ロールアップ!ロールアップ!

ジリタ博士: オス郎やーい!

オス郎: はい、はーい!

博士: それじゃ、見世物小屋の花ちゃんだろ! 「はい」は一回でいいと言われたことないか?

オス郎: でもノルウェー人はかならず「はい、はい」と2回言いますよ。

博士: ああ、そうなんだよな。こまったもんだ。「おい、おい」とも言っておるしな。じゃ、助手のオス郎を皆さんにも紹介しておくか。さ、これが北海道は十勝の国、石狩川の上流で...

オス郎: それじゃ、やっぱり因果娘の花子ちゃんですよ。


なぜ人間はハイになりたいか

博士: それじゃ、そういうことで、まず人間はなぜハイになりたいかという今日の話題からはいってみようか。

オス郎: 今日の話題って...。でも私は別にハイになりたいとは思いませんけど。貝になりたいと思うことは時々ありますが。

博士: 「思いませんけど?」 ばっかだなあ、お前だってハイになりたいと常々思って、実際にそうしているんだよ。

オス郎: そうしているって、ハイになっているってことですかあ?

博士: その、「ですかあ?」といって大口を開けるのはやめようよ。ご両親が見たら泣くぞ。ま、それはいいが、キミは徹夜して午前2時頃になぜか笑いが止まらなくなったことはないかね。

オス郎: そりゃ、ありますよ、しょっちゅうですよ。「なんで4人なのに、チャンバラトリオなんだよー、ひー。」とか言って笑いすぎて腸ねん転起こしそうになったりするやつでしょう?でも、確かにあれは突然やってくるハイな状態ですが、別に望んでそうしてるわけじゃないですよ。

博士: あ、...。じゃ、質問を変えるぞ。キミは酒を飲むだろう?

オス郎: もう、さっきの話はどうなったんですか。えーと、そうですよ、酒は自慢じゃないけど年がら年中飲んでますよ。これも自慢じゃないけど、酒を誘われて断わったことはないですよ。

博士: そこだよ、キミ!

オス郎: あー、びっくりしたー。なんでそんな大声だすんですかあ。腰抜かすじゃないですかあ。

博士: 酒を飲むとハイになるだろう?

オス郎: ま、そうですね。

博士: 「ま、そうですね。」だと? 生意気な口のきき方だな。ちょっと、ここに来い!

オス郎: あー、ごめんなさい。「富士山見えたか。」だけは勘弁してください。

博士: 以後、気をつけるように。ところで、話を元に戻すが、「どう、今夜いっぱい?」と夕方誘われたら、早くハイな気分になりたくてウキウキして、居ても立ってもいられなくならんかね?

オス郎: その通りです。

博士: だから言っただろう? キミは常々ハイになりたいと思っているし、実際にそのような状況を求めて、実際に自分をそのような状況に置こうとしているんだよ。

オス郎: うーん、そういわれると....

博士: はい。じゃ、その件はもういいな? では、次の質問。 キミはなぜ酒を飲もうとするのかね?

オス郎: なぜ? うーん、そうですね、気分転換したいからかなあ?

博士: よし! それでいい!

オス郎: あー、びっくりするなあ、もう。 また大声出して。なにが、それでいいんですか?

博士: そこが一番大事なとこなんだよ。これは、あまり知られてないことなんだが、人間はハイになって気分転換して意識を変えないと生きていけないんだよ。っていうか、もっと正確に言うと、繰り返し意識を変えることイコール生きることなんだよ。

オス郎: マジですか?

博士: マジです!例えば小さな子供を見てみろ。一日の大半をハイな気分を求めながら過ごしているぞ。体をゆらゆらさせたり、くるくる回りつづけて恍惚状態に陥ってたりするよな。

オス郎: ブランコや回転遊具もほんと、トリップしますよね。

博士: そうだろ、だんだんわかってきたな。あとで気持ち悪くなるのがわかってても、繰り返し繰り返しやったりしただろう?

オス郎: そうですね。あと、息を止めてボーっとするのを楽しんだりしましたよ。

博士: それが、大きくなって酒やタバコのような広義のドラッグに移行しただけだよ。狭義のドラッグにいっちゃうやつもいるけどな。

オス郎: でも、そんな単純なものなのかなあ。

博士: なにが単純なものか。これは奥の深い真理だ。この講座でおいおいわからせてやるから、今は疑いを持たずに 「人生イコール気分転換」を1000回唱えよ。

オス郎: それじゃあ、洗脳マントラですよ。

博士: ちなみに、ワシはもう酒はあまり飲まん。

オス郎: そういえば、そうですね。学生の頃は仕送りを全部飲んで、札幌でストーブも買えなかったと聞いていますが、あまり毎日飲んでいる風でもないですね、今は。

博士: 晩酌も基本的にはやらなくなったし、缶ビールを2日に1本てとこかな。ワインも一時凝ったが、今はもうタヌキが石を投げるくらい(注: 松山地方の言い方で、めったに〜しない、の意)しか買わん。

オス郎: クスリでもやってるんですか?

博士: そんなものは、やらん。家族もいるし。健康にも気をつけて、夏は自転車通勤しているくらいだ。

オス郎: うわっ!

博士: 何が、「うわっ」だ。失礼な。そうじゃなくて、ワシくらいになるとハイになるのにもうアルコールを必要としなくなるんだよ。いわゆる、ナチュラルハイというやつだ。

オス郎: ナチュラルハイ...ナチュラルハイ...天然ボケのことですか?

博士: オラオラー、富士山見えたか? 富士山見えたか?

オス郎: いてててて。みみみ、見えましたー。見えましたから、私の両耳から手をはなしてください。

博士: このやろー。天然ボケじゃなくて、ドラッグを使わなくてもハイになれる、ノンドラッグハイのことだよ。

オス郎: それじゃ、博士は何もなしでハイになれるのですか?

博士: おうよ!そんでもって、この講座のテーマはこの天然ボケ...じゃなくて、くそお前が変なこと言うから間違っただろ...ナチュラルハイの議論を深めることなんだが、いきなりじゃピンと来ないだろうから、合法のものを中心にドラッグの話から始めて、各種ナチュラルハイの話に進んでいくとしよう。

オス郎: ちょっとトイレ行ってきていいですか?


ドラッグって?

(オス郎トイレから戻ってくる。)

オス郎: 博士、そもそもドラッグって何ですか!

博士: ここに、「チョコレートからヘロインまで」という本がある。ワイルとローゼンという人たちが書いて例の第三書館から出版されたものだ。とんでもないワルそうな著者近影がついてて内容もちょっと古いが、大変良心的でわかりやすい。これによると、ドラッグすなわち薬物の一般的な定義は、「少量で身体、精神、あるいは両方に顕著な変化をもたらすもの」となっているな。

オス郎: じゃあ、岡埜栄泉の豆大福もドラッグですか?

博士: あの1個120円の岡埜栄泉の豆大福か?

オス郎: はい、ワタシあれ1個食べただけで力が湧いてきて3時間は仕事が続けられます。

博士: おう、それはまぎれもないドラッグだ。お前にとってはな。分類すると興奮剤に近いが、細かいことを言うとちょっと興奮剤とも働きが違うかもしれんな。単なる栄養とも言えるかもしれん。でも、医食同源ともいうし、まあ、それはともかく、ちょっとドラッグの種類を説明しとこうか。

オス郎: ああ、なんか勉強っぽくなってきましたね!


興奮剤

博士: そうよ!なんつったって、講座だかんな。おんでもってドラッグの第一のグループは、いま言った興奮剤系のものかな。このグループにどういったものがあるかというと、非合法のものだとコカイン(コケイン)やいわゆる覚醒剤として有名なアンフェタミン系薬物が代表選手だな。合法のものには、コーヒーやココアあるいは茶などのカフェイン含有物となんといってもこのグループでもっとも毒性と習慣性の強力なタバコ(ニコチン)があるな。これ以外の若干ローカルなものとして、ビーテル(ベテル)、カート、ヨヒンベなどがある。

オス郎: ずいぶんいろいろあるんですね。

博士: お、「関東甲信越小さな旅」の合いの手みたいで、いいぞ!そ、じつにいろいろあるんだが、ついでに言っておくとこれらが体に及ぼす効果は、強さや時間経過の違いがあるもののみーんな同じだ。いいか、冗談抜きでここは大事なところだからもう一回言っとくぞ。興奮剤のグループの働きは(合法・非合法にかかわらず)みーんなおんなじなんだ。

オス郎: コカインも覚醒剤もタバコもコーヒーもですか?

博士: そうよ、コカインも覚醒剤もタバコもコーヒーもだよ。 オス郎はニューロンとかシナプスとか聞いたことがあるだろう?

オス郎: 脳だか神経だかの伝達系でしょう? 間に隙間があるんですよね。

博士: おう、お前なんか隙間が大きそうだけどな。 オレみたいな脳でもオス郎みたいなカタツムリ並みの脳でも、電気信号が次々とこの伝達系を渡り歩いていくわけだ。、そのとき隙間を一時的に埋めて信号の伝達を可能にするためにノルアドレナリンなんかの化学物質が伝達系から放出されるらしいんだ。 それで、興奮剤を摂取するとこの神経伝達物質がドバッと出るんだ。ここがコカインも覚醒剤もタバコもコーヒーも同じだもんだから、さっき働きが同じだと言ったんだ。

オス郎: ドバッと出すとどうなるんですか?

博士: 活力がみなぎった感じがして、ハッピーな気分になるな。空腹感や眠気が抑えられて、飲まず食わずで長時間頑張ったりもできる。

オス郎: へー、いいですねえ。

博士: そうなんだが、たったひとつ問題がある。 別にボーナスでもない時期に彼女を銀座レカンに連れて行ってフレンチを食ったらどうなる?

オス郎: あー、そりゃもう次の給料日まできついサバイバルですね。

博士: そうだよ、それと同じ事が身体に起きるんだな。ドバッと出るのは摂取したドラッグ自体ではなくて身体に貯めてあった伝達物質のほうなんだけど、これを必要以上に出すもんだから、ドラッグの効き目が切れたあとにはこの物質の出が悪くなって、いわゆる「ダウン」とか「ロー」の状態が必ずやってくるんだ。伝達物質が不足してしまうんだな。このときに人間は精神的・肉体的疲労感を感じて、ちょっとウツの状態になる。

オス郎: しばらくおとなしくすることになるんですね。さっきの例えだと、レカンに行った後は昼はサンドイッチの買い食いで済ませて、夜も外食しないでカップラーメンか、キャベツかじって「神田川」ってとこですかね。

博士: 「赤ちょうちん」だろ、それをいうなら。そう、そういうことになるんだが、キミはその状態に耐えられるかね?一週間もそういう生活をおくると、ちょっと一杯のみに行きたいナとか考え始めるだろう?

オス郎: うーん、そうなりますねえ。金ないと思い始めると余計金使ってみたくなるんですよね。

博士: 金のない「ダウン」の状態に耐えられなくなってくるんだよな、だんだんと。それで、そういうときに限って、彼女が遊園地に行きたいとか言い出すんだよな。そうしたら、どうする?

オス郎: 友達に金借りるとか...

博士: はい、その通り。サラ金に走ったりするヤツもいるみたいだな。これは、給料が増えないもんだから、どこかで断ち切らないといわゆる自転車操業の状態になる。

オス郎: カードのキャッシングで借りたやつで、前月の借金を返してみたりするんですよね。

博士: オレもずいぶんやったもんよ。もうわかったと思うけど、ドラッグでこれをやるのが中毒ってことなんだな。アップのあとに来るダウンの状態から逃げるために常にドラッグを使いつづけるというパターンに陥りやすいんだな、この興奮剤ってやつは。ほんで、興奮剤の中でも効きが急激で消えるのも早いドラッグほど中毒になりやすい。そのチャンピオンが紙巻タバコだ。次が、鼻から吸引するコカインかな。毒性はどっちも同じようなもんだが、コカインは非合法だし高価で経済的影響もあるから中毒が注目されやすいな。コカインについていえば、南米のインディオは葉っぱをかんでゆっくりとした反応を得ているので、中毒にはならない。ビタミンやミネラルの摂取にも役立っているらしい。同じ興奮剤でも効き方のパターンで中毒になりやすかったりそうでなかったりするんだ。

オス郎: わたし、紙巻タバコ吸いますが中毒ですか?

博士: 一日に何本吸う?

オス郎: 15本くらいですが。

博士: あ、それだと立派なニコチン中毒だ。オレも29歳までハイライトを1−2箱吸ってたが、うまくてちょっとハイな気分がするのは、朝の一服めだけだろう?

オス郎: そうです。あとは、自転車操業状態ってわけですか?

博士: それより悪い。というのも、タバコは耐性ができるのが早いので、3本目くらいからは、ほとんど効かなくなりハイな気分は得られないんだな。それでも、ローな状態になる40分から1時間ごとに次から次へと吸うことにはなるんだな。肝心のハイな状態なしに国に税金だけ払いつづけているわけだ。あとで出てくる抑制剤のヘロインやアルコールが中毒にならないで続けられる人も多いのに比べて、紙巻タバコは中毒にならずにいるのはまず不可能なんだ。1日3本くらいだと本来の効果が得られるんだけど、そんなヤツまわりにいないだろう?放課後に隠れて吸う中学生ぐらいのもんだ。

オス郎: ♪授業をサボってーイェェ、タバコの煙トテモ青くてー...の世界ですね? あのころのタバコうまくて気分良かったな、そういえば。

博士: 唄の途中をはしょるなよ、器用なやつだな。中学生くらいだとあんまり吸えないから中毒にならないんだよな。だれかが家からくすねてきたのを回しのみとかな。

オス郎: 大麻みたいですね。河原のアシ原の茂みに隠れて吸ったりね。

博士: 吸ってる最中に不良にカツアゲされたりしてな。(注: おまえも不良だ。)

オス郎: タバコ隠れて吸ってるヤツをカツアゲしてもチクられる心配がないから、狙われるんですよね。

博士: えーーっと、RCサクセションの話じゃなかったんだよな、そうそう紙巻タバコがタチが悪いって話だったな。あと、コーヒーも1日に10杯くらい飲む人はカフェイン中毒らしいぞ。ピタッとやめるとすごい頭痛に悩まされたりするらしい。ま、興奮剤がどういうものかだいたいわかってもらえたと思う。興奮剤のところで何か質問はあるかね?

オス郎: コカインや覚醒剤はやったことないのでもう少し詳しくしりたいんですが。

博士: やったことなくて当たりまえだ!じゃ、まずコカインからな。

オス郎: ♪ コケインやって列車でゴー。とばしすぎだよ、ケイシージョーンズ、ってやつのコカインですね。

博士: お、古いの知ってるな、グレイトフルデッドか。ライブのやつが最高だよな。最後の30秒で、いつも口から泡吹いちゃうんだよなオレ。(注: アルバム Steal Your Face から Casey Jones) えーと、あ、そうそう、そのコケインだよ、運転士までコカインやってるのかなアメリカでは。アブねえな。何千年も前から南米で使われてきたコカの葉の有効成分が、コカインだ。合成できるのかどうか知らんが、ブラックマーケットに出回っているのはすべてコカの葉から抽出したものだ。

オス郎: コカコーラとは関係あるんですか?

博士: あるぞー。コカコーラは名前の通り、コカの葉のコカインとコーラナッツのカフェインをベースとした飲料だったんだ。今はコーラナッツは匂いつけにしか入っておらず、カフェインを人工的に添加した原価の安いものになってるな。もちろん、コカインも1900年ころから入っていない。これは法律でコカイン使用が禁止されたからそうしただけで、別に消費者の健康に配慮したわけではないだろうな。その証拠に子供を含む世界で数億の人々をカフェイン・砂糖ミックスの中毒にしちゃってるからな。カフェインと砂糖は相性が良くて、これにはまったらまず逃れられないんだよな。うちの子もやられちゃってるけど、寿命が10年がとこは縮んだと思うよ。

オス郎: コカインはどうやってやるんですか?

博士: 一般的には鼻から吸入するんだが、これは血流にのるのが早くてすぐにガツンと効くんだな、この「ラッシュ」が愛好者にはたまらんらしい。そのかわり醒めるのも早く、繰り返し使用になりやすい。

オス郎: 覚醒剤ってのは、いわゆるシャブですよね。

博士: 日本ではそう言われることが多いな。語源は知らんけど。そういえば、大蔵省名物ノーパンしゃぶしゃぶってのがあったな、関係ないと思うけど。

オス郎: あれはなんか不衛生な感じがしてヤでしたね。ノーパン・シャブのほうがまだ楽しそうですね。

博士: でも、日本のシャブは一般的に粗悪品が多く、最初に言ったアンフェタミン系薬物よりもエフェドリンなどが多いというのを聞いたことがあるな。エフェドリンは不安感を増大させる傾向もあり、あまりいいハイになれないらしい。良質な覚醒剤はアンフェタミン・デキストロアンファタミン・メタンフェタミンなどが有効成分で、世間一般ではスピードと呼ばれるな。これを経口で服用すると4時間くらい興奮状態が続くんだ。これだと中毒にもなりにくく、健全な覚醒剤使用者となれる可能性もあるんだが、静脈注射でやる場合も多く、これだとラッシュやダウンがより顕著になるので、ここまで勉強してきた人にはもうおわかりだと思うが、中毒になりやすいんだ。飲まず食わずで打ちつづけてやせ衰えて昏睡状態になったりするんだ。

オス郎: 以上が興奮剤ですね。 最後にカフェインについて聞いておきたいんですが、お茶はカフェインがコーヒーより多いと聞いたことがありますが、お茶中毒ってあまり知りませんね。

博士: まあな。 一日中茶を飲んでいても、茶のみジジイとか給湯室3人組とか言われるだけだな。実際、同じカフェイン含有物でもコーヒーやチョコレートとちがって中毒しにくいみたいだな、茶は。チョコレートはコーラと同じで砂糖との黄金ミックスだし、コーヒーはカフェイン以外の含有物との複合作用(共働作用)で強い働きをもたらすと言われているらしい。じゃ、興奮剤はこれくらいにして、これと対極にある抑制剤の話に移ろうか。


抑制剤(序)

(次の週)

オス郎: 博士、おはようございまーす。 あれ?、どうしたんですかセンセイ? 顔色悪いですよ。 大丈夫すか?

博士: セ ...センセイちょっと...気持ち悪い...

オス郎: あ、酒臭い! また、たくさん飲んだんでしょう? ナチュラルハイはどうなったんですか!

博士: い、いや..それほどでもないと思うんだが...帰りのタクシーの中で気持ち悪くなってな、あとでノルウェー語でぐちゃぐちゃ言われるのもかなわんと思って窓を開けて吐いたら、ちょうどお前の家の近くだったな。 夜遅くまで起きて勉強してんだなお前も。 感心、感心。

オス郎: えー! 何が感心感心ですか! あれ博士のだったんですか。 けさ踏んづけちゃいましたよワタシ。もう、いい年してどこでそんなに飲んだんですか?

博士: それが、よくわからんのだ、オス郎よ。バーでノルウェー人看護婦のグループと意気投合して、北欧の福祉問題について語り合いながらなんべんも乾杯していたところまでは覚えているのだが、あとはお前のアパートの明かりを見ながらウゲしているとこしかわからんのよ。不思議だ。

オス郎: 不思議だじゃないですよ。それ、ただの飲みすぎですよ。

博士: いや、オレはトロルかなにかに化かされたんじゃないかと思うんだ。 こんなに前後不覚になったのは、四谷でキツネに化かされて以来のことだからな。

オス郎: 四谷でキツネに?

博士: そうなんだ。 もうなくなったかも知れんが、四谷に15年ほど前ブラジル料理店があってな、釣り仲間と最初フェジョアーダなんかをガッつきながらビールを流しこんでいるうちはよかったんだ。 そのうち、音楽に合わせて踊ったりというか、まわりの知ってるヤツ知らないヤツも一緒になって要するにバカさわぎを始めたわけよ。そんで、ビールも飽きてちょっと水ッパラになってきてたので、テキーラにライムかなんかを絞り込んだ カイピリーニャ とかいうのを何べんか 「カンプワーイ! うー テキーラ!」 なんてやったところまでは覚えているんだけど、気が付いたら、知らないマンションの中庭の植え込みの中で寝ているのよ!

オス郎: 知らないマンションの植え込みの中! どこなんですか、それ! それからあと、どうしたんですか?

博士: 今のキミの質問に順番に答えると、まず、それがどこかはわからず終いだ。 それに、それからどうしたかも覚えてないんだ。タクシーに乗ったような気がするのと、やけに地面が近かったような記憶はあるが。

オス郎: 覚えてない...

博士: うん。 それで、今度気がつくと、独身寮の自分の布団の中だったんだ。 最初は、あ、飲みすぎたんでへんな夢みてたかな、と思ったんだ。 ところが!

オス郎: ところが?

博士: どうも着替えないで寝たらしいんだが、服に木の葉がいっぱいついてるんだ!

オス郎: 木の葉が?

博士: しかも、次の日は休みだったんだが、寮の食堂で 「うー」って言いながら茶を飲んでると、知り合いがやって来て、立て替えてやったタクシー代を返せというんだ。なんでも、朝方突然オレが部屋に入ってきてタクシーを玄関に待たせているんだが手許不如意なので5000円貸せと言って借りたらしいんだな。

オス郎: それって...

博士: もう何がなんだかわからなくなってな。 それで、夕べ一緒に飲んでたやつに電話すると、そいつも 「うー、テキーラ!」をやってからの記憶がないばかりか、なんと部屋に木の葉が落ちていたと言うんだな。 それでそこへきて、俺たちも 「これは キツネにやられたな!」 とわかったわけよ。 四谷は江戸のムカシから因縁めいたロケーションだそうだしな。

オス郎: いったい、どこでキツネにやられたっていうんですか?

博士: それは、よくわからなかったんだが、今になってわかったんだ。あの四谷の時も、一緒に 「うー、テキーラ!」 をやった中になんと看護婦のグループがいたんだな。 ワシの考えでは、一般的に言って看護婦とキツネの間に何か関係があるんじゃないかと思ってるとこなんじゃよ。

オス郎: なにが、「思ってるとこなんじゃよ。」ですか! そりゃ、単に強くて口当たりの良い酒を飲みすぎただけですよ。公園かどっかで唄うたったり、転げまわったりして葉っぱがセーターについたんでしょうよ、どうせ。

博士: え? するってえと何かね? オス郎君はワシの言うことを信じないのかね? ウーップ。

オス郎: うわー。酒臭い! もうここで吐いたりしないでくださいよ。 ちょっと、横になってしばらく休んでてくださいよ。ファリス持ってきますから。(注: Farris ノルウェーの国民飲料ともいうべき、ガス入りミネラルウォーター。ちょっと塩気があり、クセになる。クスリは入ってない...と思われる。)

博士: いや、すまんね。 実はキツネ説はオレも半信半疑なんだが、アルコールなどに代表される抑制剤のもっとも特徴的な性格が今の話でほとんど説明されちゃってるんだな。


抑制剤(鎮静・催眠系)

(午後になって)

博士: あれ? ワシ寝てた?

オス郎: よっく寝てましたよ。寝つきいいんですね。

博士: そうなのよ。慶応病院で胃カメラのんだ時もつまんないから寝てしまって気がついたら看護婦さんが片付けしてるのよ。

オス郎: う・ら・や・ま・し・い、ですねー。 (カタツムリ並みの脳はあんただろーが。)

博士: どういう意味だよー。オレはけっこう神経質なんだぞー。 そうそう、それで、抑制剤の話だったんだよな。 抑制剤ってのは、大きく3つのグループに分けていいのかな、最初が鎮静・催眠系。これには問題のアルコールも含まれる。次がヘロインなどのアヘン類、これはナーコティックの呼び名が通りがいいかもしれんな。それと最後は麻酔薬。

オス郎: 抑制剤は、こないだの興奮剤とは正反対のドラッグということでしたよね?

博士: ああ、そうだよ。 神経系統を抑制するんだよ。興奮剤と反対に神経系統の活動レベルを下げて、外界の刺激に対して鈍感にさせ、眠たくさせたりするんだ。

オス郎: そりゃ、正反対ですね、興奮剤とは。

博士: でもオス郎よ、変だと思わないか? そもそもひとはそんな、からだをぐったりさせるような代物を服用しようとするかな?

オス郎: うーん、そういえばそうですよね。ハイになりたいとは思っても、わざわざローの状態になりたいとは思いませんね。でも、アルコールやヘロインの愛好者は実際にたくさんいるわけですよね。

博士: そうなんだよ。 それで、抑制剤の第一の特徴となるわけだ。 それは、摂取量やセッティング(摂取時の精神状態やまわりの状況)次第で心身におよぼす働きがおおいに異なるということだ。これは抑制剤のグループの働きが興奮剤に比べてトッテモ複雑な理由なんだが、さっきの話に戻ると、まず少量服用がなぜか興奮状態をもたらすということがあるんだな。

オス郎: 抑制剤なのに、なぜ興奮作用なのですか?

博士: ワシも知らん。その質問にちゃんと答えられる人間はいないそうだが、気分を鎮静させる抑制中枢を最初に抑制するからだという説がある。

オス郎: ????

博士: 抑制しているものを抑制すると、抑制が効かなくなって興奮するという理屈らしい。うるさいけどなんとなく一目置かれている学級委員長が休んだりすると、クラスがハイになったりするだろう。

オス郎: あー、そういう感じですか。抑えがきかなくなるんですね。

博士: ちなみに、オレは学級委員長コンプレックスなんで、メガネをかけた美人の委員長なんかがいたほうがかえって興奮するがな.....ま、それはいいとして、いずれにしてもな、抑制剤の摂取も、最初はハイになるんだ。これがあるから、「酒でもいっぱい飲むか!」みたいな気にさせるわけよ。そして、そのまま摂取量を増やしていくとどうなるかは、酒を飲む人間はわかるだろう?

オス郎: ローになってダウンして、最後フラットになるんですね?

博士: そうなんだな。今朝のオレの話しみたく、ビールでメシ食ってるうちはハイでハッピーな感じだったんだが、アルコールを大量摂取するうちに、意識低下していったんだな。 それでもどんどん摂取していくと、最後は生命維持に必要な中枢も抑制してしまい、ようするに死んじゃうんだよな。具体的には呼吸が抑制されて酸欠を起こしてしまうことが多いようだ。通常はそんなに摂取する前にアルコールの場合だと、寝てしまったり、酒がなくなったり、金がなくなったり、こぼしちゃったり、けんか始めて充分飲めなくなったり、「お客さん、もう看板ですからぁ。」とか言って追い出されたりで、みんなかろうじて生き長らえてるわけだ。

オス郎: 摂取時の状況で効き目が違うというのは?

博士: その時の精神状態や、一緒に飲むメンバーによっては、飲んでも酔えないとか、悪酔いしちゃったとかあるよな。ずっと仕事の話をするやつなんかと飲んでもいい酔い方は難しかったりするし。それとか飲む人間の性格から来る違いもあるよな、泣き上戸とか笑い上戸とかやけに絡むやつとか、すぐチンチン出すやつとか、ひとの刺身を横取りするヤツとか、しもネタ連発するやつとか、やたら自分の秘密を暴露しちゃうやつとかいるよな。あるいは、サラダができるのになんで冷やしトマトが出せないのかとスナックのママにからんでもう来ないでくれと言われたりとか、スキーで泊まった温泉場で外から雪の中を匍匐前進して女湯を覗きに行ったら見つかりそうになって身動きが取れなくなり凍死寸前になったりとか、モグラたたきで横から脱いだ靴で助っ人していて係のコワイ兄ちゃんたちに囲まれてどつかれそうになったりとか、泊まってもない通りがかりのYHの風呂に入ってたら見つかって反省のスピーチをさせられたりとか、高知城のお堀でクロールしたら真中あたりで心臓がばくばくし始めて溺れそうになったりとか、自分の部屋で朝起きたら天井まで届きそうな「スローなブギにしてくれ」の看板があったりとか...

オス郎: もういいですよー。別に失敗談を聞いてるんじゃないんですから。

博士: え? あ、いや、だからコレくらいの量を摂取したからこうなるという簡単な話じゃないという抑制剤の特徴を説明したまでじゃよ。例えばのはなしだ。えーっと、それと、抑制剤系のドラッグのもうひとつの大きな特徴は、摂取した時の自分の主観的な印象と客観的な事実が大きく異なる可能性があるということなんだ。

オス郎: 本人の言ってることと周りのひとが見た事実が違ってたりということですね?

博士: そうそう。 これが興奮剤系のものとの一番大きな違いかもしれんな。 今朝の話で、オレが酔っ払った帰りに「地面がやけに近かった」と言っただろう?

オス郎: 知らないマンションからの帰りですね?

博士: そうだ。 じつはオレの知り合いでこの「やけに地面が近かった」という言い方をしたやつがやたら多いんだが、これは冷静になって考えると、はたから見た場合 「なんべんもコケたり手をついたりしながら歩いていた。」 ということにすぎないんだな。「ハイハイしていた」可能性だってある。

オス郎: えらく違いますね。主観的印象と。

博士: それもこれも、興奮剤と違い、抑制剤は 反射・反応時間・筋肉反応効率など神経系の機能をことごとく低下させるからなんだ。ちょっと酒をひっかけたほうが仕事をうまくこなせるという話をよく聞くと思うけど、そんなことを証明するデータは存在しないんだ。単にそんな気がするだけなんだ。

オス郎: 〆切の迫った、通信教育のレポートをビール飲みながら仕上げてヒドい結果になったことがありますよ。その時は完璧に出来たと思ったんですけどね。

博士: そうだろう。 主観的印象と客観的事実が異なるんだ。興奮剤はそんなことはなくて、まともな結果が得られる。覚醒剤が深夜のトラック運転手や受験生あるいは作家などに人気がある所以だ。

オス郎: 鎮静・催眠系のものにはアルコール以外にはなにがあるんですか?

博士: はい、睡眠薬や精神安定剤だ。ダウナーズの呼び名のほうが通りがいいかな。有名どころはなんといってもバルビツール剤かな。でも今は新しい薬が出てきて、「効かないんです。」とか言ってバルビツール剤を大量に処方してもらうってのは難しくなってるみたいね。

オス郎: アルコールとはずいぶん違うんですか?

博士: 効きかたは似た点が多いみたいだ。二日酔いもあるし。ただ、少量服用時あるいは効き始めのハイな感じは一般的にアルコールより強いようだな。

オス郎: でも、似てるんだったらアルコールで済ませておけばいいんじゃないですか? だれにもとやかく言われないし。

博士: ダウナーズはノンカロリーだし、それにこういう嗜好品は好き好きだからな。 でも、やっぱりアルコールのほうが危険は少ないんだろうな。 というのも、耐性のことでアルコールとダウナーズでは重大な違いがあり、これは予備知識として知っておいた方が良いと思うんだ。

オス郎: だんだんと効かなくなる耐性のことですか?

博士: うん。 その耐性と致死量の関係に奇妙な違いがあるんだな、アルコールとダウナーズには。アルコールも常用しているとだんだん効きが悪くなるのは知っているだろうけど、そうやって耐性が形成されるのと同時にその人間にとっての致死量つまり死なない許容量も増えていく。で、耐性が致死量を追い越すことは一般にないんだ。つまり、耐性の生じた人間がアルコールを酔えるだけ飲んでもすぐ死んだりということにはならないんだ。

オス郎: ダウナーズは違うんですか?

博士: 耐性が致死量を追い越しちゃうんだ!

オス郎: するってえと?

博士: 「するってぇと」 って、うっかりハチ兵衛か、おまいは! だから、睡眠薬遊び(死語だな)で連日盛り上がっているうちにだんだん効かなくなり、服用量を増やしている内に、知らないあいだにその「効く量」が致死量を超えてしまい...ってことなんだろうが、でもこういう仲間で盛り上がっていて事故になるってケースはあまりないんだろうな。一人で毎日服用する習慣がついちゃった人間なんかが危ないんだと思うよ。アル中も家で毎日ひとりで飲むようになった人間がかかるんだもんな。

オス郎: ひとりドラッグっていうのが乱用パターンなんですね。 話はちがいますけど昔のいんちきドラマでよく悪いやつが睡眠薬で気を失わせて拉致しちゃったりするやつありましたよね。

博士: あ、あれは100年も前の話を焼きなおしたものらしいけど、実際にそのころは追いはぎによく使われたらしいぞ。バルビツール剤以外でいまでも使われている抱水クロラールという睡眠薬を酒に混ぜた通称「ミッキー・フィン」で犠牲者に一服もるのがトレンドだったそうだ。

オス郎: ミッキー・フィンって、Tレックスのギターですよね、確か。

博士: そうそう、ワウワウ使ってミュインミュインやってたよなあ。今も元気かなあ、ミュージシャン早死にするからなぁ。曲なら「ロフティ・スカイ」 とか 「テレグラム・サム」 とかが好きだったな、オレは。

オス郎: ワタシは 「キング・オブ・ランブリング・スパイア」 とか、やっぱり 「ライド・ア・ホワイト・スワン」 かな、Tレックスなら。

博士: ワシがフライフィッシングで使っている毛ばりに、いわれは知らんがなぜかミッキー・フィンというのがあるな。 赤・黄・銀のド派手なやつだ。 見てみるか?

NATURALHI_MICKEY_FINN フライフィッシング用の毛鉤(ストリーマー) ミッキー・フィン

当然のように、ノックアウトカクテル 「ミッキー・フィン」発祥の地であり
Tレックスのギタリスト 「ミッキー・フィン」の生国である、英国製

オス郎: あはは、これじゃ、グラム・フライですね。(注: 当時、女装したり半裸で演奏したりする派手めのバンドをまとめて、グラムロックとか言ってた。ビジュアル系のはしり? オス郎らは体育の時間にグラムサッカーと称して教師がいない間に上半身ハダカになって脱いだシャツでもっこりを作ってプレーしていた。) ひー、おかしい。 なんかハイになってきました、ワタシ。 Tレックスのギターとどっちが先か調査の価値はありますね。

博士: ぶっといストリーマーなんだが、ワシまだ下手なもんで、風のある日にシートラウトを狙っていて、マスの替わりに自分の肩や背中をなんべんも引っ掛けてもういやになっちゃったよ。 ミッキー・フィンは。 じゃ、鎮静・催眠系の話はこれくらいでいいかな。次回は、アヘン類の話をしようか。


抑制剤(アヘン類)

博士: いやー、オス朗くん、ひっさしぶりねえ。

オス朗: ほんと、久しぶりですねえ、博士。 なんといっても、我々の住んでいるVAIOのB5ノートが初期化 されちゃいましたからねえ。

博士: しっかし、ノートPCを床に落っことすとデータが飛んじゃうんだな。 始めて知ったよ。それにしても、ワシラ、バーチャルな身のつらさよな。 オレもおまえもいったん消えてなくなったんだな。

オス朗: ブレードランナーのかわいそうなアンドロイドみたいなもんですね。

博士: 電気羊も初期化されるとアンドロイドの夢どころじゃないわな。 でも、ブレードランナーでアンドロイドのルトガー・ハウアーがビルの屋上からハトを飛ばすところはなんべん見ても泣けるな。

オス朗: わたしはうどん屋の日本人のおやじ(オスロの日本料理屋ニッポンアートのマスターに似ている)がハリソンフォードに 「2杯でじゅうぶんですよ。 わかってくださいよ。」 っていうとこが好きですけどね。 えーと、じゃ、泣きも入ったところで....今日はアヘン類の話からでしたね。

博士: そうだったな。 アヘンはケシから採れるのは知ってるよな。

オス朗: むかし、「植えてよいケシ・悪いケシ。」っていう誰が作ったか親切な図解入りポスターがありましたよね。あの「悪いケシ」から採るんですね、きっと。

博士: そうだな。 ワシら中学校の頃あのポスターを一枚もらって(盗ったともいう)、みんなで自転車に乗って探しにいったものよ。いつも見つけられずに途中でいやになってお好み焼き買い食いして帰るのが落ちだったけどな。でも、えらくワクワクしたのは覚えてるよ。 まあ、努力することに意義があるんだろうな。 こないだまでやってたオリンピックに通じるものがあると思うな。

オス朗: 私はちょっと通じないと思いますが....

博士: ま、10代は手に入るドラッグならなんでも口に入れようとする時期で、専門用語では「口唇期」と言います。

オス朗: 言いませんよ! それにしても、あんなポスター貼りまくるくらいだから、日本にもアヘンが採れるケシがいっぱい生えているんでしょうね。

博士: そうみたいだよ。 ワシの考えでは、大麻と一緒で昔はさかんに栽培されて今は撲滅すべし、っていうことになっていることから、山間の廃村の周囲なんかを探すと見つかるんじゃないかな。人家が多いところでは目につくのでもうなくなっていると思うな。サティアンの周りなんかも狙いめだったりして。

オス朗: 昔は栽培されていたんですか。

博士: うん。 江戸時代は津軽藩がケシ栽培とアヘン製造を一手に引き受けていたらしい。 時代劇で、娘が街道で具合が悪くなったりするだろう?

オス朗: あー、で、お武家様が通りかかって、「お女中いかがなされた?」って聞くと、「あいー。 じ、持病のシャクが..」 とか言うんですよね。

博士: えらいワンパターンだったけど、最近見ないな、こういうの。 若い世代に受け継いでいかねばと常々思っているのじゃが。 まあ、それはいいとして、そのお武家様が娘に丸薬を飲ませたりするだろう。あれが、当時通称「津軽」と呼ばれた国産のアヘン剤だ。胃痙攣や激しい下痢を止めたりするので万能薬として使われていたそうだ。明治維新後はアヘン製造用に大阪・岡山・千葉をはじめ全国で盛んに栽培されるようになり、日本固有のやや効き目の弱いやつ以外に外国からの強力なケシも導入されたんだ。

オス朗: 鎮痛剤のモルヒネってアヘン剤ですよね。

博士: うん。ケシの実のはいっているところを傷つけると汁が出てきて、これを乾燥させて固めたのが生アヘンなんだけど、この中には有効成分が何種類か含まれている。そのなかの代表的なのがモルヒネだ。200年くらい前に単離されてこれは水に溶けるので注射もできるようになった。ほかに有効成分の主なものにはやや鎮静作用の弱いコデイン(メチルモルフィン)がある。それと、化学者がモルヒネに細工をして効き目を高めたのがヘロイン(ジアセチルモルフィン)だ。 あ、えーっと こうだったかな ...♪ へぇー ろぉー ぅいーん

オス朗: え? ...あ、はい! ベルベットアンダーグラウンド!

博士: ピンポーン。("Heroin" The Velvet Underground)

オス朗: なにがピンポーンですか。 急に唄われてもわかんないですよ。 おまけに音痴なんで、最初「釜山港に帰れ」かと思いましたよ。

博士: ほっといてくれ。 そう、ルーリード唄うところのヘロインなんだが、Heroin. It's my wife. It's my life. というフレーズが、ヘロインを静脈注射したときのラッシュが何ものにも替えがたいものであることを表現していると思うが、この強烈なラッシュは2−3分しか続かないんだ。

オス朗: あ、例のお約束乱用パターンですね?

博士: そうだな。 短いハイの後は眠気が襲って来るみたいだ。 ヘロインって悪魔の麻薬みたいに言われることが多いけど、このラッシュの強さとあとでうつらうつらしている非生産的な印象が、見ているものというか社会の反感を買いやすいんだろうな。

オス朗: ヘロインっていうと確かに麻薬の代表選手って印象ですね。その効きかたが麻薬のイメージにぴったりなんですかね。

博士: でもな、オス朗よ、ヘロインが社会問題になっている理由のひとつは、ほとんどの国で非合法なもんで、ブラックマーケットが発達しちゃったってこともあるんだ。ようするに荒稼ぎできるんだ。とんでもない値段で中毒者(ジャンキー)に売りつけられるからな。人類の歴史で薬物の取締りが成功した例はないんだ。タバコも取り締まったり吸ってるやつを死刑にしたりしてたけど、コストはかかるし吸ってるやつは減らないんで、合法化して税金を取るのが普通のやり方になってるな。これだと逆に国家の収入になるんだ。考えたよな。

オス朗: じゃあ、ヘロインも解禁しちゃって税金とったほうがいいんですかね?

博士: 誰にとっていいんだよ。 しかし、それはよくわからんな。おおぜいが年中うつらうつらしてても困るかもしれんし。ただ、法外なヤク代欲しさに強盗はたらいたりするヤツは減るだろうけどな。

オス朗: モルヒネは痛み止めなんかに使われると思いますが、他にはアヘン剤はもう以前のようには使われてないんですね?

博士: それがそうでもないんだ。うちの子供が飲んでた小児用セキ止めがここにあるんだけど、有効成分をみると、えーと、リン酸ジヒドロコデイン...

オス朗: あそうか、コデインってアヘン剤なんですね。

博士: それと、えーと、dl−塩酸メチルエフェドリンってのが入っている。

オス朗: エフェドリンって確か粗悪なシャブに使われるんじゃなかったでしたっけ。興奮剤と抑制剤が両方はいってるんですか。

博士: まあ、そういうことだな。

オス朗: ....ふーん、 それって、自分でやりゃいい仕事をいっぱい押し付けといて、「たまには早く帰って、かあちゃんにサービスしてやれよ。」 なんて論理的におかしいことを言う上司みたいですね。

博士: 抱きかかえて子守唄を唄いながら頬をペタペタ叩いているみたいな状況かな。 でも抑制剤と興奮剤をまぜると複雑な反応を示すことが多いらしい。ヘロインとコカインを混ぜるとスピードボールって名前の人気ドラッグになるけど、これはすごいラッシュが得られるらしい。 他にはたとえば副作用を減じたりすることもあるみたいだ。このセキ止めの場合はアヘン剤で眠気を催したりするのを興奮剤で抑える目的なんじゃないかな。

オス朗: そうかー。身近にあるんですね、アヘンやシャブが。

博士: セキ止めの成分はいつも気をつけて見るようにしてるけど、どのメーカーのもだいたい同じものが入ってるな。カフェインや生薬が添加されているものも多いな。 エスエス・ブロン液はエフェドリンを配合するのをやめたんだけど。

オス朗: ブロン液って、中島らもが常用してたってヤツですね? そうかー、あれはアヘン剤と覚せい剤系の薬物のミックスだったんですね。

博士: ブロン液はパーティードラッグとしてあまりにポピュラーになりすぎたんで、エフェドリンは自主規制したみたいだな。液体じゃなくてブロン錠のほうには依然としてエフェドリンが入っているみたいだけど。他のセキ止め液はこのような自主規制はまだないな。一箇所の薬局で買うと怪しまれるんで、自転車で(自動車でもいいんだけど)遠くまで薬局をまわって何本も仕入れるんだけど、中毒しちゃうと一日に10本も20本も飲むようになり、月に何十万円以上の出費になって、とてつもない借金を抱えて、一日ぼんやりしてるから定職にもつけず、歯もボロボロ...という状態にわりに簡単になってしまうんだな。けっこう怖いよ。

オス朗: 歯もボロボロですか?

博士: うん、なんか、歯ブラシでも削れるくらいぼろぼろになるみたいだ。

オス朗: それって、飲み屋でママに削って見せたら受けますよね?

博士: 面白いだろなー、でもきっと けえれって言われるよ。 ブロンの体験談はネットでいくらでも捜せるよ。 手を出すことは誰でも一度くらいはあるかもしれんけど、セキ止めの常用だけはやめといたほうがいいっていうのが、識者の一致した意見みたいだな。いくら合法とはいえ、オレも薦めないなこの身体にこたえる和製スピードボールは。

オス朗: 中毒ってハイな状態じゃないですよね、やっぱり。

博士: ローな状態なんでしょうね、中毒は。 オレの経験からいっても、アルコールも含めて「ハイ」がドラッグの中にあると考えちゃうとドラッグに依存して常用しやすいんだな。 これからおいおい説明していこうと思うんだが、「ハイ」は自分の中にあるということを早く認識できたヤツほどノンドラッグ・ハイの人生を送れる可能性が高くなると思うよ。これは精神的な意味もあるんだけど生理学的にも「ハイ」の素はドラッグの成分ではなくて自分の脳の中にあるみたいだな。いずれにしてもこのコーナーは健全な若者がドラッグに溺れたりせずにハイな人生が送れるように善導する目的でやってるわけよ。

オス朗: どんな「健全な若者」がこんな汚れコーナーなんか見てるっていうんですか?

博士: これこれ、オス朗よ。 そのどうせ何もできないという発想がもう「ロー」なわけよ。「自分に認知できる世界はすべて自分とのインタラクティブな関係の結果生じたもので、自分からの働きかけですべてどうにでも変えられる」という基本的なスタンスが人間のハイのもとになるとオレとか正統派のヒッピーなんかは考えておるんだよ。

オス朗: 正統派のヒッピー....

博士: ま、こういう話は後述ということで、アヘン類はもういいかな?

オス朗: こんどアレックス寿司に連れていってくださいよ。

博士: ああ、こないだ行ったんだけど、噂にたがわず美味しかったな。 それに、ウェイトレスもメガネかけててよかったぜ。

オス朗: あ、メガネ・フェチ!


抑制剤(麻酔薬)

(月日はめぐり、春もすぎ ・・・・ めぐり過ぎ)

オス朗: 博士、おはようございます。自転車通勤、調子どうですか?

博士: 絶好調よー。 最近は18号往還沿いの自転車道で、けっこうノルウェー人を追い抜けるようになってきたよ。

オス朗: 体力ついてきたんですね。抜かれるばっかりだと言ってましたからね。

博士: それが、体力はあまり関係なかったんだよ。たいした距離じゃないしな。実は、空気が足りなかったのよ。スマートクラブ(注: オスロのドンキみたいな安売り店)で買ったまんま乗ってたんだけど、なんかタイヤがやらかいなー、と思って空気を入れたら、スピードの出ること出ること。

オス朗: じゃあ、去年は空気が足りないまま乗ってたんですか?

博士: そうなのよー、全然抵抗が違ったよ。あれじゃ、大リーグボール養成自転車だったよ。今年はもう平気。でも先週なんか調子に乗りすぎて、アナーキー・イン・ザ・UK を唄いながら一気に20台抜きなんかやったら、会社に着いて気持ち悪くなっちゃったのよ。

オス朗: セックス・ピストルズなんか唄うからですよ。

博士: でも、走行イメージでぜんぜん速さが変わって来るんだよ。森田童子なんか唄ってた時には、もう抜かれっぱなしだったよ。 ♪ いったーことーもないメキシコの話をー、君はー、クスリがー、まわってくるとー ...(注: 「さよなら ボクのともだち」)

オス朗: 唄わなくていいですよ!

博士: まだ あるぞ。 ♪ あんぜんー カミソリがー やさしくー、ボクのー 手首をー 走るー。

オス朗: うわっ! 「逆光線」だ!

博士: (続)♪ しずかにー ボクのー いのちはー、ふきぃー だー してぇぇぇー

オス朗: ひゃー、やめてくださいよー。それこそ ウツ病になっちゃうじゃないですかあ。

博士: どっちかというと、ウツ病に効くとオレなんか思うけどな。 ...これ、20年くらい前に沖縄のヒッピー宿みたいなとこで、一ヶ月間ほぼ毎日聞かされてな。バイトのコが「マザー・スカイ」(注:当時発売間もなかった森田童子のLP)を大音量でかけながら掃除なんかしてるのよ。で、さすがにちょっとこたえてきたんである日オレが、「今日はなんか他のヤツにしないか?」というと、「うん、いいよ。」とかいって、マウンテンの「ナンタケット・スレイライド」かけたな。(注:アタマ悪そうなのが一生懸命知恵を絞って作曲した感じのサイケデリックな大作LP。なぜか病み付きになるからやっぱし名作か? でもマウンテンはミシシッピクイーンとかクロスローダーみたいな単調な3コードが最高だな、やっぱり!)

オス朗: そりゃ、よけいに気が変になっちゃいますね。困ったヒッピー娘ですね。 ...でも ... 元気で生きてるといいですねー。 ...それじゃあ、今日は幻覚剤の話をしてくださいよ。

博士: 抑制剤はだいだい前回までの話で終わりなんだけど、よく考えたら麻酔薬の話するの忘れてたんで、幻覚剤の前に抑制剤のおまけでちょっとふれておこうかな。

オス朗: 麻酔薬は病院でしかお目にかかれませんよね。

博士: うん。過去にはレクレーショナル・ドラッグとしてクロロフォルムとかエーテルとかがひんぱんにパーティで使われたけど、毒性や引火性などから徐々に敬遠されるようになり、より危険性の少ない笑気ガスだけが現在では嗜好品として用いられているみたいだな。

オス朗: 笑気ガスですか。 あれって名前からするとほんとに笑っちゃうんですか?

博士: セッティングによってはそうなるみたいよ。 笑気ガスっていうのは医療用としては歯科医院で麻酔用に使われるみたいだけど、日本ではどうなのかな。オレは使われた経験はないけど。で、その笑気ガスは亜酸化窒素っていうのが正式な名前で、N2OとかNitrous Oxideとも表記されるんだ。

オス朗: ドラッグで面白いことになっている人間はたくさん見てきましたが、この笑気ガス使ってラリッてるひとは私まだ見たことないんですけど。

博士: オレも。 でも、デビッドリンチ監督のブルー・ベルベットでイカれた怖いおいちゃんが吸入用のバッグを持ち歩いて吸いながらラリってたのが笑気ガスじゃないかと思うんだけど。

オス朗: あー、イサベラ・ロッセリーニが主演のやつですね? あれ、よかったですね。

博士: うん。 でも、ちょっと疑問なのは、笑気ガスでラリると運動筋肉がとたんにイっちゃうんで、からだがグンニャリしてしまい、とてもイサベラ・ロッセリーニを無理やり押し倒したりはできなくなるとオレは思うんだけどな。ま、映画だからいいのかもしれんが、だれかそのへんの話詳しくないかな。

オス朗: アメリカのサブカルチャー誌なんか見ると、笑気ガスの通販やってますよね。ノルウェーなんか規制が厳しそうだからガスの生産そのものをやってないんですかね?

博士: そんなことはないぞ。アメリカではホイップクリームのスプレー缶用のドライブガスとして大量に製造されているが、ノルウェーでもスーパーに缶入りホイップクリームが売ってるよな。あれの成分をみるとドライブガスはしっかり、笑気ガスだ。メンコメル(Menkomel)なんて商品名で売ってる。ホイップクリームはうちにも1本あるぞ。

オス朗: じゃ、ガスそのものはあるんですね。通販なんかでガスカートリッジを手に入れてるんですかね、みんな。

博士: どうかなー。ノルウェーにもアメリカのハイ・タイムズを真似たホイ・ティド(そのままじゃん)というマイナーなドラッグ専門誌があるが、意外と通販なんかやってたりして。ホイップクリーム用とかいうことで。

オス朗: これはただ吸えばいいんですか?

博士: 笑気ガスはさっきも言ったように、運動筋肉を麻痺させちゃうんで、倒れたりしないように、そしてイッちゃったまま吸い続けて酸欠死したりしないように、横になって風船なんかに入れた少量を吸入するようにしなければ、けっこう危ないらしい。副作用とかはほとんど問題にならないし、習慣性もないみたいだ。

オス朗: ノルウェーでは法的に問題はないんですかねー。

博士: よくわからんけど、ホイップクリームをビニール袋の中にスプレーしちゃってガスは吸ってクリームは菓子に使えば、家族にも喜ばれるし、個人で楽しむ向きには別に法的にも問題ないんじゃないかな。一挙両得ってやつだよ。

オス朗: ... 家族には喜ばれないと思いますよ、そんなにいっぺんに出しちゃったら。

博士: でも、力が抜けて座りションベンしたりするのが落ちかもしれんし、袋をかぶって窒息死したりしてもやだからやめとこうかな。 いずれにしても誰かに見ておいてもらわないと危ないいんじゃないかな。

「幻覚剤」へつづく