
NHKインターネット公開中,
「インターネット討論,地球法廷-食料危機」安全性雑感【00/03/20】
現在,NHKはホームページ(すでに削除)で「インターネット討論,地球法廷-食料危機」を開催している。私は,これをときどき覗くのを楽しみにしている。
私の関心事とは海外からの意見の内容なのだが,現時点(2000年3月20日午後8時)で日本から125件の意見が掲載されているが,日本以外の国籍の意見はまだ1件もない。私には,「地球法廷」の英語のページに書かれている「英語」が果たして日本人以外にも理解できるか気になって仕方がない。
具体例を挙げる。「地球法廷-食料危機」で提起されている最初に提起されている質問項目は,日本語では「あなたが毎日口にする食料は安全ですか。それを、どうやって確かめられますか。」,英語では「Is the food you eat everyday safe? How do you check whether it is safe?」である。はたして,この「英語」は英語圏の人々に理解できるだろうか。もちろん,この例での問題は安全(safety)という曖昧な表現にある。
安全という概念は状況により大きく変化する。たとえば;
- フランスは核兵器の安全性を維持するため地下核実験を行った。
- ゴルゴ13は狙撃を目撃した3歳の幼児を安全のために射殺した。
- 6歳の幼児が拳銃で小学校の同級生を射殺するという事件があり,銃の安全性を高めるため,銃の安全装置を幼児では解除することができなくするようにとの提案があった。これに対し,銃を使う者の安全に支障がでるとの反論があった。
- 日本では,医者の資格のない救急隊員が医療行為をすることは救急患者の安全に支障をきたすおそれがあるとの理由で禁止されていた。それが,先進国の中で救急車の中で死亡する患者が異常に多い理由の1つであった。
原子力発電所の緊急炉心冷却装置の安全性という話がある。緊急炉心冷却装置に使われているポンプにも加熱時に電源が切れるよう「安全装置」を取り付けるよう定められているというのである。しかし,このポンプの稼動する状況はかなりの非常事態である。たとえ,ポンプが燃え上がろうと短時間にできるだけ多くの冷却水を原子炉に注ぎ込まねばメルトダウンがおこる。ポンプの安全が確保されても原子炉が危険になれば意味はない。偏頗な安全性の議論の危険性を示す話である。
「地球法廷-食料危機」の第1の質問項目は「無農薬だから安全」との機械的思考を何の疑問もなく受け入れていなければ成立し得ない。「毎日食べている食品は安全ですか。それを、どうやって確かめられますか。」とは「あなたは,無農薬,無化学肥料の有機無農薬栽培で作られた作物から製造された食品を食べてますか。その食品が有機無農薬であることはどのようにして担保されていますか。」との意味であろう。それなら,そのように英訳しなければ英米人には理解できない。
米国FDA (食品医薬品局,U. S. Food and Drug Administration)に,CFSAN (Center for Food Safety and Applied Nutrition) という部署がある。名前の通り,この部署で管轄しているのが食品の安全性のための業務である。もちろん,残留農薬もこの部署の管轄であるがその業務のごく一部にすぎない。
今年,1月にEU(欧州連合)は食品安全性白書(WHITE PAPER ON FOOD SAFETY)を公開した。これを見ても食品の安全性に占める残留農薬の比重がさほど高くないことが理解できるであろう。
かなりの日本人は「安全な食品」という言葉から「無農薬」を連想するであろう。しかし,日本人でもある程度の知識のある者ならHACCPを連想する。HACCP (Hazard Analysis − Critical Control Point (Inspection)System;食品の危害分析・重要管理点(管理または監視)方式)とはNASAが安全な宇宙食のために開発したシステムである。これは食品の本当の安全性を確保するために構築されたシステムで,文科系の秀才達の神学論争の賜物などではない。現在,日本においても多くの食品会社がこれを採用し「安全な食品」の製造販売に貢献していることはよく知られている。HACCPでは微生物危害に重点がおかれていることからも明らかなように,「安全な食品」という言葉で無農薬や遺伝子組換え作物などのみを議論することなどあまりにも狭隘な思考といえよう。
私は,地球法廷に投稿するつもりはない。NHKが意見を取捨選択している以上,どうみても公正な土俵とは思えない。しかし,今後の地球法廷の議論についてもここで時折コメントし,それをNHKに連絡することにより間接的に参加したいと考えている。
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