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●「毒性」と「毒性試験の結果」を混同してはならない。

「毒性」と「毒性試験の結果」を混同している素人は多い。この誤りを殺菌剤の微生物を用いた復帰変異原性試験の例で説明する。

【00/03/27作成】

私が「発癌物質を農薬としてはならないのか。」に記載した牛肉の発癌性に関連して,これを「急性毒性の高い化合物には発癌性はない」と誤って解釈した方がいた。安心!?食べ物情報を作っている渡辺氏である。以下に,該当部分を引用する。

 最近、http://members.tripod.co.jp/gregarina/というサイトで、おもしろい話を見ました。
 「毒性の強いものには発ガン性はない」というのです。
 これは、本当はあるかないか分からないのですが、発ガン性の動物実験は長期にわたりますので、毒性の強いもので実験すると、ガンができる前にみんな死んでしまうから、発ガン性が確認できないのだそうです。
 ということは、発ガン性がある、とされている物質は、必ず急性毒性は低いから、1度食べたくらいでは、別になんともない、ということになります。
 「逆転の発想」みたいで、思わずうなってしまいました。発ガン性、ときくと、何となくものすごい毒物、と思っていましたので。

もちろん,私が記載したのは「急性毒性の高い化合物はラットも用いた混餌投与での発癌性試験で陽性となりにくい」なのだが,渡辺氏の議論は「毒性」と「毒性試験の結果」の混同という素人の陥りやすい本質的な誤りであるので若干の解説を加えたい。その前に,分かり易い議論として「殺菌剤に変異原性はない」という誤った議論を示す。

変異原性試験の1つに微生物を用いた復帰変異原性試験(エイムス試験)がある。本来なら,あるアミノ酸が存在する培地でなければ死んでしまうように作られた細菌が,変異原性物質が存在すると元の健全な細菌に戻りそのアミノ酸がなくても生きていけるようになる現象を利用して化合物の変異原性を調べる試験である。この試験では培地に濃度を変えて被検物質を加えて,できたコロニー(菌叢)数を数え,濃度が増えるに従ってその数が増えれば陽性と判定する。実際にはいろんなタイプの変異原性に対応でき,また,動物体内での代謝による化合物の変化にも対応できるように用いる微生物や試験条件が工夫されている。

賢明な諸君はこの試験の限界に気付かれたと思う。殺菌剤では濃度が増えるに従って微生物そのものが死んでしまうのである。その場合は,キリングがおこるまでの濃度だけでコロニー数の増加を判定するよう定められている。そのため,殺菌剤では結果的に陰性の結果を与えることが多い。これは,決して「殺菌剤に変異原性はない。」という訳ではない。「殺菌剤はエイムス試験で陰性になりやすい」だけである。ちなみに,農薬の変異原性はエイムス試験だけで判定されるわけではなく,より高次の試験でも評価される。

混餌投与による発癌性試験の問題点は,実際の残留濃度に相当するような極めて低い用量の投与では統計的に有意な癌の増加が認められない点にある。そのため,極めて高い用量で試験を行い,その結果から発癌性を判定することになるのだが,急性毒性があると用量を高くできないだけである。

「毒性」と「毒性試験の結果」の混同の最も典型的な例は「ベトちゃん,ドクちゃん」であろう。ダイオキシンが動物を用いた催奇形性試験で陽性であることと,ヒトに特定の奇形をおこす可能性があることとは別である。もっとも,「ベトちゃん,ドクちゃん」では母親がダイオキシンに被曝したかどうかさえ明確ではないのだが。

 

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