[PR]今日のニュースは
「Infoseek モバイル」

●安全性の面から禁止すべき農薬など存在しない。禁止すべき使い方があるだけだ。

「安全性の面から禁止すべき農薬など存在しない。禁止すべき使い方があるだけだ。」という考え方がある。DDTを用いたマラリアを媒介するハマダラカの防除がこの典型例である。WHOは環境に対する影響も少なく,ヒトへの曝露も低減できるDDTの使用法を開発して年間200万とも300万人ともいわれる人命を救うのに役立てている。

【00/07/02作成】

安全性の面から禁止すべき農薬など存在しない。禁止すべき使い方があるだけだ。」という考え方がある。欧米ではごく普通の考え方である。急性毒性が高ければ急性毒性が問題とならないような使い方をすればよく,環境中で長期間残るのであれば環境に影響を与えないような使い方をすればよいのである。

アルジカルブというカーバメート系殺虫剤がある。日本では農薬として登録されていない。市販されているカーバメート剤ではもっとも急性経口毒性が高く(ラットのLD50は0.93 mg/kg),米国ではスイカへの違法な使用で高濃度の残留により死者まで出している。アルジカルブは吸入毒性や経皮毒性も高いが,浸透移行型土壌処理殺虫剤としての優れた性能を有している。そのため,散布剤としての許可はなく,これらの毒性が問題となりにくい粒剤だけが許可されている。一時期,米国ではトウモロコシの芯の部分に薬剤を含浸させた特殊な剤形があったときいている。

DDTマラリアを媒介するハマダラカの防除に使われ,年間200万人とも300万人ともいわれる人命を救ってきた。現在ではDDT抵抗性の蚊の増加により有機リン系殺虫剤に一部が置き換わっている。WHOの開発したDDTの使用法が興味深い。人の血を吸った蚊はしばらく近くの壁にとまって休む性質を利用して,民家の壁にDDTを吹き付けるのである。蚊は血を吸うと体重が重くなり遠くには飛べない。血液中の栄養分を取り込み水分を排泄してようやく遠くに飛べるようになる。その間にDDTが足から昆虫体内に入っていく。蚊がマラリアに感染する期間,吸血の間隔と回数,DDT抵抗性の蚊と感受性の蚊の競争などといった殺虫活性に影響する種々の要素はあるのだが,とにかくDDTはハマダラカの優れた防除剤となっている。

よく,発展途上国では環境や野生生物などにはかまっていられないから,いまだにDDTが使われているのだと皮相的な見解を述べる「専門家」がいる。しかし,WHOはリスクアセスメントを十分におこなって,環境に対する影響も少なく,ヒトへの曝露も低減できる使用法を開発し,全体的なコストが有機リン剤より安くなるDDTを使い続けているのである。ここでいうコストとはもちろん金銭だけではない。

ピレスロイド系殺虫剤は温血動物に対する毒性は低いのだが,魚類に対する毒性が一般に強く,そのため多くのピレスロイド剤が水田に使えなかった。現在では,魚毒が低く水田にも使えるピレスロイド剤も開発されている。多くのピレスロイド剤は「散布された薬剤が,河川,湖沼,海域及び養殖池に飛散又は流入するおそれのある場所では,使用しないこと」という「禁止すべき使い方」を明記して使われている。広く考えれば,農薬の安全使用基準も「禁止すべき使い方があるだけだ。」の実例かもしれない。

「禁止すべき使い方があるだけだ。」は原則であるが,もちろんこれが実質的には「使用禁止」となる場合も多い。農薬としての使用場面があまりに小さくなれば製造コストがかかりすぎて赤字になってしまう。新規農薬であれば開発コストに見合う売り上げが期待できない。しかし,大原則はあくまでも「安全性の面から禁止すべき農薬など存在しない。禁止すべき使い方があるだけだ。」なのである。

著者注)DDTによるマラリアの防除に関しては村本昇氏の「農薬はこわくない(近代文芸社)」を参考にした。

 

インデックス
目次
要約
トップ