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●環境ホルモン濫訴事件(4) 松井教授の「環境ホルモン」の定義

環境ホルモン濫訴事件に関し,京都大学松井三郎教授の環境ホルモンと外因性内分泌攪乱化学物質問題と定義を考察する。

【05/11/20作成】

環境ホルモン濫訴事件(「環境ホルモン濫訴事件:中西応援団」の命名に従う)に関し,京都大学松井三郎教授が考える環境ホルモン外因性内分泌攪乱化学物質の定義につき考察する。

京都大学松井三郎教授は「第7回内分泌撹乱化学物質問題に関する国際シンポジウム」のセッション「リスクコミュニケーション」において「消費者,製造業者,行政,科学者の間で,産業によって製造された内分泌攪乱物質のリスクコミュニケーション」との演題でこれとは全く異なる内容の講演を行った。私は,この演題の中の「産業によって製造された内分泌攪乱物質」という言葉が気になった。松井教授は具体的にはどのような化学物質を「産業によって製造された内分泌攪乱物質」と表現したのだろう。「かつて産業によって製造されたが,いまは製造が禁止されている」のか「いまも製造されつつある」のかすら明確ではない。しかし,例によって松井教授は何も考えてはいまい。私は,これを「産業によって製造された環境ホルモン」のつもりだったと考えるが,松井教授は,環境ホルモン学者でありながら「内分泌攪乱物質」と「環境ホルモン」の区別すらつかないようだ。

環境ホルモンという言葉は,1997年5月に放送されたNHKの科学番組「サイエンスアイ」で横浜市立大学の井口泰泉教授(当時)が外因性内分泌撹乱化学物質の「分かりやすい俗称」として命名したものである。したがって,環境ホルモンと内分泌撹乱化学物質とは同じ意味であったが,その後,この環境ホルモンという言葉は一人歩きを始め,松井教授のような人物に活躍の舞台を与えることによって本邦の化学物質の安全性評価の体系を狂わし,POPs(難分解性有機汚染物質)に代表される毒物学的問題の大きい化合物の研究を遅らせてしまった。

環境ホルモンと外因性内分泌攪乱化学物質(以下,EDCs)の意味が変化しだしたのは,環境庁のSPEED'98に挙げられたリストがきっかけである。このリストは,「警察が公開した近所で殺人犯だと噂されている人のリスト」に例えられる。リストに挙げられた1人が「私は毎日詳細な日記をつけているから,いつどこで誰を殺したのかいってくれれば無実を証明できる。(農薬には十分な毒性試験のデータがあるから,どのような毒性試験の結果を根拠にリストに入れたか教えてくれ。)」というと,警察は「それは分かりません。ただの噂ですから。」と答え,それを見ていた「市民派の弁護士」は「無実を証明することは殺人犯扱いされた方の責務なのに考え違いも甚だしい。」などといっていた。その弁護士は,今回の環境ホルモン濫訴事件でも大活躍されている。結局,このリストの存在は「犯人の捜査」にとって大きな足枷となり,巨額の国費が無為に費やされる原因となったが,その挙げ句,「結局,殺人事件そのものがありませんでした。」で幕になっている。

とにかく,SPEED'98のリストは「国が内分泌撹乱化学物質である可能性が高いとして市民のために公表したリスト」と誤って(あるいは故意に)認識され,これに飛びついたNHKなどのマスコミはこの騒動を煽った。中でも,NHKの果たした貢献は極めて大きい。NHKは2000年4月に「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」という「洗脳能力合戦」のウェブページを立ち上げ,残留農薬などについて誤った認識を流布していたが,その環境ホルモンを扱ったウェブページに「環境庁は現在約70の化学物質を内分泌撹乱の疑いがあるとしており、リストを発表しています。」と明記している。また,2002年3月のNHKニュースでは,「広く使われている農薬のうち国が環境ホルモンの疑いがあるとする3種類の農薬は」との表現で横浜国立大学浦野紘平教授の研究を伝えている。

これらのNHKの宣伝は成果を上げ,SPEED'98のリストは「国が環境ホルモンに指定した化学物質のリスト」と捉えられるまでになった。当時は,「ここの農場では,国が環境ホルモンに指定している農薬は一切使っていません。」といった宣伝まで見かけた。この時点で,マスコミなどが考える環境ホルモンの定義は変化していき,「環境ホルモンとはSPEED'98のリストに挙げられた化合物をいう。」との認識が広まっていった。しかし,これは環境ホルモン学者には好都合な誤解であった。このリストに挙げられた化合物を試験材料として研究を行えば,何であろうと「環境ホルモン研究」になり,予算がもらえたからである。しかも,SPEED'98のリストにある化合物の毒性を見つければ,それは環境ホルモン作用になり,環境ホルモンの問題となった。かくして,「環境ホルモンは脳へ移行する。」,「環境ホルモンは胎盤を通過する」などの報道がなされていった。

その後,研究の進展によってSPEED'98のリストに示された化合物の全てに内分泌撹乱作用のないことが明確になり,頑迷固陋な環境省さえその事実を認めてリストを撤回せざるを得なくなった。その時点で,「環境ホルモンとはSPEED'98のリストに挙げられた化合物をいう。」は必然的に「環境ホルモンとは内分泌撹乱作用のないことが明確に証明された化合物をいう。」に変化したことになる。これに気付いた学者は環境ホルモンからの遁走を始めるが,一周遅れであるにもかかわらずトップを走っているつもりの松井教授にはそのような事情を理解するだけの能力はない。

ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議のニュースレター第33号の松井三郎氏による記事」の「 2.内分泌撹乱物質とは何か?」を見ると,8年前の大騒動のときに書かれた文章とほとんど見分けがつかない。松井教授は,SPEED'98のリストに示された化合物が内分泌攪乱物質であり,同時に環境ホルモンであるという概念をいまだに妄信しているようだ。

したがって,松井教授のいう「産業によって製造された内分泌撹乱物質」とはSPEED'98のリストに示された化合物をいい,フタル酸エステル類の可塑剤,ビスフェノールAなどをいっているのだろう。これらの内分泌撹乱作用はすでに否定されているから,どのような毒性を根拠にリスクコミュニケーションを行うつもりだったのだろう。いや,このような考察は無意味だった。松井教授のリスクコミュニケーションとは「危険だと大騒ぎして研究費を出させること」なのだから。

 

著者注)
以下もご参照下さい。
●環境ホルモン濫訴事件(1) 松井講演に関する見解(総論)【05/10/30作成】
●環境ホルモン濫訴事件(2) 松井講演に関する見解(各論)【05/10/30作成】
●環境ホルモン濫訴事件(3) 「環境ホルモン問題」は終わっている。【05/11/08作成】
●環境ホルモン濫訴事件(番外) 非イオン界面活性剤オクチルフェノールとその分解物ノニルフェノールは環境ホルモンである。【05/11/20作成】
●環境ホルモン濫訴事件(5) フォンサール教授の「環境ホルモンは母性を失わせる」の問題点【05/12/04】

以下は関連事項です
●なぜNHKは環境ホルモンの報道開始を1年間も延ばしたのか。【00/02/06】
 この文章を作成した2000年当時の状況がわかります。
●NHK,「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」;雑感(2)サラダの項目にみる残留農薬の議論の虚構性【00/04/16】

【01/05/18】 所沢ダイオキシン風評被害裁判(2)
 所沢ダイオキシン風評被害裁判で摂南大学宮田秀明教授が測定したハクサイの分析値のお話です。本文と直接のつながりはありませんが,「著明な環境ホルモン学者つながり」としてお読み下さい。

 

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