●米軍がベトナムで散布したオレンジ剤(枯葉剤)の有効成分は2,4-Dと2,4,5-Tではない。米軍がベトナムで空中散布したオレンジ剤(枯葉剤)の有効成分は2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)と2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)ではなく,そのエステルである。化学知識のある者が米軍機が枯葉剤を空中散布している様子を注意深く見ればこれに気付くはずである。
【09/10/01作成】
2008年2月15日21時10分からNHK-BS1において「ベトナム戦争〜枯れ葉剤被害者集団訴訟〜2007WGBH」なる番組が放送された。その冒頭に,米軍機が枯葉剤を空中散布している様子が放送されたのだが,それを見ていて,散布されているのは,2,4-Dや2,4,5-Tではありえないことに気付いた。グレガリナともあろうものが,「ベトナムで使用された枯葉剤は,主にオレンジ剤とよばれる2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)と2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)の混合剤である。」という一般報道を鵜呑みにしていたのである。まさに汗顔の至りというほかない。
空中散布では液体を霧状にして散布しているのだから,2,4-Dや2,4,5-Tを何らかの有機溶媒に溶かしていることになる。その溶剤としてはトルエン,キシレン等のベンゼン系溶媒が一般的であるが,2,4-Dや2,4,5-Tでは溶解度が低すぎる。航空機散布では,有効成分50%以上の高濃度製剤(ULV剤)が必要で,有効成分10%以下では搭載量に制限のある航空機では効率的な散布ができない。アミン塩として水溶剤にする手もあるが,それではマングローブのようなクチクラ層の厚い植物では植物体内に移行しない。
回答は番組の中にあった。枯葉剤として,「Lo-V Brush Killer」という製剤の容器が示された際,その成分が読み取れた。
ACTIVE INGREDIENTS
2-ethylhexyl ester of 2,4,5-trichlorophenoxyacetic acid 31.5 %
2-ethylhexyl ester of 2,4-dichlorophenoxyacetic acid 33.0 %
INERT INGREDIENTS 35.5 %オレンジ剤は2,4-Dや2,4,5-Tそのものではなく,炭素数8のアルコールとのエステルだったようだ。それなら,有効成分の合計60%程度(2,4-Dと2,4,5-T換算なら40%程度)の高濃度製剤を調製できる。
しかし,番組で紹介されたLo-V Brush Killerとオレンジ剤の有効成分は同じとは限らない。英語のWikipediaでAgent Orangeを検索すると2,4-Dと2,4,5-Tはイソオクチル(isooctyl;=6-methylheptyl)エステルと記されており,n-ブチルエステルとしている信憑性の高い文献もある。オレンジ剤には種々のエステルがあったのかもしれないが,いまだ確認できない。
2,4,5-Tそのものを散布したか2,4,5-Tのエステルを散布したかなど些細なことという御仁がいるかもしれない。しかし,環境中での運命(環境動態)はかなり異なる。私は,これを「些細」という御仁に「ベトちゃんドクちゃん」を語る資格はないと考える。
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