「本木雄介」という男。
            【仲野芳和】

【本木さんてどんな人ですか。】などという女性からのメールが届いた。本木さんに言うと「適当に返事しとけ」と興味なさそうだったので、「見た目は椎名誠風でいつもレイバンのサングラスをしてます」と書いて送った。そして「武道と釣りをこよなく愛するちょっとおっかない人です」と付け加えておいた。

本木さんとの付き合いはもう6年くらいになる。当時私は20代だったし、本木さんも30代でお互いにカタギには見えない格好をしていた。(本木さんは今でもそうだけど。)
本木さんのボロボロのランドクルーザーを修理した事がきっかけだったように思う。車を大切にしない人だなあ、というのが第一印象だった。ワックスかけたのは何年前だろう、と思うくらいボディは色がくすんでいた。それに全体の錆び具合がひどかった。「釣りに使ってるからな」と言われて、潮錆びかぁ、と納得したものの、手入れのなさに車好きの私から見れば野蛮人のように思えた。

釣りに同行したのはそれから間もなくで、うちの社長のボートを使ってのカレイ釣りだった。淡路島の東側のポイントに着いて、釣り始めてすぐに本木さんが1枚を釣り上げた。そしてまた1枚。呆気にとられているうちにもう1枚。
昼過ぎまでに本木さんが21枚。私が6枚。社長は2枚だった。この人はいったい何者なんだ、と驚いたのを覚えている。

釣り船というものに初めて乗ったのも本木さんといっしょだった。彼の仕事関係の人が2名いた。今にして思えばなんで私が誘われたのかわからない。とにかく、4名が仕立て船に乗った。その時はじめて、なぜ本木さんが釣りにやたらと詳しいかがわかった。彼は私達をそっちのけで、釣り糸を垂れる船長の横に陣取り、真剣に釣り続けていた。

本木さんについての釣りのエピソードはいっぱいある。中でも強烈だったのは、若い金髪の「素人船長」の胸ぐらをつかまえて「だから、舳先を風上に向けろっつってんだよ!」と怒鳴りつけていたことだ。船の上では船長がキャプテンだから、それに従うものだと思っていた私は正直びっくりした。

似たようなことはまだある。もう4年くらい前の話だが、やはり「素人船長」にケンカを売っていた。しかしその船長はその港の漁業組合長の息子だった。しかも刺青つきだ。私から見ても態度の横柄な「素人船長」だとわかったが、船長の立場を考えると我慢すべき相手だった。しかし本木さんにとってはあまりそういうことは関係ないらしい。今でも目を白黒させて突っ立っているスカーフェイスの船長の顔が浮かんでくる。その時はたしか、本木さんはこう言っていた。
「ぐだぐた言い訳してないで、とっととお前の言うポイントに着けてみろや。トローリングしにきたんじゃねえぞ!」

ただし、「本物の釣り漁師」の名人船長の前では人が違ったように紳士的です。気持ち悪いくらい爽やかな中年親父です。
釣りも奥深いけれど、私にとっては本木さんという人間の方が深くておもしろい。


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