NHK−BS110月22日(日)22:00〜23:15
「地球法廷−環境を問う,第2回 食の未来」感想 

【00/10/29】

NHK−BS1で10月22日(日)22:00〜23:15「地球法廷−食の未来」が放映された。予想に反してフェアーな報道で驚いている。特に,NHKの大好きなポストハーベスト農薬環境ホルモンについては,その言葉さえ一切でてこなかった。HPの「ステーキセットから見た安全性と経済性」の「安全性に関わる論点」にポストハーベスト農薬と環境ホルモンと農薬の毒性の議論が掲げられていたことを考えれば,これは驚嘆に値する。「これが論点だよ」といって討論を誘導しておきながら,牛のホルモン剤と残留基準の国際比較以外は全く無視して取り上げなかった。高い見識と評価できるが,討論参加者には裏切り行為と写ったかもしれない。

題名も最初が「食料危機」,それが「食料の安全性と環境」になり,放送時には「食の未来」となった。仮に,新聞のテレビ欄に「NHK特集−食料危機(food crisis)」という題名の番組があったとすれば,視聴者は食料の不足の問題を扱う番組だと考えるだろう。普通に農薬を使って作物を作っている状態を「食料の危機」と捉えるような不思議な連中がこのホームページを作成し管理運営していたのである。

「食料の安全性と環境」を「食の未来」としたことはNHKの見識として評価できる。「食の未来」が「環境を問う」の「地球温暖化」に続く第2回である以上,食料の人に対する安全性は重要なテーマではありえない。「人に対する安全性」と「環境」とは多くの場合に対立するが,この番組は環境側からの議論でなければならない。その意味で,食品,食料,食糧,作物,農産物,農業などを包括する「食」という概念こそが議論の対象として相応しい。

HPで提起されていた問題は以下の6つであった。これらについて,たとえ取り上げても結論めいた総括を行わなかったことも好感が持てた。

  • あなたが毎日口にする食料は安全ですか それを、どうやって確かめられますか
  • 農薬や遺伝子組み換え技術などによる生産性向上と、安全性の確保は両立するでしょうか
  • 安全な食料を得るためには、コストを犠牲にする必要があると思いますか
  • 生産性を高めるための技術や農業の大規模化と、環境や生態系の保全は両立するでしょうか
  • 食料を安く安定的に確保するためには、貿易自由化と国内生産保護のどちらを優先すべきでしょうか
  • 食料貿易の自由化にともない新たに求められる、安全性の国際基準や表示はどうあるべきでしょうか

残念なのは,HPで「ステーキセットから見た安全性と経済性」について最後まで英訳されなかったことである。「『地球法廷』は、国境を超えて市民が自由な意見を交換し、議論を積み上げ、新たな展望を見いだすための討論の場です。」といいながら,討論の前提が異なっていては議論がかみ合わない。それ以前に,あのトリッキーな日本語を英語にどう訳すのかに興味があった。

番組に登場した方々についてもまずまずであった。インターネット討論の終わり頃には,まともな討論参加者が引いてしまい,有機農産物販売業者とおぼしき輩の宣伝合戦に終始していたが,彼ら胡散臭い連中は登場しなかった。登場したのは「普通の市民」と「良識のある知識人」だけで,あまり変な連中は登場しなかった。ただ,除草剤CNPの毒性を議論した鈴木良三氏の毒物学の知識の不足は気になった。鈴木氏だけは登場に値する人物ではなかった。

各論に移る。
番組は,8分の前置きのあと,農薬(27分),遺伝子組換え(20分),環境(20分)という構成であった。それぞれの意見に対して私の見解もあるが,ここでは一部を除き記載しない。ただ,いまだに「
無農薬は安全」という機械的思考からは抜け出せていないことだけを指摘しておく。

農薬について
農薬の擁護側でありインターネットで「農薬ネット」を作成している
西田立樹氏の意見を正しく取り上げていた。従来なら,擁護側意見を反対論で締めくくっていたが,西田氏の再反論で終えたことも良かった。

西田氏の農薬の安全性に関する議論の反論は,鈴木良三氏の除草剤CNPに関する意見であった。要旨は「CNPにダイオキシンが含まれていることが明らかになった。いままで安全だといわれていたにもかかわらず,技術の進歩により危険であることが明らかにされた。」なのだが,これについては議論しない。反論もあるが,一面の真理をついていることも事実である。

ただ,NHKが「1994年に製造が中止された除草剤CNP」と正しく表現したことを高く評価したい。鈴木氏は「登録取り消し」と誤った記載をしており,以前のNHKなら「禁止された」と放送したかもしれない。また,鈴木氏はCNPが胆嚢癌の原因であるとの説を展開していたが,これを取り上げなかったことも褒めておく。すでにその誤りが明らかにされているとはいえ,「胆嚢癌の原因であるという意見も寄せられました。」という形で報道することは可能だった。

遺伝子組換えについて
キャスターである迫田氏が「
殺虫作用のある遺伝子」と発言していたのが最大の問題点である。もちろん,「殺虫作用のある蛋白質を作る遺伝子」なのだが,本当に遺伝子に殺虫作用があると考え,遺伝子の入っていない豆腐を求める消費者もいる。

遺伝子組換え賛成派である愛媛大の阿部助教授が登場したのもよかった。同氏にも再反論させている。余談だが,阿部氏がもう少し文章がうまければ,HPでの遺伝子組換えの議論も違ったものになったであろうと考えると残念である。

環境関連について
化学肥料より有機肥料の方が環境を汚染する。」は,ほとんど常識である。特に,硝酸態窒素については堆肥が環境汚染の主犯である。これに関連し,スイスでは有機栽培で堆肥の使用が制限されていることを正しく報道していた。

ついでだが,有機栽培では一切化学肥料が使えないというのは迷信である。たとえば,微量要素複合肥料はその不足により作物の正常な生育が確保されない場合は使える。その他に,日本では燐鉱石は天然の鉱石だから使え,不思議なことに燐酸加里や燐酸苦土も天然の鉱石なら使える。また,ハウス栽培は地下水汚染の可能性が最も少ない。それが,オランダでハウス栽培の盛んな理由の1つである。海面より低い土地での地下水汚染の問題は深刻である。

最後に,この番組で農薬が比較的正しく報道されることに貢献したであろう西田立樹氏に敬意を表する。西田氏は実際に討論に参加して,番組作りにも助言した。西田氏のおかげで私も外野の評論家を決め込むことができた。しかしながら,私がこのHPにアップロードした文章が多少なりとも報道内容の向上に貢献したとすれば望外の幸せである。

 

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