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「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」;雑感(4)ジャガイモの項目にみるクロルプロファムの毒性の議論の恣意性【00/05/14】
NHKはホームページ(すでに削除)で「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」を開催している。4月3日からは「ステーキセットからみた安全性と経済性」というテーマを具体的に示し,「サラダには環境ホルモンの疑いのある農薬が残留している」,「レモンには発癌性の危険のあるポストハーベスト農薬が大量に使われている」などと記載されている。しかし,そこに示された毒性などの根拠は専門家の批評にはとても耐え得ない素人だましのものにすぎない。ここでは,じゃがいもの項目に記載されているクロルプロファムの毒性の議論についてその誤りを指摘する。
現在までに3度,明々白々たる内容の誤りを具体的に指摘し,誤字脱字に類するような記載上の問題点さえ指摘している。しかしながら,NHKは一切これを無視している。どうも,NHKは「正確な報道」など全く考えていないようである。
まず,全文を引用する。引用した旨は,地球法廷プロジェクト事務局(forum@www.nhk.or.jp),NHKホームページWebmaster(webmaster@www.nhk.or.jp)に連絡済みである。
日本では病害虫の侵入を防ぐ目的で、生じゃがいもの輸入は認められていません。輸入されている冷凍じゃがいもはフライドポテトなどに使用されています。1998年度の東京都立衛生研究所の残留農薬検査によると輸入冷凍じゃがいもからポストハーベスト農薬・クロルプロファムが検出されています(残留基準値内)。クロルプロファムは日本では除草剤として使用されていますが、海外ではじゃがいもを貯蔵する際の発芽防止のためにも使われています。じゃがいもに対するクロルプロファムの日本の登録保留基準は0.05ppmでしたが、1992年に食品衛生法に基づいて定められた残留基準ではアメリカの基準値の50ppmが採用されました。厚生省はこの基準値は一日に人間が摂取してもよいとされる量の範囲内なので、問題ないとしています。また最近では遺伝子組み換え技術によって害虫抵抗性をもつじゃがいもも開発され、商品化されています。遺伝子組み換え作物の人体や環境への影響についてはさまざまな論議がなされています。
((クロルプロファム))
クロルプロファムにはコーデックス委員会で決定する国際残留基準値は現在ありません。国際基準値を決めるために2000年度にFAO/WHO合同残留農薬専門家会議において、毒性についての検討が行われることになっています。東京都立衛生研究所で93年に行った経口急性毒性試験では、ラットに高濃度のクロルプロファムを投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められました。また、98年に行ったラットにおける亜慢性毒性試験では、クロルプロファム(0.75%濃度以上)を含む餌で、13週飼育したところ、顕著な脾臓肥大と肝臓肥大、血液毒性(赤血球数、血小板数、ヘモグロビン濃度の低下等)が認められたと報告しています。レモンのOPPでは残留に関連して発癌性の議論をしていた。もちろん,内容は誤りであったが,残留に関しては慢性毒性で議論をするという点は正しいものであった。しかるに,このクロルプロファムでは急性毒性や亜急性毒性で残留を議論するという根本的な誤りを犯している。
以下,問題点につき議論する。
東京都立衛生研究所の残留農薬検査によると輸入冷凍じゃがいもからポストハーベスト農薬・クロルプロファムが検出されています(残留基準値内)。
ポストハーベストの場合,存在していることに意味がある。存在しなければ発芽防止にならない。検出されるのが当たり前といえる。じゃがいもに対する日本の登録保留基準は0.05ppmでしたが、
じゃがいもに対する登録保留基準など存在しない。登録保留基準は若干の例外を除いて作物群毎に設定される。いも類に対する登録保留基準が0.05ppmに設定されていたのである。じゃがいもに対する日本の登録保留基準は0.05ppmでしたが、1992年に食品衛生法に基づいて定められた残留基準ではアメリカの基準値の50ppmが採用されました。厚生省はこの基準値は一日に人間が摂取してもよいとされる量の範囲内なので、問題ないとしています。
NHKは別の部分で「輸出国の基準を日本が受け入れた結果、農薬によっては環境庁が定めていた登録保留基準の1000倍の値になったものもあります。」と記載していることから,これは厚生省を非難しているつもりであろう。しかし,この厚生省の見解には何の問題もない。もっとも,0.05ppmの基準値を50ppm引き上げてもなんら問題はないとの見解に疑問を感じる方もいるだろう。それは,基準値が安全性から設定されているという誤解から生じている。また,基準値が急性毒性のような一定の値を超えれば中毒症状を発現するような値から設定されているといった発想も誤解の原因であろう。基準値を設定するもっとも重要な根拠は残留実態である。たとえ100ppmで安全性上問題はなくとも,実際に散布施用された場合に0.05ppmしか残留しなければ0.05ppmが規制値とされる。ADI(一日許容摂取量)が十分に大きい値であれば,実際の最大残留量が基準値に設定される。50ppmも残留実態から基準値が設定されており,ADIからは100ppmでも問題がないのかもしれない。基準値は安全性も1つの要素として設定されているが,基準値を超えれば危険とはいえないのである。実質的には1つの便宜的な目安にすぎない。なお,法規制上の議論は別である。
前回,以下の登録保留基準の定義の誤りを指摘した。
登録保留基準とは、農薬が作物や土壌に残留して人や家畜に被害を与えないかなどについて環境庁が審査し、設定する残留基準値のことです。
再度指摘するが,残留基準を超えることが「農薬が被害を与える」ことを意味しない。「100ppmで安全性上問題はないが実際に散布施用された場合には0.05ppmを超えないために規制値が0.05ppmとされている」というのが最も一般的な基準値設定の実態である。その場合,何らかの特殊事情で瞬間最大風速のように0.06ppmの残留があったとしても実質的な問題はない。ついでだが,「一般的な分析機器で検出可能な量」が基準値とされている場合も多い。実質的に残留しない農薬の場合は検出限界が基準値になる。残留が0.0001ppm以下であっても,その分析機器が高価であれば安価な機器での検出限界である0.1ppmが基準値とされる。検出限界が基準値とされている例は,最大残留量が基準値である例に次いで多い。
安全性評価の後進国である日本では,NHKのように基準値が低いことを「優れている」と考える傾向がある。しかし,安全な農薬の基準値を高く設定し,安全でない農薬の基準値を低く設定することこそ「優れている」のである。そうすれば,安全でない農薬を安全な農薬に置き換えることができ,全体の安全性が高まる。全ての基準値は低ければ低いほど「優れている」との考えは,NHKの幼稚な機械的発想というべきであろう。
また最近では遺伝子組み換え技術によって害虫抵抗性をもつじゃがいもも開発され、商品化されています。遺伝子組み換え作物の人体や環境への影響についてはさまざまな論議がなされています。
では,遺伝子組換えによらずに「害虫抵抗性を強化した」じゃがいもは「安全」であろうか。これについては後述する。クロルプロファムにはコーデックス委員会で決定する国際残留基準値は現在ありません。国際基準値を決めるために2000年度にFAO/WHO合同残留農薬専門家会議において、毒性についての検討が行われることになっています。東京都立衛生研究所で93年に行った経口急性毒性試験では、ラットに高濃度のクロルプロファムを投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められました。また、98年に行ったラットにおける亜慢性毒性試験では、クロルプロファム(0.75%濃度以上)を含む餌で、13週飼育したところ、顕著な脾臓肥大と肝臓肥大、血液毒性(赤血球数、血小板数、ヘモグロビン濃度の低下等)が認められたと報告しています。
以上のクロルプロファムの毒性に関するNHKの主張をまとめると以下のようになろう。
国際残留基準値がないことから明らかなように,クロルプロファムはまだ国際的な安全性の評価を受けていない。2000年度にやっとFAO/WHO合同残留農薬専門家会議において毒性についての検討が行われることになっている。しかし,東京都立衛生研究所はこの化合物についての毒物学上の問題点を指摘していることから,FAO/WHOでは厳しい判断が下され,農薬登録の抹消あるいはじゃがいもの基準値が50ppmからかつての日本の登録保留基準である0.05ppmに大幅に引き下げられるといった規制がなされるであろう。
かなり邪推が含まれていようが,NHKの主張を「素直に」読むとこうなる。クロルプロファムにはコーデックス委員会で決定する国際残留基準値は現在ありません。
国際残留基準値がないことは残留基準の評価が十分になされていないことではない。単に,貿易が重要ではなく評価される順番が回ってこなかったにすぎない。国際基準値を決めるために2000年度にFAO/WHO合同残留農薬専門家会議において、毒性についての検討が行われることになっています。
FAO/WHO合同残留農薬専門家会議の目的はADI(一日許容摂取量)の決定にある。このADIと残留実態(MRL)をもとに国際残留基準値が定められる。ADIは安全性の目安であり「毒性についての検討」という表現は妥当ではない。「安全性の評価」というべきである。すくなくとも,東京都立衛生研究所で行われた急性毒性や亜急性毒性の結果は検討に値するような毒性とはいえない。もちろん,完全に無意味なわけではなく,無作用量の判断材料の1つくらいにはなるかもしれない。もちろん,GLP対応の毒性試験にくらべはるかに価値は低い。東京都立衛生研究所で93年に行った経口急性毒性試験では、ラットに高濃度のクロルプロファムを投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められました。
まず,単純な誤りを以下に指摘しておく。これらは「クリントン総理大臣」というようなごく単純な間違いであるが,これだけで作成者がこのような文章を書く資格のない人物であることがわかる。
経口急性毒性試験は急性経口毒性試験の誤りである。
「高濃度のクロルプロファムを投与」は誤りである。「クロルプロファムの高用量を投与」という。なお,慢性毒性試験では混餌投与であるため「高濃度」といってもよい。
「投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められました。」は急性経口毒性試験を理解していないための誤りである。急性経口毒性試験ではラットに経口ゾンデを用いて胃内に単回強制投与し,投与後2週間観察し死亡した個体は直ちに剖検,2週間後には生き残った全ての個体を屠殺解剖し病理所見をみる。「投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められた」訳ではない。東京都立衛生研究所で93年に行った経口急性毒性試験では、ラットに高濃度のクロルプロファムを投与後2週間で、脾臓の肥大や貧血が認められました。
多少でも毒物学を知っている者ならこの文章の奇妙さに気付くであろう。急性経口毒性試験の結果がないのである。急性経口毒性試験で得られる最も重要な情報は半数致死量(LD50)である。文献ではクロルプロファムのラットでのLD50は4000mg/kgと記載されており,急性経口毒性は極めて低いと結論される。急性経口毒性試験での病理所見は単なる参考にすぎない。繰り返すが,急性毒性試験とは半数致死量を求める試験である。そのため,死ぬまで量を増やして投与するのである。死ぬまで投与量を増やしていけば何らかの症状が現れるのは当然である。風邪薬でも,カフェインでも,ウイスキーでも,食塩でも,胡椒でも,唐辛子でも投与量を増やしていけばラットは何らかの症状を示して死亡する。剖検すればその「何らかの症状」が何であるか具体的にわかる。それだけの話である。「脾臓の肥大や貧血」はさほど特異な症状ではない。天然物にも血液毒性を示す化合物は多い。ソラニンも脾臓に多く分布することから血液毒性を示す可能性が高い。
ソラニンとはじゃがいもが含んでいる毒成分である。じゃがいもはこの毒で土壌昆虫などから自らを守っている。芽の部分には特にソラニンが多く,ときに中毒の原因となる。米国では無農薬栽培のためにソラニン含有量の高いじゃがいもが開発され,食中毒事件をおこしている。英国での大量中毒事件も有名である。
ソラニンのヒトでの中毒量は0.2g(50kgのヒトなら4mg/kg相当),じゃがいもでの含有量は発芽部分では0.1%以上(1000ppm以上)といわれている。さて,この毒性の高いソラニンを減らすためにクロルプロファムを使うことは「安全性」にとって問題だろうか。はたして,無農薬のじゃがいもはクロルプロファムを処理したじゃがいもより安全だろうか。クロルプロファムは水洗により大部分除けることも考慮しなければならない。「天然物だから発癌性や催奇形性はない」が幼稚な考えであることを付記しておく。
98年に行ったラットにおける亜慢性毒性試験では
亜慢性毒性試験という用語は適当ではない。日本では90日間反復経口投与毒性試験は亜急性毒性試験といわれる。ただ,英語ではsubchronic(直訳すれば亜慢性)という。クロルプロファム(0.75%濃度以上)を含む餌で、13週飼育したところ、
0.75%の混餌投与が用量として如何に多いかは,ヒトが一日にどれほどの量の食事を摂るか。その0.75%が何gになるか考えてみると良いだろう。ただし,水分は除いて考えること。混餌投与の際,ラットに与えるのは栄養バランスのとれたビスケットの粉のような餌である。顕著な脾臓肥大と肝臓肥大、血液毒性(赤血球数、血小板数、ヘモグロビン濃度の低下等)が認められたと報告しています。
所見の中で肝臓肥大は「正常」を示す指標として重要である。化学物質を多量に投与すればそれを分解させるため肝臓が肥大する。これは正常な生体反応である。つまり,肝臓が肥大するほど大量の物質を投与しても,血液関連のごく普通の症状しか示さなかったのである。むしろ,これはクロルプロファムが安全な化合物であることを示しているのである。
農薬の安全性等の概要を調査するのに最も優れた資料はEPAのR.E.D.である。クロルプロファムも評価されており,根拠とされた報告も詳記されている。もし,毒性について議論するなら一読すべきである。ここで問題とされた「毒性」が些細な事項にすぎないことが理解できるであろう。
最後に,残留に関して急性毒性や亜急性毒性を議論することが根本的な誤りであることを強調しておく。ここでの毒性の議論はもともと全て無意味なのである。
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