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ココ山岡のセールストーク



「そういう気持ちやったら、やめといてください」

 昔、「ココ山岡」という宝石商があった。
 数年前に倒産したんだけど。
 ここの売りは、ダイヤモンドの「100%買い取り保証」というやつだった。

 読んで字の如く、買ったダイヤモンドを、買ってから確か5年だったか経てば買った値段での引き取りを保証してくれるという掟破りな凄いやつ。

 バブルが終わるまではほんとに買い取りを求める人はそんなに多くなかったので何とか回っていたが、バブル後は買い取り件数がやたら増え、これがココ山岡倒産の原因になった。

 例えばエステや英会話学校が倒産したりすると、「先払いチケット」を買わされた人が「被害者」として「カネ返せ〜」って被害者の会を結成したりするんだけど、それに比べればココ山岡の客の被害(100%で買い取ってもらえないこと)は軽傷と言えるかもしれない。ダイヤそのものは手元に残るんだから。

 しかし問題はそう単純でもなく。
 なんとこの会社、鑑定書を自前で出していたとか。(通常はアメリカとかの、ちゃんとした鑑定機関に依頼して出してもらう)
 いかんよなあ。

 私はここのセールスにおつきあいしてかなり長い時間お話を聞いたことがある。
 それを御紹介。

 ココ山岡のやり方はいつも同じで、
店の前を歩いている男に店員の女性が声をかける
「アンケートに協力していただけますか?」

独身かどうか、大まかな年収(つまり、「仕事」を聞く)などさりげなくチェックしながら、宝石の写真を見せ、「彼女に贈るなら、どのデザインがいいですか?」などと尋ねる。
当然答えなど店員にはどうでもよくて、これはその人が「ターゲット」かどうかを確認する作業に過ぎない。

「ターゲット」である場合、色々話を弾ませながら、「ブライダル全般についてのアンケートにも答えていただけますか?」などと、今度は店の奥に通される。

※この「ブライダル全般のアンケート」は、「結婚費用はいくらくらいかかると思いますか?」とか、「新居にかけるおカネの平均はどのくらいだと思いますか?」とか。
 それを書かせながら、「実は、○○○円もするんですよ」とか言って、「結婚にはカネがかかる」ということを刷り込んでいく。
 そこには当然、「婚約指輪は……?」という項目もある。

そこで
「婚約指輪は、今関係なくても必ず必要になるもの。今のうちに買って少しずつおカネを払っていけば、とてもいい贈り物になる」
※つまり、「いざ婚約という時になって買うということになったら、指輪にまわるカネは少なくなる。だから今のうちから少しずつ、という話。
「しかも「100%買い取り保証」だから、いざというときには換金できる」
「デ・ビアス社(注:世界の宝飾用ダイヤモンド流通のほとんどを牛耳っている会社)が、これから数年でダイヤモンド相場を下げるという計画を宝石商に通知してきている。つまり今買えば「投資」の意味合いも出る」
などというお話を聞かされる。

しかも「ブツ」を実際に見せながらだから、結構説得力アリ。(^^)
この段階になると、完全に「買いなさい」状態。

しまいに店員は「……わかりました! 私はあなたがとても気に入りましたから……えー、ちょっと待って下さい」と奥に引っ込み、先ほどさりげなく出てきて挨拶をしてきた「店長」と相談をする。
もちろんその「相談」も、客から見えるところでやる(客に、「自分のためにこれだけやってくれている」というのを印象づけるため)。

店長がやってきて、「あの子、あなたのことがとても気に入ったので、自分が持っている値引きワク全部使ってでもいいから安く売ってあげてほしいって言ってるんです。(※このへんはやはり、客の自尊心をくすぐるというのも入ってるんだと思う。「自分だけが選ばれた」って感じ) これでいかがでしょう?」と電卓を叩く。
無茶苦茶安い。
(そりゃ鑑定書自前で作ってたらそういうこともできるわけで)

ご購入


 このやりとりの最中、頻繁に使われるのが、

「そういう気持ちやったら、やめといてください」

 という言葉。

 これは、客が出してくる「そいつを買わない理由」を潰すテクニック。

 つまり、いろんなシチュエーションを作って、客に「買わない理由」を考えさせる状況を作るわけ。
(上で言うと、「婚約指輪は、今関係なくても必ず必要になるもの」などという「買う理由」をガンガン出して、

「買うのが当然。で、何が問題?」

という雰囲気を作り上げる)
 客は精神的にそれに抗うために、「買わない理由」を探そうとする。
 というか、売る側はそれを探すように仕向けるわけ。
 この時点で既に相手の土俵に立たされている(買わない理由を探すというのは、その理由を潰されれば買う、ということ。そういう前提に立ってしまっている)のだけれど、本人は気づかない。

 で、「買わない理由」をいくつもひねり出す。

 しかしだいたいの「理由」への対処はマニュアル化されているはずで、例えば「支払いが大変」とか言われたら、「1日換算にしてたった○○円。これって××を1つガマンすればいいだけですよ」とか、それらの理由はあっさり潰されてしまう。

 で、そういう受け答えの中で、かなり広範囲に使えるのが、

「そういう気持ちやったら、やめといてください」

 という言葉。例えば「5年後に100%だと、投資としては……」とか言われたら、

「そういう気持ちやったら、やめといてください。これは投資として考えてもらうような商品じゃありません。これはあくまで……」

 などと少し怒り気味に話す。気の弱い人間なら

「あ、いやいやそういうつもりじゃ……」

 と、せっかく出した「買わない理由」を引っ込めてしまう。

 かくして外堀を埋められつくし、彼はいつ使うかわからないエンゲージ・リングを5年ローンで購入してしまうのだ。





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