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あなたの心の中の未解決のものすべてに対して忍耐を持たれることを。 そうして問い自身を、例えば閉ざされた部屋のように、あるいは非常に未知な言語で書かれた書物のように、愛されることを。 今すぐ答えを捜さないで下さい。 あなたはまだそれを自ら生きておいでにならないのだから、 今与えられることはないのです。 すべてを生きるということこそ、しかし大切なのです。 今はあなたは問いを生きてください。 そうすればおそらくあなたは次第に、それと気づくことなく、 ある遙かな日に、答えの中へ生きて行かれることになりましょう。 ブレーメン近郊ヴォルブスヴェーデにて、1903年7月16日、若き詩人カプス君宛のリルケの手紙より |
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みんなでゾロゾロ、グループ一緒で行動しなきゃならねぇ修学旅行。事前に調べ学習させられて、見学したり体験したりそのあともレポート・課題で攻められる。まさかイレブン・セブンじゃあるまいし、二十四時間、規律正しくしばられる。かったるいし、めんどくさいし、やってられねぇ修学旅行。 みんな心のどこかでそう思ってるのに、正直者は数少ねぇ。口では「かったるいぜ」「めんど臭いわ」なんて言いながら、団体行動、グループ行動まじめにやって。おまえら、本気じゃねぇくせ、よくやるよ。 自分に素直に生きたかないのか! とは言っても、一人きりじゃ、つまんねぇし、面白くもねぇ。だから、いつもの仲間とハグレ軍団作って、自由行動に踊りでた。 団体さん、さようなら。グループさんたち、グッドバイ。みんなはあのでっけぇ五重塔を見学したり、国宝館にあるとか言う、「ホウモツ」とやらを見に行ったり。まあ、ほんとにご苦労さん。 俺ら「軍団」五人組。冗談言ったり馬鹿言ったり、奇声や歓声、雄叫びなどで、武装し合って、かっこつけつけ、五月の風を切り裂き歩いた。そうして、俺らは、人影少ない場所を探しつ、ウロウロめぐり歩き回った。 それが忘れもしないあの興福寺。 どの学校にでもいるはずの俺らみたいなハグレ者。人影まばらな三重塔、すぐそのわきで、煙草をふかす一軍発見。 「やばい!」と思ったそのときだ。ひときわ目立つ、リーダーとおぼしき奴が、仲間七人引き連れて、こちらに向かってきやがった。 そのあと、何が起こったか。経験ない奴には想像できっこねぇ。ワケなんてもんもありゃしねぇ。 そうさ、「阿吽」の呼吸でケンカが始まる。 どっちが先か後なのか、そんなもんは関係ねぇ。凹々にするかされるかのこの世界。殴り殴られ、追いつ追われつ、いつしか舞台は猿沢の池のほとりに移ってた。 俺は、奴らに囲まれて、腹、顔、あごに一、二の三発喰らった瞬間、俺の視界は壊れたテレビ、ちらつく画面になっちまった。そして、頭を何か、かたいもんにぶっつけた、と思う間もなく、俺のテレビはプツンと消えた。 * しばらくして意識が戻ると、あたりはもう真っ暗。そこには五月蠅い奴らや仲間の「軍団」の気配はなかった。 ゆっくりカラダを起こすと、鼻やくちびるから流れ出ている血をぬぐった。俺の顔や服は真っ赤に染まっていたらしい。 池の水で手と顔を洗おうとしたとき、目の前にまたもや変な奴らが現れた。俺は、痛む左手で拳を握り、わきに落ちていた棒きれを右手でつかみ、カラダをこわばらせながら身構えた。 しかし、奴らはいっこうにかかってくる様子はなかった。かすむ目を左手の甲でこすると、奴らがカラダ一つに三つの顔と六本の腕を持つ不思議な格好をしているのが見えた。 俺は目をむきながら「何だ!てめぇ、まだやる気か」とすごんでみせた。 すると、赤みがかった顔をした三面六臂の奴らの真ん中が俺に話しかけてきた。 「そこのきみ、大丈夫かい?」 俺は言い返した。「うるせぇ、おまえの知ったことか。おまえも奴らの仲間か?」 「いや、違う。私はもう争いごとからとっくに足を洗ってしまったよ。昔はけっこう派手にやったものだがね。」 「じゃあ、おまえはいったい誰なんだ!」 「ははあ。本当に私のこと、知らないのかね?歴史の教科書などに、私の写真は載っていたはずだが。」 「教科書の写真だって?笑わせるな。そんなもの、読んだこともねぇや。」 「それはもったいないことだ。でも、それでは仕方がない。私たちのおいたちを聞いてもらおうか。私は、この寺の国宝館に住んでいるAsuraと言う者、どうかよろしく。」 「分かった。それじゃあ、両側にいる奴らは誰なんだ?」と俺がたずねると、 「やあ、俺の名前はAsura、よろしくな!」 「僕の名前もAsuraと言います。」と答えやがった。 「よくわかんねぇな。おまえらみんなAsuraなのか?」と問いただすと、奴らは三面鏡に映った顔のように一糸も乱さず首を縦に振った。そして、かわるがわるおいたちを話しはじめやがった。 真ん中の奴が言った。 「古代のインドやイランあたりを旅していたころ、私は神さまだったらしい。」 すると、次に左の奴が「ところが、インドにゆくと、俺は闘いの神に祭り上げられた。鎧甲に身を包み、手には剣をにぎって、いくつもの争いに挑んだ。数多くの命を奪い、修羅場を生き抜いてきたのだ。」と言う。 続いて右の奴が「やがてイランを訪れると、僕は、ゾロアスター教の守護神としてあがめられ、人々をあたたかく包み込んだのです。」などと言う。 さらに、真ん中の奴が言った。「私たちは、しばしば太陽を喰ったり月を喰ったり、日食月食の術を使うことができるのだよ。」 『ふざけるな!日食や月食がなぜ起こるのかぐらいはこの俺でも知ってるぜ。』 でも、なぜか俺は、奴らの不思議な物語の続きが気になり、黙って耳を傾け続けた。 そして、右の奴が得意気な顔をして言った。「昔、僕は、天と人間とを友として陽の当たる道を大手を振って歩いていたことがあるのです。それはもう心も温まる毎日でした。」 すると今度は、左の奴がとても悲しそうな顔をしながらつぶやいた。「俺はなあ、かつて、地底にしか住めない餓鬼だったんだ。あのときはつらかった。もがいてももがいてもはい上がることなどできやしなかった。」 そして、最後に奴らは口をそろえて言った。 「われわれは、天平の時代にここ、奈良の都の興福寺にやって来た。以来、一切の武器や鎧甲も身に付けず、この寺の内外で静かに仏を守り、仏に寄り添い生きている。これが今のわれわれ。これが、われらの履歴書! さて、きみにはどんな履歴があるのだ? これからどんな履歴を作ってゆくのか?」 「えっ、俺の履歴だって?それ、これからどう生きるのか、ってこと?」 俺は、猿沢の池に映った月をみつめながら考えようとした。しかし、水面を見つめた瞬間、俺は目がくらみ、再びその場に倒れてしまった。池に映っていたのは月ではなく、五月にしてはまぶしすぎる真夏の太陽だった。 * どのくらいの時が流れたのだろう。俺の失われた記憶と傷んだカラダがもとに戻ったとき、そこに俺のほかは誰もいなかった。ただ、白いベッドのわきで、花瓶に生けられた花々が静かに微笑んでいるだけだった。そして、病院らしき部屋の窓から眺める空は、もうとっくに高く澄みわたっていた。 鰯雲の泳ぐ空を眺めながら、俺は一人つぶやいた。「Asuraたちの履歴書か・・・」 そのあと、言葉にこそしなかったが、俺がどんな履歴書を生きていこうとしているのか、自分でもうすうす気がついていた。 やがて、病室の外の廊下から、「軍団」の仲間とクラスメイト、そして俺のセンコウ、いや担任の先生たちの楽しげな声が近づいてきた。俺は、彼らの声のすべてを、妙に懐かしく、そして、待ちどおしく思っていた。 病室のドアが開く瞬間、あの「不思議」の意味が分かった。俺もAsuraだったんだ。(完) |
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