●なぜ,キュウリでディルドリンやエンドリンが頻繁に検出されるのか。

ディルドリンなどの有機塩素系殺虫剤は土壌中で長期間残るが,なぜ,使用を止め30年を経てもキュウリに残留することがあるのだろう。

【03/03/09作成】

以前からキュウリ有機塩素系殺虫剤ディルドリン,アルドリン,エンドリンなどのドリン類が検出されていることが気になっている。土壌でもかなりの頻度で検出されているようだ。

土壌中に施用された農薬の消失に関与するファクターは大きなものが2つある。分解速度移行性である。これは土壌中半減期DT50)と有機炭素補正土壌吸着係数K'OC ,adsorption coefficient based on organic carbon content)で表すことができる。蒸気圧の高い化合物の場合は,ヘンリー則定数も重要となる。ドリン類についてのこれらの値はまだ見つけていないが,以下,ごく簡単に説明する。

半減期DT50)とは文字通り農薬が分解して半分になるまでの時間である。別にt1/2で表す半減期もあるが,DT50はこれとは異なる。t1/2は一次反応の速度式を仮定しており,10日で半分になれば,20日で1/4,30日で1/8,40日で1/16になる。しかし,DT50は本当に半分に減るのに要する時間で,10日で半分になったとしても,20日で1/4になるとは限らない。大抵の場合,分解は徐々に遅くなる。そのため,90%が分解し10%に減る時間も重要で,これをDT90という。DT50DT90は沸点や融点などの物理定数ではなく,用いる土壌により大きく変化する値で,試験温度や土壌水分含量でも変化する。

一般に,農薬は土壌中で一次反応の速度式が成立するような綺麗な分解をしてくれない。土には微視的にはいろんな場所があり,どこに吸着するかで微生物の攻撃の受け易さが異なる。DT50が4日の農薬でも6か月後に残ることがある。なお,今までの議論は好気的畑地条件下での土壌代謝分解についてだが,このような条件では土壌微生物による生物的分解の寄与が大きい。

土壌吸着係数はフロイントリッヒの吸着等温式をもとに計算される値である。土壌に水を加えて懸濁し,これに農薬を加えた場合に,どれだけの量が土壌に吸着されるかを示す値と考えればよい。この値が大きければ土壌に強く保持され,降水により土壌中を下方に移行しにくくなる。一般に土壌吸着にもっとも多く影響するのは土壌中の有機物含量で,この値で補正したものを有機炭素補正土壌吸着係数という。

土壌吸着係数が小さいと地下水汚染の可能性が増加するが,土壌中からはなくなる。土壌中の有機炭素含量が大きい場合は,吸着は増加するが,好気性細菌による分解も促進されるため,土壌残留としては少なくなる。

ドリン類は土壌中半減期が長く,土壌吸着係数が大きいため長期間残留することはいうまでもない。しかし,温暖な地域の肥沃な畑地では現在では検出されることはないと思う。ドリン類が残りやすいのは以下のような農地である。このような条件をもとに最悪の場所を設定すれば,サンプル数を減らせるだろう。

施設栽培(土耕ハウス)である。
・かつて使われた量が多い。
・最後に使ってからの年数が短い。
・土壌の有機物含量が少ない。
・雨水が侵透しにくく,土壌表面を流れ去る。
平均気温が低い。

一般に,土壌残留試験では1回の採取において4か所以上の地点から採取した土壌を均一に混合し,それぞれの地点においては,土壌を地表面から10cmの深さまで柱状に採取するのが標準である。しかし,ドリン類の場合は,高濃度に残留しているのはもっと深い部分であり,キュウリなどの根域がどの程度の深さにまで達するかを考慮して,サンプリングの深さを決める必要があるように思う。

もちろん,土壌に農薬の残留基準などは設定されていないため,たとえ,ドリン類が検出されても何の規制もなく,どのような作物を栽培しても違反とはならない。問題はあくまでも作物の可食部における残留である。

しかし,なぜ,キュウリにドリン剤が頻繁に検出されるのだろう。2〜3日で大きく成長するキュウリでは農薬の残留はむしろ少ないはずである。確信はないのだが,キュウリはドリン剤を自分の成長に必要なものと勘違いして根から能動的に吸収しているように思える。普通の農薬が根から吸収された場合は,蒸散流に乗って篩管移動し,葉の周辺部に集まることが多く,果実部分に移行するものは少ない。

私はDDTはいまでも限定した条件であれば使用可能だが,ドリン類は完全に世の中からなくすべき農薬だと考えている。そのドリン剤がいまだに本邦の作物から検出されるのは憂慮すべき状況といわざるを得ない。

 

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