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NHKインターネット公開中,
「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」;なぜ遺伝子組換えの議論は机上の空論が大半なのか。 

【00/07/23】

以前,「なぜ,文科系の人間には自然を機械的に捉える傾向が強いのだろう。」で遺伝子組み替え作物の論議につき言及したことがある。該当部分を以下に再掲載する。

最近の遺伝子組換え作物の議論も,ほんとうは快不快で考えながら表向きには善悪(安全性)を論じている典型例である。NHKなどのマスコミに属する文科系の秀才達は,断片的な情報を機械的に組み合わせて「遺伝子組換え作物は何となく気持ちが悪い」との結論を得る。文科系の人間に安全性を定量的に評価するという発想はない。この結果は快不快のイメージでしかない。しかし,もちろんこれが報道される場合には安全性の問題という擬装が施される。視聴者はこの報道の擬装を無意識に剥ぎ取り「遺伝子組換え作物は気持ちが悪いものだ」との結論を正しく理解する。日本人は幼児的な快不快原則を大人になっても持ち続けることを良しとする希有な国民性を有している。そして,その感情は原始的であるがゆえに強い。正義(安全性)より快不快(食べるのは何となく気持ちが悪い)を優先させることに何らためらいはない。そして,いったん得た「気持ちが悪い」という感情はいかに正しい「正義の論理」を並べられても容易に消すことはできない。

欧州も遺伝子組換え作物に反対ではないかというかもしれない。しかし,欧州での論議は明らかに日本のそれと異なる。多分に国家戦略的である。

最近のNHK「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」のホームページを見ていて,この見解に自信を深めている。「遺伝子組換え作物は気持ちが悪いものだ」とのマスコミから植え付けられたイメージに踊らされて机上の空論をもてあそんでいるだけの意見が大半なのである。「嫌いなんだから仕方がない」と「正義」を「快不快」に置き換えて「これで考えなくて済む」と安心立命を得ているものまである。

さて,読者のみなさんは以下の遺伝子操作のうちどこまでが許容できるだろうか。そして,みなさんの意見とその許容範囲には矛盾はないだろうか。

  • キャベツを食べること。キャベツは200年前にはハーブであり,毒性が強く大量に食べることはできなかった。この毒(イソチオシアナート類が主体)を減らし食べても健康にあまり問題がないように改良したのがいまのキャベツである。そのため,虫に弱くなり栽培作物としてしか存在し得ない。もっとも,全ての栽培作物に共通することではある。
  • バナナを食べること。バナナには種はできない。
  • 種なしスイカを食べること。種なしスイカは人為的に作った3倍体である。
  • 種なしブドウを食べること。コルヒチン処理により遺伝子に影響を与えている。
  • 地上部にトマト地下部にポテトができる「ポマト」のトマトとポテトを食べること。ただし,ポマトには食用に耐えるトマトとポテトができるものとする。余談だが,マスコミがポマトを好意的に報道したことは興味深い。除草剤に強いダイズよりポマトの方がよほど「フランケンシュタイン」に近いと思うのだが。
  • 品種改良で冷害に強くしたイネからできた御飯を食べること。
  • 遺伝子組換えで冷害に強くしたイネからできた御飯を食べること。
  • 遺伝子組換え技術で青い色素を作る遺伝子を組み込んだ青いバラを庭に植えること。
  • レオポンを動物園に見に行くこと。レオポンとはトラとライオンの交雑種であるが,今はもちろんいない。正常の交配で生まれていることはいうまでもない。
  • ヒトの代謝酵素系を発現する遺伝子を導入したラットを作出すること。このラットを用いると医薬や農薬の毒性試験や代謝試験の精度を向上させることができ,安全な医薬や農薬の創製に役立つ。

さて,いかがであろうか。
これからは,バチルス・チューリンゲンシスをモデルに考えたお話(思考実験)である。話を単純にするために事実とは少しずれていることをお許し願いたい。

昆虫に感染し,その虫を殺してしまう細菌(以下,Btx細菌)がいる。自然界にごく普通に存在し,自然界でも虫の0.1〜1%はこの細菌の感染で死んでいる。この細菌が虫を殺すのは蛋白質の毒素(Btx蛋白)を分泌するためであり,この毒素が昆虫の胃に入ると虫は死亡する。哺乳類ではこのタンパク質は完全に無害で,アミノ酸に加水分解して栄養にしてしまう。
さてこれからが,問題である。

  • このBtx細菌を大量に培養し,培養液を水で薄めて散布すれば化学農薬を使わなくとも虫を殺せる。さて,この生物農薬は許容できるか。もちろん,細菌そのままであるから,Btx毒素もその毒素を作るBtx遺伝子も含んでいる。
  • Btx細菌を大量に培養したのち,加熱殺菌して死んだ菌を含む水溶液を生物農薬として散布すればどうか。この例でも,Btx毒素もBtx遺伝子も含んでいる。
  • Btx細菌を大量に培養したのち,加熱殺菌してその培養液からBtx蛋白だけを結晶としてとりだして,もう一度水に溶かして作物にまいて害虫を殺せばどうか。
  • Btx蛋白を大量に作るために,遺伝子組換え技術により酵母にBtx蛋白を生成させ,培養液からBtx蛋白だけを結晶としてとりだして,もう一度水に溶かして作物にまいて害虫を殺せばどうか。
  • 生物農薬としてはBTが有名であるが,糸状菌も殺虫剤として使える可能性がある。糸状菌は昆虫のキチン質を酵素で溶かして昆虫体内に侵入するが,遺伝子組換えによりこの酵素の性能を上げて感染能力を向上させた糸状菌を生物農薬として用いることは許容できるか。

  • 植物が病気の感染に対して防御物質を産生することはよく知られている。植物にも,いわば免疫機構のようなものが存在するのである。植物は細菌の特定の「切れ端」を見つけると「免疫機構」を活性化させる。植物に,ある酵素を作る遺伝子を導入すると細菌感染時にその「切れ端」を増やすことができ,防御物質の産生量を増やして病気の感染を防ぐことができる。この植物の免疫機構を強める遺伝子操作は許容できるか。

有機農産物に使える農薬;質問編」 では「有機栽培」でも使用可能な農薬について記載した。これにより,賢明な読者は有機栽培と通常の栽培に本質的な差はないこと,少なくとも峻別は不可能であることをご理解願えたと思う。遺伝子組換え作物についても同様である。いままでの作物との間に多くのバリエーションがある。「DNAをいじった食べ物を食べるのは怖い。」とか「人為的に操作された作物は生態系に悪影響を及ぼすに違いない。」といった机上の空論からは何も生まれない。

さて,遺伝子組換え反対論者のみなさんの中に「マスコミから植え付けられたイメージに踊らされていた」と気付いた方がいるだろうか。けだし,その可能性はほとんどあるまい。「いったん得た気持ちが悪いという感情はいかに正義の論理を並べられても容易に消すことはできない。」のだから。

 

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