた人はドロアシの別サイト「甘南備山逍遙」へどうぞ。
    「冬イチゴ」の写真もありますよ。
        甘南備山逍遙へ


注))) 白ハトさんのこの庭は、遊庵さんのサイトに解説つきで掲載されています。
     このページに掲載の写真も遊庵さんのサイトからお借りしました。
        白ハトさんの庭(遊庵さんのサイトでの解説)へ



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