●登録保留基準の設定(1);登録保留基準と農薬の安全性

農薬の人に対する安全性は,農薬会社の作業員,農業従事者,一般消費者の3つに対象が分けられる。農薬の作物残留に係る登録保留基準は農薬の一般消費者に対する安全性を確保するための手段の1つとして設定されている。

01/08/19

農薬の作物残留に係る登録保留基準(以下,単に「登録保留基準」と記載する)は農薬の安全性を確保するための手段の1つとして設定されている。では,ここでいう安全性とはどのような人のどのような状況を対象に考えられた安全性だろうか。

農薬の安全性といった場合,その対象はに対する安全性と環境に対する安全性に大別される。人に対する安全性はさらに,農薬製造に従事する農薬会社の作業員,農薬を実際に使用する農業従事者一般消費者の3つに対象が分けられる。農薬の登録には種々の安全性試験が要求されるが,これらの試験はこれら3つの集団を対象としている。たとえば,作業員や農業従事者であれば経皮毒性や吸入毒性や皮膚感作性といった毒性項目が重要であるが,これらは一般消費者には意味を持たない。製造作業員では合成中間体の毒性も問題となるが,農業従事者にはこれは無意味である。

製造作業員は人数が限られており,しかも全員を特定できる。そのため,作業に対する危険性の周知や問題があった場合の対応が比較的容易である。しかし,曝露量は最も多い集団に属し,しかも,一旦事故がおこった場合にはその曝露量は甚大なものとなりやすい。

農業従事者は次に曝露量の多い集団に属する。人数も製造作業員に比べればはるかに多い。しかし,農業従事者は農薬の散布により直接の利益を受ける。実際に農薬を散布,施用する際の安全性の確保の重要性は論を待たないが,たとえば長時間の田の草取りという重労働に起因する健康障害とのリスクとの比較もまた重要となる。

一般消費者は最も人数の多い集団である。しかも,農薬から直接の利益を受けないため,たとえわずかなリスクでも無視することはできない。農薬の安全性という場合に,もっとも重要なのは一般消費者の安全性を確保することにあり,それが農薬の特徴といえる。このことは,一般化学品でも製造作業員とその化学品を消費する製造業者の安全性が考慮されていることを考えれば理解できるだろう。

さて,一般消費者の安全性を考えた場合,消費者への曝露は食品由来の経口経路に限らない。や散布時のドリフト(漂流飛散)による呼気からの曝露もありうる。さらに,たとえ食品経由の経口摂取であっても,作物からの直接摂取以外の経路もありうる。たとえば,稲わらに残留した農薬がそれを飼料とした牛に食べられ,肉に残留している可能性も考えられる。しかも,考慮すべき化合物は散布された農薬そのものに限らない。作物中などでさらに危険な化合物に変化している可能性もある。登録保留基準はこれら諸々の要素を考慮して設定されている。

 

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