NHKインターネット公開中,
「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」;自由洗脳社会における洗脳能力競争に真打ち登場

【00/04/07】

NHKはホームページ(すでに削除)で「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」(「食料危機」から改題)を開催している。私は,英語圏からの意見の内容を楽しみにしているのだが,現時点(2000年4月7日午後9時)ではまだ1件もない。日本人以外にも2人の方の意見が採用されているが,日系ブラジル人と韓国人であり英語の問題提起に触発された意見とは思えない。「地球法廷」の英語のページに書かれている「英語」はやはり日本人以外には理解できないのだろうか。

「地球法廷」に掲載されている意見をみていて,岡田斗司夫氏の著書「ぼくたちの洗脳社会」を思い出した。岡田氏はアニメやマンガの世界で活躍し,オタキングなる名声をほしいままにしているオタク界の重鎮である。「ぼくたちの洗脳社会」は岡田氏自身のホームページで全文を見ることができる。ここでは,「自由洗脳競争」という同氏の用語を皮相的に用いるだけだが,この本の内容は結構深く,購入する価値は十分にある。著者の主張通り,アルビン・トフラーの「第三の波」と堺屋太一の「知価革命」の正しい批評になっている。

一応まだ研究者の端くれである私には,それなりに文献などを調べ「正しいこと」を根拠に意見を述べようとする習慣がある。もちろん,それが1つの視点からの正しさにすぎないことは承知している。しかし,「地球法廷」では「もっともらしいこと」あるいは「正しそうにみえること」こそが重要である。ここでは「正しさ」ではなく「洗脳能力」を競っているのである。そして,意見を述べる洗脳能力競争参加者の最大の洗脳対象は読者ではなくNHKそのものであり,不思議なことにNHKが最大の洗脳者でもある。

大学生のとき分析化学の授業で定性分析のときには定量的な考えを持つ必要があり,定量分析には定性的な考えが必須であると習った。その後,分析関係の仕事にも携わることになり,この言葉の重要性を痛感している。

「発癌性がある」とか「殺虫剤には多くの種類があり,危険な殺虫剤が使われて残留している可能性も否定できない」といった定性的な議論がある。しかし,このような議論には,ある程度の定量性の背景がなければ成立し得ない。優れた洗脳能力者は,この定量性の部分を巧みに陰蔽し素人相手に恐怖心を煽る能力を有している。

「発癌性試験で陽性であること」は「ヒトに対する発癌リスクが有意に存在すること」とは別である。殺虫剤には多くの種類があるが,本当に使えるものはごくわずかにすぎない。農家は対象とする害虫を殺すことのできない剤は使わない。同じ効き目なら高価なものは使わない。果菜にしろ葉菜にしろ散布した部分が変色するようなものは使わない。これは,農薬業界では「薬害」といい重要である。登録されている農薬ですら濃度を間違えれば薬害をおこすことがある。

もちろん,可能性をいえば日本で登録されていない殺虫剤を外国から密輸入して使うこともありうる。殺虫剤の代用にメッキ用の青酸カリをまく可能性だってある。可能性をいえばきりがない。行きつけの喫茶店のテーブルにおかれた砂糖の中に青酸カリが入っている可能性さえゼロではない。しかし,喫茶店の砂糖を抜き取り検査して青酸カリの有無を確認せよとの議論は成立しない。普通の日本人はその確率を定量的に理解しているからである。しかし,農薬の使用実態や毒性については一般の日本人にそのような常識の背景はない。かくして,優れた洗脳能力者の跳梁跋扈を許すこととなる。

4月3日に地球法廷を見ると画面が大幅に変わっていた。「ステーキセットからみた安全性と経済性」というテーマを具体的に示し,「サラダには環境ホルモンの疑いのある農薬が残留している」,「レモンには発癌性の危険のあるポストハーベスト農薬が大量に使われている」などと記載されている。おまけに,専門家の批評にはとても耐え得ない具体的な毒性などの根拠を示し,「ほら,このように危険なんですよ。みなさん,どう思いますか。」といっている。洗脳能力合戦が意図通りに進まないのに業を煮やし,最大の洗脳能力者であるNHK自らが前戦に躍り出てきたようである。今後の成り行きが楽しみであるが,おそらく,NHKの意図通り議論が進むことはあるまい。多くの討論参加者はNHKよりはるかに賢明である。

 

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