●有機農産物に使える農薬;回答編

昨年,「有機農産物及び有機農産物加工食品の特定JAS規格」が定められ,有機栽培でも使える農薬が明確にリストアップされた。このリストについて考察する。

【01/01/21作成,02/0904補足】

現在,有機農産物と表記するために必要な要件は「有機農産物及び有機農産物加工食品の特定JAS規格」によって定められている。すなわち,有機農産物とは平成11年7月22日に公布された「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部を改正する法律(平成11 年法律第108 号)」,いわゆる改訂JAS法に基づく日本農林規格である。その規格の第4条(生産の方法についての基準)には「ほ場等における有害動植物の防除」の項目に以下のように規定されている。

耕種的防除(作目及び品種の選定、作付け時期の調整、その他農作物の栽培管理の一環として通常行われる作業を有害動植物の発生を抑制することを意図して計画的に実施することにより、有害動植物の防除を行うことをいう。)、物理的防除(光、熱、音等を利用する方法又は人力若しくは機械的な方法により有害動植物の防除を行うことをいう。)及び生物的防除(病害の原因となる微生物の増殖を抑制する微生物、有害動植物を補食する動物又は有害動植物が忌避する植物若しくは有害動植物の発生を抑制する効果を有する植物の導入又はその生育に適するような環境の整備により有害動植物の防除を行うことをいう。)又はこれらを適切に組み合わせた方法のみにより実施されていること(農産物に急迫した又は重大な危険がある場合であって、耕種的防除、物理的防除又は生物的防除を適切に組み合わせる方法のみによってはほ場等における有害動植物を効果的に防除することができない場合にあっては、別表2に掲げる農薬のみが使用されていること。)。

ここでいう,「別表2に掲げる農薬」が有機農産物にも使える農薬である。注意すべきは耕種的防除,物理的防除又は生物的防除以外に採ることのできる防除方法が「別表2に掲げる農薬のみ」と規定されている点である。つまり,「タバコの抽出液」や「家庭用殺虫剤」などの農薬以外の薬剤は使えず,「木酢液」や「漢方農薬」といった胡散臭い農薬もどきも使えないことになる。

「別表2に掲げる農薬」とは以下の通りである。

  • 除虫菊乳剤;除虫菊から抽出したものであること。
  • デリス乳剤
  • デリス粉
  • デリス粉剤
  • なたね油乳剤
  • マシン油エアゾル
  • マシン油乳剤
  • 硫黄くん煙剤
  • 硫黄粉剤
  • 硫黄・銅水和剤
  • 水和硫黄剤
  • シイタケ菌糸体抽出物液剤
  • 炭酸水素ナトリウム水溶剤
  • 炭酸水素ナトリウム・銅水和剤
  • 銅水和剤
  • 銅粉剤
  • 硫酸銅;ボルドー剤調製用に使用する場合に限ること。
  • 生石灰;ボルドー剤調製用に使用する場合に限ること。
  • 液化窒素剤
  • 天敵等生物農薬及び生物農薬製剤
  • 性フェロモン剤
  • 誘引剤
  • 忌避剤
  • クロレラ抽出物液剤
  • 混合生薬抽出物液剤
  • カゼイン;石灰展着剤として使用する場合に限ること。
  • パラフィン;展着剤として使用する場合に限ること。
  • ワックス水和剤
  • 二酸化炭素剤;保管施設で使用する場合に限る。
  • ケイソウ土剤;保管施設で使用する場合に限る。

さて,前回の質問編の回答に移ろう。

  1. 畑にモグラが出没し農作物を荒らすので,巣穴に液化窒素を流し込みモグラを酸欠死させた。液化窒素は農薬の活性物質として登録されており,この用い方は明らかに農薬の使用に該当するが,窒素が無害であることは明らかであり,この場合はたとえ農薬取締法でいう農薬の使用に該当しても有機栽培にあたる。
    正しい。
    別表に液化窒素剤の記載があり,この剤の使用基準に定められた範囲での使用なので問題はない。

  2. 野菜の灰色カビの防除のため,炭酸水素ナトリウム剤(重曹)を散布した。重曹は日本薬局方に記載があり食品添加物としても認められているほどその安全性が高く評価されている。そのため,農薬の活性物質として登録されているが使用しても有機栽培といえる。
    正しい。
    別表に炭酸水素ナトリウム水和剤の記載があり,この剤の使用基準に定められた範囲での使用なので問題はない。

  3. リンゴの病害の防除のため石灰ボルドー液を用いた。石灰ボルドー液は生石灰と硫酸銅から調製される無機物であり,有機合成農薬ではないため使用しても無農薬栽培にあたる。
    正しい。
    別表に硫酸銅と生石灰はボルドー剤調製用に使用する場合に限り使えるとの記載がある。

  4. 野菜の害虫を防除するため砒酸鉛を用いた。砒酸鉛は戦後は殺虫剤として用いられた実績もあり,しかも,無機物であり有機合成農薬ではないため使用しても有機栽培といえる。
    誤り。
    別表に砒酸鉛は記載されていない。

  5. 野菜の害虫を防除するため除虫菊の粉末製剤を用いた。除虫菊製剤とはシロバナムシヨケギクの茎葉部を乾燥した粉末であり,その活性物質はピリトリンである。除虫菊は天然物であるため使用しても有機栽培といえる。
    誤り。
    これは,ひっかけ問題である。除虫菊乳剤は別表に記載されているが除虫菊粉剤は記載されていない。剤形が変われば別の農薬だから使えない。

  6. 野菜の害虫を防除するためピレスロイド剤を用いた。ピレスロイドは天然物であるピリトリンをもとにその化学構造の一部を変換して合成した化合物であるが,本来天然物系の化合物であるため,使用しても有機栽培といえる。
    誤り。
    ちなみに,たとえ除虫菊に含まれるピレトリンそのものを化学合成したとしても「除虫菊乳剤;除虫菊から抽出したものであること。」との記載があるため使えない。

  7. 果樹の害虫を防除するため硫酸ニコチン剤を用いた。この剤の活性成分であるニコチンは化学的に合成された化合物ではあるが,ニコチンが天然物としてタバコに多く含まれることは広く知られている。したがって,硫酸ニコチン剤は安全な天然物系の農薬であり使用しても有機栽培といえる。
    誤り。
    よくニコチン剤は天然物系の農薬だから有機栽培でも使えると思いこんでいる方がいるが誤りである。有機栽培でも使えるかどうかの基準は,規制当局が「有機栽培で使える農薬のリスト」に入れているかどうかだけである。

  8. 野菜の病気を直すため抗生物質カスガマイシンを用いた。カスガマイシンは春日神社の土より単離された微生物の産生する抗生物質であり,タンク培養により作られる天然物である。したがって,使用しても有機栽培といえる。
    誤り。
    以前の規定(平成4年の「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」)においてもたとえ天然物でも抗生物質は有機栽培には使えなかった。

  9. 野菜の害虫を防除するためその害虫に寄生し殺す蜂(寄生蜂)を用いた。寄生蜂は農薬取締法では農薬として扱われるが,その使用が作物に危険をもたらすとは考えられないため使用しても有機栽培といえる。
    正しい。
    別表に「天敵等生物農薬及び生物農薬製剤」の記載があり,寄生蜂は天敵等生物農薬に該当する。

  10. 野菜の害虫を防除するためBT剤を用いた。BT剤は殺虫活性物質を産生する微生物(生菌と死菌があるが)であり,安全な生物農薬であるため使用しても有機栽培といえる。
    正しい。
    別表に「天敵等生物農薬及び生物農薬製剤」の記載があり,BT剤は生物農薬製剤に該当する。

  11. 野菜のアブラムシを防除するため市販の家庭用中性洗剤を水で薄め散布した。中性洗剤は農薬ではないから使用しても有機栽培といえる。なお,この場合アブラムシは散布された中性洗剤が体表に付着し,気門が封鎖されるため死に至る。
    誤り。
    家庭用中性洗剤は農薬ではないから有機栽培でも使えるだろうとの考えは誤りである。では,農薬として登録されているオレイン酸ナトリウム液剤(高級脂肪酸のナトリウム塩,つまり普通の石鹸)なら使えるだろうか。石鹸は天然物だから有機栽培でも使えると思いこんでいる方が多いが,誤りである。石鹸は別表2に記載されていない。仄聞であるが,オレイン酸は動植物から分解的な操作で得られるため天然物とみなせるがナトリウムは化学物質であり両者の反応で得られたオレイン酸ナトリウムも化学物質であるとの理由で別表2に入らなかったとのことである。

  12. ビニールハウス内に害虫が発生したため,市販の「バルサン」を用いた。バルサンは家庭用殺虫剤であり,農薬ではないから使用しても有機栽培といえる。
    もちろん誤り。
    ちなみに,収穫物の保管倉庫でバルサンを使うことにも制限がある。

以上はあくまでも私の見解である。当局の見解と私の見解とは異なる可能性もあるので注意していただきたい。強調しておきたいのは「有機栽培でも使える農薬」に一定の選択基準など存在しないことである。当局がリストに入れるかどうか,それだけが唯一の基準なのである。

【02/09/08 補足】 殺鼠剤である液化窒素の農薬登録は平成13年9月22日に失効した。従って,それ以降,液化窒素は無登録農薬になり有機栽培に使うことはできなくなっている。

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