釣りのスタイル「孤独なファイター」
                 【本木雄介】


会社経営者のD氏はまわりから「釣りキチ」として知られている。私も彼と知り合ってから5年近くになるが、一風変わった「釣り人」である。一言で言えば「孤独なファイター」。釣りに行くときは必ず1人。仲間なんぞと都合つけ合って出かけるなんて絶対しない。

5年前の早朝とある港で、私は予約しておいた「釣り船」に乗るため、仲間と船長の到着を待っていた。と、1人の紳士が薄暗い防波堤で竿を伸ばしている。足元には2・3日キャンプできそうなくらいのボックス類がどんと積まれている。さて夜釣りの者か、と思っていたら1隻の「釣り船」に乗りこんだ。たった1人の貸し切りである。帰港後、再び氏と顔を合わせたので話をした。
D氏いわく、「釣りは黙々と自分の世界で楽しむ」ものであり、連れとワイワイやりながらでは集中できないのだ、という。その彼が「釣り船」という「船長」交えての釣りに足を踏み入れたのもつい最近であり、それまでは人気のない磯で夜釣り専門でやっていたらしい。「あの船長はよけいなことは何もしゃべらないからすこぶる快適に釣りができる」とわずかな釣果にもかかわらずご満悦の様子であった。

さて日が過ぎ、再び同じ港の「釣り船」に乗った。船長と世間話をするうち、いつかのD氏のことを思い出し、氏の乗っていた船のことを聞いてみた。
その「釣り船」の船長もまた、「孤独を愛するファイター」であるという。狭いポイントなどでは何隻もの船が押し合いながら密集することはままあるが、けっしてそういう場所へは入ってこないという。いつも1隻がぽつん、と離れたポイントで粘っているのだ。
さて腕前はいかがなものか。釣果でいうとBクラスだそうだ。
「釣り漁師」として平均的な技術はもっているものの、独自のスタイル・ペースを固持することは釣果に直結しないらしい。競馬などで気に入った「馬」をいつまでも追い続けて損ばかりしている者と似ている。
そしてその船長は
道具・仕掛けにはめっぽううるさいらしい。船の上で半時間も仕掛けの手直しに没頭している姿をよく見るという。そういえばかのD氏も大きな道具箱をかかえていた。船長と2人、沖合いで黙々と仕掛け作りに精を出しているのを想像するとなんだかおかしかった。

私の船長は機敏かつ的確に動いてくれる。事前に何パターンもの多種多様な仕掛けを準備しており、船の上では
「勝負」の手を休めることは絶対にしない。それでもその日の潮加減によってやむなく修正するときの指さばきはどうだ。老眼鏡が必要であろう高齢にもかかわらず、長年の勘で見事に裸眼でやってのける。まさに職人だ。

私は道具・仕掛けにはまったくこだわらなくなった。若い頃は手製の仕掛けで挑戦していたが、信頼する「船長」の仕掛けに勝るものはついぞ作れなかった。道具・仕掛けを自分で勉強し、それで釣り上げる喜びは大きい。しかし
プロの仕掛けを拝借して釣るスタイルも決して悪くはない。
明日もまた、仲間といっしょにクーラーボックスひとつをかかえて釣りに行く予定だ。


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