
●生物が元素で出来ていることを実感しよう。私は祖父から何個の炭素原子を受け継いでいるのか考えてみた。死亡時に祖父を構成していた11 kgの炭素原子が45兆トンの地球上の炭素循環に入り平衡に達していたとすれば,その割合は0.24 ppqと計算される。これにアボガドロ数を乗じると私を構成する炭素原子のうち1300億個が祖父の炭素と計算される。
【00/01/15作成】
人体は元素で出来ていることを実感していただくため以下の話を考えた。
昔,祖父が亡くなり荼毘に付された。もし,祖父を構成していた炭素原子が地球上の炭素循環に入り平衡に達していたとすれば,私を構成する炭素原子のうちいくつが祖父の炭素だろうか。
地球上の炭素サイクルで最も大きいのは石灰岩などの炭酸塩と元素状炭素である。しかしながら,海水中の炭酸塩がこれらへ移行する量は比較的少ないためこれを無視すると,次に大きいのは海洋に溶けている二酸化炭素で40兆トンを占める。陸域の全ての木や草や土壌微生物や昆虫,動物をあわせてもその1%程度の4500億トン程度にすぎない。気圏,陸域をあわせた総炭素量(以下,総循環炭素と記載する)は45兆トンである。
人体を構成している元素のうち最も多いのは約65%を占める酸素であり,その大部分は水に由来する。次が約18%を占める炭素である。祖父は60 kgぐらいであったから,死亡時に祖父であった炭素は11 kgである。
したがって,総循環炭素中の祖父の炭素の比率は
11 kg/45兆トン
で,これは,割合としては
2.4×10-16
となる。10-15は濃度としてはpptの3桁下のppqにあたるから,祖父の炭素は,総循環炭素の0.24 ppqを占めていたことになる。祖父は生前に新陳代謝を行っており,一度は祖父の体を構成した炭素の比率は,おそらくこの3桁程度上のpptのオーダーとなろう。これで,pptという単位が実感できるだろう。
アボガドロ数という物理定数がある。炭素の同位元素である炭素12が12 gあったとき,それに含まれる炭素原子の個数で6.0×1023である。
では,体重60 kgの私を構成する11 kgの炭素の個数はいくつになるのか。11 kgをgに換算して炭素の原子量12で割り,アボガドロ数を乗じればよいから,
(1.1×104÷12)×(6.0×1023)=5.5×1026
となる。そのうち,祖父であった炭素は
5.5×1026×(2.4×10-16)=1.3×1011つまり,1300億個が祖父の炭素である。私の体1 mgなら2000個となる。惜しまれつつ抜け落ちた髪の毛1本にも数千個の祖父の炭素原子が含まれていることになる。
よく,いかに微量であってもたとえばDDTなどの化学物質が検出されたことに変わりはないという議論がある。しかし,いままでに製造されたDDTの総量が祖父の体重に比べてはるかに多いことを考えれば,髪の毛1本のなかにもいくつかのDDT分子が存在するのはむしろ当然である。問題は検出限界をどこに設定するかだけである。一般の主婦は,ダイオキシンやDDTなどが1分子も含まれない作物が「けがれていない」安全な作物だと考えるだろう。しかし,このような作物など存在し得ない。では実質的に安全な作物とは何かと考えた時点で安全性を評価するという科学的思考が芽生えるのである。
大学1年のとき,化学序説を講義していただいた某教授が「アル・カポネが死んだとき肺の中にあった窒素分子が完全に大気中に分散したとすれば,今生きている者は1回の呼吸でそのときの分子をいくつ吸い込むことになるか。」なる問題を出した。以上の議論はこれにヒントを得て作成したが,興味のある方はこの計算をしてみると良い。アボガドロ数の大きさを実感できるであろう。
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