
三省堂「残留農薬データブック」,
植村振作氏はなぜ「残留農薬データブック」の序文に「昆虫館で市販の野菜を食べさせて昆虫を全滅させた」と書くような卑劣な捏造行為に走ったのか。【01/10/08】
植村振作氏が「残留農薬データブック」の序文に記載した「昆虫館で市販の野菜を食べさせて昆虫を全滅させた」が捏造であることは明白である。「残留農薬データブック」のデータ部分をみると食べた昆虫が死亡するような野菜の農薬残留値は一切得られていない。では,なぜ植村振作氏はこのような悪辣にして卑劣な捏造行為に走ったのか。その思考過程を検証してみよう。
その前に,まず問題点を整理しよう。「残留農薬データブック」の序文には,最初に,多摩動物園の昆虫館では「虫に与える餌(あとでは野菜と書かれている)は無農薬で栽培されている。」と記載し,その理由は「あるとき,餌が不足して市販の野菜を与えて大切な虫たちを全滅させたから」としている。この部分を不足している前後の事実関係を補って,できるだけ原文に忠実にしかも簡単な文章で記載すると以下の「ある昆虫館のお話」のようになる。
多摩動物園の昆虫館には小さな付属農場が作られていて,そこで虫たちの餌となる野菜を栽培していました。野菜を育てる温室もありました。昆虫館では一年中蝶が飛んでいなければいけませんから,夏でも冬でも同じ野菜が必要になるのです。この一年中収穫できる不思議な野菜を食べて,昆虫館のオオゴマダラもスジグロカバマダラもベニモンアゲハもシロオビアゲハのパモン型もすくすくと育っていました。普通,オオゴマダラはホウライカガミという植物を食草としていて普通の昆虫館ではこの食草の確保に苦労しているのですが,ここ多摩動物園昆虫館のオオゴマダラはこの野菜を食べていました。普通はミカンの葉しか食べないアゲハチョウもこの野菜を食べていました。私は,昆虫館に野菜を食べる虫などいないと思っていましたが,偉い偉い植村先生の立派なご本には昆虫館の虫は無農薬の野菜を食べていると書いてありました。虫には広食性と狭食性があり,野菜を食べるのは広食性で昆虫館の虫はほとんど狭食性なのですが,ここではきっと物分かりの良い狭食性の虫を集めて偏食はいけませんよと言い聞かせたのでしょう。飼育員さんたちは農薬を使ってこの野菜を育てていましたが,この付属農場で使っている農薬だとたとえ残留していても虫さんたちは平気でした。虫の飼育方法の確立は大変なお仕事で,長い試行錯誤のすえにやっと決めた方法なので飼育員さんたちには自信がありました。もし,残留農薬が虫に悪さをするのなら,経験豊かな飼育員さんなら簡単に気が付いて,農薬は使わないようにしていたでしょう。
ところがある時不思議なことが起こりました。その野菜が足りなくなったのでした。一年中収穫できる野菜が足りなくなったのですから,きっと,なんかの事故があったのでしょう。とにかく,しょうがないので普通の八百屋さんで売っていた同じ種類の野菜を,虫さんたちに餌として与えてみました。すると,なんとその野菜に残留する農薬のために大切な虫たちがばたばたと倒れて全滅してしまいました。これは大変な事態です。昆虫館で飼っている虫は,お店で簡単に手に入ったりしませんから,普通だと昆虫館をしばらく閉鎖しないといけなくなるのです。でも,なぜか,大切な虫たちが全滅したのに昆虫館が一時閉館したという記録はありませんでした。その上,特定の種類の虫が一時期完全に姿を消したという記録もありませんでした。不思議ですね。
とにかく,昆虫館で野菜を作るときに使っていた農薬と市販されている同じ野菜で使っている農薬は全く種類が違ったのでしょう。専門の先生たちは同じ野菜に全く違う農薬を使っているのも変だが,残留で虫が死んでしまうような農薬はすごく特殊なのでありえないはずだと不思議がっていました。飼育員さんは,これからは市販の野菜を買うのを絶対によそうと決めました。昆虫館でつかっていた農薬なら虫さんたちは元気に食べていたのだから,至極まともな対応ですね。
でも,世の中には不思議な人がいます。市販の野菜のおかげで農薬は虫に悪いものだとわかったのだから,もうこれからを農薬を使うなというのです。いままで使ってきてなんにも問題はなかったといっても聞き入れてくれません。いままでも虫は何度も全滅していたのに君らが気付かなかっただけだといいました。相談した先生は「正しい実験事実は全てに優先する」といってくれましたが,その人は研究というものが全くわからないらしく,きょとんとしていました。あとで,こういうのを「教条主義」というと教わりました。農薬にはいろんな種類のあることも知らないようでした。館長は「本当の自然がわからない人が増えた。だから,この程度の人物のいうことを真に受ける人が増えたんだ。でも,それだからこそ昆虫館は頑張らないといけないんだ。」と嘆いていましたが,結局その人に押し切られ,それからは野菜は無農薬で作ることに決まってしまいました。それからも,虫たちは苦労して育てた無農薬の野菜を食べて,農薬を使っていたときと同じようにすくすくと育ちました。
お話はこれで終わりですが,この昆虫館で餌に使っている不思議な野菜とは一体何でしょう。皆さん気になるでしょう。野菜にはトマトやキュウリのような実を食べる果菜と,レタスやキャベツのように葉っぱを食べる葉菜と,ニンジンやダイコンのように根を食べる根菜があります。いくら言い聞かせても,アゲハチョウがダイコンやニンジンやゴボウやトマトやスイカやナスビをかじるとは思えないから,やはり,葉菜類が最も可能性が高いですね。それから,こんなに不思議な野菜なのに普通の八百屋さんでも売っているらしいのです。一体なんでしょうね。ハクサイやレタスやキャベツやホウレンソウは同じ場所で一年中は無理だし,そうだ,サラダナだ。でも,サラダナはほとんど水耕栽培で農薬はほとんど使わないからな。意地悪な植村先生は何度聞いても教えてくれない。どうしてもわからない。悔しいな〜。
植村振作氏の文章が矛盾だらけであることは,この「ある昆虫館のお話」でご理解いただいたと思う。では,如何にして植村氏はこの捏造話を練り上げたか。その思考過程を考察してみよう。
この本の性質上,農薬の残留は危険なのだという記載がどうしても必要になる。もちろん,本文でも一応素人だましの解説があるのだが,序文ではさらにインパクトのある記載が必要になる。植村氏はそう考えた。そこで「市販の野菜を食べれば虫は死ぬ」と書くことにした。
植村振作氏がこの考えに至った背景には,市販の野菜を食べて虫が死ぬのならヒトにも毒だとの考えがあった。多少勉強をしている主婦なら嗤い転げそうな妄想である。なぜこれが妄想かは以下の記事を読めば理解できるだろう。
●殺虫剤は虫を殺すのだから人にも何らかの危険性があるに違いない。
●農薬は本質的に生物に対し何らかの作用を有する物質だから人に対しても何らかの影響があるはずだ。
●他の生物に何の影響も及ぼさない農薬など考えられない。
●毒性は物質だけの特性ではない!ついでだが,有機無農薬栽培の農家なら「ここでとれたキャベツにモンシロチョウの幼虫を放飼したら死んでしまう。有機だと虫に負けない健康で安全な野菜が育つのだ。」というだろう。
次に,植村振作氏は「市販の野菜を食べれば虫は死ぬ」は,あくまでも一般論でなければならないと考えた。もし,文献の引用や実際の実験なら特定の野菜と特定の虫になってしまう。それは避けなければならない。最も良いのは権威のある人の発言を引用することである。こうすれば,万一の場合にも「逃げ道」につかえる。そう考えて,昆虫館に目を付けた。植村氏は,本当の権威は農薬会社の殺虫活性評価部門の研究者であることに気付かなかったようだ。
やや本論から外れるが,「残留農薬データブック」には優れたデータ集としての一面もある。この本の野菜の残留量を見ると,どの野菜にも虫が死ぬほどの農薬の残留は認められていない。効果の高い殺虫剤でも致死量は1μg/g程度で,1日に虫が食べる餌はせいぜい体重の1/5だから,5 ppm程度の残留が必要になる。本文を見ると,ほとんどの農薬の残留はごく微量である。例外的にppmの桁で残留している農薬も,殺菌剤と食毒活性のない殺虫剤である。つまり,序文の内容は本文で完全に否定されているのである。これを自ら墓穴を掘ったという。しかし,植村氏が掘った墓穴は十指に余る。
植村振作氏にとって最大の難問は昆虫館の飼育担当者に市販の野菜を食べさせれば虫は死ぬと言わせることであった。それは何とか誘導尋問で解決するのだが,そのためには,昆虫館で飼育している虫が野菜を食べる必然性ができてしまう。ここに最大の無理が生まれるのだが,植村氏にはそれに気付くだけの常識はなかった。昆虫館に野菜を食べる虫がいないことに気付かなかったのである。
次に,なぜ,市販の野菜を与えなければならなくなったか,その理由が必要になる。そこで,昆虫館でで育てている野菜がなくなったことにした。さらに,市販の野菜を与えるためにはそれが危険だという認識があってはならない。それ以前に農薬を使った野菜を食べさせて虫が死んでいるなら,そう簡単に市販の野菜を与えないだろう。そこから,その時点では昆虫館で作っている野菜には農薬を使っている必要ができてしまう。それで,市販の野菜で死んだから無農薬に変えたことにすれば筋が通る。そう考えたのである。これが植村振作氏が頭で考えたお話に過ぎないことは「ある昆虫館のお話」に詳記した。植村氏は科学的な考えが苦手のようである。
この捏造話の裏には実際に昆虫館では食草は無農薬で育てられているという事実がある。もちろん,それは農薬は必要ないからである。山野草は虫が食べれば死ぬだけの天然殺虫剤成分を十分に含んでおり,それらの毒に対応できる特殊な虫だけがその植物を食草とできる。しかし,昆虫館は植村振作氏の唱える宗教的な無農薬栽培にこだわってはいない。多少とも影響のありそうなものはなるべく避ける。これを基本方針としているにすぎない。
しかし,植村振作氏には事実を書くわけにはいかなかった。昆虫館で飼っている虫にはそれぞれ食草があり,これらの食草は館内で無農薬で育てられていると書けば,野菜を食べる昆虫がいなくなってしまう。かくして,矛盾したお話だけが残った。
植村振作氏がどのように考えて捏造行為を行ったかについて解析した。しかし,なぜ彼はこのような卑劣な行為に走ったのか。最大の原因は,彼が研究者としての魂を悪魔に売り渡したことだろう。悪魔に魂を売り渡せば,捏造や虚言や事実の歪曲に罪悪感を抱かなくてすむ。如何に知識と教養が低くとも,如何に日々の勉強を怠ろうとも問題はなくなる。環境擁護派(?)と反農薬と元阪大助教授の看板だけで「権威主義的な」市民グループに支持されて名前も売れる。畢竟,植村氏の存在は日本の市民運動のレベルの低さを現しているのだろう。