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巻頭閑話(2002年)
【02/12/30】 月の石はエイズの特効薬である?
【02/12/25】 「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(案)」に対する意見の募集について
【02/12/15】 新農薬取締法における使用基準の厳格化を憂う。
【02/10/29】 モスクワ劇場占拠事件で使われた特殊ガスの被害者
【02/10/28】 モスクワ劇場占拠事件で使われた特殊ガスの解説に神奈川大学常石教授が登場した。
【02/10/22】 新農薬取締法では登録のいらない「特定農薬」が新設される。
【02/10/20】 HB-101は発癌物質とみなすべきである。
【02/10/20】 「毒性試験基本セット」
【02/10/20】 農作物に使われる350の農薬の中で残留農薬基準のない農薬はいくつか。【補足】
【02/10/19】 農作物に使われる350の農薬の中で残留農薬基準のない農薬はいくつか。
【02/10/13】 NHKには田中耕一氏のノーベル賞受賞対象の研究を報道する責務がある。
【02/10/09】 島津製作所田中耕一氏のノーベル化学賞受賞を祝す。
【02/10/09】 小柴東大名誉教授のノーベル物理学賞受賞を祝す。
【02/09/23】 中国産野菜にはディルドリンとメタミドホスとクロルピリホスに象徴される問題がある。
【02/09/16】 次の「無登録農薬」問題
【02/09/11】 「発癌性の無登録農薬」ダイホルタンについて
【02/09/01】 ティア(Tier)とトリガー(Trigger)
【02/08/25】 なぜ食品添加物の登録制度には1億円と0円という2つの基準しか存在しないのだろう。
【02/07/14】 厚労省の食品添加物指定方針の変更を評価する。
【02/06/25】 協和香料添加物問題(6);NHKクローズアップ現代「食品の大量回収はなぜ起きたか。〜検証・違法香料事件〜」検証
【02/06/19】 農薬残留分析の公定法に免疫測定法(ELISA法)を採用せよ。
【02/06/15】 協和香料添加物問題(番外);報道機関の「勇気」とは
【02/06/15】 協和香料添加物問題(5);食品添加物の登録制度と残留農薬基準の整合性
【02/06/15】 協和香料添加物問題(4);最大の問題は化学物質の安全性評価における日本の後進性にある。
【02/06/15】 協和香料添加物問題(3);続・問題の本質は厚労省の怠慢にある。
【02/06/10】 協和香料添加物問題(2);イソプロパノールという化学物質は存在しない。
【02/06/07】 協和香料添加物問題(1);問題の本質は厚労省の怠慢にある。
【02/06/01】 チェルノブイリと中国の地下核実験
【02/06/01】 中国産ほうれんそうからディルドリン(4);「大量に摂取すると危険な農薬」が検出された。
【02/05/25】 中国産ほうれんそうからディルドリン(3);0.01ppmの残留で何人の日本人が癌で死亡するか。
【02/05/23】 中国産ほうれんそうからディルドリン(2);NHKはいつまで中国に隷従し事実を陰蔽するのか。
【02/05/22】 中国産ほうれんそうからディルドリン(1);中国は国際的に禁止された農薬をいまだに製造している。
【02/05/21】 学術用語の邦訳;光分解と光照射下の安定性
【02/05/06】 犬の糞
【02/04/21】 犬と農薬(2);どのような事実があれば犬の死因を農薬中毒と断定できるか。
【02/04/18】 犬と農薬(1);イヌは,ある種の植物毒に極端に弱い。
【02/03/14】 NHKはいつまで「国が環境ホルモンの疑いがあるとする農薬」などという捏造報道を続けるのか。
【02/03/03】 学術用語
【02/02/22】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(4)
【02/02/17】 EUの環境動態モデル
【02/02/12】 遅延型皮膚反応(IV型アレルギー反応)
【02/01/13】 たき火とダイオキシン
【02/01/06】 有機農法はなぜ普及しないのか。

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【02/12/30】 月の石はエイズの特効薬である?

年末ですので私の創作した全くデタラメな妄想話を載せることにしました。全て捏造ですので,くれぐれも誤解のないようお願いします。自然農法などのHPで多用される手法を使ってますので,多少とも信じた方はご注意下さい。

人類学ではミトコンドリア・イヴが信じられているように新人アフリカ起源説が有力になっている。つまり,北京原人やネアンデルタール人は今の人類の直接の祖先ではなく,新人と混血することなく全滅したと現在は考えられている。そして,その絶滅原因はエイズのような強力なウイルスと推測されている。

最近のヒトの遺伝子解析技術と数量化理論III類に代表される多変量クラスター分析の発達により,現代人にもこの時のウイルスの遺伝子の根跡が見つかり,個体変異から推測される年代が,原人の絶滅時期と一致することが確認されている。

ではこの原人を全滅させたエイズの起源はどこか。かつてはアフリカの無尾猿が起源と考えられていたが,現在では宇宙との説が有力になりつつある。ある種のウイルスが極域の上空でバンアレン帯を通り抜けた太陽風を受け,凶暴なエイズウイルスに変化したのである。

太陽風は多くの成分を含むが,最も重要な成分に中性子がある。一般に物質には波としての側面があり,これをド・ブロイ波というが,中性子はこの波としての側面が大きい。中性子では波独特の回折現象まで観測される。これは中性子が電荷+2/3のアップクオーク1個と電荷−1/3のダウンクオーク2個とで構成されることに由来する。その結合させている力こそ「色の力」で,一見,「白色」の中性子からもわずかに「色」が漏れ出す。この中性子波動によりもともとあまり害のないウイルスが凶暴化したのがエイズである。

一般に,病気の起源を探ればその原因も見つかることが多い。エイズの起源が宇宙である以上,宇宙にエイズの特効薬があると考えるのは至極当然である。では,それは何か。現在有力視されているのはヘリウム3である。地球に存在するヘリウムはヘリウム4であり,これは宇宙でもっとも安定な元素の1つであるが,ヘリウム3はヘリウム4に比べて中性子が1個足りない。つまり,ヘリウム3は中性子と反対の波動を持つのである。

賢明な諸君は,中性子の波動を受けて凶暴化したエイズウイルスを押さえ込むためには,これと拮抗する波動を持つヘリウム3を使えばよいことに気付かれたであろう。では,ヘリウム3はどこにあるのか。本来は太陽風のなかに含まれているが,地球はバンアレン帯や磁気圏などのバリアーで守られているために地上には到達しない。もっとも身近に存在するのは,これらのバリアーのない月である。月には40億年の間ヘリウム3が降り注ぎ,地表付近の岩や砂にトラップされている。

ヘリウム3の有用性は原爆の父といわれる物理学者オッペンハイマ―も認識していた。しかし,1960年代の認識には重大な誤解があり,ヘリウム3は遺伝病に効果があると信じられていた。この情報を妄信したのが,不幸にして遺伝病の家系に生まれたJ・F・ケネディである。この家系にしばしばおこる「不幸な事故」は実はある遺伝病に由来することは米国では公然の秘密である。とにかく,ケネディが月にこだわったのにはこんな背景があった。

将来,太陽風にさらされヘリウム3を多く含む月の石が近くの薬局でも手に入る時代になろう。そのとき,猖獗を極めたエイズも天然痘のように過去の話になるだろう。

 

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【02/12/25】 「今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(案)」に対する意見の募集について

12月20日に経済産業省,厚生労働省及び環境省のHPのパブリックコメントのページ(環境庁のみリンクする)に同時に今後の化学物質の審査及び規制の在り方について(案)」に対する意見の募集についてが公表された。内容は,環境中の生物への影響に着目した化学物質の審査・規制に関するもので, 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律 (化審法) に関する部分が多い。私の感想は,「化学品もやっと農薬のレベルに近づいてきた。」である。

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【02/12/15】 新農薬取締法における使用基準の厳格化を憂う。

改正農薬取締法が平成14年12月11日に公布された。問題点は多いが,あまり議論されていないことの1つに第十二条の六に規定されていた農薬安全使用基準が削除され,第十二条の条文に統一されたことがある。

改訂前
(農薬安全使用基準)
第十二条の6 農林水産大臣は、農薬の安全かつ適正な使用を確保するため必要があると認めるときは、農薬の種類ごとに、その使用の時期及び方法その他の事項について農薬を使用する者が
遵守することが望ましい基準を定め、これを公表するものとする。

改訂後
第十二条 農林水産大臣及び環境大臣は、農薬の安全かつ適正な使用を確保するため、農林水産省令・環境省令をもって、現に第二条第一項又は第十五条の二第一項の登録を受けている農薬その他の農林水産省令・環境省令で定める農薬について、その種類ごとに、その使用の時期及び方法その他の事項について農薬を使用する者が遵守すべき基準を定めなけれならない。

問題は,罰則がなく「遵守することが望ましい基準」であった農薬安全使用基準が,罰則のある「省令に定める遵守すべき基準」に厳格化された点にある。農薬安全使用基準には「1000倍に希釈し,10アールあたり500から700リットル散布する。」などと記載されているが,これは「遵守することが望ましい基準」であるから, 500倍に希釈して300リットル散布しても2000倍に希釈して1000リットル散布しても問題はなかった。しかし,法律施行後は980倍や1024倍に希釈したのでは違反になってしまう。1000倍の規定は遵守しなければならない。また,適用害虫も厳密に規定されるのだろう。ミカンハダニに登録のある農薬をその適用基準通り散布しても,発生していたのがナミハダニであれば法令違反になってしまう。

農家は,温度の高い日も低い日も,雨の日も曇りの日もある自然の中で,病害虫という「自然」を相手に闘っている。農薬散布に杓子定規な基準はなじまない。しかし,昨今の風潮を見ると,このような機械的な厳格化の例は今後も増えていくのだろう。

 

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【02/10/29】 モスクワ劇場占拠事件で使われた特殊ガスの被害者

モスクワ劇場占拠事件で特殊部隊が使った特殊ガスの犠牲となったのは舞台近くにいた観客ではないか。犠牲者が多く出たとの報道を聞いて私はそう考えた。使われたガスは空気より重いからである。

特殊部隊の突入の際,どのような方法と経路で劇場内にガスを導入したかは定かでないが,少なくとも劇場内に短時間にガスが充満したことは間違いない。このようなガスがハイジャック機に使われたなら問題はない。しかし,今回は高低差が大きくて広い劇場という空間で使われた。空気に比べて重いこれらのガスは,劇場内を一斉に下降し,最も下の「かぶりつき」の場所では極めて高い濃度に達したものと推測される。一方,占拠犯人たちは突入に備えて多くが入り口付近の高い場所にいたと思われる。彼らの動きを止めるため,低い位置にいる人質が犠牲になることを覚悟していたとしても,それもやむを得ない選択だったのだろう。

問題はロシア政府が治療薬を病院に渡し,その使用法を正しく伝えるという対応を採らなかったことである。もし,伝えられるようにBZであればフィゾスティグミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が有効と思うからである。これは,サリン中毒に硫酸アトロピンが有効なのと逆の関係になる。ただ,現時点では文献を調べていないので確信はない。

【追記】 その後,当局は30日に特殊ガスは「フェンタニール」であったと発表した。

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【02/10/28】 モスクワ劇場占拠事件で使われた特殊ガスの解説に神奈川大学常石教授が登場した。

今日(10月28日)NHKニュース10でモスクワ劇場占拠事件で特殊部隊突入で使われた特殊ガスに関する報道があり,その中で神奈川大学経営学部常石敬一教授が登場して,素っ頓狂な発言をしていた。最初に暴動鎮圧に使われるガスだと思ったといったのである。3−キヌクリジニル=ペンジラート(別名BZ)の作用もまるでわかっていない。

しかし,NHKはいまだに常石教授を毒ガスの専門家と考えているようだ。その不見識には呆れるほかない。常石教授は高校生レベルの化学知識さえ怪しい。報道編に準備中の「サリン事件の際に登場した「専門家」を嗤う。」を早急に完成させ,私がなぜそのように確信するか示す必要がありそうだ。

【付記】作成しました。
●サリン事件に登場した「毒ガスの専門家」常石敬一教授を嗤う。【02/11/02】

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【02/10/22】 新農薬取締法では登録のいらない「特定農薬」が新設される。

今日(10月22日)の日本農業新聞に「登録がいらない「特定農薬」(仮称)を新たに設け、使用を認める方向が固まった。」とあった。例として「防除用の牛乳スプレーや穀物酢などが挙がっている。」という。

これは制度としては正しいだろう。確かに,現行制度で牛乳や穀物酢をスプレーすると無登録農薬の使用になり罰金対象となるのはおかしい。法の解釈によってアイガモが無登録農薬(天敵)になりかねないのも問題がある。本物の農家なら牛乳スプレーのようなウラワザをいくつも知っているのかもしれない。違法なウラワザも多いが。

しかし,このような例外規定では運営に十分な注意が必要である。個々の事例について個別に評価し,「天然の植物から抽出しただけのもの」などという統括的な表現を避けねばならない。食品添加物を一括してこのリストに入れることもしてはならない。一般に,食品添加物は農薬より安全性評価がはるかに甘い。

私がこのリストに入れとも良いと考えているのは,テントウムシ,毒蜘蛛,アイガモなどの土着の天敵と昨年失効した液化窒素ぐらいである。現在の「有機農産物にも使える農薬」にもこのリストに入れるべき農薬はない。逆に絶対に入れてはならないのは木酢液HB-101である。

以前,食品添加物の登録制度に1億円と0円の2つの規定しかないのは問題であり,ティアーシステムを導入すべきだといった。農薬についても10億円と0円の2つの基準だけを設けるのは問題である。「0円の農薬」は最小にとどめ,あとは運営で対応するのが正しいだろう。

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【02/10/20】 HB-101は発癌物質とみなすべきである。

最近,新聞,TV等でHB-101の宣伝がやたら目に付く。HB-101とは「植物の免疫づくりと害虫をよせつけない働き」があるとして農薬としての効能を謳う悪質な無登録農薬である。おそらく,農薬取締法改訂後に官憲の手が入り,HPやパンフレットに登場する「無登録農薬使用農家」には原稿料をはるかに超える罰金が科せられるであろう。

われわれ農薬製造会社が「試験的に」野外で散布する場合でさえ「毒性試験基本セット」7試験を実施することはすでに記載した。それゆえ,HB-101を製造するフローラ社のHP(http://www.hb-101.co.jp/)には驚かされる。非GLPマウス急性経口毒性試験限界試験だけで「安全性」を謳っているのである。これで安全性をいうのは「詐欺」である。散布した場合の安全性とは,手についても,眼に少し入っても,多少なら吸引しても安全だとの意味である。飲んでも死ななかったことは「安全性」にとってほとんど意味を持たない。もちろん,最も重要な毒性項目は発癌性である。

試験が非GLPであることも呆れる。GLP(優良試験所基準)とは試験の捏造や改竄,被検物質の入れ替え等を防ぐために考えられた制度である。この場合,試験を実施した日本食品分析センターは信頼できる試験機関であるため,捏造や改竄はあるまい。しかし,フローラ社が被検物質(試験試料)として「色のついたただの水」を渡した可能性は否定できない。「そんなことをするはずがないだろう。」というかもしれない。しかし,それを行った会社があったためGLP制度が生まれた。現在,非GLPの試験結果は「色のついた水」での試験とみなして安全性評価の資料としないのが常識である。しかも,この試験に供した試料にロット番号が付されていないことも興味深い。毒性試験に供する試料にはロット番号を付し,それを報告書に明記するのが常識である。そう考えると「色のついた水」が現実味を帯びてくる。

安全性にとって最も重要な発癌性については,HB-101は発癌物質とみなすべきである。なぜか。簡単である。発癌性試験を行っていない物質は発癌性があるものとみなす。これが正しい予防原則である。天然物であることなどは何ら根拠とならない。

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【02/10/20】 「毒性試験基本セット」

農薬の開発では,社内で効果試験を行ったのち公的機関に委託し公正な立場で効果を判定する試験がある。これは重要な過程であり,この段階で初めて農薬会社の管理下にない者がその新規農薬を取り扱うことになる。そのため,この段階までに必ず実施しておくべき毒性試験がある。散布者はごく少数でしかもプロだが,たとえそのごく限られた者に対する安全性を確保するためであっても最低限の毒性を調べておかねばならない。これは農薬開発会社にとって当然の責務である。私の勤める某社ではこれを「毒性試験基本セット」と呼称しており,以下の7試験がこれに該当する。

  • 急性経口毒性試験
  • 急性経皮毒性試験
  • 眼一次刺激性試験
  • 皮膚刺激性試験
  • 皮膚感作性試験
  • 復帰変異原性試験
  • 小核試験

ところが,HB-101に代表される「農薬もどき」はこれら「試験的に」野外で散布する上で最低限必要となる安全性試験さえ行わず,広く一般に販売されている。

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【02/10/20】 農作物に使われる350の農薬の中で残留農薬基準のない農薬はいくつか。【補足】

この設問は,番組の冒頭での主婦への質問の際に流されたテロップでは「農作物に使う農薬350種のうち残留基準のないものはいくつ?」であり,番組中での女性アナウンサーの表現は「日本でいま野菜や果物に使うことのできる350種類の農薬の中で」であった。後者の「野菜や果物に」であれば350は多すぎるため「農作物に使う」であることは間違いあるまい。

問題は「農作物に使う農薬」が「農作物に適用のある農薬」か「農作物に直接処理する農薬」かなのだが,昨日の記事では一応後者と解釈した。たとえば,種子処理剤は農作物に適用があるが,可食部の残留のないことを証明すれば残留はないとみなされADIは設定されない。果樹園の下草や田の畦畔の雑草を防除するための除草剤も,農耕地に使われる農薬であるがADIの設定がされない場合がある。クロルピクリンなどの土壌燻蒸剤にも残留基準はない。これらの「農作物に適用のある農薬」も350に入っているとすれば,「正しい回答」即ち,ADIが定められているにもかかわらず残留農薬基準の定められていない農薬の数はさらに減る。

さらに,田植えの直後だけに使われる除草剤のように,わざわざ残留農薬基準を設定しなくとも登録保留基準で十分な場合も多い。これらはコメに残留しないことが明白であるため,検出限界が規制値とされている。そのような農薬に残留農薬基準を設定すると無意味な分析件数を増やす結果となり,かえって消費者に対する安全性を阻害する。

以上のような正しい考察をNHKに期待するのは無理だろう。「政府の対応が遅れている」といいさえすれば,低俗なマスコミでも一応格好の付いた番組を作れる。それがNHKにとっての「安全性」である。

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【02/10/19】 農作物に使われる350の農薬の中で残留農薬基準のない農薬はいくつか。

NHK総合10月19日のNHKスペシャル「どうする食の安全」の中でこのような設問があった。答えは168だが,いかにもNHKらしい馬鹿げた質問である。食品に使われる農薬の中には,重曹,イオウ,石鹸,マシン油,シイタケ抽出物といった天然物や無機物がある。これらは農薬に使われる程度の量なら摂取しても問題がないとの理由でADIが定められていない。ADIの存在しない農薬には,登録保留基準残留農薬基準もあり得ない。従って,設問は「ADIが定められている農薬の中で残留農薬基準の定められていないものは」でなければ意味がない。答えは100前後になるだろう。

出演者の中には全ての農薬に残留農薬基準が存在すべきだという者もいたが,その程度の素人にこのような質問をするのはほとんど詐欺といえるだろう。もっとも,詐欺はNHKの得意技だが。

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【02/10/13】 NHKには田中耕一氏のノーベル賞受賞対象の研究を報道する責務がある。

島津製作所田中耕一氏ノーベル化学賞受賞報道のあと,同僚やいろんな知り合いに受賞対象はどのような業績だったか尋ねられた。訊いたのは研究職に限らない。おそらく,多くの日本人が受賞対象の業績に興味を持ったのだろう。そして,それを正しく報道することこそが次のノーベル賞受賞者を育てる仕事であり,報道機関,殊にNHKの重要な責務といえるだろう。

しかし,NHKは「蛋白質の種類や量をレーザー光線を使って速やかに分析する手法を開発し,新薬の開発などに革命をおこした。」という下らない説明を繰り返すだけで「質量分析」も「イオン化」も一切報道しなかった。これでは,医療現場で断層撮影に使われるMRIの発明者に「磁石を使って癌の診察をする画期的技術を開発した。」といっているようなものである。そして,報道は田中氏の個人的なことにあまりにも偏っている。たしかに,記者会見に作業着で現れたことやその途中の細君からの電話の対応ぶりは面白い。しかし,「小泉首相との食事のメニューは」といった類だけのインタビュアーの質問には辟易する。少しは研究の中身の話も訊けといいたくなる。

NHKの放送で一応まともだったのは12日(土)の「こどもニュース」だった。しかし,最も重要な「ソフトなイオン化」の「イオン化」の部分を完全に省略していたうえ,蛋白質をネバネバした餅のような球に喩え,これにレーザーを当ててさらさらのピンポン玉のような球に変えるという喩えを用いていた。これでは担当者の理解が不足しているといわざるを得ない。TOF-MS(飛行時間質量分析)の説明でもイオンの電荷と電場の議論を省いては説明にならない。

おそらく,NHKの担当者はマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS,Matrix-assisted laser desorption ionization mass spectrometry)を理解することを早々に諦めたのだろう。そして,誰もこんな説明など聞きたくはなく,また,聞いても仕方がないと勝手に考えたようだ。まさに銃殺刑に値する敵前逃亡行為である。次のノーベル賞受賞者を育てる重要業務を抛擲したのだから,この表現は大げさではない。

一昨年の白川筑波大学名誉教授,昨年の野依名古屋大学教授の受賞対象についてはそれなりに説明されていた。野依教授の業績でもキーワードである光学異性と不斉合成は説明されていた。今回の「質量分析におけるマイルドなイオン化法」もさほど難しい概念ではなく,一般人でもそれなりに理解できるはずである。少なくとも,同時受賞となったNMR法での蛋白質の立体構造の解析に比べればはるかに理解しやすい。NMRだと,プロトンや13Cの核スピンの概念が最低でも必要になる。

小泉首相は「日本も捨てたものじゃない。というより大したものだ。」といっていたが,今回のNHKの報道を見る限り日本の科学技術の将来には暗雲が立ちこめているように思える。NHKの科学技術に対する報道姿勢は民放のお昼のワイドショーと大差なく,リテラシーは三流タブロイド紙にも劣る。

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【02/10/09】 島津製作所田中耕一氏のノーベル化学賞受賞を祝す。

本日(9日)19時のNHKニュースでマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS,Matrix-assisted laser desorption ionization mass spectrometry)のパイオニアの一人である田中耕一氏がノーベル化学賞を受賞したと放送していた。MALDIは質量分析法の画期的なイオン化法と認識していたが,これほど評価されているとは知らなかった。質量分析法とは分子をイオン化し,そのまま,あるいは適当に化学結合を切ってバラバラにし,その重さを量ることによって分子構造の情報を得る手法である。

質量分析法のイオン化法では電子衝撃イオン化(EI),化学イオン化(CI),電解脱離イオン化(FD),高速原子衝撃イオン化(FAB),二次イオン化(SIMS)やLC-MSのインターフェースとしての大気圧イオン化,サーモスプレー,エレクトロスプレーなどがあるが,これらの手法の進歩と比べてもMALDIは画時代的だった。しかし,まさか分析法がノーベル化学賞の対象となるとは思わなかった。

質量分析法ではイオン化とともに検出手法の進歩も大きい。ニヤー−ジョンソン型(電場−磁場型)や四重極型以外にも飛行時間質量分析計も実用化され,MS/MSやMS/MS/MSも一般化しつつある。これらによって,従来は困難であった蛋白質のような巨大分子の構造を質量分析法で解析することが可能になった。

19時のNHKニュースでは「タンパク質の種類や量をすみやかに分析できる新たな手法を開発し、新薬の開発に革命をもたらした。」と報じただけでMALDI-MSはおろか質量分析法という言葉さえ一切報道されなかった。NHKではきっと誰かが今晩徹夜で勉強するのであろう。明日の朝,その勉強の成果がどの程度か見るのが楽しみだ。

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【02/10/09】 小柴東大名誉教授のノーベル物理学賞受賞を祝す。

小柴昌俊東京大学名誉教授ノーベル物理学賞を受賞した。自然科学で初めて東大出身者の受賞となり,東大関係者はさぞ安堵しているだろう。四国の地方大学出身者に先を越されずにすんだ。しかし,カミオカンデのような巨大設備の必要な科学分野では政治力が重要となるため,これからは東大の出番かもしれない。

私は8日19時のNHKニュースでこれを知った。別の仕事をしながら聞いたため明確でないのだが,ニュートリノに大きさがあるような説明をしていたように思う。ハドロンとレプトンに分類される素粒子に大きさと励起状態はあり得ない。ニュートリノを「物質を構成する粒子である素粒子のひとつ」と表現していたがこれも適当ではない。ニュートリノは宇宙を構成する粒子だが,普通の意味で物質を構成する粒子ではない。

とにかく,なにか突発事態が起こると理科系知識に対するNHKの無脳ぶりがわかって面白い。

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【02/09/23】 中国産野菜にはディルドリンとメタミドホスとクロルピリホスに象徴される問題がある。

中国産野菜の残留農薬の問題は慢性毒性のディルドリン(アルドリンを含む)と急性毒性のメタミドホスに集約される。クロルピリホスの残留事例には,中国における農薬の使用法の問題が潜んでいる。

ディルドリンの問題とはすでに「中国産ほうれんそうからディルドリン(1);中国は国際的に禁止された農薬をいまだに製造している。」と「中国産ほうれんそうからディルドリン(3);0.01ppmの残留で何人の日本人が癌で死亡するか。」で議論したように慢性毒性,特に発癌性の問題である。

一方,香港で毒菜事件を起こしたメタミドホスの問題は急性毒性にある。この問題の重要性は十分に理解されていないようだが,残留農薬が急性障害を引き起こすことなどあってはならない。私の知る限り本邦で農薬の作物残留により急性中毒を生じた確実な事例は存在しない。もし,そのような事例がおきれば傷害罪が成立するだろう。米国ではスイカのアルジカルブの残留で死者が出ているが,これは事故に相当する特殊な事例である。

農薬の残留基準はヒトが一生食べ続けても問題のない量を基準に設定されている。その値はラットやマウスでの無毒性量(NOAEL)の1/100が基準であり,確実中毒量は一般にNOAELの10倍以上であるから,中毒量は残留基準の1000倍程度と予想される。ヒトは齧歯類よりメタミドホスのようなアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に敏感だが,野菜の摂取量を考えると中国では残留基準の1000倍量の農薬を含む野菜が平気で流通していると考えるべきだろう。そのような状況が継続している中国には農薬の規制など事実上存在せず,中国は法律を守るという習慣のない無法国家だと看做してよいだろう。それゆえに,中国産野菜は信用できないのである。

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【02/09/16】 次の「無登録農薬」問題

「無登録農薬」の問題が喧伝されている。しかし,ダイホルタンやプリクトランなどはかつては農薬として使われていたが現在は登録が失効している農薬である。そして,当時の効果に未練と愛着のあった農家が業者に無理をいって入手して使った。もちろん,今回の問題は失効した有効成分を使って製剤した無登録農薬であることはいうまでもない。

次は,本当の無登録農薬が問題となろう。木酢液HB-101に代表される「農薬もどき」の問題である。もっとも,木酢液は昭和54年2月28日まで農薬登録があった失効農薬でもあり,「純天然植物エキス」と称するHB-101は農薬としての効能を陰蔽しているつもりでいる。木酢液の発癌性についてはすでに議論したが,HB-101が無登録農薬であることは明白である。農薬取締法第1条の2に記載されているとおり,殺虫剤等に限らず,「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる薬剤」も法律上農薬である。「植物の免疫づくりと害虫をよせつけない働き」があるとするHB-101は農薬としての効能を謳っている。

そのほかに,農薬の「適用外使用」の問題がある。特に非農耕地用農薬の圃場への転用は問題が大きい。かなり前だが,ある種の桑用の農薬が養蚕地域以外に売れており問題になったことがあった。作物の適用外使用ではマイナー作物が頭の痛い問題である。マイナー作物では,適用拡大に要する経費が売上げの増加で回収できない。ゴルフ場農薬問題の頃には,芝のようなメジャーな農作物等でさえ,ある病害には適用のある農薬が存在せず,「ゴルフ場には芝に適用のある農薬だけを使うこと」という通達が空しく響いていた。

無登録農薬関連の問題では,数多くの法規制が複雑に関係している。私は,農家等での使用の規制を含め,現在の食品衛生法を取り込む形で農薬取締法を抜本的に改正するのが正しいと考えている。

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【02/10/18】「登録失効農薬」とは,「過去に登録があったもので登録の有効期間がなくなったもの」で「ラベルは登録を受けていた際の表示がある」農薬のことをさす。したがって,「無登録農薬」と「登録失効農薬」は異なる。これを明確にするため文章を若干書き変えた。


【02/09/11】 「発癌性の無登録農薬」ダイホルタンについて

テレビや新聞紙上では殺菌剤ダイホルタンについて「発癌性の無登録農薬」という枕詞が頻繁に使われ,あたかもヒトに対して高い発癌リスクがあるように喧伝されている。たしかに,ダイホルタンの有効成分であるカプタホールに「動物試験で発癌性が認められている」ことは確かである。しかし,これを「発癌性のある」という言葉に置き換え,ヒトに対する発癌リスクが大きいとの誤解を与えることは間違いである。カプタホールは初期の発癌性試験では「発癌性は認められない」とされており,現在「実験動物に対し発癌性が認められる」と判断されているのは,その後の発癌性試験の進歩によるところが大きい。このことはカプタホールの発癌性は少なくとも強力ではなく明々白々でもないことを示している。カプタホールとメチルとエチル程度(正確にはトリクロロメチルとテトラクロロエチル)しか違わないキャプタンがいまだに農薬として使われていることもこれを支持している。

古い農薬では登録更新の際,発癌性試験の追加試験を求められることがあり,原体メーカーはこれに要する費用と登録更新後に得られる利益を秤にかけて登録の更新を行わないことがある。これを「発癌性のために農薬登録が取り消された」と喧伝する御仁がいるが,これは一般論としては誤りである。カプタホールに関しても本邦での登録失効時(平成元年12月25日)には収益性の問題で登録更新を断念したと考えられる。しかし,その後の研究をもとに厚労省がADIを取り消した平成8年9月2日からは「発癌性のために登録のない農薬」といっても間違いではない。

以上については,主にIPCSのINCHEMを用いてカプタホールキャプタンの毒性試験の概要をさらに調査する予定でいる。

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【02/09/01】 ティア(Tier)とトリガー(Trigger)

日本での農薬登録申請は「フルパッケージ法」とでもいうべき方法である。申請には「薬効、薬害、毒性及び残留性に関する試験成績」を全て揃える必要がある。もちろん,農薬によっては試験項目が不適当な場合や意味のない場合も出てくる。このような場合は代替書や見解書によって試験が免除される。たとえば,殺鼠剤ではマウスやラットを用いた安全性試験が無意味になり,イヌなどでの安全性試験で置き換える。

一方,欧米での農薬登録制度の基本はティアシステム(私の訳で用語として確立しているわけではない)で,個々の化合物の特性による自由度が大きい。たとえば,地下水汚染の評価法は以下のようになる。

1.〔土壌中90%分解時間が21日以下〕かつ〔水溶解度が30 mg/L以下〕
 YESなら登録可能,NOなら2へ

2.最悪シナリオでのモデル計算を行い,その結果;
 〔予想地下水濃度が0.1 mg/L以下〕かつ〔予想地下水濃度が環境影響濃度以下〕
 YESなら登録可能,NOなら3へ

3.ライシメータ試験を行い,その結果;
〔溶脱水濃度が0.1 mg/L以下〕かつ〔溶脱水濃度が環境影響濃度以下〕
 YESなら登録可能,NOなら次のレベルへ

つまり,「土壌中で速やかに分解するなら地下水汚染の試験は不要だが,そうでなければパソコンでモデル計算をしなさい。モデル計算で地下水汚染の可能性があると判定されたのなら,ライシメータ試験をやりなさい。」といった具合に試験のレベルを徐々に上げていく手法がティアシステムである。

ここで1,2,3に示した判断基準をトリガーという。実際にはトリガーを菱形で囲みそこからYESとNOの2つの線を出してそれぞれの対応につないだ図で表現することが多く,この図をダイアグラムと表現する。なお,ここに示したトリガーはかなり割愛しており,実際はもっと複雑である。

本邦の農薬登録システムでも明記はされていないが,ティアシステムの考え方が取り入れられつつある。しかし,食品添加物にはこのような考え方は皆無のようだ。「なぜ食品添加物の登録制度には1億円と0円という2つの基準しか存在しないのだろう。」で登録制度の不備を指摘したが,食品添加物こそティアシステムを採用すべき分野である。

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【02/08/25】 なぜ食品添加物の登録制度には1億円と0円という2つの基準しか存在しないのだろう。

私は農薬が専門で食品添加物について詳しくはないが,食品添加物の登録制度は食品の安全性の確保という最重要の観点から見て問題が多いと思う。安全性上全く問題のない物質が形式的に食品添加物に該当するだけで1億円強の過大な安全性試験のデータが要求され,その一方で,天然物だという毒物学的には何の意味も持たない理由によって一切の安全性試験が免除される食品添加物が存在する。

典型がアセトアルデヒド紅麹色素である。香料に使う程度の極微量のアセトアルデヒドを食品に添加しても何の問題もないと思うのだが,1億円強の費用を要する安全性試験が必要だとされる。その一方ではカビのつくる色素という多少の化学知識のある者なら発癌性を疑い,混在する不純物にも発癌物質が存在すると予想する「化学物質の混合物」が「安全な天然物」として初歩的な安全性試験すら免除され使われている。カビは多種多様の発癌物質や催奇形性物質を産生するが,コウジカビと同じアスペルギルス属の真菌であるアスペルギルス・フラブスは最強の発癌物質であるアフラトキシンをつくる。コウジカビはアフラトキシンをつくらないが,他の発癌物質をつくる可能性は否定できない。

私は,食品添加物の登録制度に1億円と0円という2つの基準しか存在しないのが不思議でならない。他に1千万円と百万円と十万円の基準も存在すべきである。つまり,慢毒/発癌併合試験レベル以外に亜急性試験レベルエームス試験・小核試験レベル文献調査レベルである。

それぞれのレベルに分類する判断の基準としては以下のようなものが考えられる。

  • 天然物か有機合成化合物か。
  • 推定摂取量と推定ADIとの比は十分に小さいか。
  • 通常の食品に含まれているか。含まれている場合は添加物としての摂取量と一般食品からの摂取量の比は十分に小さいか。
  • FAO/WHOのJECFAの評価はどうか。

このような基準をもとに食品添加物を分類し,各レベルの毒性試験で問題があれば上位の試験を要求すればよい。重要なのは予想される危険性に応じて毒性試験を要求することである。1億円と0円という2つの基準しかないのは,厚労省に属する文科系役人の機械的思考の所産というほかない。

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【02/07/14】 厚労省の食品添加物指定方針の変更を評価する。

厚労省のHPに「指定外添加物(フェロシアン化物)を使用する食塩及びその食塩を使用し製造した食品への対応」なる報道があり,そのなかに「国際的に汎用され、安全性が確認されている食品添加物の中で、各国での使用実態から指定の必要性の高いと思われるものについては、指定の方向で検討する。」と記載されていた。従来は,業者が1億円以上の費用をかけて安全性試験を行いその成績を添付して申請しなければ許可しないとの方針であったが,これを大幅に転換したようだ。

もちろん,これは当然の措置といえる。岩塩を食品にも使う欧米でフェロシアン化物がごく普通に使われているなら,欧米から輸入される塩漬けの魚などは全て「危険な食品」として回収しなければならない。厚労省はいままで知らない振りをしてきたのだろうか。

興味深いのは,これほど大幅な方針転換が食品衛生法の改訂を必要とせず厚労省の役人の判断だけで可能な点にある。おそらく施行規則すら改訂の必要はないのだろう。協和香料事件の直接の原因が厚労省の不作為にあったことを確信するとともに,「国際的に〜、指定の方向で検討する。」との表現でその事実を認め,方針を転換した厚労省を評価する。もちろん,「国際的に〜」の中にアセトアルデヒドを含めるなら最高の賛辞を贈ったのだが,この点は残念である。

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【02/06/25】 協和香料添加物問題(6);NHKクローズアップ現代「食品の大量回収はなぜ起きたか。〜検証・違法香料事件〜」検証

6月24日のNHKクローズアップ現代で「食品の大量回収はなぜ起きたか。〜検証・違法香料事件〜」なる放送があった。この番組の内容の浅薄さには驚かされたが,食品業界の過当競争により香料に対する需要と要求が増大したことも遠因であるというつまらぬ解析にはむしろ腹が立った。これでは「果たして私たちに無農薬野菜を食べる資格があるのだろうか。」で終わる「有識者」の話と何ら変わらない。最近,アエラ増刊(6/20号)の「安全が食べたい」を読んで,朝日新聞はいまだに労働者vs資本家,天然物vs合成化学物質,月光仮面vs髑髏仮面といった単純な図式でしか物事の判断ができていないと感じたが,NHKもこの1ビット系頭脳集団に属するようだ。事件発覚からすでに4週を過ぎ,最低でも毎日新聞小島正美記者の記事のレベルには達しているものと期待していたが残念である。

この問題の本質は,食品添加物登録制度の不備とそれを放置してきた厚労省の不作為にある。事なかれ主義の報道を続けるマスコミも同罪である。ところが,この番組のように香料の物質としての特性などなにも考慮せず「禁止されているから使った方が悪い。」が大前提では思考が停止してしまう。それでは,浅薄な結論に至らざるを得ない。以下,番組ではアセトアルデヒドを中心に進められたため,これを中心に考察する。

化学物質としての特性の説明
アセトアルデヒド発酵食品に普遍的に含まれているとの説明は皆無であった。コメを発酵させれば酒(エタノール)ができ,さらに発酵を進めればアセトアルデヒドを経て酢(酢酸)になる。つまり,エタノールや酢酸が存在するような発酵食品には必ずアセトアルデヒドも存在している。もちろんヨーグルトなどの乳酸発酵食品にも存在し,その匂いの主成分となっている。それが発酵食品の匂いを再現するにはどうしてもアセトアルデヒドが必要になる所以なのだが,その説明が皆無であった。また,種々の普通の食品に含まれるアセトアルデヒドに比べ,今回回収された食品の含有量など根跡量にすぎないと説明し,その考察の上で安全性には何ら問題はないといわねば説得力がない。

上記の化学物質としての特性を踏まえ,食品の回収は誤りであった。
逆に,食品の回収は至極当然と報道し,違法な添加物を見抜けなかった食品会社にも責任があるとして食品会社の「対応」を促している。

この番組の標題は「食品の大量回収はなぜ起きたか。」だが,この直接の回答は明白である。厚労省が回収を命じたから大量回収が起きた。では,なぜ厚労省は回収を命じたのか。命じたことは正しかったのか。それを報道することこそが報道機関の役割といえよう。さらにいえば,今後は今回のような事例では回収の必要はないと報道するのが良識ある報道機関の役割である。もちろん,NHKに良識を求めるのは無理で,主張はその全く逆である。

「香料が広範囲の食品に使われていることが今回大量回収が起きた原因である。」などつまらぬ考察である。「香料開発競争の舞台裏」でペットボトルの緑茶は香料のおかげで売れたとか,他社の香料を原料に使って自社の香料を作るため原料が複雑になるとかは枝葉末節の議論に過ぎない。

厚生省(許認可制度の問題,農薬の規制との整合性)
たとえ1億円が必要であろうとも申請しなかったのが悪く,制度そのものが正しいことは大前提のようだ。もちろん,私が(4);最大の問題は化学物質の安全性評価における日本の後進性にある。(5);食品添加物の登録制度と残留農薬基準の整合性で考察した制度の不備には全く触れられなかった。

化合物名の問題
(2);イソプロパノールという化学物質は存在しない。で「イソプロパノール」や「2-メチルブチルアルデヒド」が誤りで,正しくは2-プロパノール2-メチルブタナールだと書いた。NHKはなぜかこの誤りが露見しないよう巧妙に画策していた。すなわち,これらの試薬ビンの映像において,前列に左からヒマシ油,アセトアルデヒド,プロピオンアルデヒドを置き,後列に2-プロパノールと2-メチルブタナールを前列の間に配置していた。しかし,2-プロパノールについては「ノール」部分と,イソプロピルアルコールの「ルコール」の部分だけが見えるように小細工し,2-メチルブタナールについては「2-メチルブタ」の部分だけを見せていた。もちろん,番組中でアセトアルデヒド以外の物質名が語られることはなかった。さすがにNHK,そこまでやるかと感心したが,誰のための卑劣な工作かは見え見えであった。

今回の事件の直接の原因は,食品添加物の登録制度の不備とそれを放置してきた厚労省の不作為にある。しかし,厚労省が正しい対応を採れないように圧力をかけていたのは,アエラ増刊「安全が食べたい」に象徴されるマスコミである。仮にアセトアルデヒドを食品添加物として登録すれば,「海外からの不当な圧力発癌物質であるアセトアルデヒドを食品添加物に加え国民の健康を損なっている。」と厚労省を非難するに違いない。番組後半には「違法香料はチェックできるか。」と「問われる食の安全管理」のテロップが流れたが,NHKは日本の「優れた」食品添加物登録制度を維持すべきだと考えているようだ。NHKは,登録されていない「違法な香料」を正しくチェックし排除することが「食の安全管理」で,今回の大量回収で食の安全が確保されたと考えているのだろう。

今回の事件の「真犯人」は,一般人の化学物質の安全性評価に対する無理解とそのような状況を醸成したNHKである。NHKの化学物質の安全性評価に対するレベルの低さは,「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」に記載したNHK批判をみれば実感できるだろう。この番組は今回の事件の真犯人がNHKであることをクローズアップしてみせてくれた点で有意義であった。

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【02/06/19】 農薬残留分析の公定法に免疫測定法(ELISA法)を採用せよ。

中国野菜残留農薬は頭の痛い問題だが,現実的な対策がある。中国野菜に頻繁に検出される農薬について食品衛生法に基づく残留分析の公定法免疫測定法(ELISA法)を採用すればよい。公定法はガスクロマトグラフ等の高価な機器を必要とし,試料の前処理にも時間と熟練を要するが,免疫測定法なら簡単な比色計があれば初心者でも定量できる。これにより,1試料あたりに必要な時間と経費が飛躍的に減少するため,分析件数を大幅に増やすことができる。また,食品会社でも分析が可能となり,無駄な返品数を減らすことができる。

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【02/06/15】 協和香料添加物問題(番外);報道機関の「勇気」とは

2002年6月14日付けで毎日新聞生活家庭部の小島正美記者が「無認可添加物の使用食品 国も企業も柔軟に対応を」なる記事を書いており,今回の食品の回収に疑問を呈している。小島記者が,もしこの記事を先週前半に書いていればそれなりに評価できるだろう。しかし,今頃書いてもほとんど意味はない。問題は「勇気」である。6月7日までにこの記事を書くには勇気がいっただろうが,今ならだれでも書ける。来週になれば,NHKのクローズアップ現代でさえ似たような論調の番組を作るかもしれない。

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【02/06/15】 協和香料添加物問題(5);食品添加物の登録制度と残留農薬基準の整合性

今回の事件において,アセトアルデヒドなどが食品添加物として登録されていないのは,だれも申請しなかったためだといわれている。一方,申請には億単位の費用がかかるが許可された食品添加物はだれでも使えるため,申請者になんらメリットはないという。それでは制度として破綻しているように思えるが,一見もっともらしくはある。

しかし,それなら海外でしか使われていない農薬の残留基準がなぜ存在するのだろう。誰も日本で申請などしていない。同じ厚労省食品衛生法に係る制度であるにもかかわらず整合性がない。現在,厚労省は自国で使われていない農薬の残留基準も「勝手に」決めているにもかかわらず,食品添加物では登録申請を必要としている。私は,むしろ逆だと思う。

農薬に関しては,日本で登録されたもの以外が農産物などに検出された場合は原則輸入禁止とし,例外としてインポートトレランスを設定すべきである。しかし,厚労省は「国際的な評価」をもとに残留農薬基準を定めている。国際的な評価とはFAO/WHOのJMPRとCODEXなのだが,食品添加物についても同様にFAO/WHOのJECFAが評価している。厚労省が食品に含まれる農薬と食品添加物の評価制度を変えていることに何ら正当性はない。

厚労省が残留農薬基準の設定に税金を使う大儀名分は非関税障壁の撤廃だろう。そうかんがえると,残留農薬より食品添加物の基準こそ「勝手に」定めるべきである。残留農薬基準は海外の特定の農薬会社だけに便宜を与えるに過ぎないが,食品添加物の基準は多くの香料会社などに遍く便宜を与える。少なくとも,今回問題にされたような発酵食品には普遍的に存在するような物質については当然の措置といえる。

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【02/06/15】 協和香料添加物問題(4);最大の問題は化学物質の安全性評価における日本の後進性にある。

日本は発癌物質を農薬にできないような安全性評価の後進国である。これは食品添加物登録制度についてもいえる。そして,先進国との軋轢を「勧進帳安宅関」の手法で回避している。

今回の事件において,アセトアルデヒドなどが食品添加物として登録されていないのは,だれも申請しなかったのが原因であり,香料会社の怠慢こそが問題だとの主張がある。しかし,そう主張する御仁は,食品添加物の申請にどれだけの毒性試験データが必要で,そのデータを揃えるのにどれだけの費用が必要になるか理解できているだろうか。食品添加物は農薬に比べればはるかに簡単な安全性試験で済むだろうが,それでも試験データーを揃えるのに1億円以上は必要になるだろう。さらにいえば,その毒性試験の結果を予想しているだろうか。

今回問題とされた低級アルコール(低級とは分子量が小さいことをいう。)や低級アルデヒドでは,問題のある安全性試験結果しか得られない。誤解があるといけないが,「安全性に問題がある」のではなく「問題のある安全性試験結果」である。「安全性」と「安全性試験の結果」を混同してはいけない。発癌性試験で陽性となることと発癌リスクが有意に存在することは別である。

では,アセトアルデヒドのラット慢性毒性/発癌性併合試験の結果を予想してみよう。なお,現時点では文献を調べていないため予想でしかなく,今後変更する可能性もありうる。アセトアルデヒドは還元剤である。自らは酸化を受けて酢酸に変化し,そのときに何かを還元する。このような化合物では併合試験において通常使われる混餌投与はできない。餌中で容易に分解するためである。アセトアルデヒドの場合は餌ではなく飲料水に混ぜて自由に(ラテン語でad libitumという。アドリブである。)飲ませることで投与する。その場合,アセトアルデヒドはラットの食道の上皮細胞に還元剤として作用し,その刺激により食道癌をおこすと予想される。次に,胃内の酸性条件下で化学的に変化し,十二指腸に腫瘍をつくる可能性もある。

食品添加物の登録の際にこれらの「無意味な」試験結果がどのように評価されるか興味があるが,おそらく現在の制度ではアセトアルデヒドが食品添加物として許可されることはないだろう。アセトアルデヒドを農薬としてみた場合,これらは安全性上致命的欠陥であるが,食品添加物であればなんら問題はない。アセトアルデヒドは日本の登録制度の欠陥によって食品添加物にできない。

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【02/06/15】 協和香料添加物問題(3);続・問題の本質は厚労省の怠慢にある。

昆布のうまみ成分がグルタミン酸であることはご存じだろう。仮に,昆布を使った食品に,その味を調えるため本来の量の5%のグルタミン酸を加えたとする。もちろん,グルタミン酸は食品添加物として認められているから何の問題はない。しかし,仮にグルタミン酸が食品添加物でなければ,重大な違反として「その危険な食品」は全て回収して焼却処理しなければならない。しかし,その食品のグルタミン酸含量を分析してもその添加の有無はわからない。違反かどうかは帳簿でしかわからない。

協和香料添加物問題(1);問題の本質は厚労省の怠慢にある。で,同じビスケットでも日本で生産すれば違反だが,外国で生産した場合は事実上何の問題もなく輸入できるといった。「事実上」とは輸入の際の申請書の「日本で認可されていない食品添加物を使ってますか。」という項目に「いいえ」と書き込むことを意味している。如何に高度な分析機器を用いてもビスケットに用いた香料にアセトアルデヒドを混入したかどうかは判断できない。同位体組成分析すら意味がない。

もちろん,混入の事実が化学分析で証明可能な食品添加物であれば厚労省も回収を求めることができる。事実,日本で許可されていない色素がビスケットに見つかり回収された例がある。甘味料ステビアでは逆のケースがあった。

アセトアルデヒドは欧米では食品添加物として許可されているという。おそらく,輸入ビスケットの海外製造工場に行き,使っている香料会社を突き止めアセトアルデヒドを使っているかどうか正しく調べれば,ほとんど全てで使用が発覚するに違いない。使っていないと考える方が不自然である。

しかし,仮に「良心的な」輸入業者がアセトアルデヒドの混入を突き止め,厚労省に報告したとしよう。厚労省は大いに困惑するに違いない。アセトアルデヒドを理由にビスケットの輸入を禁止すれば非科学的な非関税障壁として各国の怨嗟の的となり,嘲笑さえ受けかねない。厚労省と輸入業者は,日本人お得意の「勧進帳安宅関」を演じ続けるしかない。

この事態を招いたのは厚労省の怠慢が原因というほかないが,最大の問題は化学物質の安全性評価における日本の後進性にある。

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【02/06/10】 協和香料添加物問題(2);イソプロパノールという化学物質は存在しない。

協和香料化学での未許可食品添加物混入事件に関し,6月7日の新聞には許可されていないイソプロパノール2-メチルブチルアルデヒドの使用も新たに発覚したと記載されていた。食品添加物業界ではいまだにイソプロパノールや2-メチルブチルアルデヒドという誤った化合物名が使われているようだ。

イソプロパノールという名称の化学物質など存在しない。2-プロパノール((CH3)2CH-OH)あるいはイソプロピルアルコールでなければならない。2-メチルブチルアルデヒドも誤りであり,2-メチルブタナールが正しい。

化合物の命名法には基官能命名法置換命名法,代置命名法等がある。メチルアルコールやエチルアルコールが基官能命名法,メタノールやエタノールが置換命名法である。基官能命名法であるメチルアルコールはメチル基(CH3)に水酸基(OH)という官能基が結合した化合物をいい,置換命名法であるメタノールとはメタン(CH4)の1つの水素原子(H)をOHに置換した化合物をいう。しかし,50年ほど前,まだ置換命名法が化学者に浸透していなかった頃,メチルアルコールがメタノール,エチルアルコールがエタノールだからイソプロピルアルコールはイソプロパノールだろうと考えた御仁がいたらしく,化学から離れた分野でイソプロパノールという誤用が流布されていたと聞いている。もちろん,これは基官能命名法と置換命名法の混同による誤りで,イソプロパノールはイソプロパンの水素原子をOHに置換した化合物でなければならないが,イソプロパンなど存在しえない。ついでにいえば,イソブタンは存在するがイソブタノールもn-ブタノールも誤りである。

2-メチルブチルアルデヒド(2-methybutyraldehyde,CH3CH2CH(CH3)CHO)は2-メチルブタナールの誤りである。この間違いについてはイソプロパノールと異なり若干同情の余地がある。ケミストでも間違う可能性がある。

アルデヒドは対応するカルボン酸の名称から命名する。たとえば,プロピオン酸(CH3CH2COOH)をもとにプロピオンアルデヒド(CH3CH2CHO)と命名する。これに炭素が1つ増えると,酪酸(butyric acid,CH3CH2CH2COOH)とブチルアルデヒド(butyraldehyde,CH3CH2CH2CHO)になる。ここでブチルはbutylではなくbutyrであることに注意が必要である。このブチルアルデヒドの2位にメチル基を入れた化合物は2-メチルブチルアルデヒドで正しいように見える。しかし,これは誤りである。アルデヒドは慣用名のある酸の誘導体として命名され,対応する酸に慣用名がなければ系統的命名を採用すると規定されている。したがって,2-メチルブタナールが正しい名称になる。ちなみに,3-メチルブチルアルデヒドも誤りである。これには対応する酸にイソ吉草酸という名称があるため,イソバレルアルデヒドという。

当初,この2-メチルブチルアルデヒドという誤りを,アルデヒドを基官能命名と誤解し2-メチルブタンカルボアルデヒドのつもりであろうと解釈したが,別の種類の「独創的な」誤りであったようだ。

これらの命名の誤りを「香料業界の単なる慣習だ」などといってきた御仁がいたが,思い違いも甚だしい。化合物の毒性を調べるには正しい化合物名が必要になる。香料業界では使っている化学物質の毒性を一切調べないのだろうか。

思うに,食品添加物業界関係者には化学物質を取り扱っているとの認識はもともとないのだろう。これに厚労省当局の知的レベルの低さが相まって,この程度の初歩的誤りが訂正されずにいる。おそらく,両者とも毒物学についてはその存在すら知らないのだろう。今回の事件の遠因が,こんな所からもうかがえる。化学知識無,毒物学知識皆無の厚労省当局に正しい対応を求めること自体が土台無理難題というべきだったのだろう。

【02/06/13】 2-メチルブチルアルデヒドの誤りの部分を訂正した。
【02/06/14,補足】 「香料業界の単なる慣習だ」の部分を付け足した。

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【02/06/07】 協和香料添加物問題(1);問題の本質は厚労省の怠慢にある。

協和香料化学での未許可食品添加物混入事件が世を騒がせている。今週の全国紙の3面は,お詫びと商品回収のお知らせで埋め尽くされていた。厚労省の怠慢とマスコミの無責任な報道姿勢によって,安全性上何の問題もない食品が回収され,焼却処理されていく。おそらく,その費用は別の商品に転嫁され,つけは最終的には消費者に回るのだろう。

仮にA社が日本と米国で全く同じ材料を使ってビスケットを製造していたと仮定しよう。そして,使っていた香料に日本では使用が許可されていないアセトアルデヒドの混入が判明したとする。日本で製造された商品は新聞に広告を出し,回収しなければならない。米国から輸入した商品であれば同じビスケットであっても実質上何の問題もなくそのまま販売できる。マーケットには外国産ビスケットが並んでおり,日本では禁止されている食品添加物がその全てに使われているだろうが,今回の事件でこれらが回収されたとの話を聞かない。

このような不思議な事態を招いたのは厚労省の怠慢が原因というほかない。日本で許可されていない食品添加物を使った食品は全て輸入禁止にする,あるいは,通常の食品にも普遍的に含まれている成分であるなどの理由により輸入禁止が事実上不可能な食品添加物は日本でも許可する,この2つしか整合性のある選択枝はない。

厚労省としては,今回の違反が発覚した時点で「違反は違反として処罰するが,製造された食品については安全性上の問題はなく回収する必要はない。」と各食品会社に通達すべきであった。もちろん,厚労省の対応はこの逆で回収を強く指導している。確かに,回収不要などといえば低俗なマスコミがこれを許すはずはなく,「宗教的理由」で批判をかさねるに違いない。回収不要との選択を支持し賛同するには知識と教養が必要になるが,批判ならだれにでもできる。事なかれ主義のマスコミにとって政府批判がもっとも「安全な」対応である。それゆえ,今回の厚労省の対応を強ち怯懦とは謗れない。

世は不景気である。今回の一件によって一部の食品会社は経営が悪化し倒産するかもしれない。その責任の大半は事なかれ主義の政府とマスコミにある。しかし,マスコミには少なくとも今回回収を行わなかった食品会社を安易に非難せぬよう求めたい。

【02/06/12】 一部説明を補足。

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【02/06/01】 チェルノブイリと中国の地下核実験

中国産ほうれんそうからディルドリンが検出されたとの報道に関連し,ある原子力関係者の話を思い出した。文献等の裏付けはないが,信憑性の高い話だと考えている。

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故が近隣諸国にいわゆる死の灰を降らせ,その一部は日本にまで達したことはよく知られている。世界中を震撼させた事故であったが,日本がこのような放射能のフォールアウトに見舞われたのは第2次大戦後始めてではなかった。中国の地下核実験の際のフォールアウトはチェルノブイリを凌ぐものであったという。当時は今ほど観測体制が整ってなかったが,多くの原子力発電所の野外モニターはこのフォールアウトを捉えていた。ひどい例では,原子力発電所建屋内の空間線量率より外のレベルの方が高くなり,出勤時に衣類に付いた放射性物質を施設内に持ち込まないよう外から施設に入る時に除染をするという不思議な事態まで生じたという。

もちろん,このことはほとんど知られていない。当時は毛沢東万歳の時代で中国を非難する報道は一切タブーであった。しかし,「中国産ほうれんそうからディルドリン(2)」を見ると,NHKにはまだ当時の残滓があるようだ。NHKのアナウンサー室にはいまだに毛沢東の写真と毛沢東語録が飾られているのかもしれない。

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【02/06/01】 中国産ほうれんそうからディルドリン(4);「大量に摂取すると危険な農薬」が検出された。

これはNHKの報道姿勢を批判した「(2);NHKはいつまでに中国に隷従し事実を陰蔽するのか。」の続きである。

5月22日朝のNHK総合ニュースでは「この農薬は大量に摂取すると危険性があり」とも放送されており興味深かった。何の意味もない言語の羅列をもっともらしく報道するなど,さすがにNHKと膝を打って感心したのである。

・青酸カリは大量に摂取すると危険である。
・食塩は大量に摂取すると危険である。

この2つの文章が正しいことはいうまでもない。ウイスキーでも醤油でも同じである。つまり,「大量」とは危険性がある量をいい,「大量に摂取すると危険性のある」なら「危険な量を摂取すると危険だ」の意味になる。

しかし,「大量に摂取すると危険性のある農薬」には重大な欺瞞がある。これは「少量ならば問題のない農薬」を意味し,NHKは検出量は少量だから問題はないと暗にいいたかったのである。これがNHKの詐術であり,検出された0.010ppmが常識では考えられないほどの大量であることはすでに議論した。

NHKの農薬関連の報道は「眉に唾をつけて」視聴する必要がある。NHKは狐狸妖怪の巣窟で,高い視聴料をふんだくって「馬糞」を「饅頭」と偽って売っている。

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【02/05/25】 中国産ほうれんそうからディルドリン(3);0.01ppmの残留で何人の日本人が癌で死亡するか。

中国産ほうれんそうからディルドリンが検出されたとの報道では,どの程度の量が検出されたのか気になっていた。調べると,横浜検疫所で0.01ppm(正しくは0.010ppmだろう)が検出されたらしい。感度の低い公定法での分析と考えて(1)を書いたため,その確認をしたかったのである。

食品衛生法による残留分析ではいわゆる公定法が用いられる。ディルドリンは,他のハロゲンを含む農薬と同時にECD(Ni-63を用いる電子捕獲型検出器)を用いるGC(ガスクロマトグラフィー)法で分析されている。いまだに算盤(そろばん)時代の分析機器が使われているのである。ディルドリンの毒性を考えると少なくとももう1桁検出限界を下げる必要があるが,「算盤」の使い手たちは公定法に「電卓」を持ち込むことをいやがっているようだ。「電卓」とはGCMS(ガスクロマトグラフ質量分析計)である。

もちろん,検出限界は下げればよいといったものではない。残留基準の1/100が目安となる。ディルドリンに残留基準はないが,ADIから逆算して0.0001ppm程度の定量下限は必要である。これは,厚労省は分析機器の不備により明らかに危険性のあるほうれんそうを不検出として見逃していたことを意味する。

一部の新聞社系のHPには,厚労省の見解として「0.01ppmは健康に特に問題はない。」と記載されていたが言語道断といわざるを得ない。ディルドリンは蛋白質と結合して体内に長期間残るという致命的な毒物学的問題がある。これによる発癌リスクは大きい。少なくとも,中国産ほうれんそうによっていままで何人の日本人が死亡し,これから何人死亡するか,モデル計算が必要な残留量である。私にはその根拠となる数値を調べる時間がないのが残念である。

とにかく,このディルドリンの0.01ppmは常識では理解できないほどの大量である。残留量が多いか少ないかは農薬の毒性と施用方法で異なる。10 ppmをごく微量という場合も,その1/10000の1 ppbを大量という場合もある。冷凍ホウレンソウのディルドリンが0.01ppmであれば,これは尋常な量ではない。

一般のみなさんは,農薬といえば噴霧器で散布している状況を思い浮かべるだろう。しかし,ディルドリンは土壌処理剤として土壌混和や植穴,植溝処理でコガネムシやネキリムシなどの土壌害虫の防除に使われる。土壌中でも安定で長期間害虫を防除できるため,その意味では優れた殺虫剤といえる。

土壌中のディルドリンは一部は根からほうれんそうに取り込まれる。しかし,その化学的性質から根から茎葉部に移行する量は少なく,大部分は赤色根部にとどまる。冷凍のほうれんそうなら,ひげ根や赤色根部の全て,茎部の大部分が除かれているはずである。もっとも残留の少ない葉部にさえ0.01ppm存在したとするなら,それはディルドリンを大量に含む土壌で生育したといって良い。私は現在使われている土壌害虫防除剤に,使い残していたディルドリンを混ぜて使ったのではないかと想像していたのだが,そうとも考えにくい。少なくとも,昔使ったディルドリンの残留とは到底考えられない。

葉部に残留したディルドリンは熱湯中で煮沸してもほとんど減少しない。中国の生産農家は違法と知りつつ「どうせ,煮沸すれば消えてなくかるのだからバレるはずはない。」と考えていたのだろうか。ついでだが,ほうれんそうの根部をブタに飼料として与えていれば豚肉にもディルドリンが検出されるだろう。

中国が法治国家になるにはあと何年かかるのだろうか。

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【02/05/23】 中国産ほうれんそうからディルドリン(2);NHKはいつまで中国に隷従し事実を陰蔽するのか。

中国産ほうれんそうからディルドリンが検出されたという事件は,5月22日朝のNHK総合ニュースでも報道された。以下に,HPに記載されていたニュースの要約を示す。

中国産ほうれんそう検査強化
中国から輸入された冷凍ほうれんそうの一部から、国内では使用が禁止されている農薬が新たに検出されました。厚生労働省は、輸入業者に中国産ほうれんそうの検査を義務づけ、合格したものしか輸入を認めないことになりました。
05/22 07:32

以下は,私の作成したあるべき報道の要約である。すなわち,報道に携わる者に社会的責任の自覚があればこのように報道したであろうという一例である。

中国産ほうれんそうからディルドリン
中国から輸入された冷凍ほうれんそうから、毒性が高く国際的に製造・使用が禁止されている有機塩素系農薬ディルドリンが検出されました。厚生労働省は、中国産ほうれんそうの食品衛生法に基づく検査体制を強化しました。

実際のNHKの放送でもディルドリンとは一切報道されず,その問題点も一切言及されなかった。農薬が自殺や犯罪に用いられた場合,その農薬の名前を伏せることには一定の合理性がある。模倣犯を防ぐためである。しかし,この場合,農薬名を伏せることにどれだけの「正義」があるのだろうか。国営放送として中国に配慮しただけだろう。「一部から検出された」という表現にもその配慮が滲み出ている。「国内では使用が禁止されている農薬」という表記も腹立たしい。これでは「海外では使用が認められている農薬」になってしまう。NHKの得意技である卑劣な欺瞞工作といってよいだろう。

結局,この報道も「NHKは重要な問題は重要であるがゆえに報道しない。」の一例といえるだろう。(1)で中国を破廉恥と評したが,NHKの破廉恥さもこれに勝るとも劣らない。最近,中国に対する日本の弱腰外交が非難されているが,少なくともNHKやこの問題を扱わない民放にその資格はない。

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【02/05/22】 中国産ほうれんそうからディルドリン(1);中国は国際的に禁止された農薬をいまだに製造している。

中国産ホウレンソウからディルドリン(アルドリンを含む。)が検出されたという報道があった。厚生労働省のHPにも21日付でその旨記載されている。検出量はわからないが,コンタミなどではなくホウレンソウそのものの害虫防除に使われたことに間違いはあるまい。私はこの報道にかなりの衝撃を受け,中国に対する見方が「破廉恥極まる国」にまで急落した。ディルドリンの検出は,パラチオンやクロルピリホスやメタミドホスの違反とは質が異なる。

アルドリンディルドリンドリン類といわれ有機塩素系農薬に分類される。DDTやBHCと同系統の化合物だが,これらよりはるかに毒物学上の問題は大きい。私は,DDTやBHC(γ異性体のみ)は使用方法を限定すれば現在でも農薬として使用可能だが,ドリン類は地上から消滅させるべき化合物と考えている。実際に,ドリン類は国際的に製造・使用が禁止されている。

DDTやBHCの合成は比較的容易である。低純度であればBHCは高校の化学クラブ程度で,DDTは大学生の学生実験レベルのテクニックで合成できる。しかも,これらの原料は容易に入手でき,その気になれば小さな町工場でも違法製造が可能だろう。

しかし,ドリン類は違う。最終段階はウッドワード=ホフマン則でいう4+2のサイクロアディションで容易に進行するが,重要な原料であるヘキサクロロシクロペンタジエンの合成はさほど容易ではない。この特殊な原料はかなりの技術のある化学会社しか合成できない。これは中国は国家としてドリン類の製造を行っていたことを意味する。昔の在庫を現在使用している農薬に意図的に混入させた可能性もあるが,国際的に禁止されてからかなりの期間が経過していることから,中国国内ではその後も生産していたと考えるべきだろう。野菜の輸出によって外貨を稼ぐことを意図して「悪魔の物質」を合成するという犯罪行為を国家が行っていたのである。

とにかく,私も当分中国産の冷凍ホウレンソウは買わないようにしよう。某社の冷凍食品「野菜たっぷりラーメンみそ味」は料理を作る暇のない時には便利だったのだが,残念である。

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【02/05/21】 学術用語の邦訳;光分解と光照射下の安定性

「その部屋に入ると,中には誰もいなかった。」は日本語では正しいが,ドイツ語では誤りだという。「自分以外に」を補わないと笑われるらしい。これがドイツ語が論理的とされる所以だが,かといって日本語が非論理的とも思わない。問題はむしろ語彙にある。

日本語は語彙が豊富だと日本人はいう。確かに,自然現象の表現や人との関係を表す言葉は豊富である。「拙者」も「あっし」も「あたい」も英語では「I(アイ)」だし,やくざの「おひかえなすって」も英語なら「How do you do.」になる。しかし,これらは所詮文化の一面でしかない。たとえば,建物などの「大きい」を表す日本語がどれくらいあるだろう。英語なら,big,large,huge,gigantic,enormousなどがすぐに思い浮かぶ。愛用のAmerican Heritage Dictionaryはさらに多くの類義語を探してくれる。しかし,基本的な言葉にもかかわらず「大きい」を表す日本語は漢語を含めても少ない。

科学の論文でいえば,英語を日本語に訳す方が難しく,逆の方が容易である。日本語には適当な訳語がないことも多い。たとえば,環境化学試験では水中光分解試験をよくやるが,この「光分解」を英語で表現するなら,phototransformationやphotoalterationであり,photodegradationであることは稀で,ましてphotolysisではあり得ない。「分解」とは,より分子量の小さな化学物質に分かれるとのイメージだろうが,たとえば,水中で2つの分子が反応しあって2量体のような大きな分子に変化することもあり,硫黄原子が酸素原子に置き換わるだけの反応もある。これらを分解とはいいにくいのだが,このtransformationやalterationに相当する日本語の概念がない。「変化」とも異なる。また,本来の光分解はphotolysisで,photolysisであればヘキサンなどの溶媒中でも光照射下で分解するのだが,ここでいう光分解とは光照射下での分解とでもいうべきもので,光により励起された分子が水中の溶存酸素と反応する酸化反応がその本質である。

とにかく,定訳のない英文学術用語の邦訳は難しい。農薬登録の際に報告書の邦訳を求めるのは止めて欲しいものである。おそらく,報告書を評価する専門の先生方は原文の英語の方を見るのだから。

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【02/05/06】 犬の糞

先週,散歩をしていて犬の糞が落ちているのに気付いた。不心得な飼い主がいるものだと腹立たしく思ったが,ふと昔の風景とは違うことに気付いた。ギンバエがたかっていないのである。昔は用を足した犬が立ち去る前にハエがたかっていた。今の「清潔な犬の糞」は自然破壊の象徴かもしれない。トンボがいなくなったと嘆く方がいるが,ハエがいなくなればトンボもいなくなる。

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【02/04/21】 犬と農薬(2);どのような事実があれば犬の死因を農薬中毒と断定できるか。

先週,埼玉で犬が何らかの毒物により変死したとの事件が相次いだ。農薬が原因との説もあるが真偽の程は定かではない。では,どのような事実があれば農薬と考え得るか,まとめてみた。もちろん,信ずるに足る理由が多いほど信憑性も高くなる。

犯人が逮捕され自供する,あるいは犯人が自首する。
もちろん,これだけでは不十分である。以下に示すような客観的な事実をもとに自供内容を吟味する必要がある。

死んだ犬が食べ残した餌の中に致死量に相当する農薬が検出される。
致死量相当が重要である。ppm程度の作物残留レベルで検出されても意味はない。また,ごく簡単な定性試験だけで検出されたと報道する例もあるので注意が必要である。

犬の症状から農薬が疑われる。
今回の事件では有機リン系殺虫剤が使われたとの報道が一部になされている。しかし,もしそうなら毒物学の知識があれば犬の眼を見るだろう。縮瞳アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤の重要な鑑別所見である。一部では有機リン剤が原因だといいながら縮瞳に関する記述が全くなく,痙攣をおこし泡を吹いて死んだとだけ報道されているが,これでは信憑性に乏しい。

食べてから死ぬまでの時間も報道により異なっており,食べた直後説と1〜3時間時間経過後説の2つの報道がある。もし,AChE阻害剤が原因であれば,食べた直後に死亡したならカーバメート系殺虫剤,数時間後であれば有機リン系殺虫剤と考えられる。カーバメート系殺虫剤は症状の発現が早く回復も早いが,有機リン系殺虫剤では症状の発現にやや時間がかかる。

AChE阻害剤を致死量イヌに投与した場合に予想される重要な症状は,縮瞳等による視力減退と筋線維性攣縮である。これらにより犬は歩行困難に陥り,唾液分泌過多,嘔吐,下痢,失禁等を呈し,その後,全身痙攣により斃死する。残念ながら私はAChE阻害剤についてはカーバメート系殺虫剤をマウスに経口投与した経験しかないが,マウスの場合は5分ぐらいで飛び跳ねて暴れ出し,倒れて死に,その時点で死なない場合は大抵恢復する。興味深いのは死ぬ直前は呼吸数が著しく低下することである。毎分100回程度にまで下がる。
とにかく,毒物学の知識のある者なら症状からある程度毒物を推測できる。

犬の屍体から農薬が見つかる。あるいは,剖検時の病理所見から農薬が示唆される。
胃内容物から致死量に該当する農薬が見つかるか,或いは,尿,血液等の試料から農薬或いはその代謝物が見つかれば原因が特定できる。AChE阻害剤であれば血中コリンエステラーゼの分析が重要である。

報道の基本は5W1Hだという。しかし,農薬に関しては往々にしてこれは無視され,「だれかが農薬だといっていたらしいと聞いた人がいるらしい。」が立派に記事になるので注意が必要である。いつ,どこのだれが,どのような理由から,あるいはどのような分析結果をもとに,どの農薬が原因だと判断したのか。それが曖昧な報道には十分注意する必要がある。「死んだ犬の胃から○○が検出された。」というだけの報道がこれに該当する。

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【02/04/18】 犬と農薬(1);イヌは,ある種の植物毒に極端に弱い。

先週,埼玉でが何らかの毒物により変死したとの事件が相次いだ。農薬が原因との説もあるが真偽の程は定かではない。人が食べても平気な食品でも犬にとっては毒のこともある。

植物は自らを守るために多種多様の毒成分を合成して「武装」している。そのため,草食動物はこれらの毒成分に対応しなければならない。一方,肉食動物では,餌である動物そのものが餌とされないように毒を持っていることは稀である。そのため,本来肉食獣であるイヌは,ある種の植物毒に対してヒトやネズミなどの雑食動物に比べて極端に弱い。犬にタマネギを食べさせると,ときには死に至るという話は有名である。ただ,これは個体差が大きいらしい。

これを応用すれば,野良犬を殺す農薬よりもっと良い手に気付く。普通のスーパーの食料品売場に売っている「もの」を調理し,うまく組み合わせれば犬用の毒を作ることなど(たぶん)簡単である。ただ,事の性格上正確には書けず,また実験もできないのが少しく残念である。なお,これを実際に実行すると動物愛護法に抵触するのみならず,ときには刑法の器物損壊罪にも問われるので注意されたい。

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【02/03/14】 NHKはいつまで「国が環境ホルモンの疑いがあるとする農薬」などという捏造報道を続けるのか。

今日(3月14日),朝7時のニュースを聞いていると以下のような報道があった。

国内の農薬のうち国が環境ホルモンの疑いがあるとする3種類の農薬は、田畑周辺の小さな河川で存在するごく低濃度でもメダカの生殖に異常が出るという研究結果がまとまり、安全基準作りなどに貴重なデータになると注目されます。

これはNHKのHPから引用したもので,その欺瞞性については今週中にまとめてアップロードするが,NHKはいつまで「国が環境ホルモンの疑いがあるとする農薬」などという捏造報道を続けるのだろうか。いわゆる環境庁リスト(当時)が「内外の文献に内分泌攪乱作用に関し記載されたことのある化合物をその信憑性を考慮せずに単にまとめただけのリスト」にすぎないことは常識のはずである。

関連記事
●NHKニュース(3月14日朝7時),「農薬は低濃度でもメダカに異常」;
(1)浦野教授は農薬の水溶液の作り方さえ知らないようだ。【02/03/16】
(2)浦野教授は「奇形魚」と「背曲がり魚」の区別さえつかないのか。【02/03/16】
(3)浦野教授は野生生物とヒトとで安全性の考え方が異なることを知らないのか。【02/03/16】
(3-1)「小人,環境に託けて不善を成す。」【02/03/18】

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【02/03/03】 学術用語

学術用語とそれに繋がる概念を多く持つことは思考を豊かにしてくれる。地球,人類,進化,生態系といったごく普通の概念ですら現代人の行動に大きく影響している。農薬関連であっても若干の正しい概念を理解するだけで考え方がだいぶ違って来る。

たとえば,毒性,安全性,リスク,ハザード,選択毒性,有機化合物と有機物と有機体,分子と原子と元素などである。「危険な化学物質」の議論を聞くたびに体外異物(xenobiotics)という概念を理解していればもう少しましな議論ができるのにと思う。

逆に誤った概念は科学を歪め,論理的な思考を困難にする。エーテル(物質ではなく光の媒体としての意味),フロギストン,化学物質,電磁波,複合汚染,環境ホルモン,マイナスイオンなどがその典型であろうか。

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【02/02/22】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(4)

所沢ダイオキシン風評被害裁判において原告は1審に次いで敗訴した。私はまだ判決文を読んでおらずニュースで知っただけだが,実に腹立たしい気分である。もちろん,私の怒りはあまりに無能な原告弁護士に向けられている。21日付の農業新聞には原告は控訴の方針と書かれていたが,もし控訴するなら今の弁護士をクビにする必要があろう。1審の判決の問題点はすでに昨年の巻頭閑話に載せた通りだが,日本の裁判では科学的な正しさは意味を持たないのだろうか。

法律は常識の集大成であり,裁判は広義の常識をもとになされる。しかし,裁判官の常識の中に中学,高校で習ったはずの自然科学的な考え方が皆無では話にならない。今回の裁判官も1審と同様,とても「まとも」とは思えない。

この裁判で百円借用証事件を思い出した。門外漢なので金額等は曖昧だが,漢字で「壱百円」,ローマ数字で「1,000,000円」と書かれている借用証ではどちらを借りた金額とみなすべきかとの判例である。一般常識ではわざわざ百円で大仰な借用証を書くはずがなく,百万円だと考える。しかし,裁判では漢字とローマ数字で金額が異なっていたときは漢字の方を正しいとみるとの常識が優先される。

日本では分析値などの自然科学的な正しさよりも誰がどのように分析したかという形式的な正しさが優先されるようだ。これでは神の権威が支配した中世の欧州と変わらない。私もガリレオ・ガリレイに倣って嘆くほかない。「それでも,ハクサイの分析値は誤りである。」と。

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【02/02/17】 EUの環境動態モデル

EU(欧州連合)では農薬登録の際に環境動態モデル解析を要求される。農薬を圃場に散布した場合に土壌中でどのように消失し地下水にどの程度の量が移行するか,あるいは付近の水系にどれほど流亡するかをパソコンソフトを用いて解析するのである。その具体的な方法が最近ようやくインターネット上で公開された。このHPからは実際に用いるソフト4種(PEARL, PELMO, PRZM, MACRO)と標準シナリオをダウンロードできる。標準シナリオとは解析を行う圃場の場所,降水パターン,アルベド,土壌の物性等をいい,EU域内の9地域が想定されている。モデルのうちPRZMは新たにwindows版が開発されていた。以前のPRZM-3はFORTRANの知識が必要だったが,これからは誰でも使える。

欧州や米国ではこのようなモデル解析が盛んに行われ,EPAの関連HPをみるとその種類の多さに圧倒される。一方,日本でのこの分野の研究者は極端に少なく,動態モデルも水田系モデルが若干開発されているに過ぎない。私には,これが彼我の環境に対する姿勢の差であるように思えてならない。たとえば,本邦のジャーナリストには現状を解析し将来の危険性を予想するとの科学的姿勢は微塵も感じられない。しかし,考える能力のない御仁ほど考える必要はないとの理由を見つけて安心立命を得ようとする。ジャーナリストが「予防原則」を高く評価する理由がここにある。

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【02/02/12】 遅延型皮膚反応(IV型アレルギー反応)

私は有機合成が専門なので種々の化学物質を取り扱う。その中にはかぶれ,つまり遅延型皮膚反応(IV型アレルギー反応)をおこすことで有名な化合物もある。典型的なのはDCC(dicyclohexylcarbodiimido)やDNFB(1-fluoro-2,4-dinitrobenzene)で,これらは蛋白質に結合しその化学構造を変化させることに特徴がある。一般に,免疫グロブリンE(IgE)の関与するアレルギー反応で抗原となりうるのは蛋白質などの高分子化合物に限られ,農薬などの低分子化合物は抗原とはならない。しかし,たとえ低分子であっても蛋白質などと反応する化合物は抗原に変化できる。このような化合物をハプテンという。

私はほとんどの化合物に平気なのだが,ただ1つ弱点がある。ヨウ化メチル(CH3I)だけは苦手なのである。学生の頃,改良箱守法という反応でヨウ化メチルを長期間使ったのが原因と思われる。当時は全く平気だったのだが,その数年後,有機リン系殺虫剤メタミドホスを合成しようとヨウ化メチルを使った途端に手が見事に腫れ上がってしまった。考えてみればヨウ化メチルは最も簡単なハプテンである。それ以降,私はメタミドホスも嫌いになってしまった。中国野菜に残留していることで有名になったメタミドホスには毒物学的な問題もあるが,それは改めて記載しよう。

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【02/01/13】 たき火とダイオキシン

隣りの家に嫌なオヤジがいて,そのたき火の煙が気にくわないとしよう。公害が騒がれていた頃なら,「これは公害と同じだ。」というだろう。少し前の,いじめが社会問題化した頃なら「これは一種のいじめ行為だ。」といっただろう。今なら「ダイオキシンをまき散らしている。」と非難するに違いない。実態は単に気に入らないだけなのだが,社会的な賛同を得るために別の口実を設けることはよくある。

かつてのゴルフ場の農薬問題がその典型であった。たとえ自然破壊などの別の理由でゴルフ場の建設に反対であっても,農薬を理由にあげて反対していた。実際には,ゴルフ場の農薬による水系の汚染など水稲用農薬に比べれば取るに足りない。

現在,これに対応するのがゴミ焼却場のダイオキシンであろう。だれでも自分の家の近くにゴミ焼却施設など作って欲しくはない。しかし,単に反対するのなら地域エゴといわれる。ダイオキシンは格好の理由になっている。

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【02/01/06】 有機農法はなぜ普及しないのか。

有吉佐和子氏の「複合汚染」を読むと,彼女が時代劇のような感覚で農民を捉えているのがわかる。すなわち,純朴だが頭が悪く虐げられ搾取されているというステレオタイプである。そして,「目覚めた農家」が農薬の危険性に気付き「有機農業」を始めるのである。

「複合汚染」では,普通の農民は必要があるかどうか全く気にかけずスケジュールに沿っていわれるままに農薬を散布することになっている。そして,農薬は多めに散布するのが普通だとされている。

しかし,農家はいわば中小零細企業の社長である。3万円を無駄に農薬に使えば3万円収入が減る。3万円を農薬に使うかどうかの判断は,サラリーマンの奥さんが3万円のバッグを買うかどうかの判断よりはるかに深い。農薬を防除暦の記載通りに撒いたり,多めに撒いたりする農民などまずいない。普通は少な目に撒いて効かないといって農薬会社に文句をつける。

実際に農家の方と農薬の話をすると,その実用的な知識の豊富さに驚かされる。「ウラワザ」の宝庫のような方までいる。畳水練の如き私の知識ではとても太刀打ちできない。

彼らと話していると有機農法が普及しない理由がよくわかる。その理由とは農民が賢明だからである。決して,都会の御仁が考えるように愚かなためではない。

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