●標識化合物問題(3); 文科省放射線規制室の教条主義が日本の産業競争力を低下させている。

農薬などの代謝や環境中での挙動の研究に14C-放射性標識化合物は欠かせない。この放射性物質の使用に規制があるのは当然だが,文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室に属する木端役人のつまらぬ教条主義によって,安全性にとって無意味な手続きに多大な労力が費やされるのは困った問題である。その典型が会社合併に伴う手続きであり,これにより製薬や農薬分野では効率的な企業の再編を妨げられ,日本の産業競争力が低下している。

【02/11/23作成】

農薬の安全性や環境における挙動を研究するために標識化合物は欠くことはできない。そのため,自社で農薬を開発する能力のある農薬原体製造メーカーは全て放射性同位元素使用施設(RI施設)を備えていると考えて良い。米国なら普通の実験室で使える微量の14Cでさえ,日本で使うには異常に立派な施設が必要になる。

このRI施設の維持にはかなりの費用と労力が必要だが,それが安全性のためなら,あるいは文科省が安全性のためと考えている行為なら,ある程度は納得する。しかし,安全性とは全く別の次元,即ち,文部科学省科学技術・学術政策局原子力安全課放射線規制室(以前は,科学技術庁原子力安全局放射線安全課)に属する木端役人のつまらぬ教条主義によって,実質的に何の意味もない手続きに多大の経費と時間が費やされるのは困った問題である。これによって本当の安全性を確保するための業務がおろそかになり,文科省がいってくることは全て枝葉末節の些事だと考える習慣が身についてしまう。この典型例が会社合併に伴う手続きである。

仮にRI施設を有するA社とRI施設を持たないB社とが合併しC社が誕生したとする。この場合,A社が存続会社となるならRI施設は社名の変更を届け出るだけで何の問題も起こらない。しかし,B社が存続会社になると大変である。A社のRI施設は廃止し,別に新たにC社のRI施設の新規登録申請を行わねばならない。官僚的に考えればA社という法人が合併により消滅したのだから,A社のRI施設もその時点で廃止するのが当然となる。もちろん,会社合併においても医薬品や農薬の登録といった大部分の許認可事項は何の問題もなく新会社に継承される。これほど馬鹿げた教条主義を掲げるのは文部科学省だけである。

RI施設の使用許可申請は大変な業務である。施設の図面や遮蔽能力計算や排水,排気能力計算といった添付書類も必要で,放射線障害予防規定の作成なども必要になる。しかも以前は何ら問題を指摘されなかった書類でも法令改訂等以外の裁量部分の基準が変わっていたりする。千倍過剰に見積もっても基準の千分の1にしかならない施設境界の空間線量率なども,提示された仮定だらけの基準に従って4桁の精度で「正確に」計算しなければならない。

施設の廃止も大仕事である。放射能で汚染された手袋やネズミのミイラやTLC板や廃液などはすべて廃棄業者に引き渡し,施設が汚染されていないことを確認する必要がある。帳簿類も整理して指定機関に引き渡さねばならない。さらに,A社のRI施設の放射線業務従事者は,新たにC社のRI施設に働き始めることことになるので,新人としての教育訓練が必要で,「放射能とは」といった初歩的な事項から再度教育を受けねばならない。その上,入所前健康診断も課せられる。文科省の教条主義は驚異(あるいは脅威)というほかない。

しかし,これらの無理難題ですら重要ではない。最大の問題はA社からC社に変わるときにRIを用いる試験が継続できない点にある。書類上,A社とC社のRI施設は全く別の組織なのだから,試験の継続はあり得ない。しかし,毒性試験や代謝試験には長期間を要するものが多く,ある時期に全ての試験を中止することは膨大な経費と労力の無駄となり,ひいては,製品の開発期間が延びるという企業にとって致命的な損害を与える。

海外では製薬企業や農薬企業の大規模な合併が起きている。日本も分割や合併などによって効率化を図らなければ国際的な競争力は維持できず,そのために商法も改正されている。しかし,製薬企業や農薬原体メーカーにとってRI施設が必須であることを考えると,文科省の放射線規制室は当該分野の効率的な企業の再編を妨げ,日本の産業競争力を低下させているといって過言ではない。当に国賊的行為である。

再度強調するが,上述の合併の際の手続きが安全性の問題ではないことは明白である。合併の際に相続会社をどちらにするかは安全性には関係ない。むしろ,合併による組織や施設の状況の変化こそが重要である。では,なぜ放射線規制室はこのような理不尽な要求をするのか。最大の理由は「暇だから」あるいは「仕事が欲しいから」だろう。パーキンソンがその第一法則で指摘したとおり,公務員は無意味な仕事をつくって増え続けるものである。おそらく,彼らにとっては許可の件数が「成果」の1つになるのだろう。ちなみに,彼らが時に深夜まで「仕事」をしていることは十分に知っている。もちろん,この場合の「仕事」とは「自ら掘った穴を自ら埋めること」をいう。

私は,放射線規制室を独立行政法人として文科省から切り離すことが現実から大きく乖離した彼らの頭脳を正常に戻す第一歩だと考えている。

【お願い】
グレガリナは第1種放射線取扱主任者免状を持っていますが,放射線管理業務に直接携わっているわけではありません。この文章は友人の話をもとに作成しました。
この記事で扱った問題は結構深刻なようです。そこでお願いがあります。知り合いに
(社)日本アイソトープ協会の会員,特に主任者部会部会員の方がいれば,この記事を紹介して下さい。できれば,文部科学省(voice@mext.go.jp)にこの記事に対する考えをメールしてください。「世のため,人のため,道のため」よろしくお願いします。

 

  
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