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●クロルピリホスのホウレンソウでの残留基準値0.01 ppmは適当か。

厚労省がクロルピリホスのホウレンソウの残留基準値を0.01 ppmに設定したのは,ホウレンソウにクロルピリホスが使われる可能性はないと誤認したためである。このような失態がおきた根本的な原因は,農薬がどのような作物にどのように使われるかを全く知らない厚労省が残留農薬基準を設定している現在の制度にある。

【02/09/23作成】

私が残留農薬基準を考える上で目安としている数値がある。ADI0.02 mg/kg/dayなら,全作物加重平均残留基準値(筆者の造語)は1 ppmにできるという乱暴な推定値である。つまり,体重50 kgの成人が1日に約0.8 kgの農作物(食事ではない;フードファクターの合計値)を食べ,それに1 ppmの残留があれば残留の絶対量は約1 mg(飲料水等からの摂取を考え2割程度水増ししている),体重あたりなら0.02 mg/kgになるのである。もちろん,すべての農作物に使える農薬など存在しないため,これは単なる目安に過ぎない。

一方,中国産ホウレンソウで残留が問題とされているクロルピリホスのADIは0.01 mg/kg/day(JMPR Evaluations, 1999 Part II Toxicological)だから,全作物加重平均残留基準値は0.5 ppmにできる。つまり,クロルピリホスの残留の可能性のある農作物の残留基準値を全て0.5 ppmとしても十分におつりが来ることになり,ホウレンソウの残留基準値0.01 ppmは異常に低く設定されていることになる。

では,厚労省はどのように考えてホウレンソウの残留基準値を0.01 ppmに設定したのだろうか。厚労省は基準値について,「該当する農薬がその農作物に使われる可能性や国民がその農作物を摂取する量などを勘案して基準値を決めている。」(監視安全課)と説明している。

実際にクロルピリホスの残留基準をJPP-NET(有料)で調査すると3 ppm〜0.01 ppmの範囲で設定されていることがわかる。0.01 ppm以下の値がないことから,厚労省はクロルピリホスが使われる可能性がないと考えた作物と根菜類のようにたとえ使われてもほとんど残留しないと考えた作物の基準値を0.01 ppmに設定していることがわかる。また,詳細な計算はしていないが,上述の全作物加重平均残留基準値は許容される0.5 ppmの半分以下であり,ホウレンソウの残留基準値を1.0 ppmとしても何ら問題はないことは明白である。

しかし,合理的な理由があれば,たとえADIの議論からある作物の残留基準値を1.0 ppmと出来ても0.01 ppmを規制値とすることに問題はない。クロルピリホスでは,同じ緑色の葉物野菜である小松菜の基準値が2.0 ppmなのにホウレンソウが0.01 ppmであるのはおかしいとの指摘があるが,作物が異なれば害虫が異なり使われる農薬も違ってくるため基準値が異なるのはむしろ当然である。たとえば,コメと麦では多くの農薬の残留基準値が異なる。しかし,コメと麦は同じイネ科だが,ホウレンソウ(アカザ科)と小松菜(アブラナ科)では科のレベルで種が異なる。

1972年のJMPR(The Joint FAO/WHO Meeting on Pesticide Residues)ではクロルピリホスについて以下のMRL(Maximum Residue Levels)が推奨されている。これをみると,同じアブラナ科であるchinese cabbageとred cabbageで100倍も基準が異なっている。

Fat of meat of cattle

2.0 ppm

Apples, chinese cabbage, grapes, kale

1.0 ppm

Pears, carrots, tomatoes

0.5 ppm

Beans, aubergines, peppers, raspberries

0.2 ppm

Fat of meat of sheep and of poultry

0.2 ppm.

Lettuce, sugarbeet, rice (in husk)

0.1 ppm

Celery, cottonseed, cottonseed oil (crude),mushrooms, onions

0.05 ppm

Cauliflower, red cabbage, potatoes

0.01 ppm

Milk (fat basis)

0.01 ppm

小松菜ホウレンソウの例であれば,たとえホウレンソウの害虫にクロルピリホスが有効であったとしても,環境面,毒性面等からクロルピリホスより優れた殺虫剤が存在するなら,クロルピリホスの基準値を小さく設定することは正しいことになる。しかし,厚労省が深く考えてホウレンソウの基準値を0.01 ppmに設定したとは考えにくい。

10年ほど前まで厚生省(当時)は残留農薬基準の設定をほとんど行わなかった。当時は厚生省も登録保留基準があればこれで足りると考えていたようだ。その後,輸入農産物の問題で残留基準が設定されるようになったが,当時の私はその基準値を見て大いに困惑した。私は残留基準に関連する知識には自信があり,どのような農薬がどのような作物にどのように使われるかもある程度理解している。しかし,あまりにも理解しがたい基準が多かったのである。考えあぐねた末に得られた結論は「厚生省の役人は何も考えていない。鉛筆舐め舐め適当に基準値を決めている。」であった。

おそらく,ホウレンソウの基準値0.01 ppmはクロルピリホスがホウレンソウに使われることはないと考えた厚労省の失態によるのだろう。確かに失態ではあるのだが,若干同情出来る点がある。中国では容易に入手できる農薬の種類が限られており,作物と害虫にあわせて最適の農薬を選択して使うという知識が行き渡っていないように思えるからである。

しかし,根本的な問題点は農薬がどのような作物にどのように使われるかを全く知らない厚労省が残留農薬基準を設定している現在の制度にあるように思える。

  
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