巻頭閑話(2003年)
【03/12/02】 日テレ視聴率操作事件;お客様は神様です。
【03/10/20】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(6);社会正義を貫いた所沢の農民に賛辞を贈る。
【03/10/12】 今年のノーベル生理学・医学賞はMRIの開発者に与えられた。
【03/10/09】 NHKクローズアップ現代「コメ不作 産地からの報告」
【03/09/28】 環境ホルモン−人心を「撹乱」した物質
【03/09/24】 NHKプロジェクトX「8ミリの悪魔vs特命班・最強の害虫・野菜が危ない」
【03/09/21】 火星人と環境ホルモン
【03/09/15】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(5);最高裁で口頭弁論
【03/09/14】 食品安全委員長寺田雅昭氏に期待する。
【03/09/07】 イネにC4植物の機能を組み込む。
【03/05/17】 EUで新たな化学品管理システムREACHが始まる。
【03/03/05】 特定農薬の設定(4);食酢と重曹
【03/01/31】 特定農薬の設定(3);アイガモは農薬か。
【03/01/30】 特定農薬の設定(2);特定農薬の設定に農薬としての活性は必須か。
【03/01/28】 特定農薬の設定(1);牛乳や酢は農薬か。
【03/01/17】 日本子孫基金の小若順一氏は植物ホルモンと環境ホルモンの区別もつかないようだ。
【03/01/04】 農薬取締法と「車の制限速度」

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【03/12/02】 日テレ視聴率操作事件;お客様は神様です。

日テレ視聴率操作事件で社長や会長が降格された。もちろん,これは形式的な人事だろうが,放送局がこの事件を重大な犯罪行為と認識していることに間違いはなかろう。しかし,視聴者からみればこれはごく些細な事件にすぎない。ある番組の視聴率が0.1%上がろうが下がろうが社会的には重要な問題ではない。

一方,所沢ダイオキシン捏造報道事件ではテレ朝が視聴者をだます報道を意図的に行った。この事件こそ,テレビ局が社会的制裁を受けるべき重大事であり,社長が辞任したぐらいでは追いつかない犯罪行為である。しかし、テレ朝の社長は辞任どころか遺憾の意すら表わしていない。この差は興味深い。

かつて,三波春雄は「お客様は神様です。」といった。では,テレビ局にとってのお客様とはだれか。もちろん,それはスポンサーであって、視聴者ではない。視聴者とは視聴率を得るためのただの道具のような存在である。それゆえ,視聴者ならいくら騙しても構わないが,スポンサーを騙す行為は一切許されないのだろう。これが民放というものである。その民放が,お役所は生産者ばかりを見ていて消費者を蔑(ないがしろ)にしているといっているのだから面白い。

 

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【03/10/20】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(6);社会正義を貫いた所沢の農民に賛辞を贈る。

所沢ダイオキシン風評被害裁判で最高裁は二審判決を破棄し,審理を東京高裁に差し戻した。実質的に農民の勝訴であり,テレビ朝日の捏造体質が断罪されたといえるだろう。

すでに,一審(所沢ダイオキシン風評被害裁判(1)〜(3))や二審(所沢ダイオキシン風評被害裁判(4))についてのコメントに記載したように,下級審での判決は常軌を逸したものであったが,「日本が化学物質の安全性評価の後進国であることを内外に知らしめるが如き行為」は辛うじて避けられた。

ただ,環境総合研究所青山貞一所長の無罪が確定していることは残念である。最近,若く未熟な医者が腹腔内視鏡手術で患者を死亡させ無能が罪に問われたが,無能な青山氏は無能を理由に罪を免れたようである。青山氏が無能であり,環境総合研究所の出した残留分析値が捏造といえることはすでに「所沢ダイオキシン報道騒動;素人はこれだから困るよ。」に記載した。おそらく,日本では残留値の計算を3桁間違え,その結果をテレビで報道しても罪にならないのだろう。

とにかく,最高裁まで上告した所沢の農民には最高の賛辞を贈らねばならない。彼らは,周囲の雑音にめげず最高裁まで上告することで,テレビ朝日という「正義の味方を気取るただの辻斬り」の正体をあばき,日本が法治国家であることを示してくれた。

 

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【03/10/12】 今年のノーベル生理学・医学賞はMRIの開発者に与えられた。

今年のノーベル生理学・医学賞は米イリノイ大学のポール・C・ラウターバー教授(74)と、英ノッティンガム大学のピーター・マンスフィールド名誉教授(69)が磁気共鳴画像装置(MRI)の業績で受賞した。有機合成化学者であった私は,学生の頃にはすでにこの業績を聞いていた。昭和50年頃,当時最新型の100メガヘルツのNMR(核磁気共鳴スペクトル)を測定していたとき,オペレーターに教えてもらった。当時は「理論は理解できるが,そんな膨大な計算は実質的に無理だろう。」と考えていた。学生でもどうにか電卓が買えるようになったが,手回し計算機がまだ現役だった頃の話である。

化学者にとって核磁気共鳴を化学物質の構造決定に応用したNMR装置は必須である。その理論をある程度理解しておかなければ,合成した化合物が本当に意図したものか確認することが出来ない。このように,核磁気共鳴の理論を知っていたため,今回のノーベル賞の報道には暗澹たる気分にさせられた。どの新聞もMRIの説明が出鱈目だったのである。

1H-NMRでは化学物質を構成する水素の原子核,つまり陽子核スピンという性質を利用する。原子を原子核の周りを電子が回っているとの「マンガ」で表現するなら,核スピンは原子核が自転していることに対応する。そこに,超伝導マグネットで強力な磁場をかけると,自転軸がそろって歳差運動を始める。その状態で,磁場に対して直交する方向から歳差運動に共鳴する回転磁場をかけると,原子核はエネルギーを与えられて励起する。陽子の上下が反転すると考えるとよい。この状態の陽子は電波に相当する電磁波を出してもとのエネルギーの低い状態にもどる。その電磁波の出方から陽子の存在する周囲の状況の情報を得るのが,NMRの原理である。

MRIでは体内にある水分子を構成する水素の原子核からの電磁波を利用する。つまり,水から出る電磁波で水の中に浮いている豆腐の形を映像化するのである。これは,結合水自由水緩和時間の差を使えば可能になる。自由に動ける普通の水は,すぐに電磁波を出して低エネルギー状態にもどれるが,組織細胞内には結合水があり,自由に動けず低エネルギー状態に戻るのに時間がかかる。回転磁場を止めて一定時間たてば,「水の中の豆腐」からの電磁波だけを検出できる。あとは,いろんな位置で電磁波を検出して人体のどこから出た電磁波か計算するのである。

さて,以上を踏まえて最小限の文字数でMRIを説明すれば以下のようになる。

MRIとは,人体を強い磁場の中におくと体内の水を構成する水素原子の原子核が特殊な状態となり,そこに別の磁気エネルギーを加えると電磁波を放出する現象を利用して組織の断面写真を得る手法である。

ここで最低限必要になる記載は以下の3つである。

1.人体を強い磁場の中に置く。
2.を構成する水素原子の原子核を使う。
3.原子核から出る電波領域の電磁波を検出する。
あと,回転磁場緩和時間について触れられていればなお良い。

さて,主要新聞各紙の記載を評価してみよう。

朝日新聞
MRI装置は、水素原子に共鳴する磁場をかけたとき水素原子がエネルギーを吸収し、磁場をとめると電磁波を発生する現象を応用。この電磁波を分析し、画像化する。

毎日新聞
ラウターバー教授は、人体に電磁波を当てると体内の水素原子を構成する陽子が反応、その結果生じる電磁波を測定し、臓器などの断面を画像化する手法を開発した。

読売新聞
2人は、人間の体を磁場の中に入れ、体の断面を画像化して見られることを1970年代初めに発見した。ラウターバー教授は磁場の強度をうまく調節すると、体の構造を画像化できることを発見。

日本経済新聞
MRIは外部から与えた磁場に応じて、人間の体内の水分を構成する水素の原子核の向きが変わることを利用。そのわずかな違いをもとにがん組織などを調べる。ラウターバー博士は磁場の変化率を応用して、調べたい部位の二次元画像を得る手法を開発した。

以下に,4紙の記載をまとめ,10点満点で採点した。ごく甘い加点法で採点したが,ひどすぎる誤りにはマイナス点を与えた。合格点は6点以上である。

1.強磁場と回転磁場〔3点〕

2.水,水素原子,原子核〔3点〕

3.原子核からの電磁波と緩和時間〔4点〕

採点
(10点)

 

朝日

「水素原子に共鳴する磁場をかけたとき」:強磁場と回転磁場の区別が出来ていない。〔評価:2点〕

「水素原子がエネルギーを吸収し」:水といっていない。原子と原子核が区別できていない。〔評価:1点〕

「磁場をとめると電磁波を発生する現象」:水素原子から電磁波が発生するとしている。「磁場をとめると」という表現で緩和時間についていおうとしているが,誤りである。磁場を止めなくとも電磁波は出ている。〔評価:1点〕


4点

 

毎日

磁場の記載はない。「人体に電磁波を当てると、」が回転磁場のつもりかもしれない。「人体を磁場に入れて電磁波を当てると」なら良いが,この表現では大間違いになる。〔評価:−1点〕

「体内の水素原子を構成する陽子が反応」:水といっていない。〔評価:1点〕

生じる電磁波を測定し、〔評価:2点〕


2点

 

読売

「人間の体を磁場の中に入れ、磁場の強度をうまく調節すると」:回転磁場のつもりの記載だが,強磁場と回転磁場の区別が出来ていない。〔評価:2点〕

記載なし。〔評価:0点〕

「磁場の強度をうまく調節すると、体の構造を画像化できる」:電磁波の記載が全くない。〔評価:−1点〕


1点

 

日経

「外部から与えた磁場に応じて」〔評価:2点〕

「人間の体内の水分を構成する水素の原子核の向きが変わる」〔評価:2点〕

「磁場の変化率を応用して、調べたい部位の二次元画像を得る」〔評価:−1点〕


3点

もちろん,主要4紙とも合格点には遠く及ばないが,記載内容を解析すると実に楽しい。馬鹿が馬鹿なりに乏しい知識とに貧弱な頭脳で懸命に理解しようと無駄な努力を重ねた形跡がうかがえる。しかし,馬鹿,すなわち文科系の秀才は,支離滅裂な思考しかできないにもかかわらず,勝手に解ったつもりになれるという特殊な才能を有しているように思える。そうでなければ,このレベルの文章を書いて何の不安も罪悪感も感じず平気でいられるはずがない。

とにかく,大新聞といっても大学の化学系学部の学生レベルの知識を有する者は1人もいない。毒物学,すなわち,安全性の基礎知識については,さらにその知識レベルは低くなる。私が,新聞に掲載された科学記事,特に化学物質の安全性に関する記事はすべてウソであるという「常識」を持つべきだと言い続ける理由がここにある。

【追記】
NMRとMRIの説明について,簡単化しすぎた点が多々ある。用語も専門用語とは若干異なる。これについては,つっこまないで欲しい。
NHKの報道についても酷評したかったのだが,見逃した。実に残念である。

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【03/10/09】 NHKクローズアップ現代「コメ不作 産地からの報告」

10月8日のNHKクローズアップ現代で「コメ不作 産地からの報告」なる放送があった。

今年の冷害で農薬を使っている農家は大打撃を受けたが,有機農業の農家の被害は少なかった。それは,土壌中に有機物が豊富にあるので微生物のおかげで地温が上がり,そのために冷害の被害が最小限にとどまったのである。この冷害を機会に有機農業の普及がますます加速されるだろう。

10年前の冷害のとき,NHKはこのように報道していた。田面水の水温を1℃上げるのに,どれほどの有機物が必要になるか計算してみろといいたくなったのを鮮明に憶えている。今年も同じような有機農業を礼賛する放送があると期待していたのだが,予想に反して「「減農薬栽培」を進めてきた農家の場合、農薬をまくタイミングを逸し、大打撃を受けた。」などと報道されてしまった。

その上,農薬の使用の有無などに関係なく,受粉時期の気温と水温で秕(しいな)になるかどうか決まるという常識まで報道されてしまった。深水管理の話まであった。NHKらしからぬ暴挙であるが,おそらく「食品の安全と安心を考える市民」の批判を受けて速やかに態度を変えるに違いない。

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【03/09/28】 環境ホルモン−人心を「撹乱」した物質

三菱化学の環境安全部長であった西川洋三氏の「環境ホルモン−人心を「撹乱」した物質」を読んだ。この本は「環境ホルモン批判書」としてまとまっており,しかも優れている。日本評論社のHPには詳しい目次が載っているので興味を持たれた方は購入するとよい。将来,「NHKが流布した誤りの化学史」が発行されるとき,重要な「歴史書」として引用されるに違いない。なお,西川氏の化学と毒物学に関する著作は,サウスウェーブに掲載されているので参照されたい。

私は,この本の口絵の写真にあった「ヒトの胎児は母体の作る大量の女性ホルモンを浴びている。一方,ネズミの胎児は女性ホルモンに暴露されないようになっている。」を見て長年の疑問を払拭した。

繁殖毒性試験にはラットやマウスが使われるが,これらの動物は双角子宮を有する。仮に胎仔が12頭の場合,ラットでは2つの子宮に以下のように雄雌の胎仔が並ぶ。
  (♂ ♀ ♂ ♂ ♂ ♀ 子宮口 ♀ ♀ ♂ ♀ ♂ ♀)
形としてはエダマメを想像すると良い。豆が胎仔,莢(さや)が子宮である。胎盤はそれぞれ「豆」の付け根にできる。この図のラットの場合,右側の2頭の雄の胎仔は雌化する。雌に囲まれているため,エストロゲンの影響を強く受けるのである。それは腔門生殖突起間距離(腔門尿道口間距離などともいう)で鑑別できる。

私が気になっていたのは,ヒトの男と女の二卵性双生児の場合,男は雌化するかという問題である。そのような事例はないと考えていたが,今回,その理由が明確にわかった。

この事例もそうだが,女性ホルモンに関して,ヒトと齧歯類ではかなり状況が異なるようだ。ましてや,卵のおかれた温度で雄雌が分かれるワニではまったく状況が異なることはいうまでもない。

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【03/09/24】 NHKプロジェクトX「8ミリの悪魔vs特命班・最強の害虫・野菜が危ない」

8月24日21時からのNHK総合プロジェクトX「8ミリの悪魔vs特命班・最強の害虫・野菜が危ない」を見た。概要はプロジェクトXのHPに掲載されている。

この番組は沖縄に侵入したウリミバエをコバルト60を使って不妊化した雄を使って根絶させる話であるが,この事業が成功した重要な背景が3つある。1つは不妊化した雄を作ることが可能な点,次はウリミバエの雌は1回しか交尾できない点,3つめはウリミバエがメチルオイゲノールという化合物に誘引される点である。3つめが重要である。殺虫剤を使って出来るだけウリミバエの密度を下げ,そこに不妊虫をばらまくことで殲滅することが容易になる。殺虫剤といっても普通に空中散布するわけではない。メチルオイゲノールと殺虫剤(スミチオンと記憶している)を含浸させたプレートを空中散布するのである。

しかし,NHKにとって,農薬は不倶戴天の仇敵のような存在である。番組では,農薬での根絶に失敗したため農薬以外の方法として不妊虫の放飼を行ったと視聴者が誤解するように放送されていた。米軍基地内でようやく実現した不妊虫散布の感動的な場面も,その何日か前には殺虫剤の散布があったのかと思うと興を削がれた。おそらく,用いられた特殊な殺虫剤の開発プロジェクトの方がはるかに感動的だったのだろう。

しかし,NHKで農薬開発物語が報道されることはない。コシヒカリ開発物語でも農薬(倒伏防止剤)の話題は避けられていた。NHKでは農薬の有用性の報道は厳禁されている。かくして,一般人はNHKが苦労して創作した「諸葛孔明の登場しない三国志」を見て喝采を挙げることとなる。

030928 一部加筆

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【03/09/21】 火星人と環境ホルモン

大接近した火星はまだ東の空に美しく輝いている。火星を見ていて,1938年10月,アメリカの俳優オーソンウェルズがHGウェルズの「宇宙戦争」を元にしたラジオドラマを制作し,その中で火星人が来襲しあちらこちらの街を攻撃していると放送して,全米をパニックに陥れた事件を思い出した。

このパニックは,当時の人が火星には地球人より優れた知的生命体がいると漠然とでも信じていなければ成立しない。では,なぜ昭和10年代ですら米国人はそのように信じていたのだろう。火星に生命がいたとしても,アメーバのような原始生命体だけだと考えても不思議ではない。

しかし,これにはダンテの神曲に代表される西洋人の伝統的な世界観が絡んでいる。人間界と理想の世界である天上界の間に惑星があるとの世界観である。そこから,天上界に近い外側の惑星は地球より進んでいるはずだとの発想が生まれる。逆に,古いサイエンスフィクションでは内惑星である金星に恐竜が登場する。

人は知らず知らず多くの概念の呪縛を受けている。「宇宙戦争」の話は,かつて日本中をパニックに陥れた環境ホルモン事件を彷彿させる。この日本だけでおこったパニックにも日本人に特異的な妄念が関連している。もちろん,化学物質を「けがれ」とみる考え方である。

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【03/09/15】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(5);最高裁で口頭弁論

9月11日最高裁において所沢ダイオキシン風評被害裁判の口頭弁論を開かれた。10月16日の判決が楽しみである。今度は,一審(所沢ダイオキシン風評被害裁判(1)〜(3))や二審(所沢ダイオキシン風評被害裁判(4))のような「日本が化学物質の安全性評価の後進国であることを内外に知らしめるが如き判決」にならないよう期待する。

この弁論に対する報道が朝日新聞と他紙で全く異なっていて興味深い。アサヒドットコムでの見出しは「名誉棄損巡り最高裁で弁論 テレ朝ダイオキシン報道訴訟」になっている。他紙にはどこにも「名誉毀損」などという文言はないが,はたして,誰のどのような名誉を毀損したのだろう。

テレビ朝日と朝日新聞はこの捏造事件を名誉毀損事件と矮小化したいようだ。しかし,この事件は,朝日新聞の沖縄珊瑚落書き事件と軌を一にする重大犯罪である。珊瑚事件でも「自然保護を訴えるための行為」といっていたが,今回も,「放送がなかったら,所沢のダイオキシン汚染問題は未解決のままだった。」と鉄面皮とでもいうべき主張を繰り返している。テレビ朝日と朝日新聞は正義のためなら如何なる悪事も許されると考えているようだ。しかし,その「正義」とやらも客観的に見た場合「素人の浅知恵」にすぎない。

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【03/09/14】 食品安全委員長寺田雅昭氏に期待する。

FOOD・SCIENCEというサイト食品安全委員会の委員長寺田雅昭氏のインタビューを見た。なかなか味のある内容であった。

食品安全委員会では消費者の代表が入っていないとの批判があるようだ。しかし,そのような批判をする連中の意図は,「消費者の代表に自分らの意見を代弁させること」にあるようだ。つまり,AERA増刊「安全が食べたい」やに代表される1ビット思考しかできない俗悪メディアがこのような主張をしている。

「消費者の代表を加えよ」という議論は,一見もっともらしくはある。しかし,だれが「消費者の代表」として相応しいのだろうか。俗悪メディアの連中は,「農薬や食品添加物の害と食品の安全を考える会」(もちろん架空です)の会長などの「プロの市民」を想定しているようだ。そこまでいかなくとも,主婦連や消費者連合会の会長が消費者の代表なのかというと甚だ疑問である。

それ以前に,消費者の代表として一般消費者の意見を委員会に反映することが果たして正しいのかという本質的な問題がある。黒木登志夫氏が「暮らしの手帖,25(4,5)p. 102(1990)」に書いた「人はなぜ癌になるか?」に癌の原因な関する消費者と癌の専門家の考えの乖離という有名な話がある。一般消費者は食品添加物や農薬が癌の主要な原因だと考えているが,癌の専門家はこれらが癌の原因になるとは全く考えておらず,普通の食品こそが問題だと考えている。では,一般消費者の代表となるべき人物は,癌の原因をどのように考えているのが「正しい」のか。おそらく,食品添加物や農薬が癌の主要な原因だと確信している御仁こそが「本当の」消費者の代表なのだろう。

寺田雅昭氏は,食品安全委員会委員長として経歴も考え方もうってつけの人物のように思える。専門家の意見を如何にして消費者に正しく伝えるか,即ち,リスクコミュニケーションの重要さを十分に理解している。

寺田氏には頑張って欲しいものである。こんど協和香料事件のようなことが起こった場合,商品の回収の必要はないと明確に指示して,本当の意味で消費者を守って貰いたい。協和香料事件で放送されたようなNHKなどの俗悪メディアの科学を忘れた報道から。

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【03/09/07】 イネにC4植物の機能を組み込む。

遺伝子組換えの議論が盛んであった頃,私は少なくともイネに関して最もインパクトのある遺伝子組換えはC4植物の機能の組込みだと考えていた。高等植物はC3植物C4植物,CAM植物の3種類に分類されるが,C4植物はC3植物に比べ約2倍の光合成能力がある。トウモロコシはC4植物だが,イネは光合成能力の劣るC3植物である。もし,イネにトウモロコシの光合成能力を付与させれば,収穫量を大幅に増やすことが可能になる。

私はこのような研究はまだ「夢」の段階にあると考えていたが,最近,(独)農業技術研究機構 北海道農業研究センター(独)農業生物資源研究所でこの研究がかなり進んでいることを知った。

確かに安全性の議論もあるだろうが,それによってこのような優れた研究が潰されることがないよう願ってやまない。

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【03/05/17】 EUで新たな化学品管理システムREACHが始まる。

5月7日付のEUのHPにREACH(Registration, Evaluation and Authorization of Chemicals)とよばれる新たな化学品管理システムの構築に関する報道発表があった。具体的には以下の2つの報道などである。なお,REACHとは「化学物質の登録,評価および許可」を意味する。

Commission publishes draft new Chemicals Legislation for consultation
Questions and Answers on the New Chemicals Policy REACH

実際の実施は予定よりかなり遅れるようだが,一応,一歩前進と評価できるだろう。私は,一般化学物質の安全性評価,殊に環境影響に関する評価が農薬に比べあまりにもお粗末なことに常々疑問を感じていた。

しかし,このシステムの具体的な運用が始まった場合,本邦での化審法(化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律)によって要求される安全性評価試験やUS-EPAガイドラインやOECDガイドラインとの整合性の問題を生じるかもしれない。

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【03/03/05】 特定農薬の設定(4);食酢と重曹

食酢を特定農薬とすることの問題は少ない。しかし,食酢を特定農薬にできるのなら化学物質である氷酢酸(純粋な酢酸)を使えばどうなるのか。酢酸の方が食酢より安全なことは自明だが,氷酢酸だと無登録農薬になるのだろう。この例は,本当の安全性と一般人の考える安全性を考察する上で興味深い。

重曹では,すでに存在する農薬の有効成分としての登録がどうなるのかが興味深い。私は,市販の重曹を個々の農家が農薬として使った場合のみが特定農薬になり,「重曹を有効成分とする農薬」を販売するには今まで通り農薬登録を要求するのが合理的だと考えている。

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【03/01/31】 特定農薬の設定(3);アイガモは農薬か。

なぜ,アイガモ農薬かどうか議論になるのか。それは農薬取締法第1条の2第2項に「農作物等を害する病害虫の防除のために利用される天敵は農薬とみなす。」との意味の条文があるためである。しかも,この条文には令や則による限定はない。この種の法律では「病害虫の防除のために利用される天敵のうち政令で定めるものは農薬とみなす。」などと記載し,具体的には施行令において農林水産大臣名で「農薬取締法第1条の2第2項に規定する天敵とは,害虫を捕食あるいは寄生する節足動物,水田の除草に用いる甲殻類および魚類,〜をいう。」などと規定することが多い。

これらの規定がない以上,農薬かどうかの判断は「天敵」に該当するかどうかだけになってしまう。これが,今月21日の中央環境審議会と農業資材審議会の合同会議でアイガモが「雑食だから天敵ではない。」という言い訳じみた理由で特定農薬から除外された理由である。これは,もし,害虫だけが大好物でこれを主食とするカモがいれば農薬に該当することを意味する。また,「病害虫」には雑草も入っているため,雑草だけを食べるカモがいても農薬となる。確かにアイガモは雑食だが,害虫と雑草を食べる雑食ならこの条文を解釈する限り農薬とみなさざるを得ない。

しかし,これらの議論にはどこかに線を引かなければきりがない。そうでないと,「農作物等を害する動植物にはイノシシも含まれるから,その防除のためにトラを放し飼いにすればこのトラも農薬に該当する。」といった議論にまで飛躍してしまう。したがって,合同会議において,アイガモなどが特定農薬に指定されなかったことには一定の合理性がある。しかし,どこまでを天敵とみなすかについては何らかの方法で基準を明らかにする必要があろう。

私はアイガモは特定農薬に指定すべきだと考えている。アイガモの使い方は多分に農薬的である。

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【03/01/30】 特定農薬の設定(2);特定農薬の設定に農薬としての活性は必須か。

特定農薬の設定を開始した頃,農水省当局は「安全性が明かであれば,農薬としての効果は問わない。」といって,私を大いに呆れさせてくれた。すでに「牛乳や酢は農薬か。」で議論したように,農薬とは機能名であり農薬として使えるものであれば,牛乳もすべて農薬になる。これが,特定農薬という農薬に該当しても農薬としての規制を除外すべき分類が生まれた理由である。ところが,もし農薬としての活性がなくとも特定農薬に出来るのなら,農薬に該当しない特定農薬が出来てしまう。これでは,支離滅裂な自己矛盾というほかない。

今月21日の中央環境審議会と農業資材審議会の合同会議において,「効能の不明なものを指定するのは法の趣旨から外れる。」との意見が出され,多くの特定農薬候補について指定が保留された。どのような議論がなされたのかまだ吟味していないが,審議会が正しく機能していると評価したい。一般に,役人の視野は狭く,ごく限られた範囲の基準でしか物事の判断ができないものである。これを補完するために審議会がある。

この件で当局は,改訂された農薬取締法の施行までに特定農薬の設定ができないと法の運営上支障を生じると考え,設定を急ぎたかったのであろう。指定が遅れれば,施行以降にこれらの農薬を使う農家が,違法な無登録農薬を使ったとして逮捕されてしまう。しかし,たとえこのような事情があろうと,特定農薬設定の支離滅裂な自己矛盾の説明には到底なり得ない。

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【03/01/28】 特定農薬の設定(1);牛乳や酢は農薬か。

ある強盗殺人事件で家にあったネクタイ凶器として使われた事例があった。ここでいう「凶器」とは「人を殺傷する道具」との意味である。実際に被害者の絞殺にネクタイが使われた以上,ネクタイが凶器であったことに疑う余地はない。しかし,これに対してネクタイ製造組合が集会を開き,「凶器とはナイフとか拳銃をいうものであって,装身具であるネクタイは凶器とはいえない。これではネクタイのイメージダウンになる。」という集会アピールを発表し,「このような報道をした◯◯新聞を糾弾し,取り消し記事の掲載を要求する。」とやれば,奇妙な議論になる。特定農薬についての「牛乳や酢が農薬ではないのは自明である。」といった議論はこれに似ている。

法律上の農薬の定義は農薬取締法第1条の2に規定されている。要約すれば,第1項の「農作物等を害する病害虫の防除に用いられる殺菌剤、殺虫剤その他の薬剤」と第2項の「前項の防除のために利用される天敵」が農薬になる。つまり,農薬は殺虫活性などの機能によって定義された機能名である。要するに,撒いて虫が死ねば殺虫剤で,それがスミチオン水和剤であってもマシン油乳剤であっても石鹸であってもニンニクの抽出物であっても関係はない。

特定農薬という分類が必要となった本質は,この農薬の定義にある。農薬が機能名である以上,虫の防除に使われるものはすべて殺虫剤になってしまう。そこから農薬としての規制を除外すべき特定農薬という分類を作る必然性が生まれる。しかし,世の中には農薬を物質の総称名であるかのような誤解をしている不思議な御仁がいる。「ダニの防除に牛乳を使っているから無農薬だ。」などの発言に何の疑念も抱かないとすれば,論理的思考能力の涵養を怠ってきたというほかない。

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【03/01/17】 日本子孫基金の小若順一氏は植物ホルモンと環境ホルモンの区別もつかないようだ。

1月13日のテレビ朝日「たけしのTVタックル」日本子孫基金事務局長小若順一氏の捏造したポストハーベスト農薬の話が放送されたことはすでに時事編に記載した。

私はその中のレモンの話の「スプレーしているのは植物ホルモン2,4-Dである。」とのナレーションがずっと気になっていた。確かに,2,4-Dは普通は除草剤として使われるが,ごく低濃度ではオーキシン活性を発現する。オーキシンとは植物幼細胞の伸長生長を促進する植物ホルモンである。そのオーキシン活性を使ってレモンのへた落ち防止に使われているのだから,このナレーションは一応正しい。しかし,その直後に「防カビ剤2・4D」というテロップが流れ,2,4-Dは植物ホルモンとは何の関係もない防黴剤にされてしまう。どうしても,「植物ホルモンの」という説明が無意味になり宙に浮く。私はこの解釈に3日かかったが漸く小若氏の意図が理解できた。彼は植物ホルモン環境ホルモンを混同していたのである。少なくとも,類似の「恐ろしいもの」との意味を込めて「植物ホルモンの」と原稿に書いたのだろう。

そう考えると次の疑問,つまり,なぜ小若氏は2,4-Dを防黴剤だといっておきながら,その次には枯葉剤の主成分,つまり除草剤だといって何の矛盾も感じないのかという点が理解できる。彼にとって防黴剤とは「危険なもの」という意味であり,枯葉剤も「危険なもの」を意味している。したがって,防黴剤が枯葉剤であっても何の不思議も感じることはない。もし,防黴剤をカビを防ぐ薬剤,枯葉剤を(本来の意味とは異なるが)灌木を枯死させる農薬との概念が頭の片隅にでもあれば,即座に矛盾を感じてしまうだろう。殺菌剤に除草活性があれば作物が枯れてしまう。

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【03/01/04】 農薬取締法と「車の制限速度」

日本では一般道路での自動車の最高制限速度は60 km/h,高速道路では100 km/hだから,緊急自動車を除くすべての自動車に一般道では60 km/h,高速道路では100 km/hを超すと自動的にブレーキがかかる装置を取り付けるべきである。こんな議論を聞いたことがある。

日本は法治国家であり,制限速度は守らねばならないからこれは正論ではある。しかし,実際に乗用車を運転している者にとって,これは信じがたい妄論に思えるだろう。そして,運転免許を有する者は多く,法律を制定する者も多くは車の運転が出来るから,このようは「悪法」が制定されるおそれはない。

一方,農薬の使用者は少なく,農薬取締法の担当官に農薬の使用経験はない。正論で「制限速度」を守らせることに何ら違和感を感じることはない。

今年3月に改訂農薬取締法が施行される。

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