いい例文を作る秘訣
日本語教育において、例文を作ることは重要な仕事のひとつだ。ここでは、いい例文を作るために、気を使うべき点と、具体的に例文を作るにあたって必要な道具立てについて、簡単に紹介したいと思う。
- いい例文を作るには、次の3点に気を使うべきだと思う。
- その語の意味が例文自体から体得できる例文
- その語を使う状況が分かる例文
- 分かりやすい例文
その具体的な方法は、次のとおり。
- その語の意味が例文自体から体得できるようにするためには、
- その語が要求する典型的な統語構造を例文に折り込む。
×彼は顔を出しません。→彼は最近私たちの集まりに顔を出しません。
×足を洗った。→彼は悪事から足を洗った。
- 一番結合しやすい語と一緒に結合した形で提示する。
×今朝はヨーグルトを飲みました。→今朝はコーヒー(お茶、水、牛乳, etc.)を飲みました。
※上の例文がまずいのは、ポイントになる単語「飲む」の意味を「ヨーグルト」が助けているのではなく、「ヨーグルト」の意味を「飲む」が助けてしまっている点にある。ヨーグルトのように、固体に近くなったり液体に近くなったりする食品は、固さに従って、食べたり飲んだりするので、そういう単語を例文に用いるのは適切ではない。(「ヨーグルト」がポイントなら、「飲む」を使うのはOK。)
- 複数の意味を例文で示すには、それぞれの意味に典型的な結合を提示する。
このカバンはちょっと重いです。/テストのことを考えると気が重いです。
私は眼鏡を外すと何も見えません。/部長は今ちょっと席を外しています。
- 接続詞類は、文を超えて、前後の関係が分かるようにする。
×それにしても遅いですね。→彼は遅くなると電話で言ってきたけど、それにしても遅いですね。
×さて、次に秋の社員旅行の話に移ります。→この辺で仕事の話は終わります。さて、次に秋の社員旅行の話に移ります。
- その語を使う状況が分かるようにするためには、
- 主語は最小限の状況設定になるので、主語を省略してしまうのは得策ではない。
×ウィスキーを一本飲んでも平気です。→彼女はウィスキーを一本飲んでも平気です。
×地味な生活をしています。→彼らは地味な生活をしています。
×面白い顔をしています。→その人は面白い顔をしています。
※ただし、「夕べ恐い夢を見ました」のような例文は、主語が“私”だということが分かるので、無理に主語を入れる必要はない。
- 節の形ではなく、完全な文を作る。(文末にモダリティーのある文。「です/ます」体にするとモダリティーのある文を作りやすくなる。)
×話がまとまる。→意見が多すぎて、なかなか話がまとまりません。
×庭に咲くモクレンの白い花。→庭にモクレンの白い花が咲いています。
- 決まり文句に用いられる語は決まり文句を提示。(この場合は主語を無理に入れる必要はない。)
○そろそろ帰りましょうか。
○ちょっと手伝ってください。
×ちょっと見てください。→日本語でレポートを書いたんですけど、ちょっと見てください。
- 分かりやすい例文を作るためには、
- 文を長くし過ぎない。(ただし、短くし過ぎて必要な要素を落としても意味が漠然としてしまう。)
- 複文を避ける。(連体修飾節は避けられないが、少なくとも複雑にはしない。)
- ポイント以外の部分は可能な限り平易な表現を用いる。
- 曖昧文を作らない。
- 道具立てとして、自然で典型的な例文を作るためには、次の方法が役に立つ。
- 数種類の辞書を参考にする。1種類だとその辞書に影響されるので、必ず数種類を見る必要がある。参考になるのは、外国人のための日本語辞典類のほかに、和英辞典に良質の例文が多い。ただし、上の条件を満たした例文はあまりない。
- 用例抽出ソフトなどで、検索する。その方法については、『「超」整理法3』(野口悠紀夫著、中公新書、1999)の第5章が役に立つ。また、マックを使用する場合、パワーコーパス(シェアウェア)が有用。収集する資料としては、ウェブ日記や素人の随筆のようなものが適している。新聞などの記事やコラム、論説文などは、日常的でないので、あまり役に立たない。小説やシナリオも、意外と難点が多い。いずれにしても、プロの文章は平凡でないので、用例としては参考にしにくい。
- グーグルなどの検索サイトを使用して、ウェブページで使われている用例を見る。
以上の3つの方法によって、典型的な用例を見つけ、それをアレンジして、手ごろな長さで適当な難易度の例文を作る。たくさんの用例にふれているうちに、生き生きした例文が思い浮かんで来やすくなる。
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