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 ウキョウ作

「手紙」

2002/05/09

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「ウソップー!! カヤさんから手紙来てるわよ〜」
「何?! お嬢様か?!」
 甲板の手摺にもたれ、ナミが新聞を片手にクリーム色の封筒をひらひらさせている。
 最初に反応したのはルフィだった。
 船首にいたのに瞬時にナミの元へやってきて、きらきらとした目で封筒を見つめている。
「懐かしいなー!! 肉とか入ってねェかな?!」
「入ってるはずあるかァ!!」
 サンジの踵が綺麗にその後頭部に落ちた。
「ところでナミさん、カヤさんってのはどなたです?」
「強い病人」
「両親に先立たれたお金持ちのお嬢さんよ。この船もその人がくれたの」
 ゾロの答えをまったく無視して拳骨を見舞い、ナミはさらりと答えた。
 床に沈んでいる二人を交互に見てオロオロしているのは船医のチョッパーだ。
 サンジは目の前にうずくまる男二人を無視して、ほうっとため息をつく。
「薄幸の美少女ですか…………ああ、出来る事なら絶望の淵から救い出して差し上げた
い…………」
 うっとりとした眼は、既に現実を見ていないようだ。
 しかし、ナミが再びウソップの名を呼んだことにより、はたと気が付いた。
「ってそれがどうしてウソップに用があるってんだ?!」
「だってウソップがその『絶望の淵から救い出して差し上げた』本人なんだもん」
「ぬあにぅいー!!!!」
 ナミは見張り台に向かって大きく手を振って見せる。
「ウソップってばー!!」
「……なんでそんなのがあるんだ?」
 ぽかーんと顎を外して、ウソップはナミに問うた。
「だって今、新聞屋がこれと一緒に持って来たんだもん」
 封筒を持った手とは違う手に持った新聞を振って見せるナミ。
「いやブリッコしなくて良いから」
 ウソップはそう言いながら、恐る恐るマストを下りてきた。
 そしてラウンジ前まで階段を上り、じぃっとナミの手にある封筒を見つめる。
「いらないんなら見ちゃうわよ?」
「おお、見よう、見よう!!」
 ルフィが床に座り込んだ姿勢のまま賛同した。
「だっ! おれ宛なんだからおれが最初に見るんだよ!!」
 ルフィの手が伸びるより早く、ウソップはナミの手から封筒をもぎ取った。
 ナミは軽く小首を傾げて、ルフィの背中を蹴る。そして文句を言う船長の襟首を捕まえ、
ラウンジの中へ消えた。
 サンジは床にしゃがみ込んでいるゾロの背中を蹴り、階段の下に突き落とした。そして
仏頂面でこちらを睨んでくる剣士と船医を従え、船内に入っていった。
 
 分厚い封筒だ。
 その表には『グランドライン ゴーイングメリー号 麦わらのルフィ様方 ウソップ様へ』と
書かれているのが辛うじて読める。インクが所々滲んだり擦れてりして、手触りはなんだか
ゴワゴワしていた。
 世界は広い。
 その広い世界の中、船に乗る自分の元へ届いた一通の手紙。
 航海に出た父親からは一度だって手紙をもらった覚えはない。
 なのに。
 一つ場所に居る人物から、当てもない船旅へ出てしまった自分の所へ手紙が届いた。
 ウソップは純粋に凄いと思った。
 封筒を裏返すと『シロップ村 カヤ』とある。
 ウソップは右手の人差し指でその文字をなぞった。
 そしてゆっくりと封筒の端をちぎり、ポケットの中から取り出したナイフの先を入れて封を
開けていった。
 厳重にもビニールで包まれた便箋をようやく取り出し、広げる。
『親愛なるウソップ様』
 丁寧な文字がそう綴ってあった。
 晴れた庭先でこれを書いている事、最近の村の様子、元ウソップ海賊団の日常、勉強の
事、麦わらのルフィの手配書の事……。
 そして後半はカヤの事だった。
 以前ならほんの二、三行の文章で終わっていただろう手紙を、こんなに長く書ける喜び。
 何故なら、屋敷の者が気を使うことももちろんだが、カヤ自身が自分を病気なんだと思っ
ていたからだ。
 食事は喉を通らない。冷たい空気は体に悪い。激しい運動をしてはいけない……。
 そう思ってしまったが為の病気だったと言うのに、ウソップ達のお陰で初めて気が付い
た。
 そう言ったことが、つらつらと書かれていた。
 ウソップは思わず笑顔を零す。
 眩しい日の光に目を細めながら、ペン先をぶらぶらさせて思案に耽っているカヤを思うと、
嬉しいような、くすぐったいような気持ちになる。
 しかしそれが、最後の便箋の、追伸を見て凍りついた。
『追伸。たまねぎ君と婚約しました。今年の冬には式を挙げます。招待状をお送りします
ね』
「ぬぁにぅい―――――――――!!!!」
 たまねぎとは、シロップ村でウソップの後に付いて回っていた、元ウソップ海賊団の仲間
だ。
 そのたまねぎとカヤが…………。
 ウソップの絶叫に船員達がわらわらとやって来た事にも気が付かずに、ウソップは手紙を
持ったまま固まっていた。
 声を掛けられても、揺さぶられても見向きもしない。
 眉間に皺を寄せたナミが、微動だにしないウソップの手から便箋の束を抜き取った。
 そして背中に男どもを背負いながら、一番上になっているところを音読する。
「それではこの辺で失礼します。長々と申し訳ありませんでした。ウソップさんとゴーイング
メリー号の皆さんの無事を祈って。カヤ。――――追伸。たまねぎ君と婚約しました。今年
の冬には式を挙げますぅ?!」
「たまねぎって、あのメガネちびか? そいつがどうしたんだ?」
 ルフィが首を傾げてゾロを見る。
「結婚するだとさ。お嬢さんとそいつが」
 ゾロも不思議そうに首を傾げてルフィを見た。
「「どうしてそうなるんだ?」」
「時の流れと人の心は止められねェんだよ」
 サンジがこれ見よがしにばーか、と男二人を見下ろす。
「それでどうしてウソップが固まってるんだ?」
 チョッパーはおろおろとナミを見上げた。
「ショックだったのね……」
 哀れみの篭った視線をウソップに向け、ナミは小さくため息を付いた。
 自分でも、知らない間に大好きなノジコがゲンさんと結婚してたりしたらショックよ……と
思う。しかもこの場合、ウソップは男でカヤは女だ。ナミとノジコの関係とはまったく違う。
 ナミはぽんぽんとウソップの肩を叩いた。
 世の中カヤだけが女じゃないし。
 そう言おうとした矢先、チョッパーが素っ頓狂な声を上げた。
「なんか書いてあるよ!」
 チョッパーは他の船員より視線が低い。よって常に見上げる形になるのだが、その目が
丁度ナミの持つ便箋に行ったようだ。
「こっち側!」
 そう言って蹄で示したのは、便箋の裏。最後から二枚目の裏側に当たる部分だった。
 ナミは慌ててそれを読む。
「追伸の追伸。ごめんなさい、追伸は冗談です。本当の事じゃありませんからね! もし
本当だったら、たまねぎ君には悪いけど村外れの家に避難します」
 ゆっくりとウソップの氷の呪文が解けて行く。
 シロップ村の村外れには、今は誰も住んでいない家がある。昔、海賊と村娘が、幸せを
育んだ場所。
 ウソップの生まれ育った家。
「あー」
 ナミが間の抜けた声を発した。
 それにウソップを含めた全員が首を傾げて次を待つ。
「今日、エイプリルフールよね」
 春。陽気が良くなり、人々も大らかになる季節。せっかく大らかになったんだから、ついで
に嘘の一つも許してやって良い日と言う、ちょっと変わった日。それが今日だった。
「ついでに言うと、おれの誕生日だ」
「「「「あ」」」」
 ウソップ以外の全員が手を打った。
 そしてウソップの体に手をかけ、持ち上げる。
「わわわ! 何する気だ?!」
「色々おめでとう、ウソップ!」
 ナミが手紙を折りたたんで、空中を上下するウソップに笑いかけた。
 男達の手が、ウソップを受け止めてはまた宙に放り投げる。
「「「「誕生日おめでとう!」」」」
『愛を込めて。カヤ。』
 手紙はそう結ばれていた――――。
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終わり。

アンコさんが描いて下さったイラスト




後書き。
ウソップお誕生日おめでとうー!!と言うことで、頑張ってみました。ルフィ海賊団以外を書くことが少ないの で、本編を読み返しながら書いたのですが、やはり泣けます……。ウソップ万歳!!お前が一番いい男だぁ!!
三馬鹿祭と言う素敵イベントを開催しておられたアンコさんが、当方のへぼ祭に参加して下さると言ってわざわ ざ描いて下さいました挿し絵です。柔らかな色合いと素朴なデザインがとても小噺に合っていると思うのは、いわゆる一つの親ばかでしょうか。だってこんなに ほんわかしたの、もらえると思ってなかったんだものー。
 
 
 
 
 
 
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