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●なぜNHKは環境ホルモンの報道開始を1年間も延ばしたのか。

NHKが報道を始める1年前には日本の化学会社の安全性担当者はほとんどパニック状態でこの問題に対応していた。ようやく,「重要な問題であるが,若千の例外を除いて現在のわが国環境下で緊急に対応策を講ずべき事態が生じているとは考えられない。」との認識が得られ平成9年6月に報告された。NHKが環境ホルモンの報道を始めたのはその頃である。NHKには「解決手段の確定していない問題は報道しない」との基本原則があるようだ。

【00/02/06作成】

NHK環境ホルモンの報道を始めたのは平成9年6月であった。しかし,そのほぼ1年前には日本の化学企業は事態の重要性を認識していた。その当時,多くの研究者は病院で使われる点滴チューブを最大の問題と考えていた。点滴チューブに含まれる可塑剤は輸液などで溶出され,消化管を経ることなく直接患者の体循環系に入る。しかも,点滴のたびに新しいチューブが使われ,その使用はときに長期にわたる。専門外である私はこの問題のその後の経緯を知らない。しかし,多くの研究者たちの努力により実態が解明され,すでに解決されているものと思う。

NHKが点滴チューブの問題点を知らなかったとは考えにくい。では,なぜあの集中豪雨のような環境ホルモンの報道の中でさえ,この重要な問題を報道しなかったのか。けだし,重要な問題と認識していたゆえに報道しなかったのではないだろうか。NHKが重要な問題を重要であるがゆえに報道しなかった事例は枚挙にいとまがない。そもそも,環境ホルモン問題を1年あまりも報道しなかったことがその好例といえる。

いわゆる環境ホルモンの問題は平成8年3月の米国でのOur Stolen Futureの発売が発端である。常識的に考えれば,その直後にNHKが報道を始めて当然である。むしろ,この本の出版前に報道してこそ報道機関としての責務を果たしているといえる。しかし,NHKが環境ホルモンという奇妙な造語でこの問題の報道を始めたのは翌年の6月であった。

当初「エンドクリン問題」といわれていたこの問題に対する日本政府の対応は迅速であった。通産省はこの調査を(社)日本化学工業協会(日化協)に委託し,平成8年9月日化協は(社)日本化学物質安全・情報センター(JETOC)に専門的検討を再委託した。日化協でも塩ビ協,化成品工業会,界面工業会などの下部団体を巻き込み,独自にこの問題に対する対応体制を整えた。これら団体に所属する企業の安全性担当者は当時対応に忙殺されたであろう。一応の結論が得られたのは平成9年6月である。日化協は調査研究報告会において「若千の例外を除いて,現在のわが国環境下で外因性物質のホルモン様作用の関連で緊急に対応策を講ずべき事態が生じているとは考えられない。」と報告している。NHKが環境ホルモンの報道を始めたのはその直後である。

日本で報道が始まった時点で,「震源地」である米国では事態は沈静化していた。具体的な問題点の検討を終え,今後採るべき方策が固まっていたのである。平成9年9月にラスベガスで開催された米国化学会では,関連の研究発表会場は閑散としていた。平成10年8月に英国にて開催された国際農薬化学会議(ICPC'98)では1100余りの発表の中に関連報告はなく,法規制に関するトピックスにもEPAなどの政府機関の発表はなかった。先進国ではすでに平成9年末には過去の話題だったのである。

結局,NHKはこれがさほど重要な問題ではないとの結論が得られたために,重要な問題であるとの報道を始めたのではないだろうか。もし,重要な問題と認識したなら黙殺して,おざなりな報道しかしなかったに違いない。これが,政府当局からの要請なのか自主規制なのかはわからない。とにかく,NHKの体質であることは間違いない。

NHKではゴミ焼却処理場から発生するダイオキシンの問題も減らせる手法が確立されてから報道が始まっている。母乳中のダイオキシンの問題も濃度が十分に減ってから報道されている。これらも,解決手段が確立されていない問題が報道されないことの実例である。

さらに,NHKは牛乳パックの回収の話題には熱心だが,新聞紙の回収は無視している。ゴルフ場排水などの些末な農薬問題は報道するが,水田除草剤の流亡については報道されない。健康に重要なタバコラドンなどは話題にすらされない。

われわれは,NHKは重要な問題は報道しないことを十分に認識しておく必要がある。しかし,何が報道されていないかを認識することは専門家以外には難かしい。

昨今のインターネットの普及はすさまじい。私のような路傍のケミストですら愚見を披瀝できる。インターネットがこのNHKの体制を変えていくことに期待したい。

 

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