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●農薬の分類(1);農薬の分類の分類

化学農薬の主要な分類法は,殺虫剤,除草剤などの用途分類とアセチルコリンエステラーゼ阻害剤やカーバメート系殺虫剤などの系統分類である。法的には対象分野による分類も重要である。それ以外に,処理方法による分類や毒性分類や魚毒性などの環境毒性による分類も存在する。これら農薬の分類について概観する。

【02/01/27作成】

農薬は種々の方法で分類される。最も一般的なのが,殺虫剤,殺菌剤,除草剤という防除対象による分類(用途分類)である。有効成分の化学構造に着目したカーバメート系殺虫剤,スルホニルウレア系殺除草剤などの分類や,その作用機作から命名されたアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害剤やアセトラクテート合成酵素(ALS)阻害剤といった分類も一般的である。これら以外にも,土壌処理剤,種子処理剤といった処理方法による分類や非農耕地用除草剤,衛生害虫用殺虫剤といった対象分野による分類もある。さらに,劇物,毒物,普通物といった毒性分類や魚毒性などの環境毒性による分類も存在する。

では,これらの分類を分類し概観してみよう。なお,農薬の分類は有効成分に関する分類と製剤に関する分類に大別されるが,これについては明記しない。また,生物農薬(天敵農薬と微生物農薬)については一部を除き対象外とする。重要な項目は別に詳記する予定である。

 


対象分野による分類(法的)

先進国では,農薬を他の化学物質と分けて定義し,異なる規制を設けている。では,なぜ農薬は農薬としての規制を受けるのか。それは,農薬には自然環境に負荷を与え,農作物や呼気,飲料水などから人体に取り込まれ何らかの悪影響を与える潜在的可能性があるためである。しかも,農薬の使用は一般消費者にはなんら直接の利益をもたらせない。

各国での農薬関連の規定をみると,対象分野によって農薬が定義されていることに気付く。つまり,法律上最も重要な農薬の分類は対象分野分類といえる。この分類により,同じ殺虫成分が農薬であったり,家庭用殺虫剤(医薬部外品)や動物用医薬部外品であったり,ときには食品添加物や医薬品に分類されたりする。これは,対象分野によって農薬を特徴づける4つの要素の比率が変わるためである。

表で整理しよう。

使用区域と使用対象
薬剤の例と日本での分類

直接
摂取
間接
摂取
環境
負荷
直接
利益

農耕地内で病害虫対象
殺虫剤,殺菌剤,除草剤などの一般農薬

×

農耕地内で作物対象
倒伏防止剤,などの植物成長調節剤

×

収穫物の保管輸送
ポストハーベスト農薬,燻蒸剤

×
×

非農耕地
街路樹用殺虫剤,

×
×

家畜等の衛生害虫等
【動物用医薬部外品】首輪型犬用ノミとり剤,

×
×
×
×

家畜等の病害(投与)
【動物用医薬品】駆虫剤,抗生物質

×
×
×

食品添加物
【食品添加物】鮮度保持剤

×
×

家庭用で衛生害虫等対象
【医薬部外品】シロアリ用殺虫剤,電気蚊取り器用殺虫剤

×

家庭用での一般用途
掃除機集塵袋用防黴剤,網戸用忌避剤

×
×

医薬品
【医薬品】ケジラミ用殺虫剤,駆虫剤

×
×

○等の記号は概念的な摂取量や強弱を示し,☆◎○△×はそれぞれ甚多中小無を示す。
この分類は日本および諸外国での農薬の定義をもとに私がまとめたものである。

なお,ここでいう直接摂取とは一般消費者が作物残留等により直接経口摂取することであり,間接摂取とは飲料水などから間接的に摂取することである。ただし,家庭用品と医薬品については消費者と「農薬等」の使用者が同じと考える。直接利益とは一般消費者が直接得る利益をいい,農薬では無と考える。

この表の考察,各項目の詳細は別に詳記する。ただ,農薬は消費者が直接得る利益をゼロと考えるため,安全性の基準が極めて厳しく設定されていることに注意する必要がある。一方,食品添加物の中には毒性から農薬として登録することが不可能な物質もあり,一部の化粧品には有名な催奇形性物質が使われている。これらは消費者にとっても,腐りにくいなどのメリットがあるため,多少の毒性は許されている。もちろん,安全性の基準が最も甘いのは医薬品である。

 

対象分野による分類(一般)

水稲用除草剤家庭園芸用殺虫剤といった表現がこの対象分野による分類の典型である。ゴルフ場農薬といった分類もある。これらは系統的な分類ではないが,初期初中期一発処理剤非選択型除草剤などのように便利な表現ができる利点がある。

 

防除対象による分類

一般に用途別分類といわれる。ここでは,上述の「対象分野による分類」と分ける必要から防除対象による分類と記載した。農水省では以下のように分類しており,この分類に則した登録農薬数などが公表されている。

殺虫剤殺菌剤殺虫殺菌剤除草剤農薬肥料殺そ剤植物成長調整剤その他の農薬(展着剤,鳥獣忌避剤、性フェロモン剤、生石灰、石灰窒素など)

 

系統(化学構造と作用機作)による分類

化学農薬は有効成分の系統で分類されることが多い。これには化学構造による分類作用機作(活性発現機構)による分類とがあり,この組み合わせで分類される。一般には,活性発現機構を上位分類,化学構造をその下位分類として表記することが多い。たとえば,カーバメート系殺虫剤であれば以下のように分類される。

神経伝達阻害剤
・アセチルコリンエステラーゼ阻害剤
  ・カーバメート系殺虫剤
    ・フェニルカーバメート系殺虫剤
    ・オキシムカーバメート系殺虫剤
  ・有機リン系殺虫剤

ちなみに,ピレスロイド系殺虫剤は一般に化学構造による分類とされているが,作用機作による分類に近い。本来,ピレスロイドとは天然除虫菊の成分であるピレトリンから誘導した一連の化合物群であるが,現在のピレスロイドには共通化学構造はもはや存在しない。

「クミアイ農薬総覧」や(財)日本植物防疫協会「農薬ハンドブック」などの実務書では化学農薬を有効成分の系統で分類している。この分類については別に詳記するが,ここでは「クミアイ農薬総覧2001」の分類を一例にあげる。

「クミアイ農薬総覧2001」での農薬の分類
〔殺虫剤〕
有機リン系,カーバメート系,ピレスロイド系,ネライストキシン系,IGR(キチン合成阻害剤),IGR(脱皮阻害剤),IGR(JH剤),クロロニコチニル系,BT剤(クルスターキ菌),BT剤(アイザワイ菌),ピリジンジアゾメチン系,フェニルピラゾール系,マクロライド系呼吸阻害剤
〔殺菌剤〕
銅・有機硫黄,有機塩素系,有機リン系,アニリノピリミジン系,ヒドロキシアニリド系,ピロールニトリン系,ベンズイミダゾール系,カルボキシイミド系,フェニルアマイド系,抗生物質,EBI剤,N−フェニルカーバメート系
〔除草剤〕
オキサジノン系,フェノキシ酸系,ジフェニルエーテル系,カーバメート系,酸ァミド系,尿素系,スルホニル尿素系,トリアジン系,ウラシル系,ダイアジン系,ビラゾール系,ビピリジリウム系,ジニトロアニリン系,脂肪酸系,有機リン系,アミノ酸系
〔植物成長調整剤〕
エチレン剤,オーキシン剤,サイトカイニン剤,ジベレリン剤,オーキシン拮抗剤,ジベレリン生合成阻害剤

この分類については別に詳記する。

 

製剤剤型による分類

農薬は製剤によって,乳剤フロアブル粒剤水和剤水溶剤粉剤MC剤ドライフロアブルジャンボ剤パック剤等に分類される。この詳細については「農薬ネット」などのウェッブページに詳しく記載されているのでここでは省略する。

 

製剤中の有効成分数による分類

農薬の製剤には有効成分を複数含むものがあり混合剤といわれる。これに対し,有効成分が1つのものは単剤という。混合剤には,殺虫,除草等で有効な種の範囲(スペクトル)を広げるタイプ,相乗効果を狙ったタイプ,処理の省力化を狙ったタイプなどがあるが,複数の狙いを併せ持つことが多い。これとは別に,殺虫剤と殺虫剤の混合剤や殺虫剤と殺菌剤の混合剤といった分類もある。

たとえば,スペクトルを広げるタイプの典型が水稲用初期初中期一発処理剤であり,イネ科以外の雑草に有効なスルホニルウレア剤に殺ノビエ剤を加え,さらに多年生雑草に有効な剤を加えたものが多い。相乗効果を狙ったタイプは殺虫剤と殺虫剤の混合剤に多く,省力化を狙ったタイプは殺虫剤と殺菌剤の混合剤に多い。

 

施用方法による分類

散布剤土壌処理剤種子処理剤といった施用方法による分類である。

 

毒性による分類

農薬のもっとも重要な毒性分類は「毒物及び劇物取締法」による普通物,劇物,毒物の分類である。なお,「普通物」とは便宜上の表現であり,正しくは「劇物,毒物以外」という。この分類は下表に示したラット,マウスの急性経口毒性試験の結果得られるLD50が主な基準であるが,実際には経皮毒性,吸入毒性の結果も反映される場合があり,さらに別の毒物学的な知見が反映される場合もある。

普通物

LD50値が300 mg/kgを超えるもの

劇物

LD50値が30 mg/kgを超え,300m g/kg以下のもの

毒物

LD50値が30 mg/kg以下のもの

なお,ここでいう「農薬」には原体と製剤があり,原体が劇物であっても製剤が普通物であることも多い。劇物,毒物と書くと危険な化学物質と感じる方も多いだろう。しかし,これは散布者にとっての毒性で作物残留などの微量レベルではなんら問題とならない。卑近な例だが,上記の表に従えば風邪薬の成分はほとんど毒物や特定毒物に該当する(アセトアミノフェンを除く)が,摂取量が少ないため急性毒性の問題はない。

この項目については諸外国での基準とその分類表現を加えて別に詳記する。また,IARC等の権威ある国際機関の発癌性分類も重要であるが,これも別に議論する。

 

環境毒性等による分類

この分類では魚毒性が最も重要であり,毒性の低い方からA類B類B-s類C類に分類される。実際は,規定の改訂により「A類相当」などと表記されている。別に,作物残留性農薬土壌残留性農薬水質汚濁性農薬との指定もあるが,現在は水質汚濁性農薬としてPCP,ロテノン,シマジンが指定されているのみで,作物残留性農薬,土壌残留性農薬に該当する農薬はない。

他に蚕や蜜蜂に対する影響についての分類もある。

 

妄想による分類

 農薬の分類には「妄想分類」というべきものもある。化学農薬を有機合成農薬無機系農薬天然物系農薬に分類し,さらに別の系統として抗生物質(細菌産生物)を加える考え方がこの典型である。この分類は科学的にも毒物学的にも何ら意味がなく,天然物安全信者の妄想にすぎない。そして,その反映が有機農産物で使える農薬のリスト(有機農産物に使える農薬;回答編)である。

私の考えでは,この妄想分類での「安全性」はおおむね以下の順になろう。

  1. 生物農薬(天敵農薬と微生物農薬)
  2. 化学農薬(天然物そのもの)
  3. 抗生物質(タンク培養で製造される細菌産生物に限る)
  4. 化学農薬(天然物類似とみなせるもの)
  5. 化学農薬(無機物)
  6. 化学農薬(有機合成農薬)

その他に,漢方農薬なども妄想分類といえる。

しかし,農薬に対する最大の妄想分類は「環境ホルモンに指定されている農薬正しくは,環境庁の公開した「内外の文献に内分泌攪乱作用に関し記載されたことのある化合物をその信憑性を考慮せずに単にまとめただけのリスト」に記載されている農薬;詳しくは「インターネット討論,地球法廷-食料の安全性と環境」;雑感(2)参照だろう。

 

その他の分類

その他にも分類はいろいろある。日本での登録の有無,合法か非合法か,販売量や市場占有率の多寡などである。各種基準に記載されているかも重要な分類法である。残留農薬基準,狭義の登録保留基準(作物残留,水質汚濁),安全使用基準,環境基準,公共用水域等水質評価指針,ゴルフ場水質指針値,水道水質基準,排出基準などである。

含窒素農薬などの分析機器(GCでのFTD検出器)に由来するような分類もある。その他にも限られた分野で用いられる分類は多いだろう。

私にとって最も重要な分類は勤務先が販売している農薬か他社の農薬かだが,前者に分類される農薬は少ない。

 

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