在米クリニック カウンセリングレポート
                                       (1999、sep記述、2000、July再編集)




はじめに


 ぼくが植毛に興味を持ち出してからもう一年になります。去年の今ごろは日本においては、植毛といってもクリニックのホームページがほとんどで、実際に患者の視点に立った情報はほとんどありませんでした。しかたなくアメリカのHPを実際に見たり訳したりしながら、少しづつ情報を蓄える日々が続きました。
そのうち、 kaminoke.com が掲示板もはじめ、少なからず植毛体験者の人たちと交流が出来るようになりました。患者の視点に立った情報量も飛躍的に増えて、非常に参考になったのですが、その分インターネットだけではどうしてもわからないような情報の限界に次第に行き当たりはじめました。どんなに情報を集めどんなに写真を穴のあくほど見てどんなに想像力をたくましくしても、どうしてもわからないことがあります。それは、実現できる全体的なイメージや、傷の目立ち具合です。密度は一平方センチメートルあたり100本とか数で言われても、重要なのはその密度がどのくらい薄さをカバーできるのかということです。またPIT SCARや後頭部の傷跡もどのくらい目立つものなのか、ということもあります。
そしてそうした疑問を解消するためにはもう実見しかないということがわかってきました。それで僕は紀尾井町クリニックと横浜の横浜形成美容外科クリニックにカウンセリングに行ってきました。そこで、紀尾井町ではマネージャーさん横浜では今川先生自身の植毛した頭髪の状態を見させていただきました。その詳細はカミノケコムの掲示板の過去ログに入っていますので興味ある方は見てください。
ただこうした日本のカウンセリングに行ってもやっぱりまだわからないことがある。植毛はまだ日本で一般化はしていないし、アメリカから入ってきたのもここ3、4年ほどだと思います。それゆえに実際に植毛を複数回されている方の経験談や実見が出来る機会がごく少ないわけです。僕自身は前頭部にもっと髪の毛を増やしたいという望みがあります。それには単に生えるだけではだめでどのくらい密度濃く植毛できるかが重要になってきます。つまり植毛の審美的な面を重要視しているわけです。マネージャーさんはそれほど密度にこだわっておられる様ではないし(年相応な髪形を実現されていたのは言うまでもないですが)、今川先生はまだ僕がお会いしたときには一回しか植毛しておられませんでした。

 自毛植毛クリニックはいったいどのくらいの可能性があるのだろう。そうした技術的な限界を突き詰めた人たちを実見したり話しを聞きたい。そういう思いがとても高まってきて、今回の渡米につながったわけです。


 この雑文では今回の渡米で参加した NEW HAIR INSTITUTE(NHI)というクリニックのセミナーと、Natural Hair Transplant(NHT)のチャン先生のカウンセリング報告が中心となっています。ただ、チャン先生の方はちょっと内容が薄いので補足的なものです。あと今まで自分が蓄えてきた植毛情報もどんどん出していくつもりです。積極的消極的どちらにせよ自毛植毛を考える人たちにとって少しでも参考になればとてもうれしく思います。
   

(*0) この文章は以前kaminoke.comというHPに掲載していました(もちろん僕自身の文章です)。それをなぜ、今になって「ぶるーす」の方に移したかということですが、まず8ヶ月ほど前に書いた時期において考えていたことと、今になって考えていたことが多少ずれてきている、というのがあります。その変化とは、自毛植毛に対する技術的な問題も大きいのですが、それ以上にNHTと紀尾井町クリニックに対する僕自身の評価が異なってきた点が一番大きいです。ゆえにこの文章を改定したいという思いがあり、かつクリニックに対する批判的な問題もそれなりに含ませたいと望むようになりました。そしてカミノケコムでこの文章を提示しておくことが少々難しくなるだろうと予測して、こちらのほうに文章を移動させました。ゆえにこの文章は、ある程度内容を改変しています。
 
また、お断りしておかなければならないのですが、僕自身はいくら自毛植毛をおこなった人たちを実見したと言っても、やはり判断はクリニックのHPや、その他の文章によって推測しています。よってここにかかれた事も、ある程度僕の推測も多く入っています。ただの素人が、精一杯自分の体験から考えて書いた文章であり、医学的な裏づけもそれほどない、と言う事を念頭において参照いただければ有難いです。


 
 
 
第一章 9/25/1999 サンフランシスコ Marriot Hotel にて開催されたNHIのセミナー報告

 
1.いざ会場へ
 

 25日午前11時、ユニオンスクエアにあるマリオットホテルに到着。
びっくりするくらい大きい。S.Fでも1,2を争う大きさだ。新都庁をよりクラシカルにしたような感じで、カーゴパンツでリュックを背負った自分がロビーにいることがちょっと気後れしまいそうで困ってしまった。こんなところで開催するなんてよほど儲かっているんだな、なんて思いながらホテルのロビーに入りソファーに腰掛ける。ここで11時半に unicom という会社の市川さんという通訳の方 と待ち合わせることになっているのだ。
これからはじまるんだな、言葉が通じないだけにとても緊張する。早く始まって欲しいなあ。
  
      
(*1)
 余談ですが、このセミナー参加にあたって、英語の会話力がない僕は通訳をお願いすることにしました。ネットをあさって旅行会社に尋ねまくった結果、ある会社からこのunicomという旅行会社を紹介されて、そこの社長の市川さんにお願いしました。値段は一時間50ドルちょいでした。この市川さんという方も、多少同じ悩みを抱えておられるせいか、植毛情報に関して詳しくこのセミナー参加に非常に助けになってくれました。彼と話した内容もかなり有意義だったので後に紹介したいと思います。
UnicomのHP
  
       

ここでセミナーについてちょっと述べておくと、NHIのセミナーとは、そのクリニックの医者の一人と、その医者が手がけた植毛経験者たちが、自分の体験談を話したり、頭皮の状態を見せてくれたり、医者がその場で個人的なカウンセリングをするというような会だ。僕自身フリートーク形式かな? と予測していたので、植毛経験者たちの話を聞いたり頭髪を見せてもらうために、メモやカメラの用意をしていった。

11時35分に市川さん到着。二人で5階J会議室に向かう。大きなドアを開けてみると、おっ、だれもいない…本当にここでやるのか? 中にはいすが20脚ぐらいそして前には演壇が置かれているだけだ。予想していたよりも小人数かも知れない。

通訳は後援者の話の邪魔になるかもしれないという市川さんのアドバイスで、わりと後ろのほうに陣取って待つ。うーんはやく誰か来て欲しい。

 ん?一人の男性が入ってきた。30台半ばくらいの普通の人だ。こんな目的でこんなところにいるとどうしても相手の頭髪に注目してしまう。薄いけど前髪は上に上げている。やっぱちょっと普通の薄毛の人とは生え方が違うかな、植毛だろうなと思う。その通りその人は経験者で今はクリニックの職員をしており、今回のセミナーでもいろいろ話をするらしい。(A氏とします)とりあえずここで開催されるのがわかってほっとする。

その彼に続いてぞろぞろと人が入ってきはじめた。みな渡されたコンサルティングフォームに自分の症状等を記入しはじめる。僕の座っている机のとなりに白髪のおじいさんが腰掛けてフォームを書き始めた。


「この人は植毛してますね、生え際見るとわかりますね」


と市川さんが僕に耳打ちする。確かに。
彼は白髪一色で髪型はオールバック。生え際が見事にM型になっている。パンチやフラップとは違うが、かなりはっきりM型なのだ。白髪だからまだ助かっているが、黒髪だったらやっぱり見た人はちょっと不自然に思うかもしれない。(図1.B氏と呼びます)とりあえず植毛されていることは明らかなので、質問してみた。ここまで来たんだから積極的に行かないとね。


図1img







     
 
 
 
 
   

     
2.生え際の問題

 
 
 話しによるとB氏は70代。(びっくりした!)以前にBosleyで植毛を複数回受けたそうだ。昔はパンチ式で、そしてマイクログラフトで再形成手術。けれどやっぱりヘアーラインのはっきりした状態が気に食わないらしい。再度手術をしようとしたが、もうこれ以上は出来ないとbosleyに断られてNHIに来る事になったとのこと。

話が前後するが、のちにドクターは演壇からB氏の頭髪を見て次のように言った。


「生え際はそれが生え際とわかってはいけないものだ。ヘアーラインを作るには生え際に細い毛を理論的に可能な密度までめちゃくちゃたくさん移植する必要がある。それで生え際は生え際とわからなくなる。あなたのヘアーラインをマイクログラフトでぼかすために前の方にそれ以上引きおろすことは難しいかもしれない。目いっぱいに下げているからね。もしやるなら、前の先端の髪の毛を抜いてやりなおすか、ぎりぎり3ミリほど下げるしかない。白髪だからまだ助かってるが黒髪だとみっともないよ。どちらにしても70代だったらもう充分じゃない?」


(確かにと笑ってしまったが、本人にして見ればやっぱりなっとくできないんだろうなあ)

また先生はB氏の頭髪をマイクロスコープで拡大してモニターに映し出した。おやっと思った。普通に見ると目立たなかったが白髪の根元はどれもかなりでこぼこしている。 PIT SCAR である。痛々しかった(図2)。これでは髪の毛を剃る事は出来ないだろう。昔のテクニックだと先生は述べた。


図2
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そうしてB氏と話をしているうちに恰幅のよい紳士がやってきた。ドクターのRoy G・Jones博士だ。 髪の毛はふさふさで植毛じゃない様だ。うらやましいなあ。ここからやっとセミナーの始まりである。
 
 
 

(*2)
 経歴。NHIのHPに載っていたので、要約します。
University of Kansas School of Medicine を卒業したあと、University of Kansas で5年間の一般外科研修医を終了。1979〜81年までアメリカ空軍病院で勤務。そのあいだ、外傷治療に興味を持ち精進。軍での外傷の治療環境の改善に貢献。1980年に American Board of Surgery の会員に認証される。それ以来持続的に学会の再審査試験を通過している。80年代の実践の後、ヘアートランスプラントのフィールドへ。NHIのメンバーとなり技術を研鑚。


自毛植毛については医者の選び方によって、結果に大きな差が出ます。アメリカでも、数多くの人が植毛を受けているだけあって、多くの後悔している患者も生み出しています。そのため医者やクリニックの選び方は重要な問題であることは向こうでの共通了解です。それは医者の持っている資格にも及びます。
いちおう、Lee L・Bosley という医者は、単に医学博士 Medical Doctor(M・D)の資格を持っているだけじゃなくて(いちおうM・Dを取得すれば誰でもヘアートランスプラントは出来る、精神科でも耳鼻科でも)、Plastic Surgery(形成外科――これが最高です)、General Surgery(一般外科)、Vascular Surgery(循環器外科)などの、専門的な外科学会に認証された会員であることが、ヘアートランスプラントを実行する能力を持つ医師だ、といっていました。こうした専門的な学会の会員として認証される事は、毎年の再審査を通過しなければならないらしく、一般的に医者の技術的信用性を表すものとなっているようです(このへんの専門的な知識はちょっと自信がないのですが)。ただ他にも毛髪外科学会とか美容外科学会とかにたようなので楽に会員になれるようなものも雨後の筍のようにあるらしいです。
このJones医師は一応、アメリカ外科学会の会員だそうで、クリアーはしていますが、あとは何年研鑚したかという点も重要だと思います。アメリカのことなんで参考はあまりならないかもしれませんが、日本でもこうした医者の審査機関が成立してくれればと思います。

 
 
 
3.体験者談
 

 セミナーの参加者は全部で7人程度だったと思う。あとドクターと体験者の方々が6〜7人ほど。思ってたよりもずっと少なかった。けれどわりと個人的に詳しい話しが聞けそうなので、こっちにとっては好都合かもしれない。
セミナーでの話しはまずそこで手術した経験者の方4人(A、C、Dあとでおくれて一人きたE)とJones先生の話が続く。以下それぞれの患者さんの場合とJones先生の話しを順に書いていこうとおもう。



(A氏の場合)
まず最初に、さっき話した職員のA氏が演壇に立った。彼の頭髪の状態は図3。


図3
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髪の色はクリーム色というかかなり淡い。いろいろしゃべり始める。


「よくわからんなあ、なんて言ってるんですか市川さん?」

「このNHIでおこなっているフォリキュラー(folliculer=毛包)トランスプランテーションという技術は傷も残らないしすばらしい、みたいなことを言ってるみたいですよ。」


彼は一回の植毛で4000本植毛したらしい(グラフト数に直すと1500から2000グラフトだろう)。その4千本のうち400本は抜けた。つまり10%。定着率に直すと90%。
 
 

(*3)
 定着率に関してですが日本のHPでも9割9分だのほぼ10割なんて書いてるクリニックも多いですが、それはウソでしょう。
この定着率の問題に関しては、自毛植毛のリンクでそれなりに詳しく述べたつもりですが、もう少し補足します。
計算上、一回の手術で植え込めるグラフトは、1平方センチメートルあたり25〜36グラフトです。これを毛髪数になおすと(密度150本/平方センチメートルの日本人の場合)37.5〜54本ということになります。手術過程での少々のグラフト喪失は当たり前なので、まあ40本からうまくいって50本という程度でしょうか。しかし、発毛率の関係から考えると、90%の発毛率を実現した場合、36〜45本となるのですが、本当に90%の発毛率を実現できるクリニックは少ない(日本では特に)と思っていただく方が無難です。それゆえ、30からうまくいって40本というところではないでしょうか。
では複数手術を繰り返すことによって、例えば、二回行なえば60本〜80本、3回で90〜120本になるか、ということでしょうか。
しかし、これは計算上であって、実際は違います。まず、マイクログラフト法といえど、頭皮にグラフト植え込みのための傷を作るので必然的にうえこまれたグラフトの根元には「瘢痕」が発生します。この瘢痕は血流に乏しい部位なので、どうしてもその瘢痕上に2回目以降新たなグラフトを植え込んでも、グラフトの定着率は以前より悪くなります。かつ、二回目以降は、もとある毛髪の間にグラフト埋め込みの傷を作るので、当然一時的に毛根に血液を供給する毛細血管が断絶を受ける毛髪も出てきます。そうした毛髪が休止期に入ったり、かつ永久脱毛してしまうこともあるのですが(Shock loss)、それを考え合わせても、かなりの程度2回目以降の定着率は減少します。
ほとんどのクリニックでは、定着率95%を歌っていたりするわけですがこれはどんなに甘く見ても、1回目における定着率です。しかも2回目以降の定着率は低下せざるを得ないにもかかわらず、堂々と100本や120本といった密度を実現できると、述べているクリニックがほとんどです。しかし、実際に自分のクリニックで施術を受けた患者の発毛率を計測ているのでしょうか?おそらくしていないと思います。たとえば、非常に貴重なデータですが、カミノケコムで管理人さんが実際に2回目を受けたあとのご自身の毛髪密度を測定した記録があります。(これは過去ログに乗っています。)それによると、2回の手術後、充分な発毛を確認せられた時点で「56本/平方センチメートル」だそうでした。これは特殊な例ではないと思います。実際にアメリカでも、発毛率に関する実証調査で「40本ー55本ー70本ー80本」といったデータが載っていました。それだけに、私自身は現在発毛率は、回数を重ねるごとに低下するし、かつ実際に実現できる密度も80本〜よくて90本程度だろうと推測しているわけです。もし、こうした数値に対して疑問を持たれるクリニックがあるのであれば、実際に発毛率と密度追跡調査を独自に実施して公表していただければと思います。
 
 

彼は一回の手術で満足していないからもう一回前頭部中心におこなうらしい。確かにまだ薄い。全体的に毛髪が生えていて前頭部も生えているといっても、はたから見たらやっぱり薄毛の部類に入るだろう。一回の植毛の限界はこの程度なのかもなあ。
そうしていると前から写真が回ってきました。彼の以前の写真です。子供とプールにいる写真ですが、ものの見事に髪の毛がありません。横山ノックさんと同じくらいかな? NORWOODクラス(*4)でいうと6程度だと思う。この状態から今のように増えればさすがにうれしいだろうなー。
あとA氏には直接近寄って頭髪の状態を見せてもらっていないので、PIT SCAR があるかどうかは確認できなかった。
 
 



 
 
(C氏の場合)
このC氏が最初A氏らと前に並んでいるときには驚いた。えっ植毛したの? って感じです。髪の毛もふさふさ。うわっ早く話聞きたい。(とりあえず本人に了承してもらった写真1、2、3参照)


写真1
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写真2
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写真3
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C氏は元々そりこみのほうが脱毛していて、本人いわく 「ドラキュラの様だった」 らしい (すごくわかりやすい表現)。NOREWOOD表によるとUかVの状態だったそうだ。髪の色は栗色というかちょっと濃いブラウンて感じだった。
 

 C氏は三回の植毛手術を受けているらしい。一回目は1175グラフト、二回目は1300グラフト、三回目に600から700グラフト。三年間かけて徐々に下のほうに引きおろして密度も濃くしていったらしい。いやー忍耐力あります。
そのおかげで、彼の状態は一般人が見たら絶対にわからないと思う。植毛に多少知識がある僕でも言われなきゃわからないし、近づいてじっと見て、あ、このへんだなって感じ。
   
 
 
(*5)
 どうしてわかるのかといえば、写真で見ると明らかな様にC氏はM字型の進行だったので中心部に比較して植毛したそりこみ部分の密度が薄いわけです。植毛特有の密度という感じでしょうか【密度に関してはあとで述べたいと思います】。
まあそれも、僕自身がある程度知識を持っていてそれで明かりのもとで近づいて見たからわかるわけで、普通の人が見れば絶対に注意しないでしょう。またM字型の禿は植毛でカバーしやすいのかもしれません。

 
 

 後、近くで見てもC氏の頭髪の根元に PIT SCAR らしき盛り上がりやへこみは自分の目ではほとんど確認できなかった。ただ、スキンヘッドにして見ても後が残ってないかというのはやっぱり気にかかるところなのだが。
また生え際に関しても写真で見るとわかる様にかなりきれいにぼやけている。B氏のような不自然さはほとんどない。
C氏はかなり自分の頭髪に関して悩んだらしく、後のフリートークでもいろんなことを話してくれた。

 
 

「自分は三年間かけたけど、自分がなりたい姿をわかっていればもっと短期間で実現できるだろう。
やる前は思考錯誤を繰り返し悩んだが、結局同じところに行きつく、だからあまり考えすぎないほうがいいんだ。」


(これは確かにうなずけます)


「最初に植毛を実行した後はとても前進感があった。決める前にクリニック自体も何軒もまわったし、いろんな人の症例を見た。」

(アメリカはこの点で有利ですね)


「そしてNHIでやると決めた。医者もどうやったら目立たなくなるかを知っているし、選んだ後は信用したほうがいい。」

「値段よりもケアーのほうを重要視すべきだ。いかにその人にあったやり方でやってくれるのかが重要だ。お金は使いがいがある。
自分は野球帽をかぶっていてもかまわない職場なので、傷跡のほうはあまり問題なかった。職場や彼女もまったく気づかず、たった一人だけ親友に打ち明けたところ、全然わからなかったとびっくりしていた。」


(まあそれだけ、本人が悩むほど目立たない症状だったとも言えるかもしれないけど)


「頭部全体や10年後のプランを考えて実行しなければだめだろう。」


そしてこのC氏のとの話の中で一番印象に残ったのは Shock loss についての考え方だった。
     
 
 
(*6)
 Shock lossとは、植毛以前に生えていた毛髪が植毛によって脱毛する症状を言います。
植毛によっていったん抜けた毛髪が生えてくるかどうかは、諸説いろいろあるみたいですが、やはり生えてこないこともあるらしく、頭皮全体の総毛髪量は植毛によって少なくなることは間違いないらしいです。非常に重要な問題なのであとでもう一度書きます。
 
     

僕自身この Shock loss については結構考えさせられていた。やっぱり自分の髪の毛が植毛のショックで抜けてしまうのは不安だし。複数回やったC氏はそれについて次のように言った。


「結局自分が受動的に今ある弱い髪を守るか、能動的に強い髪を選択するかのどちらかだろうね」


のちにJones先生も同じようなことを言われたのだが、こうした考え方は、厳しい様でいて、きっちりと植毛の限界とその限界の受け入れ方を示してくれているのでとても参考になった。アメリカ的な合理的志向だ。

 
 


 
 
(D氏の場合)
 D氏の頭髪は結構薄かった。イメージとしては、つのだひろさんや大八木淳さんを薄くした感じだろうか(図4)。


図4
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ただ全体的なイメージとしては薄いけれどもスポーツマン的な感じで植毛という感じはしなかった。市川さんも彼のところに話しにいっていたが 「彼全然植毛だなんてわからない」 と舌を巻いて帰ってきた。市川さんが見た限り生え際もまったく自然だと言う。

 D氏は一回だけ一年前におこなったらしい。自らの植毛事情についてはフリートークで聞いてくれと言う感じで詳しく語らなかったが、もう一回やって前頭部の密度を上げ流せるような髪型にするつもりだと言っていた。もともとの写真が回ってきたので見ると、A氏と同じで後頭部までまったく髪の毛がない。やっぱりうれしいだろうな、こんだけ回復すれば。人前に出たくなる気持ちもわかる。
彼の場合もやる前いろんなところに行って調べたらしい。そして細かいことに気を配るNHIを選択したそうだ。
またD氏はかつらもつけていたそうだが、最悪だし必ず人はわかってる、と言っていた(必ずわかってる、というのはちょっと被害妄想かなとも思います。多少不自然でもカツラの構造をわかってないとなかなか一般人は判断できないと思いますが)

 
 


 
 
(E氏の場合)
 E氏は遅れてきて、あまりしゃべらなかったので詳しいことはわからなかった。ただ、パンチグラフトの再形成手術を受けたとのこと。髪型はD氏と同じようだが密度はD氏よりも濃かった。ちょっと前髪を立たせていた。パンチグラフトは見栄えは悪いが、パンチグラフトの再形成手術をした人たちはわりと密度濃くなっているところを見ると、マイクログラフトよりも密度の面で優れているのかもしれない。(といってもマイクログラフトのほうが密度が多少足りないと考えたほうが安全だが)――パンチグラフトの密度に関する件は、自毛植毛のリンク参照。
 



 
 
4.Jones医師の話
 
 

 とりあえずこうした経験者の体験談の後、Jones先生が演壇に立った。非常に多くのことを話してくれたのだが、簡潔にまとめるのが難しくて、次に長々と書いていきたいと思います。

 

(Jones先生の話)
 


 これがいわゆるNHIの売りの植毛術なのだが、Jones医師によるとこの技術を実行できるのはサンフランシスコで二人、ロサンゼルスで三人、アメリカ全土でもその数を数えられるという。

このフォリキュラートランスプラントというのは最新の植毛技術というが、今現在のマイクログラフト植毛と何が違うのだろうか。正直なところセミナーでの説明でも、後でチャン先生に聞いてもあまりよくわからなかった。
その辺を質問しようかなと思ったらグラフト用の穴をあける針の話になった。この針の話題は kaminoke.com でも議論されていたので注意する。このNHIで使っている針の大きさは18ゲージとのこと。
  
 
 
 
(*8)
 ちなみにこの後 Jones医師に質問したり、後のチャン先生への質問でわかってきたので、針についてまとめましょう。このゲージの数が大きくなっていくにつれて、だんだん針が細くなります。したがって数の大きい針を使うほうが細かい作業になります。チャン先生はマイクログラフトを埋め込むときは19ゲージ、眉毛などの個所には特別に20か21ゲージの針を使うと述べていました。Seagerさんところも19ゲージらしいです。また NOKOR針というのは、グラフトを埋め込む穴を、縦に切込みを入れるようにつまりスリット状に開ける針だそうです。その針はわりと大きめのグラフトにしか合わず、最近の自毛植毛の細かい作業は難しいとのこと。ちょっと前の技術だそうです。(チャン先生によると三年前に流行っていたとのこと)

 
 


またNHIでは以前使っていた、むしめがねでのグラフトの植えこみはやめて、顕微鏡を使って植えこんでいる、それによって生え際の組み立てが綺麗になるとの事。また顕微鏡では植えこみが実際にうまくいってるかどうかも確認しやすいらしい。
確かにフォリキュラーユニットだけを使用するなら、マイクログラフト法よりもさらに細かい作業になりそうだ。そういえば日本の紀尾井町クリニックのビデオ画像では看護婦がむしめがねでやっていた気がする。

あとPIT SCARについてはこの技術ではまったく問題ないとのこと。まあたしかにC氏の頭髪を注視してもほとんどわからなかったので、信じてもいいとは思った。(PIT SCARに関しては、また後でまとめたいと思います)

 
 

  • プロペシア等の薬剤の併用
 
 


 NHIの移植に関する考えかたの独自なものがこれである。Jones医師によれば、いまつむじあたりの王冠部分の頭髪の脱毛を押さえる薬は開発されてきている。ミノキシジル(ロゲイン)、フェナステライド(プロペシア)等。特にプロペシアはロゲインよりも効果は高いし、長い効果が期待できるとJones医師は言う。プロペシアの場合8割の人は頭頂部からの脱毛が抑制され、40%の人に新たな発毛が見られるらしい。(まあ産毛も入れてのことだろうけど)
こうした薬を使いつづけることによって王冠部分の脱毛を持続的に押さえれば必然的に、もっとも見栄えが関係する前頭部に移植のグラフトを沢山まわせるようになるそうだ。
僕の見たところ、こうした観点からNHIでは結構積極的に前頭部の移植、特にヘアーラインを下げる移植を数多くおこなっているようである。NHIのHPをのぞいても、ヘアーラインを積極的に下げている人が結構いるのは知っていた。チャン先生のNHTクリニックがわりと控えめにヘアーラインの維持を考えているのに比べて、クリニックの考え方の差 が出ているのがここだと思う。この見方が正しいのかどうかはまだわからないが、医療製品が続々登場してきている現在の状況から、そう間違った見方でもない様な気もする。
  
 
 

(*9)
 後で調べたところ、このヘアーラインの件に関してもNHIとNHTではかなり異なった見解を持っていることがさらにはっきりしてきました。
NHIはヘアートランスプラントの審美性に重点をおいて植毛のデザインを決定しています。人の印象はヘアーラインによって大きく変ります。ゆえに王冠部分の脱毛(NORWOODのvertex)よりも、そりこみ部分が侵食していくM字型の脱毛、さらにM字型よりもヘアーラインが上がっていくU字型(NORWOODのA)の脱毛のほうが、人間の見掛けを変え易いと捉えています。
そうした解釈からグラフトの配分を、頭頂部や王冠部分よりも出来るだけフロントやヘアーラインに重点的に配分していこうというのがNHIの基本的な考え方です。たとえば頭皮の大きな割合が脱毛しているクラス6〜7の人が移植を試みる場合、ドナーサイトの毛髪量自体が少ないので、どうグラフトを配分するのかといったデザインの決定が重要になります。そうした場合NHIではあえて王冠部分や頭頂部に対しては移植をおこなわず、フロントやヘアーラインに重点的にグラフトを配分します。なぜなら王冠部分らに移植をおこなっても大きな見掛けの変化は期待できないという考え方からです。(この考え方をFrontal Forelook――フロンタルフォールックといいます)
それと同じようにクラス4〜5程度の人でとくにU字型の人のヘアーラインの引き下げにもわりと積極的です。それはヘアーラインと額の広さがその人の見かけの年齢を大きく変えたり禿の強調される度合いを変えるという考え方からです。ただ若い年齢の人で現在クラス3、そして脱毛がかなりのスピードで進展していく可能性のある人は、様子を見ることも進めるそうです。また、NHIで手術を受けた経験者の方は、少し前髪を長めにしてかつひさしのように上に上げている人がわりといました。ただ、ちょっと否定的な見方ですが、クラス6程度の人が2000グラフト程度の一回の移植で前髪を上げても、やっぱり薄さはまだ目立つかなと思いました。

 これにたいしてNHTの方は、NHIよりも多少保守的にトランスプラントを考えています。
10年後20年後に後悔しない様に、必要以上にヘアーラインを下げる事に関してはいくらか消極的な印象を受けました。紀尾井町クリニックの林医師も、この自毛植毛に適するのは、脱毛がかなり進んだ年配の方だ、という事は言われていました。ゆえに今の印象ではNHIのほうが審美性に重点をおいて積極的、NHTは安全性に重点をおいて保守的と判断しています。
  
しかしこれは私見ですが、あまりヘアーラインを引き下げないで、保守的過ぎるヘアーラインを形成すると、逆に脱毛が目立つ結果になります。よく見てもらえればわかると思いますが、Norwood6や7程度で、後頭部下部と側頭部にしか毛髪が残っていない方に比べると、発毛時代のコマーシャルなどで中途半端に毛髪が生えている人の方が、審美的なバランスの面で劣っているように見えます。項考えると、下げすぎるも問題ですが、逆に保守的過ぎるのも(医者にとっては心配が少ないかもしれませんが)審美的な面での満足で効果が少ないかもしれない、という点は念頭においておく必要があると思います

 
 
 
なお、Jones先生によれば、3,4年後にアメリカのFDA(日本の厚生省のようなもんです)に新しい育毛の薬剤が認可されるとのこと。名前はまだわからないらしいが、プロペシアに比べてまだ強い効果を期待できそうなので、認可されればそれも併用できるだろう、という心強い話をしてくれた。

 
 

  • Shock loss について

 
 

 先にもちょっと書いたが、このショックロスも自毛移植に関する大きな課題の一つだ。紀尾井町クリニックのHPでは、次のような記述をしていた。


「移植された皮膚に隣接、あるいは周辺にあるもとからある髪は、もしそれがいずれにせよすぐ抜けてしまいそうな末期的な髪であったなら、薄く見えるようになるかもしれません。自毛移植手術後、移植前からある髪が薄くなっても2〜3月以内に又生え始めます。この一時的にもとからある髪が薄くなる事は「テロゲン・エフルピアン」と呼ばれます。まれなケースとしてもとからある髪が薄くなり、そのまま自発的には再び生えてこない事があります。このような場合、移植手術によって治します。残念ながらもとから髪が薄くなるのが広がるのと移植された髪が再生するのには時間のズレがあります。毛髪移植をしなくても、そのあたりが自然にはげてくるはずだった人のみ、見られる現象であります。」


 この記述では、末期的ないずれ抜けてしまう髪だけが Shock loss(テロゲン・エフルピアンTellogen effluviumというのは医学名です)で脱毛してしまうのであって、もとある通常の髪は一度脱毛してもほとんど回復する、生えてこない事はまれな事だと述べられている様である。けれどこの文章を読んで、そうかな?としゃっきりしないものを感じたのは僕だけだろうか。実際に Shock loss で脱毛する髪の毛を、後になって、移植しなくてもそれらは結局抜ける髪の毛だった、と弁解している様にも取れてしまうのだが、うがったみかたなのだろうか? また、本当に自毛植毛の手術はそうしたあいだや周辺の毛に影響を与えることはまれなのだろうか?

 とりあえずこのあたりのことがとても疑問だったので、Jones医師に誰かが Shock loss について質問したときは注意した。Jones医師の Shock loss についての述べ方ははっきりしていた。
Jones医師が言うには、もとから髪の毛がある場所に自毛植毛をおこなえば、1000本移植しても1000本抜ける事がありうる、とはっきりと述べた。患者の前でそんなにはっきりと言ってもいいのかなあ、とこっちが不安になってしまった。しかしそれはJones医師によれば選択の問題だそうである。つまりもとからある弱い髪の毛を守ってそれらを傷めない様に植毛するのか、それともそれらの脱毛はもう気にしないで移植毛でもとある髪の毛を置き換えるくらいに考えて能動的に移植するのか、という選択だそうだ。
そのどちらでも手術は可能だという。ただ1000本移植しても1000本抜ければ見た目は変わらないので、それを考慮して移植はすべきだとのことである。

 かなりはっきり述べられたので、こっちがびっくりしてしまった。Jones医師の見方では移植された毛髪は生えてくるが、元からある弱い髪の毛は再発毛を保証できない、ということ。移植をするにはそのぐらい割りきった考え方も必要なのか、と Shock loss に対する考え方を僕自身改めさせられた。はっきり述べることは気持ちいい、アメリカ的合理主義を強く感じた。
 
     
    ・ショックロスについての補足(*10)
     
     

    4.個人的なコンサルティング

     
     
     こうした話を述べながら、質疑応答を繰り返したあと、フリートークの時間になった。それぞれ興味ある人のところに行って好きなように話をすればいい時間だ。これを待っていたので、まずC氏の所に行って、詳しい話しを聞かせてもらった。(その内容は前述した中にまとめてあります。)また最後にWEB上への掲載を前提として写真を撮らせてもらえないかを懇願。ちょっと引かれたが、押し強く言ってなんとか了解をもらった。ありがとうCさん。

     その後、時間もないので(2時間しかないのにあと20分程度だった)、急いでJones医師にコンサルティングを申し込む。(このあとはちょっと個人的な話が多くてすいません)

    とりあえず腰掛けてといわれて横の椅子に座ると、手にしたマイクロスコープで僕の頭皮を調べ始めた。ドナーサイトを映し出しながら、


    「キミの場合の後ろの密度は170本/平方cmだね。欧米人の200本/平方cmに比べて東洋人はだいたい150本/平方cmだから、まあふつうだね。」

    へえ?マイクロスコープで見ただけで密度がわかるのか。ちょっとびっくりした(まあ後で考えれば、単に経験上の東洋人の密度を言っただけでしょう)。次に前頭部を調べて


    「もともと18ぐらいのときは150本/平方cmぐらいあったとおもうよ。ただ今はその40%ぐらいだろうね。ぎりぎり禿とわかるかどうかぐらいだろう。あんまりやる必要はないかもしれないね。」

    うーん、はっきり言うなあ。でもそう言われて引き下がってはなにも聞けないので、前頭部に移植することを前提として話を進めてもらう。


    「とりあえずキミの場合はやるとしたらだね、まず目を上に向けて。」

    目を上に向けて額にしわを作れといってるらしい。そうすると僕の額の生え際から一センチちょっと下のところにマジックでラインを引いた。


    「額にしわを作って、一番上に出来る凹みがだいたい18ごろのヘアーラインなんだよね。20代も後半になるとそこから1センチは上に上がるのでキミの場合もこのへんだね。30代だと2センチほどあがるけどね。」

    僕の場合は1センチほど上に上げたみたいで、ああ、このへんまで下げたいなあと思っていたちょうどそのくらいだったのでびっくりした。簡単に年齢別のヘアーラインなんて計れるもんなんだなあ。そのあと


    「キミの場合は600から800グラフトの植毛を二回繰り返せば割ときちんとなるだろう。」

    具体的な移植計画まで述べてくれた。ありがたい。
    ただ、きちっとなるのがどの程度のことかはちゃんと聞いておきたかったので、密度に関して質問してみた。


    「密度に感して自毛植毛の技術的な限界はあるんでしょうか?」

    「あるね。1回の手術で実現できる密度は最大40〜45本/平方cmがまず限界だね。そこから二回目の手術をしてだいたい80本/平方cm、三回の手術で100本/平方cm、これがほぼ限界かな。100以上は難しいね。これ以上のこと、たとえば4回目の手術をしたとしても105本/平方cmぐらいにしかならないよ。ここまでいくとあまりかわらないね。ただ、18の頃の密度の40%ほどあれば誰も禿とは言わないし、2回手術すれば結構いいとこまでいくだろう。」


    たしかに40%といえば東洋人の場合60本/平方cmだし、80本もあれば問題ないのかもしれない。他人にはげているという印象をあたえないという程度だろうが。
          
     
     
     
       
    ・密度に関する補足(*11)

     

     あと移植針や PIT SCAR について質問していたら、知らぬうちに時間が過ぎていた。相談者も僕を含めていつのまにか2名だけになっていたので、潮時か、と観念して帰ることにした。ほんとはまだ何人もの体験者の方と話したかったんだけどなあ。2時間は短すぎるよ。結局帰りは市川さんと手に入れた情報をネタに熱く語りながらマリオットホテルを後にした。

     

    第二章 9/27/1999 ロサンゼルス郊外 NHTオフィスでのチャン先生とのカウンセリング


     
     
     ロサンゼルスハリウッドに宿をとっていたため、レンタカーでチャン先生のところに向かう事になった。
    ロサンゼルスは曇っていたが郊外に出ると天気。いい気候である。しかし、市内から遠い。ハイウェイで一時間ちょいかかった。後で聞くと、ロサンゼルスとは隣の郡になるとのこと。15分ほど遅刻。

     診察室に入り、しばらくするとチャン先生がにこやかに現れた。流暢な日本語をしゃべられるので今回は通訳してもらう苦労が無くて楽チンだ。
    とりあえず手始めに、僕の頭皮の状態を見てもらう。


    「どこが気になるの? 前髪? うーん、やらない方がいいんじゃないかなあ。ヘアーラインも後退してる訳じゃないし。おでこも広くないよ普通だよ。」


    うーん、ここまで移植を勧められないことが続くと、本気でやめようかなぁって気になってきた。正直出鼻をくじかれてメモ取る元気がちょっと失われた。(言い訳ですが、このあと実際に何を話したのかが、あまりメモされていないので内容が薄いです。泣)
    が、それでもNHIのJones先生が書いてくれたような希望するヘアーラインをマジックで書いて、どのくらい必要なのかを計ってもらう。チャン先生は何やら丸いわっかにサランラップをはったようなのを持ってきて僕の前頭部に押し付けた。どうやらそのラップにマジックで移植の必要な面積を書き取っているらしい。それを書き取ると、方眼紙にそのラップをあてて僕の希望する移植の面積を測り出した。


    「まあキミの場合やるとしたら22平方cm必要だから、そうだね、100本/平方cm必要として2200本、生え際にマイクログラフト200、あとミニグラフト750ぐらいかな。」


    「ん? 一回の手術で100本/平方cmを実現できるわけないから、複数回の手術のトータル数について述べておられるんだろうけど・・・それでも意外と少ない見積もりだなあ。」

    実際に自分が実現したい密度は結構高いので不安になった。


    「何回か手術した人の資料はないのでしょうか?」


    「ん、僕もそうだよ」


    チャン先生はそう言って前髪をかきあげた。すぐさま近くによって見せてもらう。


    「ちょっと PIT SCAR あるでしょ。数年前にしたときはまだ技術的なことがわかってなかったんだよね。」


    あるかな? じっと見ると、多少毛髪の根元がへこんでいるのがわかる。髪の毛をそったら、多分つぶつぶの跡が目立つのかもしれない。でもじっと見た限りでなので、こういうのを PIT SCAR と言っていいのかな? という気にもなる。チャン先生自体は気にしておられる様だが、正直チャン先生はまったく植毛したとはわからない。 
     

           
    ・PIT SCARについての補足(*12)
     
     

    そのあと、いくつか症例写真を見せてもらったなかで、フラップ法の写真がかなりあったのが印象的だった。
    フラップ法でおこなった患者さんは殆どの人が上向きの髪の流れになってしまう。確かに密度はフサフサだ。ただ、いきなり生え際から髪の毛が上に向かって生えている(髪型はシュワルツネッガーみたいだが生え際が一本のラインになっている)ので、おかしいといえばおかしい。そして生え際にも、白い傷跡がはっきりと残っている。密度的には申し分ないので勿体ないといえば勿体ないのだが。なんとか安全にフラップやパンチを生かせる方法があればいいと思った。(フラップの可能性については、外科的療法「フラップの追加項目」参照)
     
     


    髪の毛がカールする症状について
     
     

     以前ここの掲示板で、植毛した毛がカールする症状が話題になったことがあった。それを思い出したので、チャン先生に聞いてみた。すると、


    「わりと起こりうる症状だね。5人に一人は起こるよ。直毛の人もなるしね。一年たったら大体元に戻る。ドナーサイトから取り出した頭皮をカッティングする際の技術的問題だと思う。」


    とのこと。直す方法は聞けなかった。とりあえずこの位の危険は引き受けなければいけないのかもしれない。
       
     
     
    (*13)
    しかし、このカールにかんしては、実は紀尾井町クリニックやNHTでおこなった患者さんでも、一年たっても直毛にならない、という方がそれ相応におられます。もちろん、そのウエーブのおかげで、髪に予想以上のボリュームが出て、よかったといわれる人もそれなりにいますし、気にならない程度だといわれる人もいます。このマイクログラフト法に関するウェーブの問題については、横浜形成美容外科の今川先生も、著書の中でかならず移植毛の何%の割合で縮れ毛が出て、全体にウエーブがかかる傾向が多い、と述べています。このウェーブに関しては、本当に自毛植毛にまつわるしか他のないリスクなのでしょうか。
        
    たしかに、アメリカのクリニックのビデオを見ても、それなりにウエーブがかかった人がより多く出演しています。それはもともとウエーブがかかった髪質であって、数回の自毛植毛で完全にボリュームを取り戻せたからこそ出演しているのでしょうが、ただ、それだけではなく、自毛植毛に必然的にウェーブがかかりやすいことを示しているとも受け取れるでしょう。しかし、よくみると、そうしたウェーブにかかっていないような患者さんが出演しているクリニックもあります。そのクリニックでは、移植の際に、移植孔拡張器(ほそい金属性の棒のようなもの)をもちいて、グラフトを出来るだけスムーズに移植孔に挿入し、無理に押し込むことでのH-ファクターを減らす努力をしています。僕の私見ですが、こうした技術的な丁寧さが、またこの毛髪のカーブ問題に解決の一役を買っていそうだと推測しています。つまり、このウエーブの問題は、技術的に乗り越えられる問題であり、それをいまだ多数のクリニックは実践していないのではないか、こうした感想を僕自身は抱いています。
     
     


    またNHIのHPでは、移植毛髪の成長は一般的に wave しながら始まり、成長が早くなるまでの間(2〜3週間、時々数ヶ月)それは続くという事らしい。

    最後に定着率に関して聞いてみると、NHIでは90%という答えが返ってきたのだが、チャン先生は95%と答えてくれた。




    第三章 市川さんとの話:植毛情報の日米格差について

     
     
     今回の渡米でお世話になった通訳者の市川さんも、同じ悩みを共有している。それだけに、いろいろと Seminer 以外でも話しを出来て非常に有意義だった。
    その話しの中でも、日米間の植毛情報、植毛に望む環境の話しはとても興味深いもので、実際にここでも問題として取り上げて見たいと思ったので、少し詳しく書いて見ようと思う。

     自毛植毛はもともとアメリカで興隆してきただけあって、アメリカでは多くの情報(肯定的にせよ否定的にせよ)が流れている。またクリニック自体もかなり数多く、患者自身が手術を決定するまで何回もいろんなクリニックに足を運び、情報を手に入れていることが多い。その手持ちの材料から、どのクリニックで植毛するか、どの医者を選ぶか、価格に関してはどうか、など自己決定をおこなっている。クリニックの方もこうした競争状態の中で、出来るだけ自分のクリニックをよくアピールしようと、HPを凝らしたり、たくさんの症例写真を流したり、今回の様に Seminer を開催したり、価格を抑えたり(1グラフト3ドルなんてところもあった、というかざらにある)、技術的な違いをアピールしたりとさまざまな試みをおこなっている。

     ところが今の日本の現状は本当にいただけないと思う。自毛植毛を含めた毛髪業界の流す一方通行の情報をそのまま鵜呑みにするしかなく、自分の望みと合致しない商品を購入させられてしまう。手に入れられる情報も、スポーツ新聞やTV、週刊誌等の広告、業者の提供する販売用カウンセリングやHP、そうしたものがいまだに主流だ。自毛植毛に関しては特にそうだ。自毛植毛クリニックのHPも消費者をなめきった質のものがほとんどだし(特にAクリニック、Eクリニックなどは本当にそう思う)、週刊誌などでも詳しいことはぼかされてわからない。自分の望みがその技術によって実現可能なのかどうかを判断するにも、材料となる適切な情報が欠けている。この現状の中で、自分の責任において自己決定するなんてことは、結局医者や業界側の言葉を信じて高い崖から目をつむって一歩を踏み出すようなものだ。

     そうした現状を話していたら、次第にこうした情報量の格差を維持し、交流を妨げる要素としての言葉の問題に話題がうつった。
    そうなのである、いまこのインターネットで、実際にいろんな情報が手に入る。けれど、英語という問題は大きい。一番明確なアメリカの植毛情報に手が着けられないのだ。実際に毛髪関係のネットでも、翻訳ソフトなどが当てになるレベルでない現在、英語の論文(Regrowthなど)を読めて、それを日本語でわかりやすく翻訳するだけで、貴重な情報となる現状がある。
     またアメリカの、ある程度技術力があり廉価なクリニックを選びたくても、まず医者と意志疎通が出来ない。自分の欲求を伝えられないし、医者の大事なコメントすらわからない。また、自分で植毛旅行を計画するのも大変な苦労がいる。

     この言葉の問題に対して、市川さんの提案は興味深かった。いま Unicom の方で、無料でそうしたアメリカの毛髪関係の情報を翻訳してネットで提供することは可能だという。現在の競争の中で、自分の企業の進展を図るためには、単なる営利よりも、ある程度社会的な信用を勝ち取る方が重要になる。それゆえに社会的貢献目的で、利潤の一部を還元して貢献度の高いなにかをおこなうことは企業の目的に外れたことではない。もし日本の方で、そうした多くの情報を求めている人が多いのであれば、無償の翻訳ページの実現も考えられるだろう。
    また、アメリカの植毛クリニックに対してのメディカルツアーも企画することは可能だろう。現地までの航空券やホテルの手配、現役看護婦等のしっかりした医療知識を持つ翻訳者の用意、アフターケアーに対する問い合わせ等々まとめてパッキングして商品として提供できる可能性もある。もちろんこれは、あるクリニックと契約でき、月に10数人程度の需要が見こめ、採算が取れる場合に限られるが。

    このような話が飛び出して、正直驚いた。たしかにいまの現状でWEB上での翻訳は社会的貢献に関して意味は大きいと思う。インターネットが猛烈な勢いで普及してきている現在は、髪に悩んでネットで情報を得ようとする人も増えていくだろう。そうした多くの人たちの助けになることは間違いないと思われる。当然社会的信用という面からも企業目的は達せられるのではないだろうか。これは実現して欲しい。

     また、今の日本で英語が話せない植毛希望者が頼ることが出来るアメリカのクリニックはほとんどNHTしか考えにくい。日本語が話せるチャン医師がいるからだ。
      
     
     
    (*ただ、NHIの方でも現在日本語がわかる日系二世の方が事務をやっておられて、事前連絡や通訳等で一役買っています。非常に心強いですね。おもいきってNHIのほうに国際電話をかけてみても何とかなるとおもいます。またその他の在米クリニックでも、日本語の通訳を手配できるかと聞いたところ、どのクリニックも快くそれを了解してくれました。通訳を介してアメリカのクリニックを選択することは、気合を入れればそれほど難しいことではなくなってきています。ちなみに通訳の値段はピンから桐までありますが、中程度のレベルで四時間2〜3万というところでしょうか。)
     
     
     
     
    ただNHT自体もアメリカにあるクリニックのひとつだ。他に技術的に優れたところもそれなりにあるだろう。なのに、(悪く言ってしまえば)NHTの日本での寡占状態はどんなものだろうか。価格の面で言っても他のクリニックと比べ競争は出来るもののそれなりにはする値段だ。(というか日本のすべてのクリニックの値段自体が高すぎるのだけど)
       
     
     
    *また紀尾井町クリニックも、アメリカNHTとの価格統一が出来ておらず、日本の患者はアメリカの本院では手術を受けさせないといったような、なかば「医師法」に抵触するような措置もとっていたようですが、最近でもこの内外価格差に対して触れようとはしていません。このあたりはきちっと患者に提示し、どちらのクリニックでも選択可能であることをきっちりと明示すべきではないでしょうか
     
     


    その意味でも、市川さんの言うように、NHT以外のクリニックへのメディカルツアーがパッケージ化される可能性は、とても期待していい方向だと思う。

    ただ翻訳ページはともかく、結局いきつくところは採算の問題で、実際に植毛の需要がどれだけあるか、また連携してくれるクリニックがあるかという大きな問題があるので、パッケージの方はすぐには実現しないだろう。ただ、どちらも、これからの自毛植毛の可能性とそのメジャー化には欠かせないものと思う。なんとかならないものだろうか。

     

    さいごに

     
     
     自毛植毛について調べ始めてもうすぐ一年になります。いいかげん実行しようかな、という気にもなっているのですが、ちょっと踏ん切りがつかない日々が続いています。それは、いろいろ調べていくうちに、この自毛植毛のよい面だけじゃなくて、いただけない面や、技術的な限界が少しづつわかってきたからです。

     僕自身は、この雑文の中でも書いたように、まだする必要がないといわれています。ただそれでも自分ではとても気になってしまう。少なくなった前髪を取り戻して若々しくなりたい。贅沢で、そして切なる願いです。けれど、それはある意味はげているのをカバー出来ればいい、というだけでなく、審美的な要求でもあります。この自分の審美的な欲求を、自毛植毛は本当に実現してくれるほど優れた技術なのか、それほどきちんとした密度や髪の流れを実現できるのか、そうしたことをきちんと見極め、するのであれば現実的に実現可能な自分のなりたい姿を思い描いて実行したいのです。

     また、一時的に自分の要求が実現できたとしても、自毛植毛はそれに付随するいくつかの問題を抱えています。ここにも書いたように PIT SCAR、STRETCH BACK 等の傷跡の問題、Shock Loss、髪のカール状態、10年後20年後の状態の考慮と将来にわたる手術の繰り返しの問題、それにともなう高価格、等々。こうした問題に対しても、どう考え受けとめるのかを自分でわかっておきたいわけです。

     ただ、ここまで限界や問題がある事がわかりながら、どうしておまえは自毛植毛にこだわっているんだ、と言われるかもしれません。それは、このような限界や問題があったとしても、それでも自毛植毛は、その技術に見合った現実的な要求を持つ人にとっては間違いなく、髪に対する悩みの解決をもたらすことが出来るものだからです。これは、僕の調べた限りほぼ断言できます。
    市川さんが話してくれた事ですが、彼の知り合いで自毛植毛を受けた方がいらっしゃるそうです。その方に自毛植毛の話を聞くと次のような答え方をされたそうです。


    「そういえば、むかしハゲだったなあ」

    と。

     
     だからこの雑文を最後まで読んでくれた方にお願いしたいのですが、まずいろいろ調べてください。自毛植毛の技術とその限界を理解して、現実的に可能ななりたい姿を予測して、実行するかどうかを決めてください。そうした現実的な期待が自毛植毛の成否を決める一番大きな問題かもしれません。そしてその際にはこの kaminoke.com の掲示板 も有力な情報源になると思います。
     
     


    補足――紀尾井町からのメールに対して
      
     
     
    この文章をカミノケコムにアップした当初、紀尾井町クリニックから「なぜ私たちのクリニックだけが価格批判を受けなければならないのか」と言った内容のメールがとどきました。そして、一時期、それにたいして、紀尾井町が日本でもっとも優れたクリニックであるがゆえにその期待の裏返しだと考えて欲しい、とコメントをつけていました。
     
    しかし、いま、僕がいえることは、次のような事です。NHTが自らドメインを取得したカミノケコムに、自らのクリニックで手術を行なった人の体験談を載せている、かつ、カミノケコムで最も話題に上るのがNHTや紀尾井町クリニックである以上、そうした情報提供の場を作ること自体のリスクとして、自らに対する批判も受け取らなければならないのではないか、いまの僕はそうおもっています。実際にカミノケコムをアップして以来NHTと紀尾井町クリニックの評価は上昇しているはずです。幾人もの体験者が顔を出して、うまくいった、傷も残らなかった等の投稿を行なっているのですから。
     
    そして、そうした情報交換の場を設定している以上、批判的な意見も受け取るべき責任があるはずです。それは一番そこで話題に上がるクリニックだからこそそうだともいえます。かつ、この文章は、ある特定のクリニックだけを批判している文章ではありません。それはよく読んでもらえればわかると思います。






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