●毒性とは,化学物質などの環境要因が生体に対して有害な反応を引き起こす性質をいう。

毒性は「化学物質などの環境要因が生体に対して有害な反応を引き起こす性質」と定義されている。しかし,毒性という用語を勝手に解釈して机上の空論を繰り広げる御仁は多い。

【00/08/06作成】

毒性とは何か。一般には「化学物質などの環境要因が生体に対して有害な反応を引き起こす性質」と定義されている。しかし,毒性というべきかどうか微妙な事例もある。

窒素で満たした容器の中にマウスを入れると死ぬ。これは窒素の毒性だろうか。もちろん,マウスは酸素がないために死んだのであって窒素の毒性で死んだわけではない。マウスを水槽に漬ければ酸欠で死に至るだろうが,これも水の毒性ではない。

イモムシに浸漬すれば酸欠で死ぬ。イモムシに石鹸水をまんべんなく噴霧しても,気門が塞がれて酸欠で死に至る。では,イモムシは石鹸水の毒性で死んだのだろうか。このあたりから話がやや微妙になるが,この場合は石鹸水の毒性で死んだといってよい。少なくとも,イモムシは物理的な要因で死んだという説明は誤りである。

同様に,ナメクジに塩をかけると「溶けて」死ぬのは,浸透圧という物理的要因が原因であって塩化ナトリウムの毒性ではないという説明も誤りである。海水にフナを入れるとフナは死に,淡水にタイを入れるとタイは死ぬが,これはフナには海水は毒であり,タイには淡水が毒であることにほかならない。「毒性とは化学物質などの環境要因が生体に対して有害な反応を引き起こす性質である」との定義を考えればこれを自明といえる。これに対して,「海水に毒性があるなら海水浴で人は死ぬはずだ。」とか「食塩は人にとって必須だから毒であるはずはない。」などといった反論があるかもしれない。しかし,これらの反論こそ毒性についての理解が不足している証といえる。

毒性とは化学物質と対象生物だけに由来する性質ではない。想定される曝露経路や曝露量,曝露期間なども毒性の重要な要素である。ガソリンの毒性であれば,給油所で従業員が蒸気を吸い込むことを想定した吸入毒性が重要であり,経口毒性は通常は無意味である。一般には「毒性がない」と考えられる要因も曝露経路によっては毒性を発現する場合も多い。ウサギの耳の血管に注射器で空気を入れると,血が固まって血管を塞ぎ各組織に酸素などを供給できなくなってウサギは死に至る。これは物理的に血管が塞がれたのが直接の原因であるが,「空気の毒性」にほかならない。ミネラルとして重要な塩化カリウムも,水溶液を静注すれば心臓が停止する。

毒性という用語を勝手に解釈して机上の空論を繰り広げる御仁は実に多い。「猛毒のダイオキシン」という表現などその典型といえる。大量の農薬を静脈に注入した試験の結果からその毒性を云々するような御仁もいる。中性洗剤の中に入れた魚が死ぬのは中性洗剤の毒性だが,石鹸水の中に入れた魚が死ぬのは毒性ではないと主張するような御仁までいる。もちろん,「死ぬ」という「有害な反応を引き起こす性質」こそ毒性にほかならないのである。

 

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