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●残留分析法の話あれこれ(1);残留分析値の0.1 ppmは100 ppbではない。

農薬の残留基準には「0.1 ppmを超えないこと」との規定がある。この場合,ある作物を分析して0.14 ppmという残留分析値が得られたなら,これは四捨五入して0.1 ppmと記載される。0.14 ppmは0.1 ppmであり0.1 ppmを超えてはいない。有効数字を理解できるまともな分析化学者なら0.1 ppmを100 ppbとは記載しないことを理解できるであろう。

00/02/27,00/03/02一部訂正,01/09/30追記

農薬の残留基準(食品衛生法第七条第一項の規定に基づく食品、添加物等の規格基準)には「0.1 ppmを超えないこと」といった規定がある。この場合,ある作物を分析して0.14 ppmという残留分析値が得られたとしたら,はたしてこの基準に反しているだろうか。分析の経験の全くないものは,これを当然と考えるかもしれない。しかし,0.14 ppmは0.1 ppmを超えていない。有効数字の問題である。

残留基準値が0.1 ppmなら,それは有効数字1桁として規定されている。仮に分析値が0.14 ppmならそれは四捨五入して0.1 ppmと記載される。0.14 ppmはイコール0.1 ppmであり,0.1 ppmを超えていない。0.1 ppmを超えないとは分析値としては0.15 ppm未満の意味である。実際には分析は同じ試料で3回行い,JISの規定に従って平均するから,もう少し複雑になる。

残留基準値には0.10 ppmとの規定もある。とにかく,0.1 ppmと0.10 ppmは異なる測定値であり,「0.1 ppmを超えない」と「0.10 ppmを超えない」は全く異なる残留基準である。測定にとって最も重要な精度確度の概念があれば,これは常識といえる。精度について考慮されていない分析値に意味はなく,まともな研究者であればそのような分析値を記載することはない。

植村振作氏の「残留農薬データブック」という三省堂の本がある。この本には奇妙な記載が目立つが,0.1 ppmを100 ppbと記載していることもその典型である。0.1 ppmと0.10 ppmとの差のわかる研究者なら決してこれを100 ppbとは記載しない。

しかし,著者にとってこのような議論は重要ではあるまい。著者は食品が農薬でけがれていると主張したいのである。そして,その「けがれている度合い」として「検出率」をやたら重視している。どの程度の量が検出されたかは重要とは考えられていない。分析化学者にとって0.1 ppmと0.10 ppmの差は極めて重要だが,著者は大きな数値を記載して読者に恐怖心を与える方がはるかに重要と考えているようである。

 

【00/03/02】 「超えないこと」と「以下であること」の混同を訂正

農薬残留基準では一部の例外を除き官報に記載されている値を超えないことと規定されている。「定められた値以上であってはならない」もあるが,わずかな例外である。以前の文には「超えないこと」と「以下であること」の混同があったため,訂正した。ご指摘いただいたT氏に感謝する。

【01/09/30】 追記

この記事について植村氏にコメントを求めたが「貴殿の論評について言及する気はない。」とのことであった。詳細は植村氏との往復メールを参照されたい。

 

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