脳と栄養

DA:ドーパミン、NA:ノルアドレナリン、A:アドレナリン、5HT:セロトニン、ACHアセチルコリン


ある特定の栄養を摂れば、それに比例して脳内伝達物質が増えるのかという疑問は非常に 興味深い話題です。

しかしながら一般的にいって、脳という器官は血流にしても栄養にしても、第一優先器官であるため相当な 飢餓状態などにならない限りは脳内伝達物質の原料が不足するということはありえません。 例えば拒食症の患者さんなどや、妊産婦(胎児によりアミノ酸などや脂質が取られる) で脳の2から3%が減少する状態です。
もちろんこのように脳内伝達物質の原料が減る状況は脳内伝達物質を減らすでしょう。
また脳は体に取り込まれる約20%の酸素を消費していますが、 脳はそのエネルギーをほとんど糖分に依存していて、フェニールアラニン(チロシン の前駆物質)、トリプトファン(セロトニン)、ヒスチジン(ヒスタミン)その他の必須アミノ酸以外の 例えばグリシン、グルタミン、GABAなどはほとんど糖分から作られています。

しかし反対に増やすほうについては、食事により脳内伝達物質をふやすことは基本的には できないと考えられます。もちろんシナプスの形などに影響を与えるような薬物、 ハーブなどは別です。当然妊娠中や、飢餓の際は蛋白質などを十分に取ることにより、 伝達物質の原料を確保することは重要だと思われます。

−関係の無い話をすると動物実験では蛋白質を沢山とった世代の次世代には 知能の高い子孫が誕生することが知られています。ー

薬剤を使えば伝達物質の受容体の状態を変えるか代謝酵素に変化を与えることにより、伝達物質の 働き方を変えることはできます。

例えばうつの人に投与する抗うつ薬は、一般的にNAや5HTの再取り込みを防ぐ三環系抗うつ薬やSSRI か、または伝達物質の分解を阻害する薬を投与(MAO阻害剤:殆ど使われません)することによって、シナプス内のNAや5HTの量を 高く保つ働きがあります。

またベンゾジアセピン系の抗不安薬や、バルビタール系の薬は GABAという脳内伝達物質のシナプスの、伝達される側の膜を興奮させにくくする(CLチャンネルに関係)ことにより働くものです。

また分裂病の薬もDAの受容体をブロックするのが基本的な働きです。

つまり、これらの場合伝達物質そのものを増やすのではなく、シナプスの働きそのものを変えているのです。

食事で増やすことはむずかしいと書きましたが、逆に普通に食事をとるかバランスの悪い食事を 摂ることにより伝達物質が枯渇するということはありえます。

@DA、NA、A
これらはまとめてカテコラミンと呼ばれているものです。NA,Aは交感神経の伝達物質であり、 脳内伝達物質としては、覚醒、情緒の安定などに関係しています。

DAは脳の中で、目的充足、記憶、思考、知性などに関係しているようです。

さてカテコラミンの原料は必須アミノ酸であるフェニルアラニンから合成されるチロシンというアミノ酸ですが、 脳のシナプスがチロシンを能動輸送 というシステムで取り込んでさまざまな酵素の働きで各々のカテコラミンを作っています。

ここでもっとも重要なことは、カテコラミン の代謝には−cf:科学をかじった人なら聞いたことがあると思いますが“律速段階”があるということです。つまりいくらたくさんカテコラミンを作りたくてもスピード制限がある ということです。

すなわちチロシンをカテコラミンになる一歩手前のDOPAという物質に変えるのに、“チロシン水酸化酵素” というのが必要なのですが、私たちの体の中ではこの酵素は常に一杯一杯に働いています。

つまり、たとえチロシンを食事から沢山取ったとしてもこの律速段階の存在によりカテコラミンが 必要以上に増えるということはないのです。

パーキンソン病の患者さんにL-DOPAを投与しなければならないのはそのためです。

つまりカテコラミンを使いすぎると枯渇する可能性があるのです。例えばストレスがかかる、神経症、 長期間の不眠などで交感神経が興奮した状態が長く続くなどです。

こういう場合にはいくらカテコラミンを作っても追いつかないと考えられます。

このような状態が原因となっている病気はいくつかあります。例えば喘息です。喘息は一説には 90%が精神的な原因を持つといわれていますが、 副交感神経(ACH)が相対的に優位になっており、気管の狭小化、気管分泌の増加が起こります。 治療はNA,Aを補うことです。

その他の病態としては、神経症、うつ、片頭痛、分裂病、自律神経失調症、各種の心身症などが考えられます。

またカテコラミンが減少している場合では脳はDA、A系よりもDA系を優先にすることが考えられます。 すなわち目的行動、欲求充足に関するDA系を優先して、 ストレスの解消などを獲得し結果としてカテコラミンの需要を減らすのは理に適っています。

そのため睡眠が減少したり感情的に不安定になるなどして、欲求不満 の状態を招くかもしれませんが、そのことそのものは生存競争に必要なことではないでしょうか。

こうした状態を是正するにはカテコラミンの需要が少ない状態、つまりストレスを減らし睡眠を増やす必要があるでしょう。

チロシン水酸化酵素が多い人は、どのようなストレスにおいても知能を高く維持できて、 感情も落ち着いているのかって?そう考えたくなりますね。現時点では私の知識を超えていますが 、おそらくそれはありうる話だと考えます。つまり遺伝的なもの?ですよね。

A5−HT
感情の安定などに働いていると考えられています。
原料は必須アミノ酸のトリプトファンです。5HTの合成には律速段階はありませんが、抑制的フィードバック などの働きでシナプス内の量に分泌される量は一定にコントロールされているようです。
一般的にトリプトファンのの摂取だけではシナプス内のセロトニンを増やすことはできません。
動物実験などで大量のトリプトファン100mg/kg程度の投与で、ストレス緩和効果が認められているという 報告もあります。またうつの患者さんにトリプトファンの無い食事を与えることにより、 うつが悪化したという報告もあります。
しかしトリプトファンの80%は血液中で蛋白などにくっついていて、脳に取り込まれるトリプトファン はその他のフリーのものだけなので、よほど大量に取らない限り、脳に影響を与える ことはないでしょう。

BACH

記憶などに関わっています。原料は糖分及びリン脂質であり、律速段階などもありません。
アルツハイマー病はACH性の神経細胞が壊れてしまうこと等が原因と考えられています。
アルツハイマー病に対してACHを増やす薬剤などの投与はほとんど効果がありません。

Cアミノ酸
脳全般の促進性(グリシン、グルタメート)及び抑制性(GABA)の伝達物質はアミノ酸です。
脳の中にもっとも多く含まれています。神経ニューロンだけでなく、周りの神経膠細胞 等にも含まれています。脳のある部分では約50%がアミノ酸で占められています。
必須アミノ酸ではなく糖分からも作られるので不足することは考えられず、 また沢山食事からとったからといってシナプス内にアミノ酸伝達物質が増える証拠はありません。

DDHAなど

不飽和脂肪酸をとることにより動物実験などで知能の高い子孫を作ることができるという データがありますが、わたしはちょっと眉つばではないかと思っています。
シナプスや脳の構造そのものは知性に関係しないというのが私の現時点における認識です。
つまり脳の大きさなどは知能に関係しないということです。
もちろん乳児期にDHAが不足すると神経の有髄化に障害があります。
またこれらのリン脂質は細胞ののセカンドメッセンジャーシステム、レセプターの作成 、アセチルコリンの作成などに 必要です。成人の低コレステロール血症と自殺が関係するという報告もあります。
したがって増やすことはできないまでも不足させないことは大切でしょう。
アインシュタインの脳の大きさが人並みであったということは有名です−最近彼の辺縁系が人よりかなり大きかったというニュースはありましたが 。



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