
●所沢ダイオキシン報道騒動;素人はこれだから困るよ。分析委託試験機関の業務は正しい分析値を出すことにある。そのためにはサンプリングの段階から十分な知識を有する者が試験を設計しなければならない。はたして,環境総合研究所にその能力はあるのだろうか。私は,環境総合研究所の出した分析値は捏造といって差し支えないと考えている。
【99/12/01作成】
いやはや,朝日放送は所沢のダイオキシン騒動ではしくじったね。私なら,所沢のホウレンソウのダイオキシンは全国平均の5倍だというデータをだしてあげるのに。もっとも,玄人ならそのトリックを見破ると思うけどね。
まず,金をケチってはいけない。ホウレンソウ以外にチンゲンサイなどできるだけ多くの野菜を分析しなければいけない。全国平均以下ならその野菜を分析したことなど黙っていればよい。もともと,GLPに準拠したようなまともな試験ではない。告発報道とはそんなものだ。「彼らのやり方には問題があったかもしれないが,その問題にわれわれの目を向けさせてくれた。」と褒めてくれる御仁が必ず出る。もっとも,茶の報道を見るとそのことはわかっていたようだけど。
さて,いかにして残留値を増やすかというテクニックを紹介しよう。
まず,品種の選択だ。できるだけ葉が大きく,その割に薄いのが良い。成長が遅いことも重要だ。ここでは,ダイオキシンは単純に空から降ってくるだけだと考えるが,それなら表面積の多い方が絶対量が多くなる。残留は濃度で表記するから表面積の割に軽いこともポイントだ。出荷までの時間が長い方が増えることもわかるだろう。
農薬では品種によって残留量が変わるのは常識だ。極端な話だが,同じブドウでもデラウエアと巨峰では全く残留量が違う。残念ながら私には具体的なホウレンソウの品種はわからず,次郎丸と西洋系ぐらいの区別しかつかない。品種は正しく選んだのだろうか。
次は,栽培方法だ。ホウレンソウは露地だけで施設(ハウス栽培)はないだろうから,これには選択の余地はない。しかし,仮に施設栽培があったとしたら空から降ってくるダイオキシンはビニールの屋根に遮られてしまうから決して選んではいけない。
余談だが,お茶には露地と覆下(おおいした)がある。お茶の木を寒冷紗などで暗くした下で育て,新芽を摘み採るとタンニンやカフェインの多い高級なお茶にできる。覆下だと降ってくるダイオキシン量は減るが,雨にかかったり,日光で分解したりしないから,結局,どちらのダイオキシンが多くなるかはわからない。こんど分析したのはどちらなのだろう。とにかく製茶業者から購入したような栽培履歴のわからないサンプルなど分析したって意味はない。残留量を比較するなら,品種,栽培方法,採取時期等はできるだけ同じでなければならない。もし,所沢と静岡の小学生の身長を比較するなら,何年生か男か女かぐらいは一緒にするだろう。たまたま町で見かけた小学生一人ずつの身長を比較して所沢の小学生の方が背が低いなどといっても意味はない。
次は,収穫時期だ。もちろん,冬がよい。成長が遅く,その上,温度が低く日光も弱いから分解が遅くなりダイオキシンがどんどんたまる。雨の降った翌日などに収穫しないことにも肝要だ。ダイオキシンが流れて減っている。ダイオキシンは結構光に弱い。純粋な溶液なら蛍光灯の下でさえ注意して扱う必要がある。曇りの日が続いたあとで収穫するのがよいだろう。こんなことがあるから,農薬の残留分析報告書にはかならず気象表を付けるのである。
次は,サンプリングである。できるだけ成長の遅れたのが良い。農道の近くには成長の遅れたものが多いから好都合である。とったら新聞紙にくるんで普通に送ればよい。決してクール宅急便など使ってはいけない。時間をかけて送ると含まれる水が蒸発して軽くなるからグラムあたりにするとダイオキシンの量を増やすことができる。ビニール袋になど入れてはいけない。化合物によっては野菜からビニールに移ることがある。カナダの分析機関までどのような形で送ったかわからないが,分解させないように送るのは結構知識がいる。
次に,どこを分析するか分析部位が重要となる。農薬なら「ホウレンソウは茎葉部を分析する。但し,赤色根部を含み,ひげ根及び変質葉を除去する。」と規定し,「土を払い落とすが洗ってはならない」としている。根の部分にはダイオキシンは少ないと考えられるから,こんな規定は無視して根はすべて切り落とせばよい。ついでに茎もできるだけ除いた方がよいだろう。
以上が私からのアドバイスである。私は農薬の分析の経験しかないから思い違いもあるかもしれないが,これらを守れば確実に4〜5倍残留量を増やすことができるだろう。
しかし,もともと残留には振れがある。農薬であれば,農業試験場のプロができるだけ均一に散布し,マニュアルにしたがって同じ圃場で同じ時期にサンプリングした試料でも1.5倍程度の分析値の差はでてくる。圃場,採取時期等が変われば,2倍程度は差がないといっても良い。キャベツなどでは10倍でも差がないとされる。変質葉の除き方により差がでるのである。少なくとも,ダイオキシンなら2倍に差がないことは明白である。なお,農薬の残留分析はいままで書いた全てのことが評価できるよう設計されてる。
ダイオキシンの分析はかなり特殊である。私にもGC-MS(ガスクロマトグラフ質量分析)での分析経験は多いが,低分解能の四重極型しか使ったことはない。高分解能でしかも安定同位体標識を内部標準で使うという高度な手法の経験はない。たとえ話だが,一般のGCを藁の山の中の1本の針を探すような分析だとすれば,GC-MSは稲藁の中の1本の麦藁を探すような分析,ダイオキシンの分析はコシヒカリの藁の中の1本のササニシキの藁を探すような分析だと考えれば良いだろう。
一般のみなさんは分析など専門の外部機関に委託すればルーチンワークで簡単に値を出すと思っているだろうが,これは大間違いである。特に,海外の分析機関に委託するときには注意が必要である。委託側がプロでなければ正確な分析値はまず得られない。作物毎に精製の方法を微妙に変える必要があり,その段階で腕の差が出る。こちらが素人とみると必ず手を抜く。その抜き方は新幹線のトンネル工事の比ではない。もちろん,訊けばそんなことはないと答えるが,セメントとコンクリートとモルタルの区別さえつかない素人はそれを信じるしかない。
問題は腕の悪いものほどデータがばらつき,分析値が低めに出る傾向があることだ。分析担当者の能力は,同時に行った添加回収試験で確認される。添加回収試験とは試料に一定量のダイオキシンをあらかじめ加えて分析し,分析方法を確認する手法である。この試験を含め,精度,確度,再現性の裏付けのない分析値に信頼性はない。
以上,一部を反語的に記載したが,農薬の分析に携わるものは常に正しい値を得るために研鑽を積んでいる。もし,その知識を悪用して分析値は算出すればそれは捏造といってよいだろう。しかし,全くの素人がサンプリングや分析依頼をおこなえば,その意志があろうとなかろうと得られた分析値は捏造といって良いのではなかろうか。
【著者付記】1991年の巻頭閑話の以下の項目もご覧下さい。
【01/05/24】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(3)
【01/05/18】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(2)
【01/05/17】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(1)
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