NHK総合ニュース(2002年3月14日朝7時のニュース),
農薬は低濃度でもメダカに異常;(1)浦野紘平教授は農薬の水溶液の作り方さえ知らないようだ。

【02/03/16】

3月14日朝7時のNHKニュースで以下のような報道があった。

国内で広く使われている農薬のうち国が環境ホルモンの疑いがあるとする3種類の農薬は,田畑周辺の小さな河川で存在するごく低濃度でもメダカの生殖に異常が出るという研究結果がまとまった。安全基準作りや基準の見直しを行う上で貴重なデータだと注目されている。
横浜国立大学大学院環境情報研究院の浦野紘平教授を中心とする研究グループは環境ホルモンの疑いがあるマラソン,ベノミル,トリフルラリンについて,1リットルあたり100万分の1グラムという極めて低い濃度でヒメダカのつがいを約2週間飼育する実験を繰り返した。その結果,卵のまま死んだり尾びれや背骨に異常がある稚魚が生まれることが相次ぎ,正常の魚が生まれる割合は10〜40%減ることがわかった。この濃度はマラソンでは基準値の1/10にあたる。浦野教授は「このような試験をしっかりやってから農薬の使用の許可をするとか,水質の基準を見直したり作ったりすることが必要である。」と話していた。

テレビに出演した浦野紘平教授をみて,私はただのど素人だと即断した。農薬の魚に対する影響の試験として,メダカの入ったビーカーのような水槽の中にピペットで溶液を滴下して見せたからである。多少の化学知識があれば,このような「実験」は決して行わない。たとえNHKに頼まれた単なるデモンストレーションだといっても言い訳にはならない。

多くの農薬は水に溶けにくいため, 1 ppbといった低濃度の試験水溶液を調製するのは結構難しい。水に難溶な農薬は,いったんアセトニトリルなどの水と自由に溶け合う有機溶媒(助剤)に溶かして水に加えるのだが,有機溶媒は魚に影響を与えるためその量を最小限にとどめる必要がある。普通は10 Lの水に(この場合は100 ppm程度の)アセトニトリル溶液を0.1 mL程度加えることが多いのだが,2段階で希釈することもある。しかし,浦野教授はこの溶液を「滴下」して見せたのである。有機溶媒に溶かした農薬を水に滴下すれば,溶媒が水の表面に広がって農薬は薄い油膜状になり,一部は油滴として分散するが容易には溶解せず均質な溶液とはならない。しかも,この油膜は器壁に付着し,長時間不溶のまま残る。実際にはピペットの先を溶液中に浸し,撹拌しつつ水中に加えていくのである。もちろん,溶液を正しく調製したのちにメダカを入れるのであって,メダカの入った容器に農薬溶液を滴下するなど狂気の沙汰といえる。

ただ,ガラス製の容器を用いたことは正しい。ガラス製の容器でなければいわゆる吸着(正確には「固相抽出」)を生じる。しかし,このような容器で2週間といった長期間の試験を行うことはできない。このように被検物質の水溶液を調製して中にヒメダカを放つ試験系を止水式というが,農薬などは水中で分解するためこの系では長期間の試験が困難となる場合がある。その場合は,半止水式流水式で試験を行う必要がある。

実際には浦野教授の研究は流水式で行われたらしく,止水式でのデモンストレーションのあと流水式での試験容器がテレビでも紹介されていた。ところが,その水槽が非常識極まるものであった。ごく短時間の映像であったため明確ではなかったが,細長いアクリル製の水槽を穴を開けたアクリル製の仕切板で仕切り,それぞれの仕切の中にメダカのつがいを入れていたのである。これでは微量濃度での試験は成立せず,コンタミがおきてしまう。

ここからは若干の化学知識が必要となるが我慢してお付き合い願いたい。分析では水に溶けている物質を有機溶媒で抽出する操作をよくやる。抽出したい水溶液を分液ロートに入れ,ヘキサンなどの有機溶媒を加えて振盪攪拌すると水相と有機相との間で分配が起こり,多くの有機物は有機溶媒の方に移る。ヘキサンをヘプタンやオクタンなどの炭素数の多い炭化水素に変えても同様である。そして,ノナン,デカン,ウンデカン,ドデカン,トリデカンと炭素数を増やしていくと最後にポリエチレンになる。水溶液の中にプラスティックであるポリエチレンを入れれば,水相に溶けている有機物はポリエチレンに「抽出」される。これを吸着と誤解している方が多いが,表面にファン・デル・ワールス力でついている訳ではない。分子の内部に入り込んでいるのであり,溶媒で洗っても落とすことはできない。

これが魚毒試験に決してアクリル水槽を使ってはいけない理由である。単に濃度が下がるだけではなく,それ以前に使った被検物質がアクリルから徐々に滲みだし試験の結果に影響を与えてしまう。ニジマスなどの大型魚での試験には,やむをえずアクリル水槽を使う場合もあるが,その場合は流速を早くして対応する。浦野教授の試験も仕切がステンレスの網なら一応は納得する。しかし,穴を開けたアクリル製の仕切板を用いたのではとても信頼できる結果は得られない。

この試験の次の最大の問題点は,濃度を変化させていない点である。1 ppbという1濃度だけで議論するのは危険である。濃度を変えた場合にどのように症状や反応が変化したか,すなわち,ドーズレスポンスを議論しなければ意味がない。他にも,多くの問題点がある。流水式での試験溶液の調製法や,濃度が計算値通りになっているか正しく機器で定量しているかなどである。農薬を水に滴下して見せた浦野教授が責任者なら,どのような初歩的ミスを犯しているか予想できない。

細かなことばかりを並べたてていると思った方も多いだろう。しかし,それが試験というものである。毒性の評価には,まず正しい試験によって毒性値などを得ることが大前提である。そして,得られた結果を正しく解析し評価するのである。もちろん,浦野教授の場合は毒性の解析や評価もデタラメである。

 

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