●日本人は人間も生物も農産物も元素ではできていないと考えている。

「昔はカドミウムや水銀などの重金属が危険であるといわれていた。その後,塩素やリンも危険であることがわかってきた。最近では,窒素も有害だといわれ始めた。結局,全ての元素は有害なのである。」と有機農法の信奉者がいっていた。多くの日本人はこのように「生物は元素でできていない」と思っている。

【99/12/18作成】

「昔はカドミウムや水銀などの重金属が危険であるといわれていた。その後,塩素やリンも危険であることがわかってきた。最近では,窒素も有害だといわれ始めた。結局,全ての元素は有害なのである。」と有機農法の信奉者がNHKで発言していた。カドミウムや水銀は阿賀野川や水俣の公害問題,塩素やリンはDDTなどの有機塩素系殺虫剤やホリドールなどの初期の有機リン系殺虫剤のことであろう。窒素とはニトロソアミンの問題であろうか。

多少の化学知識があればこの人の誤りに気付き反論できるだろうが,多くの日本人は意識の底でこのように「生物は元素でできていない」と思っている。そして,この考えが農薬や化学物質に対する対応を根底で支配しているのである。

NHKの作った「化学物質」という不思議な言葉の前提もこれである。化学物質という術語は「化学物質以外の物質」が存在しなければ成立し得ない。それが,元素で構成されないものにほかならない。

有機肥料無機肥料に比べ安全であるとの考えの根拠もこれである。有機肥料に含まれるミネラルは野菜に取り込まれ食べると健康に良いが,無機肥料に含まれる微量元素は野菜に残留し摂取すれば人体に蓄積する可能性があるのである。農薬は多少とも人体が分解解毒できるが,無機物は代謝できないから農薬より無機肥料の方が危険であるいう進歩的な主婦の意見も聞いたことがある。

以前,テレビで炭をつかった村おこしの報道があった。その中で,炭を練り混んだソバを開発して「炭は有機物だから安全だ」と宣伝しているのを見て考えさせられた。この場合の「有機物」とは「生物由来であり食品と同様に元素で構成されないもの」という意味だろう。とにかく,炭素が元素であるという概念がないから炭を有機物と断定できるのである。

一般人の考える昆布のダシとグルタミン酸ナトリウムの関係も興味深い。昆布のダシは元素などで構成されない「うまみ成分」を含み健康に良いものだが,グルタミン酸ナトリウムは元素で構成される「けがれた化学物質」なのである。では,昆布ダシから抽出したグルタミン酸をどう考えるか。精製して結晶になった時点で食品成分から化学物質に変化するとの考えが一般的だろう。とにかく,昆布のうまみ成分に含まれるグルタミン酸が元素などで構成されるものであってはならないというのが一般人の感情であろう。

「Aという農薬とBという農薬は,それぞれ単独では安全であっても生体内で2つが反応し,別の危険な化合物が生成する可能性がある」との議論がある。文化人といわれる人までテレビで真面目に議論している。しかし,このような議論は,生物を「純水のようなもの」あるいは「元素でできていないもの」とでも考えなければ不可能ではないだろうか。いままでの話に半信半疑であったあなたも,この議論には何の疑念も抱かずにいたに違いない。だとしたら,あなたも「生物は元素でできていない理論」の信奉者といえるだろう。

 

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